表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
3/13

「おバカなあの子」 ・最大の修羅場

ある日野良作業から戻ったら、家に知らない娘っこがいた。

知らない家に勝手に入って、勝手に台所にあったもの食べて、自分にはちょっと小さい俺らの寝台を、勝手につなげて爆睡しているような、良く言えば天真爛漫、悪く言えばちょっと足りない子だった。

本人から事情を聞いても要領を得ないんで、ここらを流してる小鳥に聞いてみた。

したらお城のお姫様だってえから驚くじゃないか。

あんまり綺麗だから生みのおっかさんから殺されそうになったと聞いて、なんか気の毒になっちまって。

自分が、黒檀のような髪と血のようなくちびると雪のような肌をこの子にと望んだんだろうに。

王様がお忍びで出かけた城下町でみっけてきたあの王妃さんが、実は魔女だっていうのは、森で暮らすもんならみんな知ってる。

魔女が望んだらその通りになるに決まってるじゃないか。ひどいもんだ。

で、つい匿うことになったんだけど、この子がまあ、違う意味でひどかった。

生みのおっかさんに嫉妬されるくらいだから顔は綺麗なんだけど、それだけ。

人の名前も物の名前も仕事の手順も道順も何一つ覚えられない。

壊す破る潰す燃やす台無しにする。

いくらお姫様育ちったって、こりゃねえよ。

おっかさんも、殺したいくらい邪魔なら、どっか器量好みの対立する国に縁付かせる形で追っ払っちまえば良かったのに。そしたらきれいに内部から瓦解させてくれただろうに。

もちろん俺らだって躾はしたさ。家事やら礼儀やら。

とりわけ防犯意識を持たせることには腐心した。外から来た人とは話すな。物をもらうな。着いていくな。

なにしろ本人がバカだから、全面的に禁止するしかなかったんだ。

でもそれじゃダメなんだな。バカってのはこっちの予防策の斜め上を行くんだな。

なんで自分が家の中にいて相手が外にいれば大丈夫って解釈になるのかわからん。

挙句、毒リンゴ食って死んじまった。

いや、本当は死んでなかったんだよな。仮死状態。

でも俺らは死んでると思ったから葬式をやろうとした。

そしたらまずいことに、やんごとなきあたりのお忍びっぽい一行が通りかかった。

イケメンだけど思慮分別足りなさげなボンボンが、空気読まずに横たわるあの子の顔を覗き込んだとき、いやな予感がしたんだよ。

あの子、顔はいいからな。顔だけは。

だがしかしボンボンが「この子を余の城に連れて帰る」と言い出したときには、たまげた。

お付きの者が「もう死んでいる」と言い聞かせようとしても「死んでいるのだから、この子の時は美しいままで止まっているではないか」ときたもんだ。

ああ……これ、残念なやつだ。そこで横たわってる子と同じ個性を持った仲間だ。

そこでボンボンが無理やりあの子の体を運び出そうとした拍子に、あの子が息を吹き返した。

そのときには感動したさ。良かった良かった。

それから、隣国の王子だそうなボンが連れて帰って嫁にする話が、ぽんぽんぽんぽーんと進んでしまった。

反対する理由もないしな……望まれて嫁ぐのは幸せだしな……隣国まで行っちまえばおっかさんの刺客も届かないだろうしな……この子の実態を知っているこの辺りの若い男は、間違ってもこの子を嫁に望んだりはしないだろうからな……。

かくして俺たちは、あの子を送り出した。

不安がなかったわけじゃなかった。なにしろ二人ともバカだ。

でもたぶん周囲が導いてくれるだろうと。信じた。いや信じたかっただけかもしれない。


隣の国のお城で、結婚披露の祝宴があったんだってよ。

物見高いカラスが見物に行ったって。様子を教えてくれた。

わざわざおっかさんを招待したと聞いて驚いたが、まあ、ちょっとばかし意趣返しするくらいだったら、わかる。

でも、焼けた鉄グツを履かせて、苦しんでのたうち回っている様子を「見事な踊りだ」と手を打って喜ぶなんて、正気じゃねえよ。

やっぱ死体を持って帰りたがる奴なんてえのは、どっかおかしいんだよ。

あの子も、隣でキャッキャと笑いながら見てたって。

この家にいたときには、意地悪な子ではなかった。バカだけど。

あの子は、自分の頭で考えるということをしない。それがバカだっていうことだから、仕方ないんだが。つまり周囲の影響を受けやすい。誰がそばにいるかが、すごく大事だったのに。

カラスの話を聞いてから、俺ら7人の心が思いっきり修羅場。あのカラスでさえ、かなりげんなりした様子だったからな。マジひどかったんだろう。

行かせるべきじゃなかった。いやだけどあんとき二人は思いっきり盛り上がってた。止めたって無駄さ、そういうもんだ。見た目だけなら、本当に完璧な、見目麗しい二人だったしな。

だけど行かせた俺たちの心の中に、おバカちゃんの面倒を見るのに疲れた気持ちはなかったろうか。都合よく押しつける相手が現れたという、喜びの心が。

王妃をそんなふうに殺されて、こっちの国の王様も黙っちゃいない。宣戦布告は時間の問題だ。まったくバカなことをしたもんだよ。バカだからな。

この森は戦場になるだろう。俺らはこれから引っ越し作業だ。

本当にさ。そんなことが出来る子じゃなかったんだよ、あの子。バカだけど。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