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477 一息?


「いやはや、まさか石橋を叩き壊して渡らせねえたあ、流石旦那ですぜ。あの橋は数十台の馬車が荷物満載で同時に通ってもびくともしねえって作りだってのに、それを叩き落とすたあ、また旦那の武勇伝が増えやしたねえ」


 呑気そうにテトビが言ってくるけど、武勇伝って、ただ単に許容重量を越える負荷を掛けただけ、俺の力は何も使ってないんだけどな。効果を持続させるために、ずっと触ってなきゃダメだったから取っ手は握ってたけど、実質は橋の上に置いてただけだし。


「何せ、証人は幾らでもいやすからねえ」


 証人ってあそこにいたのは俺達の他は、一緒に居た王女一行と後は敵だけだろうに。


「ここまできちまえばあの騎士連中はこれ以上追撃できねえでしょうからね。迂回して別な橋を渡るにしろ、馬に川を泳がせて渡るにしろ、時間がかかりやすから、その分あっし等は余裕で伯爵様の勢力圏に逃げれやす。となると、あの騎士達は自分所の君主に失敗の報告をしなきゃなりやせんが、旦那でしたらそんな時どうしやす」


 そりゃ、失敗したっていうのならそれを分析して、その原因を見つけて、同じ失敗をしないよう次に活かせるようにね、それが改善とかPDCAサイクルってもんだよね。事故が起こるとシャレにならない工事現場や工場なんかじゃ当然の事だから。


 いや、まてよ、責任を回避しようとする場合だったりすると。


「失敗は仕方なかった、状況が悪すぎたせいで自分に非が有る訳ではないという風に話を持って行くって事か」


 そんな風な言い訳をする事も有り得るよな。


「そう言う訳でさあ、そう言った失敗の理由として手っ取りばええのは、敵が手に追えねえくらいに強すぎたってのが分かりやすいんでさあ、例えば、普通に考えりゃどうやっても壊せねえような石橋を軽々と叩き壊しちまうような化け物が相手だったとか」


 え、それって、要は俺達が逃げ切った理由付けの為に、有る事ない事とまではいわないけど、かなり誇張されて報告されるって事か。ま、まあ、ハッタリが利きやすくなるって思えばいいか、な……


「さて、そろそろ到着するみてえですね、御迎えも着てるみてえですから、これでまあとりあえずは一安心って事ですかい」


 お、確かに、前の方に見覚えのある伯爵家の紋章を掲げた集団がいるし、よく見たら蛇獣人のクリグ・ムラムや孔雀人サラン・パヴォもいるし。


「おお、リョー殿、無事御役目を終えられ大義でありましたな、これより先は小官等が周囲を固めるゆえ、ご安心召されよ。ラッテル領では伯爵閣下もお待ちになられておりましてな。王女殿下ご一行や貴殿を歓迎する宴の用意も整っておりますぞ、特にトーウ嬢や侍女殿は楽しみにしてくだされ、仕込んでいた新しい酒が仕上がる頃でしてな」


 キングコブラの獣人で毒蛇とか毒蜥蜴とかが好物のクリグ・ムラムがこう言うって事は、またロクでもない酒なんだろうな。


「ラッテル領に有る『水獣毒沼』は素晴らしい『迷宮』ですな。蝗害の始まる前まではラッテル家が毒見役として派遣された家々での伝手や、王家からの支援など様々な形で集めた毒蛇、毒百足、毒蠍、毒蜥蜴、毒蛙、毒魚、毒蜘蛛、毒蛾、他にも蜂や蟻等の毒虫や毒獣、更には毒草や毒花、鉱物毒や調合された毒薬など、各地から集められたありとあらゆる毒が『迷宮核』に登録されておりましてな。当家の口伝として伝わっていながら、素材が手に入らずに作れずにいた毒酒をいくつも仕込めましたぞ」


 そっか、ラッテル家は毒耐性や毒に関する知識が、今までの飯のタネだったんだから、そう言う工夫を『迷宮』でしててもおかしくはないのか。しかし、生き生きしているなクリグ・ムラム……


