「野獣を返して」 ・百年の恋も冷めた瞬間
こっちはドジぶっこいたオヤジとトレードで人質みたいにして城に囚われる身、向こうはそうさせた側、という最悪な出会いのわりには、私たちはうまくやっていたんじゃないかと思う。
なのにさあ、魔法、とけちゃったんだよ。
あのとき。
いきなり辺りがピカピカ光って、気がついたらそこに王子が立っているのを見つけた、あの瞬間の、「ええええええ〜」という気持ち、忘れられない。
「ちょ、ま、誰が魔法をとけと言った」「うわあスカしたイケメンがいる」「野獣返せや」
言わなかったけどさあ。
いちおう、空気読んで嬉しそうにしたけどさあ。
城にいた他の人たちも人間に戻って、それは良かったと思うけどさあ。
姿かたちは変わっても、中身は同じ。
頭ではわかるの。
でもダメ。
野獣のときには、読めない彼に字を教えてあげるのも、読んであげるのも楽しかったのに、王子の姿で「これ読んで」とか持ってこられると、「チッ。自分で読めよ」とか思っちゃうんだよ。
結局、そういう溝がどうしても埋められなくて、私が図書室の本を全部読み切ったタイミングで別れた。
泣かれたし、恨まれた。でもどうしようもなかった。
ひどい女だよね。自分でもそう思うよ。
いまは元の村に戻って、オヤジと二人暮らし。
もうオバサンだから口説く男もいなくて、面倒くさくなくていい。
もう恋も結婚もいらない。
あんなに好きだったのに。
あの、一瞬にしてきれいさっぱり想いがなくなった、あの瞬間。
ぞうっとした。誰よりも私が、自分にがっかりした。
魔法がとけた、あの瞬間、私の百年の恋の魔法もとけたんだと思ってる。




