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478 遺言


「しかしまあ、お前さん、思ったより早く付いたな。『薬師』配下の薬屋も動いてるって聞いたから、もっとかかるかと思ったんだがな。予想より早かったんで、アイツは間に合わなかったか、もう少しだったんだがな」


「アイツですか」


 誰の事だろ、カミヤさんがこう言うってのは、なんか面倒そうな話の気がするな、この人はこの人で俺をしっかりと取り込もうとしてるっぽいし、まあそれで稼がせては貰ってるし助けて貰ってる所も有るんだけど、たまにうちの子達を煽って俺を誘惑させたりするからな。


「気にするな、こっちの話だ、しかしまあ、俺が依頼を出してから随分とやってくれたもんだ。金剛杖を始めとした盗賊との交渉で定額通行の約束を取り付け、その近郊領地の貴族達を潰すための証拠を確保、ムルズの貴族への交渉手札になる騎士の捕虜を多数確保、しかもあの『四弦万矢』に貸しを作れたんだからな、お前がラッテル領を紹介してくれてから、いやその前のユニコーンの話を持って来てから、こっちは儲け話ばかりで笑いが止まらねえよ、まあその分忙しいんだがよ。そう言えば、お前から預かってたクリグ・ムラムが『蠕虫洞穴』から持ち帰った、ボスの体液はどうする。保存のきくもんだから幾らでも預かってても良いが、不良在庫にするくらいならこっちで買い取るぞ、アレを使った簡易魔道具なら幾らでも利用価値はある」


 ああ、『帝王具足蟲』の体液か、肉や殻なんかは『アイテムボックス』に入ったから問題ないけど、体液は入りきらなかったのに『百狼割り』達が大量に『迷宮』から持ち出してくれたんだよな。一部は馬車に積んで何時でも売れるようにしてるけど、それ以外の持ち運べない分はクリグ・ムラムに預けてたんだっけ。


「まだしばらくは、保管してくださると助かります、利用するにしろ売るにしろこの一件が片付いてからになるでしょうし」


「そうか、もし何ならお前らが居る間に人数分の簡易魔道具でも作るか、地元から何人か武器整備用に職人を連れて来てるから、お前らの装備に効果を付けても良いしな。何だったら幾つか装備を強化するか、短期間だから二三個しか出来ないだろうが、素材は有るんだろう」


 素材か、まあ二つの『迷宮』で倒した魔物の部位や拾った魔道具が幾つかあるから、それを使えば。


「ちょっと考えてみます、それと、簡易魔道具はお願いできますか、出来れば予備も含めて多めに」


『帝王具足蟲』の『無食長命』が効果に付くと、少ない食料でも生き延びれるようになるって話だから、いざって時の備えには丁度いいよね。


「分かった、手配して置こう。それでさっきの報告に有った、王女に貸しを作ったって話しだが」


 ん、その話か、まあムルズ王国側に対して交渉の手札を増やしたい、この人やライフェル教からすればしっかりと確認しときたい話なんだろうけど。


「ええ、こちらの契約書になります。それと担保代わりの指輪がここに」


 王女との間に交わした、二枚の契約書をカミヤさんの前に差し出すと、すぐに一枚目にカミヤさんが目を向ける。


「なになに、『ムルズ王国王女ミーラ・ティア・ムルズ(以下『甲』と称す)はライワ伯爵家家臣リョー・サカキ(以下『乙』と称す)に対し、甲がウンラ伯爵領内にて所属不明の刺客の襲撃を受け窮地に陥った際に、乙の行った救援を感謝する。また甲の護衛であるマイン・パーソナル・クレイモア子爵令嬢(以下『丙』と称す)が、乙所有の奴隷に対して危害を加えようとした事実と、それに対して乙及びその配下の奴隷の取った自衛行動が正当である事を認め、丙の実家であるクレイモア子爵家に代わって甲が乙に対して謝罪し、後日の乙に対する報奨と賠償を約す。甲はその約束の証として、報奨と賠償の内容が確定しそれを終えるまでの間、甲が所有する指輪一品を乙に預ける物とする』か、とんでもない内容だなこいつは、これ一枚で王女の護衛が役立たずだったって認めさせてるし、それだけじゃなく、主戦派貴族の領内で王女が襲われたなんてスキャンダルの証拠になるし、助けられた王女側が俺の家臣にやらかしたって証拠にもなる。しかも、賠償の額が決まってないから幾らでも吹っ掛けられそうだ、その気になれば使い道は幾らでもあるな」


