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278 盗賊対策

「ふむ、という事ならば土着の盗賊団に襲われる危険性はないが、我らのみを狙った敵襲が予想されるという事ですかな」


 何とか『金剛杖』との話を終えて戻った俺とテトビの報告を聞いていたクリグ・ムラムの問いに頷く。


「ああ、後は薬を買う金欲しさに見境が無くなっている連中もいるらしいがな」


「まあ、そちらは何とでもなりましょう。中毒者は確かに痛みや恐怖などを感じにくく、身体能力も多少底上げされているので慣れていないものにとっては戦いにくい相手ですが、その分判断力なども低下しているので、戦い方さえ知っていればそれほど怖くは有りませんからな。人ではなく、小柄なオーガだとでも思っていれば幾らでも対処しようが有ります、いえ場合によってはオーガの方が賢いかもしれませんな」


 なんかずいぶんな言いようだけど。確かアラが苦戦した相手もその手の薬の中毒じゃなかったっけ。


「少し前に伯爵閣下の影響力を弱める為か、数名の『薬屋』が領内で薬を売っていたことが有りましてな、小官らはその時に何度か相手をした経験が有るので、特に問題は有りませんな」


 こうやって自信が有るなら大丈夫なのかな。


「確かに痛みに強いので、手足を切り落としたり、腹を抉った程度では何事も無かったかのように動き回りますが、部位欠損の為にバランスを崩しやすくなりますし、心臓や脳を確実に潰せば簡単に仕留められます、毒や麻痺なども有効ですし、痛みがないので足が虎バサミ等の罠にかかっても気付かない間抜けもいます、それに多量の出血を持続させて血が空になってしまえばそれまでですしな」


 うわあ、なんか具体的に言われちゃうと、なんかね。いやでも、今回の依頼は盗賊や刺客なんかを相手にする事が前提なんだから人を相手にするって意識しておかないと。


「まあ、そう言う訳だから、話はまとまっても襲撃の可能性があるって事だけは覚えていてくれ」


 少なくとも、正規兵たちには緊張感を持ってもらわないとね。


「おめえら、俺がキッチリ『金剛杖』の一党と話を纏めて来たからな。これであの『金剛杖』に狙われる事はねえから安心しやがれ」


「さすが兄貴だ『金剛杖』の親分って言えば、この辺り一帯をまとめ上げてる大親分じゃねえですか、そんな大物とキッチリ話を纏めるだなんて」


「まあ、親分本人に会えたわけじゃなく、代理人との話だったがよ」


「それでもでさあ、代理人とは言え、これだけの大組織相手に安全の確約を兄貴が取って来たってのは事実じゃねえですか、胸を張ってくだせえ」


「お、おう、そうだな、そうだよな」


「うむ、流石は『百狼割り』殿だな」


「やるじゃねえかよ、やっぱり纏め役を張るだけの事はあるって事か」


 うん、なんか冒険者連中の方は楽観論が出てるっぽいんだよね。


「まあ、あちらには、小官の方からそれとなく、大組織に属さない盗賊の襲撃が予想されると伝えておきましょう」


 そうして貰えるとありがたいかな。


「よろしくたのむ」


「承知致した、そう言えば『金剛杖』は『薬屋』の影響を受けている新興の盗賊団を襲撃する予定だと先ほど言われてましたな」


「ああ、どうやら『金剛杖』としてもよそ者に好き勝手される訳には行かないらしいからな。それと襲撃の可能性だが『薬屋』の元締めであるヤスエイがムルズ王国に潜伏していると、伯爵は睨んでいるようだからな、もしかすると薬代目当てだけでなく政治絡みでも襲撃の動機になるかもしれないな」


 うーん、さっきグリグ・ムラムは楽に戦える相手だって言ってたけど、出来る事ならあんまり相手にしたくないんだよね、薬物中毒者ジャンキーとかさ、マンガなんかだとめんどくさい敵のイメージが有るからさ。


「ならばいっその事、我らがそれらの盗賊を襲撃して捕縛する事は出来ませんかな、そうすれば道中の敵襲を減らせますからな」


 は、何言ってるのこの女騎士は、戦闘狂か戦闘狂なのか、確かに可能性は高いみたいだけど、まだ本当に敵対するかどうか確実じゃないってのに。 


「当伯爵家の敵対者に対応する際のモットーは『予防攻撃』と『先制的自衛権』を原則とし、『相手が力を付けて噛み付いて来る前に、そう言った事を考える事も出来ないほどに徹底的に叩き潰せ』『落ち目となった敵は無条件降伏をしないかぎり手を緩めることなく追い込みトドメを』『相手に舐められるぐらいなら皆殺しにしてしまえ』でありますからな」


