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ままならない

ボスの拳が迫ってくる。一度だけじゃない、何度も何度もだ。


容赦のない連撃。俺との実力差は最初から分かっているから、様子見なんて必要ないんだ。


パワーもスピードも、入り口付近で倒した二人とは比較にならない。この男がボスに選ばれたのは戦闘能力の高さか、はたまた人望か。


だけど悲しきかな。この男が盗賊団の中ではどんなに最強だろうと、その拳が元勇者である俺に届くことはない。


両手を、両足を、体全体を使った恐ろしい猛攻は、俺に掠ることさえしない。


だけどやっぱり・・・あぁやっぱり悲しい。


こんな攻撃が見えたところで、フェルンは守れない。


こんな攻撃が躱せたところで、シュトラに背中を預けてはもらえない。


盗賊団を一つ壊滅させたところで、ヴィルラドの隣では戦えない。


ーーー誰か一人の願いをかなえたくらいじゃ、あいつらの仲間にはなれないんだ。


「ままならないな。・・・アンタもそう思うだろ?」


「ーーーッ!!!」


俺の攻撃を予測し、ボスはそれを防ごうと身構える。さすがの反応速度だ。


・・・が、『反応できた』。ただそれだけだ。この男では俺の攻撃は防げない。


ガードの上から殴りつけ、ボスの体をやすやすと吹き飛ばす。


「ぐはっ・・・!」


ボスの体は壁に激しく叩きつけられ、僅かに血を吐いた。そして、痛みを必死に噛み殺し、敵である俺を見ようと、顔を上げたその時にはーーー。


俺の剣が、ボスの首筋にあたっていた。


「いわゆる王手ってやつだ」


「ま、こーなるわな」


男は諦めたように笑った。


「それで、なんでこんなところまで来た、勇者さんの目的は?」


「要求は二つ。盗んだものを返すことと、この盗賊団の解散だ」


剣を収めながら要求を伝える。


「悪いがどちらも無理だな」


ボスは少しも思案することなくそういった。


「『返せ』ってことは俺たちに知り合いの持ち物が取られたりしたんだろ、いったい何を取り返しに来たんだ?」


「……はっきりと分かってないんだ。ただ、母親の形見だってきいてる」


「……?。そいつはいつ頃盗られたモンかわかるか?」


「いや、そういえばそれもわからないな」


「おいおい、なんだよそれ。なにもわからないじゃねぇか」


そう、つまりはなにもわかっていないのだ。


「・・・ま、取り返したいものが何かわかっても、わからなくても俺の答えはおんなじだ。俺はお前の要求を飲まない。いや、飲めないんだ」


「どういうことだ?」


「このアジトの中を歩き回ってもらえればそれでわかる。ここに俺たちが盗んだ金銀財宝なんて一つもない」


一つもない・・・?盗賊団のアジトだというのに?


既にお金に換えてしまったということだろうか。・・・だが、それならばこの男は無理なんて言葉を使わずに、お金で解決しようとしたり、財宝をどこで売ったかを教えてくれたりするはずだ。


「どこかに隠してるってわけじゃ・・・ないよな?」


少し大げさにすごんでみる。が、ボスは自嘲気味に笑うだけだった。


「盗られたんだよ、ここにあったもん全部。盗賊団のボスとして、これ以上情けない話はないがな」


「盗られたって、アンタが?そんなに強いのに?」


「勇者さんよ、ああも圧倒しといてよくそんなこといえたな・・・」


「ま、勇者パーティの中では雑魚も雑魚だったけどさすがにな。いくら何でもアンタにとっちゃ相手が悪すぎる」


「とにもかくにも、そんなこんなで一つ目の要求は無理だ。そして二つ目の要求だが・・・こいつも飲めねぇ」


「どうしてだ」


「なぁ、そいつをちょっと貸してくれないか?」


ボスは俺の質問には答えず、俺の剣を見ながらそう言った。・・・剣を貸せ?いったい何のためだろうか。


この剣を使ったところで俺には勝てないだろうし・・・。


少し考えてみたが、答えはでない。


「ああ」


俺は首を縦に振った。


ありがとよ、そう短く感謝を述べてからボスは、俺から剣を受け取る。


何をするつもりだろうとみていると・・・。


「銀の翼は解散できないし、この場所を手放すのも無理ってもんだ。・・・なにもここにいる奴らが最初から盗賊だったわけじゃあない。魔物や悪人に居場所を奪われたり、愛を確かめあった家族に裏切られたり、そんな奴らだ。奥の部屋にはガキだっている。そんな奴ら・・・いや、()たちにとって『銀の翼』は唯一の居場所なんだ。こんな悲しい世界で、唯一の」


悲しい世界・・・か。そうだな、俺もそう思うよ。


「なに、同情してくれってわけじゃねーよ。いくら相手を選んでいたとしても俺たちがやったのは盗みだ、『悪いこと』なんだからよ、同情して見逃してくれって話じゃねぇ。ただ俺がしたかったのはどうしても『銀の翼』はなくせねぇって話だ。・・・だからよ」


最後に男はフッと笑うと。


「・・・『こいつ』でっ、勘弁してくれやっ!!!」


俺から借りた剣を自分の腕に向けて勢いよく振り下ろした。

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