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567 御飯


「ほれほれ、こう攻めたならば、いかに反応するか」


 アラとミスリルの模造剣で斬り合っていた『剣狂老人』が急に間合いを詰めて、まるで格闘というか柔道の組み合いでもするくらいの近距離に、あんな近くて剣を使えるのかよ。


 手を横に広げてから手首を捻って剣先を真横から突きこんで来るとか、そんなやり方あるのか。


「こんなのは、こうしちゃうんだから」


 真横から迫る剣先に、アラが手に持った剣の柄頭を押し当てるようにして、そのまま相手の剣を弾く。


「なんと、これは面白い返しをしおる、これだから嬢ちゃんで遊ぶのは止められぬ」


「うわあ、凄いねあの子、『剣狂老人』の剣を弾くとか、『勇者』のスキルやステータスでもなかなか出来る物じゃないよ。強引にやろうとしても、上手くいなされるだけだからね。あの子も成長補正でステータスは高いんだろうし、スキルも使ってるんだろうけど、元々のセンスが凄くいいんだろうね。でなきゃとんでもないレベルの厳しいトレーニングでもって、君の所じゃそれはないか」


 いつの間にか俺の横に来てた、マコトさんがなんか感心してるけど、あれ料理してるんじゃなかったっけ。


「やっぱりね、こんな好カード見逃せないよ。あの『剣狂老人』が自分から戦いたいって探すような相手との一戦なんてさ。料理の方は事前に下拵えしておいたのがあるし、お米は炊けるのを待つだけ、付け合わせは塩漬けや酢漬けなんかがあるし、スープ類も試合に興味のない子達が用意してるから、後は出来上がるのを待つだけだよ。まあ、料理を待ちきれない冒険者の子達なんかには、すぐ食べられる固焼きパンや干し果物、後は薄めた果実酒なんかを配ってるけどね」


「ええい」


「なんの」


 アラが剣を弾いた柄頭を、『剣狂老人』に向けて更に一撃を胸へ放とうとしたのを、『剣狂老人』は手早く左手を差し入れて受け止める。


「なるほど、今受け止めた時の骨の奥にまで響くこの力、某の剣を弾き、手にまで衝撃が伝わったのは只の打撃ではないと思うたが、某の教えた『土龍は頭を圧され地に帰する』を応用し、柄頭からの衝撃を上手く伝えおったのか、これならば鎧を打てばその中身の肉や内臓を潰せそうじゃのう」


「うー、これで勝てると思ったのに」


「しかし、この力の伝わり方、基礎の部分は某の教えた物じゃが、あの技との違いも大きく、ただ技を簡易化した物ではない、まるですべての力が無駄なく某の剣を狙った方向に弾くために計算された通りに無駄なく浸透したような。じゃが嬢ちゃんがいくら才能が有るとはいえ、この短期間に独自の応用のみでここまで作れる物か、それにこの衝撃の使い方は、以前に見た覚えが……」


 アラと切り結びながら『剣狂老人』が考え込んでるけど、アラの全力を片手間で捌くとか、やっぱり素の実力差は大きいんだな。


「そうかこの技『四弦万矢』、あの者の弓技か、元が剣技では無かったゆえ気が付くまで時間を費やしてしまったが、まさか弓技の技法を剣に使うとは、幼子の固定観念に縛られぬ自由な発想力とは馬鹿にならぬのう」


 ああ、『四弦万矢』なら確かにこの爺さんから対戦相手として狙われそうだな。近距離でならどうか分からないけど、中・遠距離なら威力も連射も命中率もシャレにならないもんな。この爺さんならわざと距離を取って好き放題撃たせてそれを防いで楽しむとかやってそうだな。


「これは某の知る様々な分野の強者を嬢ちゃんに紹介して、交わせてみるのも面白いかもしれぬのう。経験人数が増えれば増えるほど嬢ちゃんはより技巧に長けると」


「なんだろうね、色々と自覚のある僕やアキエちゃんの言えた事じゃないんだろうけど、あのお爺さんの言いようも大概だねえ。多分本人はそんなつもりは無いんだろうけど、どこかぶっ飛んだ人の物言いっていうのは、周りの事を気にしないから、勘違いされそうな言葉も平気なんだろうね」


