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530 剣魔と童女

「聞いていた話だと、ダークエルフの女の子を連れ回しているのは、男の冒険者という話だったから、最悪の事態にならないように優先度が高かったのだけど。同性のみのパーティーなら、そう言った意味の心配はなさそう。この場合なら、貞操の危機よりも実力以上の戦闘に駆り出されて使い潰される危険性を中心に考えた方が、いえ……」


 騎士の方の胸から抜いた細剣を振るい、背後から首を斬り落しながら、『剣魔』と名乗られた女性の方が、私達を観察するように向けていた目を少し細めます。


 確か、以前に聞いたお話では、『剣魔』は魔族を護りその敵となる者を抹殺するという事でしたね。そう言えばプテックを産んだ時や、その前の盗賊『獅子虎』に捕らわれていた時、私達を助けてくれたダークエルフさんも『黒の剣魔』と名乗っていましたね。


 そう考えると、この『剣魔』さんは、アラちゃんの噂を聞いて、御主人様が幼い子に淫らな真似をしているのではないかと心配していたのですね。


 その点では『禁欲』がある今の御主人様ほど安全な男性はいないと思いますが、傍目ではトーウさんやミーシアちゃん、ハルさん達若い少女を連れている御主人様はかなり好き者に見えるかもしれませんね。


 まあ、この場には居ませんから心配しなくても良いでしょう。


「この子以外は全員が奴隷、という事は主はこの場に居ないという事。女子供だけをこのような戦場に向かわせ自分は後方に控えて居るなどと、人でなしの主は何処にいる。『不浄斬り』や『虫下し』等という、おぞましい呼ばれ方をしているような男だ、何処に隠れている」


 確かに言われてみると、この状況は奴隷のわたし達や被保護者のアラちゃんを働かせて、御主人様はその上がりをハネているだけのヒモ男のように見えますね。


「教えてくれるか、この子を利用しているクズは何処にいる。早く答えた方が身のためだと思う、『剣魔』は魔族の弱者を護るという役割から勘違いされる事も有るが、私達は正義の味方でも、騎士道精神を持つ正々堂々とした騎士でもない。魔族の利益や権益を守るためだけの集団で、その為ならば何でもする。見せしめとしての虐殺や惨殺、拷問、魔法や薬物での洗脳。自ら進んで話して『隷属の首輪』の懲罰で絞殺された方が、よっぽどましだと早めに気付いた方が、結果として楽に終われる」


 これは不味いですね、今の物言いですと、この方が気にするのはアラちゃんの事だけで、わたしやハルさん達はどうなっても構わないという事ですから、御主人様の事を聞き出す為に一体何をされる事か。


 わたしだけなら、大抵の拷問も薬物も耐えられるでしょうし、トーウさんも薬物には強いですが、ハルさんやミーシアちゃんは……


「まあ、とりあえずは」


 こちらをじっと見つめて来るその瞳から目をそらさず、私も相手を見つめ返しますが、よく見てみると、変わった形の瞳をしていますね。まるで、吸い込まれる様な不思議な、いいえ何を考えているのでしょうか。敵対者を前にして、見惚れそうになるだなんて。


「へえ、『威圧』で恐怖を感じさせて、判断力を弱め、精神異常に抵抗しずらくしたはずなのに、私が正面から一人に向けて掛けた『魅了』に抵抗するなんて。見た目以上に精神抵抗力が強いのか」


 先ほどのは『魅了』を掛けられていたのですか、精神耐性は、自分ではわかりませんが今までの体験を考えてみれば高くてもおかしくはないでしょうね。それに『恐怖鈍化』が有るので『威圧』等は効きにくいでしょうし、私自身『誘惑』のスキルが有るので、同系統のスキルには掛かりにくいのかもしれませんね。


