568 伝授
「行きますわよ『風連刃』」
「ハゲラ……」
ハルが右手放った無数の風の刃が、四体の魔物をバラバラに切り裂く。
「次はコレですわ、『盲光』」
「ウバ、アアアア」
続ける様にハルが向けた左手の五指からそれぞれ細い光線が放たれて、光の先端がレーザーポインタみたいな感じで、魔物達の表面を撫でまわすように這い、指の動きに合わせて動いていたその光が魔物の目を掠った瞬間、その魔物が目を抑えて悲鳴を上げる。
普通のレーザーポインタでも目に直撃すれば失明する事も有るっていうけど、それよりもさらに強い光を収束させたあれじゃ眼球は只じゃすまないだろうな。
以前にハルが『光魔法士』と『風魔法士』の二つの職を取った際に幾つかその系統の魔法を教えておいたんだけど、俺が捕まって別行動していた間に、かなり使いこなせるようになってたんだな。
「さあさあ行きますわよ『低気』」
「ググ、ガ、ガゲ、ハアハアハアハア」
遠くからこっちに走って来てる数頭の魔物が急に呼吸が荒くなって、苦しげに動きを止める。確か今の魔法は一定範囲の気圧を急激に下げて、高山病みたいな低酸素状態にするんだったか、いきなり高度一万m越え位の気圧になれば、そりゃ動けなくなるよな。
こうして見ると視覚で解りにくくて呼吸に直結する風系統の魔法は怖いな。
確か二酸化炭素を増やすとか高圧の窒素を吸わせるとかも有るんだっけ。まあ、呼吸をしない魔物がいたり、高レベルになると呼吸を止めてもそれなりの時間戦えたりするらしいから万能ではないらしいけど。
「そろそろこの辺りの魔法も、十分使える様になりましたわね。また、新しい魔法を勉強したいところですわ」
ハルが俺の方に視線を向けながら言ってきてるって事は、これはまた何か魔法を教えろって事か。
「さてさて、そっちの魔法使いの嬢ちゃんのおかげで、まったく遊べずにここまで来てしもうたが、ココより先はこの爺めにやらせてもらうぞ、何せお嬢ちゃんに技を伝える見本を示すのにちょうどいい的がこの先にしかおらぬからのう」
見本の為の的って、この先はボス部屋だから、この爺さんの言ってる的って『迷宮ボス』の事だよね。『迷宮』ってさ、攻略するのが大変で、ボスを倒して『迷宮核』までたどり着ければ『迷宮踏破者』なんて呼ばれて一目置かれるくらいの功績の筈なのに、この爺さんにとってはアラの練習場ぐらいの感覚なのか。
「これで『剣狂老人』の技を生で見れるって事だね。さっきの休憩時間もうちの子達に訓練付けてくれたり、基礎を教えてくれたりしてたし。気難しい変人と聞いていたのとは違って、剣術バカだけど付き合い方さえ気を付ければ良いおじいちゃんだね。カレがもう20年いやエルフだから100年か、その位若かったらボクは惚れてたかもしれないね」
マコトさんも懐柔されちゃってるよ。確かにあの講義は為になったけどさ。
「モッタイナイねえ、あの冒険者の子達も早々に逃げたりしないで、一緒に来てれば一生ものの経験になっただろうにね」
そうだよな、アラ達と一緒に立て籠もってた冒険者達は、みんなマコトさんから食糧を受け取ってそのまま脱出して行っちゃったからな。
まあ、持ち込んでた物資を消耗しながらいつ来るか分からない救援を待ちながら、何日も魔物の襲撃を撃退し続けるっていうのは、肉体的にも精神的にも応えたんだろうし、その上、あの爺さんがあんな風に脅したりするからみんなビビっちゃったんだろうな。
「さてさて、出来れば堅く大きいのが嬢ちゃんの初めての相手には良いのじゃが、この『迷宮』はどんなのじゃったかのう」
ボス相手に苦戦するなんてつもりは全くないんだな。
「おお、『巨穿山鋼』であったか、これは丁度いい。堅く大きく素早い、丁度いい練習相手じゃな」
出てきたのは、鈍い鉄色に光を弾くでっかいアルマジロみたいな魔物、いやアルマジロよりはスリムに見えるけど。
「さてさて、ちょうどいい魔物が出てきたところで、今回伝える技を教えようかのう『硬竜は甲を穿たれ心突かれ』、もう一つは『竜群は身を圧され崩れ堕つ』の二つにしようかのう」
おいおい、じいさん呑気に言ってるけどさ、もう目の前に魔物が、魔物が……