 やっぱりあの爺さんの言動が、何処かアレだと感じるのは俺だけじゃなかったんだな。






「いやはや、やはり若い相手というのは良いのう、こっちまで若返ったかのような気がするわい。思わず年甲斐もなく休み無しで6連チャンも遊んでしもうたわ」


 事前にタレに漬けこまれ炭火で焼かれた肉を口に運びながら『剣狂老人』が笑ってるけど、健啖家だなこの爺さん。


「リャー、お腹空いたー」


「うん、アラはがんばったな、いっぱい食べような」


 いっぱいお肉を焼いてあげなきゃな、そうだ、アラは野菜が好きだから、そっちも焼かないと。しかし、マコトさんの用意した料理が、焼肉だったとはな。


 でも、確かにこれなら薄切りしてタレに漬けこんでおけば、焼く時はすぐ火が通るし、各自が好きに焼けば、量の調節もしやすいもんな。


「ねー、リャーこの白いの何、麦粥みたいだけど、お湯が無いの」


 アラが両手で持って聞いて来るのは、茶碗代わりの深皿に盛られた真っ白な銀シャリ。


 よく見たらアラだけじゃなく、ハルやサミューも、それに他の冒険者連中も不思議そうに見てる。まあ、多分初めて見る食べ物だろうからな。


 平気で食べてるのは、戦闘以外は気にしてないだろう『剣狂老人』とミーシア、トーウの食いしん坊達だけか。


「ず、ずっしりしてて、いっぱい食べたら、お、お腹に溜まりそうな気がします」


「これは、穀物の一種でしょうか、噛み続けていくとほのかな甘みが心地よく、ああ、これは良い物です」


「それはね、御飯っていうんだよ、原料のお米は麦の仲間みたいなものかな。初めまして僕はマコト、リョー君のお友達だよ」


 なんて説明するか考えてた俺より先に、マコトさんが説明してくれたけど、そっかどっちも確かイネ科の穀物だから、仲間と言えば仲間なのかな。


「リャーのお友達なの、そっかアラはねアラって言うの」


 そう言ってアラが、フォークで御飯を掬って口に運ぶ。


「あんまり味しないね」


「そうだね、ほら麦の仲間って言っただろう。パンだって、それだけで食べると味気ないから、おかずと一緒に食べたり、何か塗ったり挟んだり、ソースを拭ったりするし、パスタは味を付けて炒めたりソースをかけたりするだろう。御飯も同じように、何かを上にかけるのも良いし、こういう漬物とか佃煮っている料理なんかと一緒に食べても良いんだよ」


 そう言って、マコトさんが見本を見せるみたいに、漬物と一緒にご飯を食べスープで流し込むとアラも、真似をしだす。


「あ、ホントだ、食べやすくなった」


「後はね、こうやって焼いたお肉にタレを付けて、オンザライス」


 お、オンザライスだと、焼肉の定番をここでやって来るか、しかも俺の目の前で、いやたぶんマコトさん的にはアラに教えてるだけで俺に見せつけてるつもりは無いんだろうけど。


「こーお、おんざらいすっ」


 アラがフォークに刺した肉を、御飯の上に数回ポンポンと跳ねさせてから口に運ぶ。


「そうだよ、そうやって、御飯に少しずつタレや肉汁を染みこませて美味しくなるように育てていくんだよ」


 な、なんてマネをしやがる、そんなの見せられたら、俺だって食べたくなるじゃないか。


 いや、普通に行儀的には微妙だけど、まあこの世界にご飯は今までなかったんだから、なにが行儀がいいのかはまだ決まってないって考えていいのかな。猫まんまにしようが、箸をぶっ刺して立てようが、他の元勇者が何も言わない限り、広めたマコトさんの言う事が元祖って事になるのかな。


 なら俺もやろうかな、この焼肉のタレは動物性の出汁とかは使ってないって言ってたし、焼き野菜を使って俺も御飯に味を付けようかな。あ、そう言えば……


「マコトさん、ここでコメを放出してますけど、備蓄量とか大丈夫なんですか」


 多分これ、どこかの『迷宮』でやっと見つけた稀少なやつとかじゃないのかな。


「せっかくだから、干し肉と固焼きパンをかじるんじゃなくて、温かい食事をして貰いたいからね。かと言ってここでパンを焼くのは大変だし、パスタを茹でるとなると水の消費量がお米の比じゃないし、麦粥も良いけどボクの好み的に食べごたえはご飯の方が有りそうだから。量の件なら大丈夫だよ、ボクの私有地でもう三年くらい栽培して少しずつ増やしてて自分達で消費する分プラスαくらいはあるし、この間カミヤ君にも預けたから、これからもっと増えていくんじゃないかな。彼なら積極的に品種改良して、もっとおいしい品種や収量の多い品種なんかも用意しそうだし、いっその事もち米なんかを作ってくれたらいいなあ」


