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566 怒ってるんだからね


「リャーー」


 俺の方に走って来たアラが、目の前で両手を広げたまま飛び込んで来るので、そのまま抱きとめる。


「リャーだ、リャーだ、リャーだ」


 俺にギュッと抱きついたアラが、俺の顔にほっぺたをこすりつけてくる。


「おかえりなさい、いっぱい待ってたんだからね」


「リョーですって、あらまあ、ホントに居ましたわね。まったく今更迎えに来るだなんて、本当に非常識ですわね」


「御帰りなさいませ、御主人様」


「リョ、リョー様、ぶ、無事でよかったです」


「旦那様の無事な御戻り、お喜び申し上げます」


 気が付けば他の子達も、奥からやって来てる。


「ところでアラ、そうではないでしょう。事前に決めていたでしょう」


「あ、そうだった。リャーここに座って」


 跳びはねるように俺から離れたアラが、足元の床を指さす。


「ん、分かった、こうか」


 言われるままに、地面に胡坐をかく。


「そうじゃなくって、そうじゃないの」


 ん、なんだろ、ちがうのかな。


「正座しなさいと、アラは言っているのですわ、リョー」


 ハルが、捕捉してくれたけど、正座ってどうしたんだ、まあいいか。


「リャー、アラは怒ってるんだからね、プンプンなんだからね、めーなんだからね」


 ほっぺたを膨らませて両手を腰に当て、大股で仁王立ちしているアラもかわいいな。おっと、そうじゃなかった、なんでいきなり怒られって、普通に考えれば当たり前か、あんな事しちゃったんだし。


 背後と正面、二度も至近距離からスキルを食らって、穴だらけ血塗れになってる状況で俺を置いて逃げろとか、奴隷の子達に命令してアラを無理やり連れてかせたんだもんな。そりゃ心配もするだろうし、怒りもするか。


「リャー、約束したよね、何が有ってもアラと一緒にいてくれるって、なのに何であんな事しちゃうの、アラはいっぱい、いっぱい心配したんだからね。リャーの言う通りに、指切りしたのに何で守ってくれないの、危ない事しちゃめーなんだから」


 アラが小指を立てて、言ってくる。そうだよな『地虫窟』で『青毒百足』の一件が有った時に、指きりを教えて約束したっけ。


「そうだな約束したよな。だから『何かの理由で離れても必ずアラの所に帰ってくる』って約束した通り、こうして帰って来たんだ。『アラが嫌って言わない限りはずっと一緒』って約束しただろ」


「ホント、ホントに約束通りアラと一緒に居てくれるのリャー」


「もちろんだ」


 再度抱きついて来たアラを座ったままで抱き留め、しっかりと抱きしめる。この子にはホントに心配を掛けちゃったもんな。


ただ、まあ、また似たような事が有ったら、多分同じふうに心配かけるんだろうな。


かと言ってこの子達を巻き込むわけにはいかないからな。『長命の魔法輪』が有る俺と違って、みんなは怪我をしたら命にかかわる事だってあり得るんだから。


「お子様のアラは、丸め込めたといたしましても、わたくし達はそんなチョロくは有りませんわよ、リョー」


 両手を組んでさっきのアラと同じ様な感じでこっちを見下してくるハルの羽根が小刻みにヒクついてるけど、もしかして結構怒ってたりする。


「ほんっとに、非常識極まりない主ですわね貴方は。以前に、わたくし達を買った当初にわたくしが貴方に言った事を全く覚えてませんのね。奴隷を庇って自分の命を危険にさらす主が何処にいまして、貴方が自分の能力に幾ら自信がありましても、その身になにかあれば、奴隷であるわたくし達の『隷属の首輪』が懲罰を発すると、何度も、何度も、何度も言ってますわよね。だというのに貴方は、毎回毎回、馬鹿の一つ覚えみたいに自己犠牲じみた真似を……」


「いや、だから今回は、俺に何かあった場合はアラにみんなの所有権が相続されるように手続きして置いたし、あれ自体は俺がしっかりと命令した事なんだから『懲罰』は発動しない筈……」


「そう言う問題ではありませんわ、わたくし達がどれほどしんぱ、いいえ、『懲罰』の発動の問題ではありませんのよ、たとえ命令の結果であったとしても、主を見捨てて逃げたなどと風聞が立ってしまいましたら、冒険者としてのわたくし達の評価に影響いたしますのよ。アラから転売されたとしても、解放奴隷になったとしましても、そのような評判が付いてしまいましたら、どうなると思いますの」


 ハルの背中の羽根が、いつも以上にバサバサと動いてるけど、これはよっぽど怒ってるって事なのかな。普段だったらここみたいな人目の有る所で、こんなふうにしゃべったりはしないだろうし。


「ええ、貴方自身の事なんて私はどうでもいいのですわ、わたくしはわたくしの為に、ええ自分の為に貴方の非常識を非難しているのですわ。奴隷の主でしたら、もう少しうまく私達を使って、わたくし達の資産価値を高めようとは思いませんの」


