それでよかった
「てめぇには何度か殺されたらしいからな。・・・覚えのねぇ借りを返すぜッ!!!」
一瞬のスキを突き、ヤツの死角に回り込む。
既に視力は復活しただろうが、こちらは完全な死角。避けられる位置とタイミングじゃない。
逆手に持ったナイフが、ヤツの背中に深々と突き刺さる。
ーーーはずだった。
「なーーーっ」
鮮血が飛び出す。一面が赤く染め上げられていく。
その赤はヤツではなく、オレの胸から飛び出していた。
「クソが・・・」
攻撃をかわされ、反撃までされた。口に出せばたったそれだけのことだ。
・・・だが、躱せるタイミングじゃなかった。ましてやカウンターなんて。
膝をつき、大きく切り裂かれた胸を押さえる・・・が、無論そんなことで出血は止まらない。
「シュトラちゃん!」
「来るんじゃねーよ!!!」
駆け寄ろうとしたフェルンを制止する。ヴィルラドが黙って彼女を通してくれるわけがないから。
「・・・・背中に目でもつけてんのか?」
「さあな。贄に語ってやる必要もないだろう」
「つめてぇこと言うなよ、なぁ?オレたち仲間だろ?」
「笑える冗談だ」
「なら笑えよな」
ふらつく足で立ち上がる。薄れていく思考をつなぎとめる。
「仕方ねーな、見せてやるよ。オレはお前と違ってやさしいから・・・さ」
奥の手ってやつを使うしかない。傷が深く、使ったあとぶっ倒れるかもしれないが・・・仕方ない。後先考える時間はもう過ぎ去った。
「ほら、笑えよ。オレのとっておきだ」
両手に持ったナイフを捨てる。・・・だってもう、こんなものは必要ないから。
勝つための武器なら・・・
「ほら、こんなにあふれてやがる」
構えたヴィルラドを睨みつけ、いるかもわかんねー神様からもらった祝福を使おうとしたところでーーー。
「シュトラ!フェルン!」
叫んだ声に遮られる。
あいつがオレたちを捨てたのか。オレたちがあいつを捨てたのか。
今となってはもうわからないし、クソどうでもいい。
「ちっ、邪魔してんなよ」
ただ一つ確かなことは。
「・・・クソ勇者が」
オレはまだあいつのことを、『勇者』だと思ってたってことだけだ。
☆☆☆☆☆
「疑ってたわけじゃない」
拳を握る。
「ヴィルラドのことも、アイリスの言葉も。疑ってたわけじゃないけど、彼女の語る『確かに存在した世界』の話を、どこかうわごとのように聞いてたんだ。俺には関係のない世界の話だってさ。・・・なのに」
「・・・わかってるわ」
拳を握った俺に、アイリスが声をかける。
「でもこれが現実よ。受け入れて、心に決めて、前に進むしかないの」
そうだ。目の前にある光景を信じるしかない。そして・・・前に進むしか。
「アイリス。君の望みをかなえるよ。俺がこいつを、ヴィルラドを倒す」
「まてよ、クソ勇者」
大けがを負っているシュトラがふらふらと立ち上がる。
「こいつはオレの敵だ。言ったはずだぜ?手をだすなってな」
「もうそんなこと言ってる状況じゃないってのはシュトラもわかってるだろ?・・・それにこいつはもう、俺たちの敵だ」
「・・・今更目の前に現れて仲間ずらしてんじゃねぇよ。お前がオレたちを捨てたのか、オレたちがお前を捨てたのか、今となっちゃわからねーけどよ。・・・そんなお前に助けられるなんてみっともない真似はゴメンだね」
シュトラの想いと後悔。俺たちはみんな何が正しいのか、誰が悪いのかもわからないまま答えを出せずにいた。そうして、こんなところまで来てしまったんだ。
だけど今、答え合わせをする時間はない。思いのたけをぶつけ合うのは安全を確保した後だ。
「ここは聞き分けてくれ。ヴィルラドは、俺が倒す」
「それは、命令か?勇者として、オレへの・・・」
シュトラは過去を慈しむような、そんな表情を見せた。そんな顔、初めて見たよ。
『フェルン、オレだってお前と同じさ。オレにとっての大将はあいつだけだった。あいつが『俺についてこい』って言ってくれたのなら、どこまでも行ったさ。・・・でもよ、そうはならなかっただろ?』
アイリスから聞いたシュトラの言葉を思い出す。
今までの彼女が望んでいたのは勇者としての俺だ。そんな俺から命令なら、彼女は喜んで従うだろう。
でも俺はそんなのごめんだ。命令で縛る関係なんて望んじゃいない。・・・俺はただ普通に、友達になりたかったんだ。
「命令なんかじゃないよ。これはただのお願いだ」
そうか、と呟いたシュトラの体から力が抜ける。
「変わんねーのな、昔も今も。甘ちゃんだ、勇者らしさなんてすこしもねー。オレはそんなお前にずっとイラついてたぜ?・・・けどよ」
シュトラはほんの少し、ほんの少しだけ。
「それで、よかったのかもしれねーな」
微笑んだ。