 どうやら、最年長の私を魅了して、御主人様の事を話させるつもりだったようですね、それが利かなかったとなると。


「そうなれば、直接躰に聞くしかないか、他はまだ子供だから、どこまで知ってるか微妙だし」


 そうなりますよね。さて、どうしましょうか、この相手がその気になれば、私達を全滅させるなんて言うのも容易いでしょうから、逃げる事は難しいでしょうね。


「とりあえず、全員の手足を潰してからかな、その後は誰か一人を見せしめにして痛めれば、話すかな、ん、ツッ」


 剣を構え直して、私との距離を詰めようとした剣魔にアラちゃんが立ち、そのまま斬りかかります。


「なかなかの斬撃だけど、どう言うつもり。魔族の貴方が、『剣魔』のわたしを攻撃するなんて」


 アラちゃんの攻撃を剣で防いだ『剣魔』が不思議そうに首をかしげますが、アラちゃんは畳みかける様に斬りかかります。


「サミュ達はアラのだいじな仲間だもん、それにサミュ達が怪我しちゃったら、リャーが悲しむからめーなんだから」


 アラちゃんの連続攻撃を捌きながら『剣魔』が考え込んでいますけれど、そんな状態でも的確にアラちゃんの攻撃を捌いているのは凄いですね。


 こうして見る分でも、技量は先ほどの騎士の方を大きく超えているのがわたしでも解ります。


 これでは、わたし達がヘタに手を出せば、アラちゃんの邪魔にしかならないので、こうして様子を見ている事しか出来なさそうです。


「ふうん、命じられた訳でもないのに、自主的にこういう判断と行動をするか。あのくらいの挑発で、こうもすぐ反応するとは、よく躾けられているのか、それとも本当に懐いているのか」


 今の言葉ですと、どうやら先ほどのわたし達に危害を加えるという宣言は、それを聞いたアラちゃんがどんな言動をするかで、アラちゃんとわたし達、引いては御主人様との関係がどのようなものかを確かめようとしたのですか。


「それなりの腕ではあるが、その程度で、護りきれるか」


 まるで挑発するように、アラちゃんに話しながら、『剣魔』がわたしやハルさん達に向けて斬撃を飛ばそうとすると、すかさずアラちゃんが回り込んでそれを塞ぎます。


「身を挺して庇う、少なくともここに居る奴隷に対しては、かなり感情移入しているという事。ふうん、服装はしっかりしていて汚れや傷みもきちんと補修されてる、表情も多彩でしっかりとしている、あとは……」


 それまで、わたし達を狙う他は防戦が主だった『剣魔』が急に攻勢に出て、剣先が次々にアラちゃんを掠めて、防具としても使えるはずの服があっという間にボロボロになって、褐色の肌が露わになりますが、アラちゃんの肌には傷が全く付いていません、服だけを狙って切ったという事ですか。


「服で隠された部分にも新旧の傷やアザは無い、回復させて隠されている可能性も有るが、暴行を受けている証拠はなく、肌ツヤや肉付きを見れば栄養状態も悪くはない」

 

 どうやら、アラちゃんが虐待されていないか確かめるために服を切ったようですね。


「後は『傾城濫淫けいせいらんいん』」


 何かを呟いてから、後方に下がりアラちゃんと距離を取った『剣魔』が、わたし達に向けて片目を瞬きのようにつぶって見せますが、なんでしょう、急に身体が熱くなって、息が弾んで、下腹部の一部が……


 これではまるで……


 いけませんね、これはおそらく誘惑系のスキルの効果です、この感覚に捉われないようにしませんと。


「かなり本気で掛けた高位の誘惑スキルでも耐えるか。とは言え経験者のみに利くスキルに反応したのは、最年長らしき一人だけ。その他は未経験という事は、実際に子供に対して手を出すような小児性愛ではないという事か。とは言え勇者の影響を受けた人族には『愛でても、穢さずイエスロリータ・ノータッチ』なんて言うのもいるから、内心は解らないけど」