「そのほかにも、ホレ、このように力を逃がせば、大して膂力が無くとも大型魔獣の一撃を容易くいなせる、まあそれなりに頑丈な武器でなければならぬがのう」
人一人くらいなら軽く吹き飛ばせそうな勢いで振られたボスの前足を、簡単に受け流しやがった。
「さてさて、それではまず『硬竜は甲を穿たれ心突かれ』からいこうかのう。まあ、大して難しい訳ではない。以前に教えた『飛龍は翼を穿たれ地へ落つる』と『土龍は頭を圧され地に帰する』をある程度使える様になる必要があるが、嬢ちゃんなら出来ておるのじゃろう。使いこなせておるかまでは解らぬが、あのように応用できる程度には技の要を理解しておるのじゃからのう」
前に教わった、二つの技は入門編みたいなものだったって事なのか。
「以前も言ったがの、『仆龍三十六剣』など所詮は使い所の殆ど無い、文字通りの屠龍の技に過ぎん。こんな物を使いこなす必要はないのじゃ、要はこれらを修練する過程で、何かを見つけ嬢ちゃんが某の剣を弾いたように、より実践的な技を自ら見つけていく事じゃて。後は負荷の大きな技を試して体力や膂力を鍛える事じゃの。まあ、その中でもこの技は比較的実用性のある方かのう」
そう言って、やや距離を取って魔物と正対した『剣狂老人』が剣を構えるけど、あれは突き技か。
「さて、本来この程度の魔物であればこの技を使わずとも一撃なのじゃが、まあ、込める力を加減すればよいか」
そうですか、ボスモンスターがこの程度で一撃なんですか。
「さて技を使う前に説明して置こうかの。気を付けねばならぬのは、スキルでの攻撃の場合じゃと体重が軽くともそれなりの威力は出るし、反動もある程度抑えられるが、それでも嬢ちゃんのように小柄で軽ければ、直接ぶつかる技では威力は下がるどころか、場合によっては強力過ぎる技じゃと反動を抑えきれずに後づさってしまう事も有る。跳び上がっての一撃を放つのは体重相応な威力の技しか使えぬ者か、あるいは体重相応の技で済む程度の敵が高所に居る場合であり、上段からの勢いに乗せた振り落としの一撃は、体格に恵まれ重量武器を振り回して重さを上乗せした強撃を放てる者の特権じゃ」
ああ『剣狂老人』の話してる事はよくわかるな、おれも『軽速』を使いながらだと、反動でこっちが逆に吹っ飛んじゃうから、『斬鬼短剣』で力を込めなくても斬れるタイミング以外は、こまめに効果を切ったり入れたりしながら戦ってるもんな。
「小兵は非力ならば体重を上手く使うのも良いが、某や嬢ちゃん程度のステータスが有り大技を、特に直接武器を当てる形の技を使うのならば、足場をしっかりと利用して、反動を地面などに逃がしたり、足の力を利用して突き上げるような形をすれば威力を上げられる」
なんか、格闘マンガみたいな話になって来たな。そういやマンガと言えば、某○学読本なんかで、体重が数倍の相手を飛び蹴りで蹴倒したら、自分はその倍の距離、反動で吹き飛ばされるなんてあったっけ。
これは俺も参考にした方がいいのかも。
「まあ、能書きは別に良いか、嬢ちゃんはおのずと理解して居る様じゃからのう。さて、行くぞ」
一瞬で距離を詰めて『巨穿山鋼』へ肉薄した『剣狂老人』が連続で刺突を放つ。同じ場所へ繰り返し同じように、いや、毎回刺突を始める場所を変えて、全く同じ個所へそれぞれ別の角度から撃ち込んでいる。
でも時折別な場所に当たってるな、この爺さんに限って狙いが外れたって事は無いから、ワザとなのかな。
「連打は釘を打つようにまったく同じ向きで力を伝え続けるのも、細い穴を穿つのにはよいが、こうして無数の方向から力を伝えて構造を崩して穴を空ける。やや離れたところに傷を付けるのも、脆くなった場所へと力が寄り、砕けやすくなる。この技は某でも威力の低いスキルでは貫けぬ、亀のような姿をした甲竜の甲羅にも穴を空けられる。まあ穴さえ開けば、中身は軟い肉じゃったがの」
感じ的には掘削機みたいな気がするけど、防具破壊って事だよね。使う次第じゃ鎧とか盾、下手すれば鉄の壁とかでも壊せるんじゃないか。そうか比較的実用的って『剣狂老人』が言ってたのはそう言う事か。