 うん、すっごくいい顔してるよカミヤさん。


「で、こっちの方は借用書か、『ライワ伯爵家家臣リョー・サカキ(以下『甲』と称す)はムルズ王国王女ミーラ・ティア・ムルズ(以下『乙』と称す)とその随員がラッテル子爵領へ到着するまでの間に発生した諸費用を代替えし、旅程における諸手配及び必要とされる労力を提供する物である。乙は後日、甲の代替えした出費の総額、及び提供した労力等の内容を勘案し、それらに基づき十分な返済と報酬を与える物である』、こっちもサギみたいな内容だな、明確な貸し付け額も返済や報酬の内容も書かれてないし、手配や労力の提供をいくらで見積もるかも書かれちゃいない。よくもまあこんな条件でサインしたもんだ、世間知らずの御嬢様ってのは怖いねえ」


 まあ、仕組んだ自分で考えてもさ、この内容はあんまりだよな。


「コイツは一応、俺の方でも写しを取らせてもらう、『記録石』を使って録画すればそれで控えになるからな。取り立てとなれば、俺の後ろ盾が有った方が良いだろうし、コイツはそれ以外でも色々役に立ちそうだからな」


 うわあ、なんか、本物のヤ〇ザみたいな事言ってるよ、まあこの書類を思いついた時には、昔の職場でそう言った連中が事務所へ押しかけて来た時に、念書とかわび状を書けって言われた記憶が脳裏によぎったけどさ。


「ところで、この内容を知っているのはどのくらい居るんだ」


「私と王女殿下、後は王女付きの宦官のキリツ位でしょう。護衛の兵士達は周辺を警戒していましたし、侍女達は少し離れた所でミーシアが手当てをしていました。騎士のマインはトーウに締め上げられていましたし、解放された直後は意識がもうろうとしていましたから、二枚目は微妙ですが、一枚目の方の内容を聞くような余裕はなかったでしょう」


 トーウも遠慮なく技を決めてたもんな。あれだけ痛めつけられてればねえ。


「そうか、ならいい。さて、これからの事で何か聞いておきたい事はあるか、別に今回の一件に絡まない話でもいいが」


 うーん、聞きたい事か、あ、そうだ。


「ちょっとした疑問なのですが、私が戦闘で死亡すると、奴隷達も『隷属の首輪』の『懲罰』で死んでしまうのでしょうか」


 橋を壊した時にもハルに言われたし、これまでも何度か似たような事を言われてきたけど、かと言ってみんなにだけ危険な事をさせて俺が安全な場所でってのはアレだし、でも俺の失敗でみんなを巻き添えにするのもさ。


「当然だろうな、そうでないと極端な話、死にそうな主人を見捨てて逃げるなんて事も出来ちまうだろ。主が死んだり逆らったりしたら自分も死ぬからこそ、必死で守るし言う事も聞くってのが『隷属の首輪』のミソだろ」


 いや、それはそうなんだけど。でも、石橋を破壊する時、サミューは一度馬車を停めかけた、事前に止まらずに突っ切るように指示を出していたのに、止まらざるを得なかったのはやっぱりそう言う『懲罰』を気にしたって事も有ったんだろうし。


「まあ、例外も有るがな、奴隷ってのは財産で、戦闘奴隷は文字通りの戦力だ、独り身で家族のいないような連中なら自分が死んだあと奴隷が全滅しようと、どうでもいいかもしれんが、騎士や貴族なんかの場合だと自分個人の事だけではなく家の事も考えないとならなくなるからな、当主が奴隷を道連れに死んだせいで、イザって時に売れる財産が無くなって残された家が破産したとか、戦闘奴隷が一人も居なくなって敵に攻め込まれて族滅されたなんて事になりかねないからな」