「品種改良って、そんな簡単にできる物じゃないですよね」


 向こうでテレビの特集とか見てたら、十数年かけて何世代も選別と交配を繰り返してやっと、とかそれだけ頑張っても出来ないなんて事も有るらしいから。


「こっちは向こうと違って『迷宮』が有るからねえ、幾つかの植物を栽培して『迷宮核』に登録させれば、普通に育ててる分はそのままの品種で育つけど、そこら中に普通のコピー品と、交雑どころじゃない混ざり方した変位種が普通に湧いて来るからね。それらを集めて良さそうなのを選別してやれば、いきなり有用な新品種が出て来たりするし、そうでなくても色々な特徴のあるのが見つかるから交配してやれば、比較的早く品種改良できたりするんだよ。それこそ、熱帯の作物と雪国の植物や塩害に強い草なんかを一緒にしていたら、その内、北国の浜辺でも育つ南国作物が出来たなんて話も有るらしいし」


 なんかもう、なんでも有りな気がしてきたな『迷宮』って、まあ勝手に魔物や『魔道具』が湧く時点で、地球の常識なんて通用する訳が無いって解ってたか。


「まあ、どう混ざるかなんてのは完全ランダムだから、無駄に生命力の強くて他の植物を枯らしちゃう雑草とか、見た目は美味しそうな野菜なのに一口で死ぬような毒が有ったりなんてのが出来ちゃう事も有るんだけどね」


 うわあ、そりゃそうか下手すれば元からそこに生えてる薬草や毒草の効果が混じったっておかしくないんだから。


「しかし、あの嬢ちゃんスゲーな、あの『剣狂老人』とあれだけ斬り合えるとかよ」


 ん、向こうで飯を食べてる


「ああ、確かにすごいな、しかも試合ってる最中の話を聞く分だと『剣狂老人』から剣技を習ってるだけじゃなく、『四弦万矢』からも弓を習ってる見てえじゃねえか、そんな技が使えるようになれば俺だって、いっその事あのガキに……」


「おいおい、変な事考えてんじゃねえぞ。俺らがこうして生き残れたのは、この数日あの嬢ちゃん達のパーティーが先頭に立って戦ってくれたからだろ、それを狙うような不義理は仁義に反するぞ、恩を仇で返す裏切り者なんて噂を立てられて、仕事を干されるのはゴメンだ。そもそも相手は『雷滅幼女』あの『不浄斬り』の一党だぞ、俺らが力尽くでどうにかできるような相手じゃねえってのは、嬢ちゃん達の戦闘をここ何日か見てただけでも解るだろうし、オメエだって『鬼軍荘園』での奴らの噂は聞いたことが有るだろう。ボスゴブリンみてえにナニを抉り取られてえのか」


 う、アレか、ゴブリン・マーシャルを撃退した時の話か、確かあの時は俺が囮になってサミューが……


「何よりも、あの嬢ちゃんは『剣狂老人』と『四弦万矢』の弟子、でなきゃ技を教えられるほどのお気に入りって事だ、それに何かしようもんなら……」


「そうじゃのう、正面からとまではいかぬが、まともに戦闘を仕掛けるというのならば止めはせぬぞ。お主等が自主的に命を贄にして、嬢ちゃんの経験値という糧になりたいというのであれば、その献身を誉めてやろうぞ。じゃが、下らぬ搦手を巡らして罠を張り、あの貴重な才能を損なうような事があれば、某は喪失感から何を仕出かしてしまうか分からぬのう。例えば八つ当たりで流派を一つか二つ丸ごとだとか、冒険者集団を町一つ分、潰したりすれば気が張れるかのう」


 気が付いたら、ついさっきまで俺達と同じ炭火を囲んでた『剣狂老人』が一瞬であの冒険者達の背後にいたんだが、なんか、これだけ離れてても、凄い重圧感を感じるんだけど、これが噂に聞く強力な殺気ってやつなのか。


「すごいね、りゃー、おじいちゃんいつ動いたのか解らなかったよ」


「おお、嬢ちゃん見ておったか、さっきの某の一撃を避けながら横をすり抜けた嬢ちゃんの歩法も見事じゃったが、じいじのもなかなかのもんじゃろう、後で教えてやるからの、楽しみにしておるといい」



ちょっとこの先の展開について悩み中なので、割烹でご意見を聞ければと思います。

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[気になる点] 割烹…活動報告のことか そんな言い回しあったのかと真剣に悩んでしまった
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