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初めての味

「なに、同情してくれってわけじゃねーよ。いくら相手を選んでいたとしても俺たちがやったのは盗みだ。『悪いこと』なんだからよ、同情して見逃してくれって話じゃねぇ。ただ俺がしたかったのはどうしても『銀の翼』は無くせねぇって話だ。・・・だからよ」


最後に男はフッと笑うと。


「・・・『こいつ』でっ、勘弁してくれやっ!!!」


俺から借りた剣を自分の腕に向けて勢いよく振り下ろした。


肉の切れる音が響き、鮮血が舞う。そのあとに強烈なにおいが鼻をつく。---ことはなかった。


「あーもうわかったよ!これだから盗賊なんてのは嫌いなんだ。発想が突飛すぎるからっ!」


剣がボスの手を切り裂くまえに、俺が彼の手をつかんだのだ。そのまま剣を奪い、鞘に収める。


「わかったわかった、もういいよどっちの要求も」


ミリィには悪いが、盗まれてもうこの場にないというのなら仕方ないし、他人の腕をもらって喜ぶ趣味もない。


「でも、もう悪いことはすんな、ちょっとでも悪い噂聞いたら、またすぐにすっ飛んできて今度こそ『銀の翼』をぶっ潰すからな」


「・・・甘いな。甘々だな、勇者ってやつは。わかったよ、それで俺たちの居場所が守れるんなら安いもんさ」


ボスはあきれたように笑う。それに対して、俺は自嘲気味に笑った。


「元だよ、元」



「た、ただいまー」


「おっそいのよ」


恐る恐る家に帰ると、いつも通り不機嫌そうな奴隷の彼女が出迎えてくれる。


家を出る直前、いろいろあったから気まずいだろうと身構えていたが・・・奴隷の彼女が不機嫌そうなのはいつものことだ、気にしすぎだったか。


「なんだよ、これ」


「なにって、見てわからないの?本当にバカね」


テーブルを見ながら問いかけると、奴隷の彼女はいつもの調子で答えてくる。


・・・テーブルには、俺が家を出た時にはなかった料理の数々。


お店のように豪華な・・・とまでは言えないが、そこに並べられていた料理はなかなかの出来だ。


それに。


「俺の好きなものばかりだ・・・」


彼女と好きな食べ物の話なんて、そんな華やかな会話をした記憶がないので、全くの偶然だとは思うが。


「ん」


驚いている俺に彼女が何かを差し出してきたので、黙って受け取る。


「おつりなんて、よかったのに」


彼女は、俺が食事代にと渡したお金で、この料理の食材を買ったのだろう。律儀に残りまで俺に返して。


並べられた食事は俺と彼女、明らかに二人分ある。俺が帰ってくるのを待っていたようだ。


・・・なのに、冷めていない。俺が返ってくる大体の時間が分かっていたのか?


「わからない人だな、君は。俺のことが大っ嫌いじゃないのか?」


「大っ嫌いよ。だから・・・早く食べましょう」


大っ嫌いなら一緒にご飯なんて食べたくないだろう・・・その言葉をそっと胸にしまって、俺は彼女の作ってくれた料理を口にした。


母親がいない俺にとって、初めての経験だった。自分の家で、女性が作ってくれたものを口にするというのは。


・・・とてもあったかくて、初めてだというのに懐かしい味がした。

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