「更には、ラッテル家より奥方様付きではなく正式に移籍し家臣とならないかとの打診を頂きましてな、ライワ伯爵閣下から小官がラッテル家に郎党の一部を連れて移るのであらば、ライワのムラム家は小官の弟妹に継がせこれまで通り存続させても構わないという、ありがたい御言葉も頂きましてな」


 それって、ありがたいのかな、まあヘッドハンティングみたいなものなのか。でも、ライワ伯爵家からラッテル子爵家だと、新興で一気に伸びた大企業から、潰れかけてぎり持ち直した老舗の中堅企業へ出向してたのがそのまま転職したみたいな感じだろ、なんとなく微妙そうに感じるけど。


(確かに悪くない話じゃのう)


(そうなのか)


(ただ単に、一族郎党を引き連れての移籍であらば、通常は元居た家での籍は無くなるが、今回はムラム家を二つに分けそれぞれが貴族家の家臣の家となる訳じゃからのう。騎士家とは、例えどれほどの郎党を抱えようとどのような役職を与えられようと、君主からすればあくまでも一つの家、一人の家臣という関係で有り、地位も身分も本来はその家臣一人の物でしかない、家臣の子や郎党に領府の仕事をさせる事も有るが、それはあくまでも家臣の補佐をさせて居るという形でしかないからのう。じゃが、新たに一家を起こせるのであらば、一つの一族で二つの家、二つの地位を有する事となるし、どちらかの家が万が一倒れようとも、もう片方の家が一族を支える事が出来よう)


 つまりはポストの数の問題って事なのかな。


(それに、経済的にも楽になろうて、通常家臣の郎党や分家等は、当主である家臣の知行で養う物じゃが、養い切れぬ者は家を出て冒険者や傭兵などになる事が多いのじゃが、新たに一家を興せるならばその者は独自の知行を持ち養う必要はない、それどころか、郎党の一部を連れて行けば戦力は減る事となるが、一族を養える範囲にも余裕が出来ようて)


「実は、当家にも同様の話を頂いているのですが。とは言え、当家はライワ家に仕官する以前に関わった幾つかの騒乱で本家に近い血筋の者は、小官を除くと殆ど残っておらず本来は家を分けるのは難しいのですが、伯爵閣下からはライワのパヴォ家は隠居した父に預け、小官に複数の子が生まれた後に、それらの子達にそれぞれの家を継がせてもよいと言われまして」


 うーん、さっきまでの内容を考えると、子供二人に後を継がせられるっていうのは、いい話なのかな。


「そう言った事情も有り、小官は未婚どころか許嫁もその候補も居ない状況ですので、出来るだけ早く身を固め、国許の父や郎党たちを安心させたいのですけれど、なかなか良い相手が居らず」


 ああ、この世界だと身分とか家同士の関係みたいなしがらみが有るんだろうし、ステータスやスキルも絡んでくるからな。ん、あれ、確か……


「少なくとも当家と家格が近く、なおかつライワ家やラッテル家と近しい家の令嬢でなくばいけないでしょうし、当家がラッテル領に派遣された経緯や役目などを考えれば、それなりのステータスやスキル、特に『毒耐性』を始めとしたラッテル家で役立つスキルを持った御令嬢であれば」


 うん、この条件ってさ、どう考えてもね。


「条件が合うのであらば、多少種族が違っていても問題はないし、相手に事情があっても有る程度は妥協できるのですが、例えば相手の家の跡取りも必要だというのであれば、当家は次男と三男に継がせても構いませんし」


 やっぱりそうだよね、サラン・パヴォはクリグ・ムラムを意識して、聞かせるつもりで言ってるよねこれ。


「ふん、軟弱で無礼な貴様の家が途絶えた所で、貴様の分家筋の者達が家を継ぐであろうに何を大げさな」


 うーん、間違いなく伝わってないよな。というかたぶん、サラン・パヴォが話をしながら尾羽を広げてるから、またケンカを売られたと勘違いしてイラついてそうな感じだな。


 しかし、この二人は結構な数の郎党がいるんじゃなかったっけ、どの位を連れて来るのか分からないけど、それだけの人数を受け入れて、ラッテル領は大丈夫なのかな。大人数の郎党を養える知行をこいつ等に与えられるのか。






