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アーンされてください



3人は、アイスクリームを受け取ってから、海が見えるレンガ道にあるベンチに座ってアイスクリームを食べることにした。


目の前に広がる海ではもう陽が半分以上向こう側に消えている。

仕事帰りの町の人や、家に帰る子供の声や、きゃあきゃあ言っている女の子達の笑い声、いわゆる夕暮れの喧騒が聞こえる。


この時間帯に聞こえる音はどこの世界でも一緒なのかなぁ、とエミーリアがまた少し懐かしい気持ちになっていたら、


「はい、ジークベルト様、あーん」


ジークベルトの右側に座ったエルフリーゼがここぞとばかりに、恋味ストロベリーミルクチョコレートアイスクリームを掬って笑顔でアーンし始めた。

バナナアイスを頬張って、スプーンをタバコみたいに口から覗かせているジークベルトが驚いている。



… 何それめっちゃヒロインがすることじゃん。

ホントこの悪役令嬢身の程知らずにも程があるんだけど。

…………ということで、私も早速やるわ。

インプットしたら、アウトプットすること大事。

しかも私は4玉のアイスクリームがあるから、2玉しかないエルフリーゼより多くアーンできるもんね。



「はい、大人しくアーンされてください」


エルフリーゼにアーンを迫られているジークベルトの左側から、負けじとアイスクリームを掬って突き出すエミーリア。

差し出したら思いのほか、ジークベルトの顔が近いところにあった。



「待て待て待て。エミーリア、そこ目だから!アーンしたら痛いって」



ジークベルトのイケメンフェイスに緊張してどこが口でどこが目なのか、脳の処理が追い付かなくなってしまったエミーリアは、あろうことかジークベルトの目に抹茶アイスを押し込もうとしていた。


はっと気が付いたエミーリアは、粗相をした手をつねってみる。



…何これ呪いなの?

イケメンにアーンできない呪いなの?

ヒロインなのにイケメンにアーンできないとかホント祟りなんだけど。


…………いや。ただイケメンの顔が近すぎて私が混乱しただけだわ。



「はい、ジークベルト様。目と口の見分けもつかないエミーリア様は放っておいて、こちらにアーンしてくださいな。このアイスクリーム、とっても美味しいですわよ」


エミーリアを睨みつけたエルフリーゼは、これ見よがしにアイスクリームの小さなスプーンからアイスが垂れたりしないよう手を添えて、首を傾げて可愛いらしく微笑む。

少し間があって、ジークベルトが顔の前に差し出されたエルフリーゼのスプーンに乗っているアイスをパクッと食べた。

それを見て満足そうなエルフリーゼが『美味しいですよね』とニコニコしている。

ジークベルトとエルフリーゼが好感度カンストしたカップルのように見えてくる。



…何それめっちゃリア充じゃん。

なんか今日、エルフリーゼの悪役令嬢としてのアイデンティティ爆発してない?

エルフリーゼは悪役令嬢なのに、爆発してリア充令嬢になったの?





悔しいエミーリアはもう一度挑戦してみた。


「もう一回アーンしてみてもいいですか」


「別に良いけど…ってそこ耳だから!お前大丈夫?」


今度はジークベルトの耳に緑色のアイスクリームを突っ込もうとしていた。

酷い嫌がらせである。



…だってジークベルト間近で見ると物凄いイケメンなんだもん。

しかもアーンするとき目合わせてくるから狙いが定められないんだもん。それに歯並びがキレイなんだもん。

私は悪くないもん。この人がイケメンなのが悪いんだもん。



諦めたエミーリアは、仕方がないので自分でアイスクリームを食べ始めた。


もっもっもっもっ…


そして全種類のアイススクリームを各半分くらい食べたところで、宣誓通り呪いを阻止すべく、全部ジークベルトにあげた。

ジークベルトは『仕方ねぇな』と文句を言いながら完食していた。

『やっぱりたくさん食べてもイケメンはイケメンだからいいなぁ』と思いながらエミーリアはジークベルトを見ていた。










ジークベルトが完食した自身のコーンのゴミとエミーリアのコーンのごみを丸めて捨てに行ったその一瞬の隙をついて、エルフリーゼがほぼ溶けた液体のアイスクリームが入ったカップ握っておもむろに立ち上がった。



「何?突然立ち上がってどうしたエルフリーゼ」


「知らないとは言わせませんわよ。

エミーリア様、先ほどからジークベルト様の口をわざと間違えて何度もイチャイチャして、何なのですか?

先日も私が捕まっている時に助けにも来ずアルフォンス様とイチャイチャしてましたわよね。流石にお灸をすえて差し上げなければいけないようですわね」


「あー…」


エルフリーゼは自分が散々アルフォンスとジークベルトとイチャイチャしたことを棚に上げて突然怒りだした。

流石悪役令嬢、堪忍袋の緒がもろい。

イケメンがこの場からいなくなるとすぐキレてくる。

だがエルフリーゼに虐められてこそ、ヒロインは輝くと信じているのでエミーリアは逆ギレしたりはしない。

寧ろ『怖いやめて』と煽って差し上げた。



…何この豹変っぷり。

イケメンがいなくなった途端これだからムカつくくらい潔いわ。

できたらもっと早く悪役令嬢の使命思い出して虐めてほしかったけどさ。


ゲームにないイベントだと、エルフリーゼがどこでどう虐めてくれるか分からないからやりにくいけど、これで帰って来たジークベルトに『大丈夫か』って助けてもらえるかな?



エミーリアはエルフリーゼに気づかれないようにほくそ笑んだ。



「今からこのアイスクリームを頭からかけて差し上げますから、覚悟なさい」


エルフリーゼはふふんと笑って、エミーリアを見下す。

そして、自身の食べ残しのアイスクリームの液体が入ったカップをエミーリアの頭上高くに上げた。










ジークベルトが帰って来て、エミーリアを見て驚いていた。

エミーリアの髪がにちゃにちゃになっていて、甘い匂いがプンプンするのだ。

緑がかった白銀の髪を持つエミーリアは、綿菓子のようになっていた。


「お前それアイスクリームの呪いなの?」


ジークベルトの第一声がそれだった。


「…そうですけど?」



…何それ酷い呪い。

ヒロインに『大丈夫か』とも聞いてくれないイケメンが発生するむごい呪い、アイスクリームの呪い。



「へー、何味?」


「恋味ストロベリーミルクチョコレートですね」


「あはははは、恋味とか似合わねー。エミーリアは多分、バナナ味とかのが似合うんじゃね?」



…何それゴリラ?

超絶可愛いヒロインに面と向かってゴリラって言えるイケメン存在するの?


はぁ。

バナナ凶器じゃん。バナナってこんなに乙女のハートを傷つけるフルーツだったんだ。

責任取って私と付き合ってくれないかなぁ。





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