526 救出
「あー、すっきりした、さて寝ると、うぐ」
捕らわれた女性たちの居る建物から出てきたばかりの盗賊を背後から襲い、周囲に気付かれぬように口を塞ぐと同時に『成長補正』で強化されている腕力に任せて強引に首を捩り頸骨を砕きます。
動かなくなった死体を静かに物陰に運んで隠します。
「これで六人目ですね」
管理しやすくする為か捕えられた生存者が一か所に纏められているのは、救出する側としてはありがたい事でしたね。
今、この建物の中の状況を物音などで数えると、中にいる盗賊は20人弱程度でしょう。わたくしであれば十分に倒せる数ですが……
「多少でも手間取れば、何人か取り逃がしてしまうかもしれませんし、万が一にも大きな物音を立てられたりすれば、わたくしの潜入が察知され、彼女達の救出が出来なくなるかもしれませんから。確実性を目指すのであればもう少しだけ数を減らすか、中にいる盗賊達が酒や疲労で油断するまで待つべきでしょうか」
「さて、見回りの仕事も終わったことだし、ゆっくりと楽し、んん……」
建物に入ろうとして来た盗賊を先ほどと同じ様に背後から音を立てないように仕留め死体を隠します。こうして建物に入って行く者を無くせば、後は中での用を済ませた者が出ていくだけですから、徐々に中の人数は減って行くでしょうから。
「こうしている間も、この中では捕らわれた方々が悲惨な目に合っていると思うと、心苦しくは有りますが」
ですが、もしもわたくしがここで感情に任せて逸ってしまい、万が一にも仕損じるような事となれば、彼女達を助ける事は出来なくなりますし、盗賊の殲滅という目的も達成できなくなるかもしれません。
「ですからもう少しの間だけ、機が満ちるまで……」
あと数人減らせれば、あるいは盗賊達が酔いつぶれたり、行為が終わり疲れ油断したところを狙えば、静かに、他には気付かれる事なく、確実に、一人も逃がす事無く、皆殺しに出来るはずですから。
そのためにも、その時になるまでは私の潜入を気づかれる訳にはいきませんから、慎重になりませんと。行為を済ませて出ていく相手は隙だらけで仕留めやすいのですが、言動などからこの後の予定が無く、戻らなかったとしても怪しまれない相手だけにしなければなりませんし、倒すにしても……
「とりあえず、物音や声を出させないのはもちろんですが、血の跡や匂いなども残さないように仕留めるのは手が掛かりますし、周りに見えないように死体を隠せそうな場所も、残り僅かになってきてしまいましたね」
死体を溶かしきれるほどの量と濃度のある強酸でも作れるように成っていればよかったのですが、わたくしの毒ではせいぜい体の表面を焼き溶かす程度ですから。
「いっその事食べ尽くしてしまえば、骨だけになってしまえば片付けやすいですし……」
いえ、『獣態』のミーシア様で無ければ、成人男性の肉を食べきるなどというのは無理でしょうし、何よりサミュー様やハル様に注意されそうですね。
「ですが、そろそろいいでしょうか」
これから見張りに行くと愚痴を言いながら、建物から出ていく3人の男達をやり過ごして、壁に耳を当て中の音を聞きながら、片手だけに『殺鬼爪』を填め装備の効果である『周囲知覚』を使い屋内の気配を探ります。
「入ってすぐの部屋に3人、いえ話し声や動いてる音とは別に、寝息や鼾も聞こえますから、起きているのが3人、酔いつぶれて寝ているのが4人でしょうか」
これなら気付いて起きないように3人を仕留めれば、後は寝首を狩るだけで済みますね。
「後は、奥に有る個室にそれぞれ男女が7組、さらに奥の部屋に女性が5人、おそらくここが監禁用の部屋なのでしょうね」
では、始めましょうか。
開けられている窓から、気付かれないように中を覗いて起きている盗賊の位置を確認しながら『薬殺投針を三本抜き、指先で生成した毒を塗ります。声を出されずに短時間で無力化するのなら殺傷性より『麻痺』や『睡眠』を優先した物にいたしましょうか。
この距離で三人でしたら、一投げで同時に当てられるでしょうから。
「うっ」
首筋に『薬殺投針』の刺さった男達が、座ったまま背もたれや食卓に上体を預けるように崩れ落ちます。
「念のため、残りの四人にも針を投げておきますか、仕留める前に目が覚めては事ですから」
寝ている相手なら当てるのも難しくないですし、同時に投げる必要もないですので、それほど手間もかかりませんし。
「さてと」
静かに部屋の中に入り、刺さったままの針を抜きながら、人差し指を立て『殺鬼爪』の刃を後頚部に突き立てて止めを刺します。