「ふふ、面白いねリョー君の所の子は、これで男の子だったらアキエちゃんが大喜びしそうなツンデレキャラだねえ」


 マコトさんが面白そうに笑ってこっちを見てるけど、見せ物じゃないんだよな。


「全くもう、ほら貴方達も言って御上げなさい、この非常識な御主人様は言ってやらないと解らないのですわ」


「リョー、リョー様、心配してましたけど、ご、無事だって信じてました、お、おかえりなさいませ。こ、今度は、リョー様を護れるように、も、もっと頑張ります……だか…捨て…いで…くださ…」


 あーミーシアはホント良い子だな、声が小さくて後半よく聞こえなかったけど、何を言いかけてたのかな。


「ただいまミーシア」


「なるほど、ツンデレだけじゃなく大人しい従順系な子も行けると、しかしクマ獣人とはなかなか珍しいところつくね、大体は犬猫狐あたりなんだけど」


 マコトさん、聞こえてますよ、いやわざと聞かせてたりするのかな、何考えてるか分からないなこの人。


「旦那様、トーウのこの身は頭の毛から爪先まで全身すべて、それこそ膜やその先の○宮の中に至るまで悉くが旦那様の為だけに存在する所有物でございます」


 な、なにを言い出してるんだトーウはいきなり。


「これまたすごく重たい子が居たものだねえ、トーウというとそうかこの子がラッテル子爵家の」


「ですから、どうか今後は御身が危ない時はこのトーウを盾として使い潰し、旦那様の御安全を優先しては頂けないでしょうか。旦那様の御無事に変えられる物など有りませぬ、旦那様が健やかに過ごされるので有られれば、わたくし如きがどうなろうと構うものではございません」


 し、心配かけたのは解るけど、真顔でこんな事言われちゃったら流石に肯定なんて出来ないよね。


「トーウ、気持ちは解ったが、俺にとってお前達はみんな大事な宝、ハルの言った通り俺の資産だ、だからこその身体を、俺の為の身体を大事にしてくれよ」


「宝、わたくしが、旦那様の宝、はい、旦那様のこの身体を大事に致します」


「うわあ、なんかタラシみたいな事言ってるよ、よく真顔で言えるなそんな台詞、しかもよくよく聞くとゲスイ内容だし」


 マコトさん、解ってるけど、この子が相手の場合は仕方ないんです。


「御主人様」


 なんだろう、サミューの笑顔が、いつも通りの優しげな笑顔が、なんか怖いんだけど。


「私は、御主人様の指示に従いますし、どのような扱いをされても御主人様の下に来る前に有ったアレコレと比べれば、はるかにマシですので、不満を想う事など有りません」


「放置されても平気とか、それはそれで凄いな、一体過去に何があったんだろこのメイドさん」


「それであっても、何を狙われての事なのか、何が起こると予想されて、どう動かれるおつもりなのかを、片鱗だけでも教えて頂けませんと、とっさに対応するのが難しいですし」


 まあ、それはそうか。


「泣き叫んで残ろうとするアラちゃんを抱えて逃げるのはもちろん、命令違反の懲罰で首を絞められながら、それでも戻ろうとするトーウさんやミーシアちゃんを説得するのは大変でしたね。何しろ原因が分からないので、どう言えばいいのか分からなかったですから」


 う、もしかしてサミューも怒ってたりするのか、遠回しに皆を心配させたことを責められるのが、結構キツイ……


「まあ、御主人様のなさる事なら何か理由があるとは思いましたが、それでも、何か一言事前にいっておいてくだされば、出来ることも心配の仕方も変わったので、よろしくお願いしますね、御主人様」


「さてと、リョー君が怒られてる間に食事の用意をしちゃおうか、ここに籠ってた人達は食糧を節約してたりしただろうし、肉以外の食品に飢えてるだろうからね。ちょっとだけ豪勢に作ってあげるよ」


「ええい、そんな事よりも嬢ちゃん早いところ、このじいじと試合うではないか、先ほどの回避は魔法を併用した物とは言え見事、やはり某の目に狂いはなかった。さあ、さあ、早う、早う」


「えー、おじいちゃんと、ここは危ないのに疲れちゃう事するのはめーなんだよ」


「そう言うでない、この『迷宮』での危険ならばこのじいじがすべて排除して見せよう。その証拠にここに来るまでの間、そこにいる嬢ちゃんの保護者などを護って、『彷徨種』等も全て斬って来たのじゃからの」


「リャーを護ってくれたの、うーん、それじゃあご飯までのちょっとだけ、相手してあげても良いよ」


「おお、よい子じゃ良い子じゃ、さあさあならばさっそく遊ぼうぞ」


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― 新着の感想 ―
[一言] 完璧に孫に構って欲しいいおじいちゃん
[良い点] おじいちゃん嬉しそう
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