 うわあ、この世界じゃ普通にありそうだって思っちゃった。


「そう言うのを防ぐために、遺言で奴隷を相続させるって方法が有る。要は生前に自分に何かあれば所有している奴隷を、誰それに譲るって事前に奴隷に言って手続きをしておけば、戦死すると自動的に奴隷が相続されるって訳だ。ただし主への裏切りや敵への協力、助けられるのに自分の判断で主を見捨てたなんかの、悪意や重過失で主の死に責任が有るんなら『懲罰』は働くから、裏切りとかへの心配は普通と変わらんが。敵が強すぎて護りきれなかった場合や、主の指示で逃げる事になった場合、その場に居なかったために守れなかったとか、主が自分のポカで死んだ場合なんかのは普通に相続相手に引き継がれる」


 それなら、石橋の時みたいに俺が逃げろって言って、あのまま潰されたり追っ手に殺されたとしてもみんなは無事って事か。


「ただし、相続は自由民以上でないと出来ない、財産権を認められていない一定以下の身分である奴隷や農奴、流民では私有が出来ないからな、当然奴隷も持てないって訳だ」


 うちの子達でその条件ってなると。


「アラはどうですか、まだ子供なのでダメでしょうか」


「あのダークエルフの子供か、相続権に年齢は絡まないが、身元がな、お前が拾ったって話だが、どこの誰だかわかるような書類も証拠もないんだろう。となると扱いは流民にされかねないな、今は神殿発行の身分証を持ってるお前の庇護下に居るから問題はないだろうが、お前が死んだ後になると庇護者も後見人も居なくなるって訳か、なら今のうちに俺の領地かラッテル領辺りで仮の戸籍を作っておくか、そのついでに遺言の手続きも進めちまおう。今夜のうちに指示を出しときゃ、明日には書類も手続きも出来上がってるだろ」


 うーん、こういう話を聞くとやっぱ偉い人なんだと思うなこの人って。


「他にも、聞いておきたい事はあるだろ。お前と俺の仲だ、話せる範囲でなら幾らでも話してやれる。意思統一を図っておかないと、これから先のやり取りで問題になるかもしれないからな」


 まあ、そりゃあ、幾らだってあるけど。

 

「では、遠慮なく、王女が帰る時期の予想と、神殿との交渉がどうなりそうかという所でしょうか」


 あの王女様とここに来るまでの間に何度か話をしたりしてきたけど、悪い子じゃないんだよな、ちょっと思い詰めてる風な所も有るけど、情が移ったって訳じゃないが、それでもあの子をハメて戦争の大義名分にするっていうのはさ。


「おそらくは数日程度で引き揚げるだろう、結納は王女が到着しだい何時でもやれるように準備していたからな。うちとラッテル家の他は王女、神殿の連中ぐらいしか来賓はいないからな。今のご時世じゃ招待状を送ってもどれだけ集まるか分からないし、俺がラッテルの後見に付いて敵対すりゃどうなるかって知らせるなら、もう十分な事をしてきたしな」


 十分な事って、見せしめって事かな、何やったんだろこの人……


「王女との交渉は、内々で来てる神官長が1,2回会うつもりらしいが、まあ何も決まらないだろうな。まあ、詳しい話はそこの張本人に聞いた方が早いだろう」


 そう言って、カミヤさんが指し示したドアの前には、いつの間に部屋に入っていたのか優しげな微笑みを浮かべた神官長さんがいた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] おもしろかったです。 [気になる点] 天然ユニコーンメイド(準ヒロインかな?)はどうなったのでしょうか? [一言] そろそろ新たなヒロインを…
[一言] ハイペースな更新、お疲れ様です。 ついに『無食長命』の魔道具が実装されますか。てっきりアクセサリー的なものになるかと思ったら、機能追加とかでもアリなんですね。リョーの装備は他の子と比べて付与…
[一言] 更新が早くて嬉しいです!
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