 この物言いですと、今のスキルは性経験のある相手にしか利かない物だったようですね。少しホッとしました、アラちゃんやミーシアちゃんにこの感覚はまだ早いですから。


「今のところ懸念事項は無いけれど。しかし、さきほどからの、この剣技、よくよく見てみれば……」


 どうしたんでしょう、また『剣魔』が攻勢に出始めましたが、先ほどの時に比べると勢いが無く、まるでアラちゃんの対応を試しているような。


「今の受け方は魔族国(レイシアン)正規軍や騎士団で教えているやり方、だが先ほどの突きは、ダークエルフ諸部族の伝統剣術のモノ、悪魔族(デーモン)や氷姫族、魔人族(イフリート)の剣術の特徴も混ざり合い、それでいて破綻せず自然に混ざり合ってる」


 何でしょうか、一手一手アラちゃんの反応を試しているように見えますが。


「習得の難しいそれぞれの剣術流派を複数、それも『剣魔』の私と曲がりなりにも切り結べるほどに習熟するなんて、よほど恵まれた修行環境でないと、いや、他流には教えないはずの技まで習熟している。一体何処で、どうやって、こんな多彩な剣技の教えを受けられた者なんて、魔族諸国を見回しても。待って、ダークエルフの娘、ダークエルフにしてはやや色の薄い、混血と思わしき肌色、それによく見ればこの顔立ち、それにさっきの言葉の口調や名前、そうか、そう言う事、そいう事だったんだ」


 急に『剣魔』がアラちゃんの剣に自分の剣を合わせて力任せに彼女の体を弾き飛ばし、同時に自分も後方に下がって大きく距離を取りますが、先ほどのようにスキルを使ってくる訳でもなく、剣を鞘に戻します。


 なにか、勝手に自分で納得したようですが、一体何が有ったんでしょうか。


「ああ、もう攻撃する気も尋問する気もないから、警戒しなくても大丈夫。そこの小さいのが無理やりに連れ回されている訳でも、騙されて良いように使われてる訳でもないって解った。そもそも大人しく使われるはずがないって解ったから、いや逆にソレがここまで従う、この奴隷達の主の方が気になるかも……」

 

 急に物分かりが良くなりましたね、先ほどまでの流れでアラちゃんの状況を確認して虐待されていないか調べていたようですから、やっと納得したという事なんでしょうか。


 とは言え、これで無事に依頼を終える事が出来そうです……


「ああ、そうだ、見る分だとその小さいのの体調にも気を使っているみたいだから、一つ注意点を教えておくけど、その小さいのが何かの理由で外に出る機会が少なくなったら、積極的に外に追い出してこの辺りに居る人族の子よりも多めに日光浴をさせた方がいい。ダークエルフ等の肌色が濃い種族は、この辺りの人族のように肌が白い連中と比べたら、日焼けを始めとした日光による害を受けにくいけど、その分だけ、日差しを浴びない事による体調不良を起こしやすい」


 日光浴をしない事での体調不良。確か子供は数日おきに短時間でも日に当てておかなければ、骨に異常が出やすいと姫様方の乳母をしていた時に教わりましたね。ただ日に当たり過ぎると肌が痛み日差しの強い地域で長期間にわたると皮膚病の原因にもなるので、当てすぎないように注意する必要も有りましたが。


「もしも冬で外出が出来なかったり、日差しの弱い地域に行くのなら、脂身の多い海の魚を、無理なら卵の黄身や油で調理したキノコ類を多めに食べさせれば、ある程度は防げる」


 これは信じても、いいえ『剣魔』が魔族の不利益となるような嘘を吐くとは思えませませんから、事実なのでしょう。


「気を付けた方がいい、その小さいのに何かあれば、魔族はただでは済まさないだろうから」


念のための捕捉ですが本文中で剣魔が、言っているのはビタミンDの事です。

地球でも、赤道など紫外線の多い地域では肌の色素が薄い人は皮膚がんの発症率が上がり、逆に緯度の高い紫外線の少ない地域では、肌の色素が濃いとビタミンDの欠乏の恐れがあるらしいです。

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― 新着の感想 ―
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[一言] リョー君の一番の弱点はステータスが貧弱とかどこぞの冥王よろしく武具はめてるところでも無く、悪評かと。特にこういうヤバい相手に目をつけられてしまった際とか。もし現場にいたら助けに来た守護天使が…
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