↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

18/19

しつこいですね


次の日の放課後、4日ろくに寝ていないエミーリアが流石に眠くてぼんやりしていたら、メンヘラ君に体育館裏に呼び出された。



『闇落ちしてる暇なんてない、もはや直ぐに家に帰って早く寝たい』と思っていたのに、気が付いたら体育館裏に引きずり込まれていた。



エミーリアはひたすら眠い眠い、と考えていた。

フラフラしている。足の力が段々なくなってきていた。

瞼が重い。



「…だからやっぱり、僕を愛してくれない女性より、僕を愛してくれる貴方の方が僕に相応しいと思ったんです。例えモンスターをワンパンするような女性でも、この際気にしません。僕と婚約しましょう」


メンヘラ君はエミーリアに告白してきた。


メンヘラ君の中で、何故か告白は絶対体育館裏という規約があるのかもしれない。

だがエルフリーゼの時と違って、このモンスターワンパン女に告白をするということで、万が一のこともあると思ったのか、腰から剣をぶら下げていた。


「眠い…」


エミーリアはメンヘラ君が何を言っているのか聞き取れなかった。眠そうに眼をこすっている。


「僕は、僕を愛してくれるのならば貴方を全力で愛せますよ…」


「ねむい…」


エミーリアはあくびをしている。


「僕が愛した分、貴方が愛し返してくれるなら、今すぐにでも結婚しましょう…」


「ねむ…」


ばたん


とエミーリアが後ろに倒れた。


ぽかぽか陽気と、まるで大学の講義のように理解不能で単調な口調のメンヘラ君のおかげで、眠気に耐えられなくなったエミーリアは倒れた。

頑丈なエミーリアは頭を打っても起きないらしい。

倒れてそのまま、暖かな日差しが気持ちの良い体育館裏の草むらの中でいびきをかいている。



「あれ、もしかして僕と婚約できることが決まったから安心して寝てしまったのでしょうかね。じゃあちょうどいい。この間に婚約の誓約書に血判をいただきます」


メンヘラ君はいきなり倒れたエミーリアに驚いたようだったが、すぐにエミーリアの傍にかがむと、テキパキとその腰から下げた剣を引き抜いた。


ぶっ


メンヘラ君は剣をエミーリアの親指に当ててズッと強く引いた。

エミーリアの親指が切れて血が出てくる。

メンヘラ君はすかさず誓約書にエミーリアの血まみれの親指を押し当てた。


エミーリアは沈んだように寝ていたのだが、親指が少し痛かったことは感じた。

だがまたすぐに目を閉じる。

眠い。お日様がポカポカして、草の匂いもするし、夜暗闇の中でベッドの中にいるより気持ちがいい。





ふっとエミーリアにあたっていた陽の光が遮られた。



「また貴様か。次は剣で婚約を成立させたのか」


音もなくやってきて、いびきをかいているエミーリアと、婚約の誓約書を持っているメンヘラ君を見下げているのはレンフェーンだった。


昨日と同じ本を片手に持って立っている。

昨日と同じ場所で昨日読もうと思っていたのに読めなかった本を読んでいて、また昨日と同じように何やら騒がしい体育館裏に文句を言いに来たのだろう。


「またレンフェーン様ですか…今度はしっかり合意の上ですから、ご心配なく…」


エミーリアの横で屈んで血の付いた剣と血の付いた誓約書を持っているメンヘラ君は、笑顔を顔に張り付けてレンフェーンに顔を向けた。

レンフェーンは、誓約書に血判を取ったのでもう用なしとばかりに無造作に放られた、血にまみれたエミーリアの手の指を見ていた。


「…貴様、エミーリアの血を取ったのか?」


「ええ、婚約の誓いを立ててもらいました」


「こいつの血はそんなことに使っていいものではない。ただでさえこいつはなかなか俺に血をくれないんだ。俺はこいつの光魔法を扱える貴重な血を早く研究したいのに」

レンフェーンは手当てなのか、もしかしたら採血なのか分からないが、白いハンカチを取り出してエミーリアの流血している親指に当てる。


「…それもついでだ。渡せ」

そしてメンヘラ君に向かって、もう片方の手を差し出す。

エミーリアの貴重な血の付いた婚約の誓約書が欲しいようだ。




「レンフェーン様、昨日はあの裏切者のエルフリーゼ様とイチャイチャしていたのに、僕がエミーリア様と婚約しようとしたら、今度はエミーリア様が欲しいんですか?この僕が持ってるものが欲しいんですね。あ、でもこれは渡しませんよ」


誓約書をレンフェーンの手から遠ざけるメンヘラ君。

キッとレンフェーンを睨んでいる。


それを見て、面倒臭そうに目を細めたレンフェーンはいきなり魔法呪文を詠唱した。全く短いものだった。


呪文から突風が生まれ、誓約書をメンヘラ君の手から飛ばそうとした。

だがメンヘラ君は辛うじて誓約書を握り、それが飛ばされるのを阻止した。


ふっと益々眼を細くしたレンフェーンは次の呪文を唱え始めた。次は少し長い詠唱だ。


「しつこいですね!」


それに気が付いたメンヘラ君が少し慌てて叫んで、剣を握りなおす。

昨日のレンフェーンの魔法を見ているので流石に怖いと思ったのか、その剣で詠唱中のレンフェーンを切りつけた。


エミーリアの横で片膝をついて親指を止血していたレンフェーンは、腕で体を庇いながらそれを避けたが、二振り目のメンヘラ君の攻撃が当たった。

剣の切っ先で腕を縦一文字に、切り裂かれた。眉をしかめて、魔法詠唱を中断したレンフェーンの腕からは血が溢れ出てくる。


魔術師職のキャラというのは、その高い魔法攻撃力とそれを広範囲にぶち放てる高い殲滅力と引き換えに、物理防御がまるで紙だ。

剣の切っ先でも当たってしまえば被害が普通よりも大きい。

だから、バトルでは絶対安全の後方で守られながら魔術砲台として戦うのが一般的だ。



だが今回、あろうことか最前線で剣と対峙しているレンフェーンはあっけなくダメージを負った。

滴る自身の血がエミーリアに降り注ぎそうだったので慌てて身を引くが防ぎきれず、その溢れ出た血はぐうすか寝ているエミーリアの頬にも飛んで、伝った。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。