「フレミラウ法師の御教導も有り、確実に即死させられる急所の知識が増えていたのは幸いでしたね」
でなければ止めを刺すのにもっと手間取ったかもしれませんし、部屋の中や死体を血で汚していたかもしれませんから。
わたくしが、奥に部屋にいる男達を倒しに行っている間に別な盗賊がこの建物に入ってくるかもしれませんが。傷や出血のほとんどない死体を首筋が見えないような姿勢で寝かせておけば、酔いつぶれて寝ているだけだと思わせ判明を遅らせられますから。
「次は……」
「い、いや、いや、いや……」
「嫌じゃねえだろ、良いだろ、ここか、ここがいいんだろ、ああん、あぐっ……」
奥の個室の一つの戸を静かに開け、部屋の中でわたくしと同じくらいの年の女性にのしかかっている、男の喉を背後から回した手で掴み、一気に気管を握り潰します。
「かひゅ、か、かふゅう」
微かに空気の洩れる音を口から洩らしながら、徐々に死んでいく盗賊の身体をどけて、悲鳴を漏らしかけた女性の口に掌を当てて、声を塞ぎます。
「救出に来ました、これから他の方達も助けに行きますが、盗賊達に気が付かれないように静かにして、ここで待っているかわたくしの少し後に付いて来て下さい。もしも痛みや疲労で動けないのでしたら、こちらの薬を飲んでおいてください」
盗賊が酒を入れていた器の中身を捨てて、スキルで回復薬を指先から少量出して底の方に貯めておきます。
わたくしの熟練度ではそれほど効果は高くありませんし、他の方の分も有るので量も出せませんが、いざという時に避難するくらいにまでは回復できるでしょうから。
順番に、女性に無体を働いている盗賊達を仕留めて行きますが、これでとりあえず一安心ですね。
この建物は女性たちを逃がさないようにするためか、かなり丈夫なレンガ造ですし、出入口も一つしかなく窓も小さいので、中の盗賊を排除し終えましたら、わたくしが最初の広間を確保して置き入ってくる盗賊を排除していれば、ここにいる女性たちが人質にされる恐れはなくなり、アラ様達の襲撃に関しての懸念事項が無くなりますから。
「助けられたって隊商が全滅して、財産も家族も仲間もいないのに、これからどうしたらいいの。こんなのもう娼婦にでもなるしか……」
最後に盗賊から助けた女性が、諦めたような表情で一人呟いていますが、まだ話せるだけマシなのでしょうか、中にはただ泣いているだけの方や、いまだに何処かをぼうっと眺めている方もいますから。
「貴女方の救出を兼ねた盗賊の討伐は、ライフェル神殿の要請を受けたとある貴族家の依頼によるものです。あなた方の保護もそちらの方でしてくださる手筈となっているので、一定程度の生活の保障はされる事でしょう」
盗賊の被害を受ける民となった女性を保護したというのであれば、中立には関係しませんし。何よりわたくし達のパーティーが保護した彼女達は、形式上では一時的に『虫下し』の庇護下に入ってから、神殿やライワ家に預けられたという形になりますから、彼女達を害して旦那様の顔を潰す事になるような行動を神殿やライワ家がするとは思えませんし。
「もう死なせてください、殺してください、わたしは、わたしの中には盗賊の……」
そう言った女性が触っている下腹部はわずかに膨らんでいます。あれは、彼女は盗賊の児を……
「もしも、どうしようもないのでしたら、これをお使いください、半月程度寝込む事になる毒ですが命には別条有りません、ですが胎児が耐えられる物ではないでしょう」
盗賊の持っていた小さな酒瓶に毒を入れて彼女に渡します。
「ただ、それを使うのは最低限安全な場所に行ってからにしてください、それに命にはかかわらないとはいえ、体への負担が大きい毒ですから使うかどうかは十分に考えてからにしてください」
彼女の状況を考えれば、軽々しくお腹の子を大切になんて言える物ではないですし、おそらくライフェル神殿などであれば、出産後に母子を別々に保護する事も出来るでしょうし。
「もうすぐ、この集落にわたくしの仲間たちが襲撃を掛けて盗賊達を排除します。貴方達は盗賊達が全滅するまで、この中で隠れていてもらいますが、万が一の場合は、戦闘のどさくさに紛れて集落を脱出して南に真っ直ぐ逃げれば街道に避難用の馬車が手配されていますので、そこに助けを求めてください」
救出した人を運ぶことになるでしょうから、事前に馬車の手配をハル様が伯爵閣下の手勢の方にお願いしていましたが、正解でしたね。
『術送の指輪』に『着火』の魔法をかけて、皆様方へ合図を送ります。
これでしばらくは待つだけになりますね。