「ああ、それなら問題ない、しばらくの間はうちの家から支援している金と食糧を配当するからな。もともとこの辺りはそこそこの収量の有る耕作地だったらしいから、蝗の問題が解決した以上は来年以降の収穫は期待できるだろうしな」


 ラッテル領に付いた直後に出迎えてくれたカミヤさんとお茶をする事になったから、さっき気になったことを聞いてみたら、あっさりした答えが返ってきたな。


「いくら、俺の後見が有るって言っても、ラッテルのスキルは特殊だからな、いつ狙われるか分からんからアイツ等みたいな戦力は有って困らないだろう。うちとしては多少の戦力ダウンだが、ライワ家で真面目に働いて功績を上げてりゃ、こういう栄達も有るっていう言い宣伝になってくれるだろ。家の復興をしたい没落騎士や浪人、立身出世を狙う傭兵や武芸者なんぞがこれでライワ領(うち)に集まってくれれば御の字だ」


 ホント、この人って損得に敏感というかこだわるというか。


「ですが、ラッテルって今までの古参の騎士達もかなり居るんですよね。収穫が戻ったって言っても、収益が元に戻るだけで増えるって訳じゃないのに、人件費が増えるっていうのは」


 カミヤさんの支援が有るって言っても、ずっとって訳じゃないだろうし。


「ああ、それも問題ない、ラッテル領は広がる予定だからな、上手くすれば子爵家で無く伯爵家相当の規模になるかもしれん」


 は、そんな事あるの。


「この辺りの小規模領にもうちから蝗対策や食料の支援をしてるってのは聞いてるだろ、とは言えラッテルみたいに婚姻関係を持ったわけじゃないからな。貸しにしているが、いくつかの家は領地や権益でそれを払うって訳だ。まあ、弱小領地の持ってる権益なんざたかが知れてるから、領地での払いが大半だがな」


 え、領地で支払いって、そんなのやって良いの、というか領主にとっては領地って飯のタネなんじゃないか。


「ここらの領地は、蝗害による長期の飢饉で餓死者を多く出していた上に、奴隷や流民と言った形で人口の流出も有ったし、金が無かったせいで水路なんかの維持管理も出来て無かった。土地があってもそこで農業をする人間も施設も無いんじゃ無駄だからな。かと言って新たに人を集めたり施設を全て作り直す金もない」


 ああ、なるほどね、それなら確かに有り得る話か。


「なもんで、立ち直りかけの領地の幾らかは、残った領民を多少なりともマシな耕作地や領府周辺に集めて、復興を始めようって考えてるらしい、で余った土地をこっちに渡すって訳だ。うちの金なら農地開発の設備投資も余裕だし、ライワ伯爵家のネームバリューで、農民も集められるからな、いざとなれば奴隷を買い集めても良い。本来なら大規模な領地の入れ替えなんかは王宮の裁可が必要なもんだが、今のこの国の混乱状況なら既成事実を作っちまって、追認せざるを得なくさせる事も可能だろうし、いざとなれば俺の方から圧力もかけられる」


 うん、不採算部署を売却して、事業のコンパクト化を図るような感じだよね。というかやり方がさ……


「とは言え、土地と領民が増えれば、それを護る戦力と管理する役人が必要になる。そんな訳でまずはアイツ等をって事になったって訳だ。土地の増え方次第じゃ追加で数家送るなりするって予定だが、そう言う意味ではお前さんから『四弦万矢』を紹介して貰ったのは、ちょうど良かった、まだ口説いてる最中だが上手く行くだろうさ。ピリム・カテンの助命というのは大げさだが、知らなかったとはいえライワ伯爵家の裁定にケチをつけた件とアレの親父がユニコーンにやった事を赦し、ついでにラッテル家家臣の末席で格安の知行とは言え仕官させるってのを条件に、うちかラッテルに仕官させるつもりだ」


