借りを返す
「西のダンジョンへいこう」
ヴィルラドはオレたちにそういった。
その言葉を聞いたフェルンは不安そうにオレを見る。
「なんんだ?そこにオレ達じゃねーとやれねぇ悪党でもいんのか?」
フェルンの表情に気が付かれないように、わざと大仰なポーズで声を出した。
「・・・そんなところだ」
「んじゃあ、俺っちたちの次の冒険は西のダンジョンで決定!」
新しい勇者とヴィルラドの声を聴きながら、フェルンは俺の服を小さく握っていた。
☆☆☆☆☆
たどり着いた西のダンジョンの最奥。そこには、オレたち勇者パーティが倒すべきなんていなかった。
「なあ、俺っちに殺されるべき悪党なんてどこに嫌がるんだ?」
「・・・」
何も語らないヴィルラドの背中に、勇者は『なー』『なー』と語りかけ続ける。
次の瞬間。何も語らなかったヴィルラドの背中から、ありえない程の敵意が放たれた。
悪意に疎いフェルンと、ぼんくらの勇者は気づいていない。
すでに敵意は殺気に変わった。攻撃がくる。
一撃目は誰に向けてだ?ムカつくあの勇者か?戦闘力の高いオレか?それとも厄介な能力を持ったフェルンか?
ヴィルラドの攻撃を予期し、極限まで思考が加速する。そんな頭の片隅には・・・。
『もしヴィルラドの悪意を少しでも感じたら今日のことを思い出して。思い出したらそれがーーー捨てたものを拾い上げる最後のチャンスよ』
奴隷女の顔があった。
「うる・・・っせーんだよっ!!!見透かしたようなことぬかしてんな!!!」
華奢なフェルンを思いっきり殴り飛ばす。一瞬後、同じ場所にヴィルラドの斬撃が到達した。
「・・・なぜわかった」
「んあ?んな殺気だしゃあ、バカ以外は気づくだろ」:
「違う。なぜフェルンから攻撃するとわかったんだ?」
「はっ。べつにわかっちゃいねーさ。単純に落とされたら不味い奴がこいつだっただけだ」
仲間を殺そうとしたってのに、こいつは表情の一つもかわりゃしねー。
「ちょいちょいちょいちょい、なにしちゃってんの?」
ヴィルラドの敵意が、今度は勇者に向く。
「ヴィルラドちゃん、おかしくなっちゃった?俺たちは勇者パーティーのなか・・・」
そこで、勇者の声が途切れる。
「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!」
当たり前だ。片目を潰されてしゃべり続ける奴なんていない。
「目がっ!俺のめがぁぁぁぁ!」
「疾く消えろ。まがい物の勇者に用はない」
ヴィルラドに言われるまま勇者はこの場から走り去っていく。その後ろ姿のなんと惨めなモノか。
「まってください、私の力ならその傷も・・・」
フェルンの声なんて届かず、バカの姿はすぐに見えなくなった。
ヴィルラドの敵意は、再び残された俺たちに向く。
「・・・フェルン。てめぇも逃げろ」
癪だが、こうなった以上あの奴隷女の言うことを無視はできねぇ。オレ達には、こいつに殺された過去があるかもしれない。
「ダメだよ。私今、きっとシュトラちゃんと同じこと考えてる。あのこの言った通りなら、私がここにいないとシュトラちゃんを救えない」
「ちっ、どいつもこいつもオレの思い通りになりゃしねぇ」
舌打ちとともに、武器を構える。
「まぁいいさ。オレがてめぇを殺せば・・・全部チャラだーーーッ!!!」
ダンジョン内に、金属がぶつかりあう音が響く。
オレが逆手に持ったナイフの一撃を、ヤツの無駄に高そうな剣が防いだのだ。
「野蛮な攻撃だ」
「てめぇのはお利口さんすぎるぜッ!」
同じパーティーとして活動していたんだ。お互いの癖もよくわかってる。
普通に切りあったんじゃ、どちらも有効打にならない。
「確か、相手の嘘が分かる『ギフト』だとか言ってたなぁ?てめぇ、それこそウソだろ」
生まれた時に神から与えらる祝福ーーーギフト。
彼のギフトが本当に嘘を見抜く程度のもんだってんなら、前の世界ってやつでオレがこいつに負けるわけがねぇ。
きっと、こいつはもっと攻撃的な能力を隠してやがる。その隠し玉を使う前にーーー殺す。
何度目かの攻防。オレの急所を狙ったヤツの剣の軌道を、ナイフでずらす。
先ほどから何度か見た光景。だが、今回は違う。
ナイフで斬撃を逸らすと同時に、何も持ってない左手をヴィルラドの顔に向けて伸ばす。
「ーーーBANG」
伸ばした左手から、紫電が走る。フェルンやヴィルラドが使う魔法ほどの威力はないが、この距離で食らえば意識は刈り取れる。
至近距離で放たれた雷。しかしそれを、ヴィルラドはすんでのところで躱して見せた。
「野蛮なオレには魔法なんてうてねーと思ってたか?」
確かにヴィルラドは魔法を避けた。ーーー雷が生んだ光までもは避けられない。薄暗いダンジョンに慣れた瞳に、この光は突き刺さる。
「く・・・っ!」
「てめぇには何度か殺されたらしいからな。・・・覚えのねぇ借りを返すぜッ!!!」
一瞬のスキを突き、ヤツの死角に回り込む。
既に視力は復活しただろうが、こちらは完全な死角。避けられる位置とタイミングじゃない。
逆手に持ったナイフが、ヤツの背中に深々と突き刺さる。
ーーーはずだった。
鮮血が飛び出す。一面が赤く染め上げられていく。
その赤はヤツではなく、俺の胸から飛び出していた。