「また、堅い甲羅であっても、全ての方向からの力に強い訳ではなく、力を掛けられると弱い向きや一点という物が有る。達人と呼ばれるような者の中には、最初の一撃を入れる前にそれを的確に見抜き『己が最硬の一点を以って、彼が最軟の一点を断つ』等というマネが出来るが。今の嬢ちゃんでそれは難しかろう。だがこうして様々な方向から撃ち込めば、手応えでどう突けばよいか分かるように成ろう」
なんか職人みたいな事言いだしてるよ。
「まあ、コヤツみたいな脆い相手なら、そのような事をせずとも、ただ突き続けるだけで表面の鱗だけでなく中身まで壊れてしまうがのう」
確かに、もうボスが瀕死なんだけど、まあ防御抜かれて内臓思いっきり突かれまくればそりゃあね。
「しもうた、これでは嬢ちゃんの練習台にするには活きが悪すぎる。はてさて、こうなってしまっては、的としても少し、いやかなり味気ないがまあ仕方なかろうて。もう一つの技を見せるための巻藁代わりと思うて使い潰すしかないか」
そう言って『剣狂老人』が大上段にかまえるけど、え、っておい……
「さて、先ほどの説明とは矛盾するがのう、『飛斬』等の斬撃を飛ばし、剣を直接ぶつける訳ではないスキル等は、体格や重量などの影響はあまりないゆえ、某のような老骨でも上段からの一撃で十二分に威力を出せる」
いや、老骨って、爺さんやせ形だけどエルフにしてはしっかり筋肉も付いてがっしりしてるじゃねえか。
「もう一つ、スキルで発生する現象は魔法とは違うがそれに近しい物での、魔力操作能力が高ければ、呪文とは違う形に魔法を自由に操れるように、意識すればスキルも有る程度は操る事が出来る。とはえい大半の戦士は、魔法士以上に感覚や教わった通りのスキルを使う愚物ばかりで、多少出来る者でも、スキルの飛び方を調節し多少曲げるぐらいな物ばかリであるが」
この爺さんの基準だと、多分『多少できる』って言われるぐらいなら、相当の実力者だったりするんだろうな。
「そう言う意味では、力の方向を自由に出来るキテシュ家の弓技はなかなかの物ではあるがの」
キテシュって、ああ『四弦万矢』の名字だったっけ。
「まあ、そんな訳で斬撃や刺突を飛ばすと言っても、そのまま剣でなぞった形である必要は無い、まあ威力や速度等はその者の剣の腕やステータスに依るのは確かだが、それも技術でいくらでも調整できる。とは言え、最初の内は想像しやすくするために剣の刃でなく平で叩く形で放った方がいいかのう」
そう言って、手首を少し回して自分で言った通り、剣の腹の部分を叩きつけるように構え直してる。あれでスキルを使うとどうなるんだ。
「なに、大した事は無い、ただ長く広く平らな板で叩きつけると思えば、このように、なっ」
「ブフェ」
「うわあ、幾ら弱ってたって言っても、一撃で原形もとどめずにって、やっぱりあの御爺ちゃんとんでもないね。大型のボスモンスター相手に、ここまでのオーバーキルとかさ」
マコトさんが呆れたように言ってるけど、気持ちはすごい解るな。なにせ『巨穿山鋼』が自分よりも大きなハンマーを叩きつけられたみたいに、上から下にべちゃりと潰されて、マコトさんの言う通り原型を残さない真っ赤な液状の何かになってるもんな。
「まあ、このような物じゃ、これだけの威力が求められる状況は殆どないであろうし、もっと簡単で負担の少ない別のスキルで敵を倒す事は可能ではあるが、このスキルの修練をする事で、他のスキルも自在に操るためのきっかけを得る事が出来るやも知れぬ。まあ、説明を聞いたとしても、実際にその域に達する事が出来るのはお嬢ちゃんのようなごく一部の才に恵まれた者だけであろうが。過去に『職業石』を使ってスキルを伝えようとしたが、それで再現出来た者はほんの一握りしかおらなかったしな」
そう言って俺達の方を見回してるけど、これはアラ以外には挑戦するだけ無駄って事なのか。
まあ、無理にこのスキルに挑戦するよりは、ここに着くまでに教わった基礎とかを練習した方が為になるんだろうな。まあ、そもそも戦闘系スキルを全く使えない俺には関係ない話だけどさ。