 ホント、この人って……


ちなみに感想欄で質問が有りそうなので、この世界での混血に関してちょっと設定公開を。

基本的には全種族間で子孫を残せます。


人、エルフ、ドワーフ、ハーフリングのような種族間の場合、両親の種族の中間のような外見(耳が短かめで、やや肉好きの良いハーフエルフ、足が長めで多少やせ気味なハーフドワーフ等)になります。

能力的には、通常と同じ様に両親のスキル、ステータスを受け継ぎますが、種族特性も純血に比べるとやや劣りますが子孫に代々受け継がれます、なのでエルフの血が混じっていると4世代目(1/16)位までなら寿命はエルフより少し短い位でその後の世代は徐々に短くなりますし、エルフとドワーフのハーフだと、筋肉質で魔法も強いなんて事になります。


ただし、獣(鳥)人との混血の場合、種族的な外見特徴は獣(鳥)人の特徴(耳、尻尾、羽など)がほぼ確実(95%以上の確率)に引き継がれます(ただし目や髪の色、顔立ち等は種族に関係なく普通に両親から遺伝)が、スキル等の遺伝の仕方は他の混血と同じです、なのでディフィー、サーレン等はエルフの血が混じっていますがほぼ見た目は獣人で、だけど魔法や寿命はエルフ相当で獣人の身体ステータス・スキルがあるという事になります。

ちなみにこの世界は異世界なので、メンデルの法則のような3代目になると一定確率で獣人の因子が出なくなるという事も無く、余程血が薄まらない限り獣人の子孫は獣人になる事が大半です。

ただし例外として、両親のレベルやステータス差が非獣人の親の方が強すぎる形で大きいと、子供が獣人になる確率は差の大きさに比例して減少します。(勇者と獣人だと、人の子供が生まれやすかったりします)


違う種族の獣(鳥)人での間の混血の場合ですと、両親のどちらか片方だけの種族的外見を引き継ぎ、変身できるのもその1種類だけになります、見た目では一方の種族に見えるので、親子、兄弟の間で耳や尻尾の形が違う二種類に分かれるという事になります。

(なのでもしも、クリグ・ムラムとサラン・パヴォが結婚できたとしたら、子供は半々の比率でコブラとクジャクになります)

この確率も両親のレベル・ステータスの差が大きいと、強い方の親と同じ種族の子が生まれやすくなります。

獣人同士の混血でもスキルは両親から受け継ぎますが、種族的な身体特徴が必要となるスキルは受け継がれません(鳥人の飛行系スキルは羽が無いとダメだったり、尻尾が短い兎等は『尾打』のような尻尾での攻撃が出来なかったり)が、他の部位あるいは特化してない部位で代用可能であったりすると受け継がれる事も有ります。また毒牙のような小さな部位の種族特性であれば他の種の子供でも受け継げたりします。

また、両親ともにかなりの高ステータスだったり、比較的近い種族間の混血だと両方の種族特性を併せ持つキメラのような子供が生まれる事もまれにあります(獅子とトラでライガーの獣人が生まれたり、クリグ・ムラム達が更に強くなって結婚すればクジャクの羽根にコブラの尻尾を持った子供が生まれるかもしれません)


ちなみに魔族は、元々が様々な種族と魔物の混血の子孫なので、遺伝の仕方はまた独特だったりします。


R7年5月3日 誤字修正しました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様です。 カミヤさんとラッテル。リョーによって繋がれた関係性が、どんどん強固なものになっていきますね……。 移籍したのが両方毒耐性持ちなのは、行く行くは彼等の子供を血統に取り込むの…
[気になる点] 3世代目で1/16? んー? これはどうなんだ。 ハーフ1世代目、1/2 2世代目、1/4 3世代目、1/8 ではなかろうか。 この世界では獣人系の素養、遺伝子は優性なのか。…
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