 な、なにそのならず者国家みたいな超タカ派な理論は、普通はそんな事やってたら周りから嫌われるだろうし、警戒されすぎて逆に袋叩きにされるんじゃないかな。


「当家はそうする事によって周辺の貴族領や王家からの影響力を払拭し、今の立場を確立してまいりました。特に盗賊に関しては徹底的に叩くことで治安を維持していますからな」


 ま、まあ、近現代的な法治体制とか国際ルールなんかが出来てない下克上や弱肉強食があり得る世界だと、この位過激じゃないとダメなのかな、いやでもさ……


「今回の場合は、安全確保という目的の他にも、兵や冒険者の緊張感を維持するための戦闘経験、士気を高めるための臨時収入と言う目的もありますが」


 臨時収入って、盗賊の財宝をそのまま奪い取る気満々ですか、え、いいの、冒険者とかならともかく、こういった正規軍でも懐に入れちゃうの、返さなくてもいいの。


「『胡麻の油と盗賊は絞れば絞るほど出るもの』と伯爵閣下の御言葉にも有りますからな、彼奴等がため込んだ財貨を、別な盗賊にみすみす渡すというのも剛腹ではありませぬからな」


 そ、それって、本来は悪党のセリフをもじってるよね、カミヤさんはやっぱり時代劇とか好きなのかな。ま、まあ、俺に権限が与えられてるって言っても、表向きにはクリグ・ムラムが指揮官なんだから、彼女の意見を優先した方が良いのかな。


「その件に関してはどうするか任せる。必要が有ればテトビに伝言や情報収集をさせればいいだろう。俺はそろそろ仲間の所に戻らせてもらうが、他に何か話はあるか」


「いえ、特には有りませんな、では、これで、お疲れ様でした」


 さてと、なんかすっごく疲れたけどみんなの所に戻るか、確か街中で宿が取り切れなかったから郊外の空き家を借りてるんだっけ。しかし車列メンバーの半分近くがきちんとした宿を取れたって言うのに、サミューやハルが宿を取り損ねるなんて珍しいな。







「よろしいでしょうか、対人戦が対魔物戦と大きく違う点は、襲撃者が人である場合は手段も場所も択ばないという事です」


「あら、それは魔物の方にこそ当てはまるのではないかしら、『迷宮』によっては獲物が近づくまで擬態したままの魔物や物陰から奇襲してくる魔物、独特のスキルを使ってくる魔物までいるではありませんの」


 ん、みんながいる空き家の中から話声が聞こえるけど、これは。


「そういった魔物の特性は、生態にもとづいた罠や待ち伏せですので、事前に情報収集さえしておりますれば、どういった点に注意すればよいのかが予想されますし、それに該当さえしない場所で有ればある程度は安心して休むこともできます。ですが相手が人の場合ではそう言った事は通用いたしません」


「それはどういう事ですか、トーウさん」


「人は町にも街道にも存在いたしますし、何をしてくるのかが予想しきれないという事です。夜討ち朝駈け等と言うのは『迷宮』内でもある事でしょうが、敵が人である場合ですと、特に今回のように要人護衛や宝物の護送と言う場合になりますと、宿や町の人間が敵に通じていて食事に毒を盛られましたり、あるいは内側より戸を開けて襲撃者を引き込むなどという事もありえます。過去の事例では、町の広間で通行人の大半が隠し武器を抜いて襲って来た等という事も聞きおよびます」


 トーウが今回の依頼での注意点のレクチャーをしてるみたいだけど、考えてみればラッテル家は『毒見役』として要人警護をしてた家系だから、魔物を相手にするよりもこういった人を相手に迎撃するのが得意そうだもんね、となればそういった知識が豊富なのもうなずけるのかな。


「他にも、幼い子供に毒針を持たせましたり、あるいは自爆系のスキルのみを習得させ、無警戒の相手に近づいて使わせる場合、あるいはすれ違った幌馬車の中から布越しに設置型の仕掛け弓矢を使って一斉射撃をして来ましたり、至近距離で爆発系の魔法でこちらの車両を破壊してから襲撃するなど方法は幾らでもありますので。中には護衛隊の冒険者が買収されるなどして裏切る事も考え得る事態でしょうから」


 なんか人間不信になりそうな話だな、いやでも地球でも海外のテロ事件なんかだと似たような事案が有ったような気もするし。


「そ、そんな、じゃ、じゃあ、どうすればいいんですか。そんなんじゃ、わ、わたしの探知系スキルや嗅覚じゃ……」


 ミーシアが不安そうに言ってるけど、そうだよな、あの子の能力は遠くに居たり隠れてる獲物を探すっていうのがメインだから、目に見えてる相手を敵かどうか判断するっていうのは違うよね。


「基本的には、近付く者は皆敵だと思って警戒を怠らない事でしょうか。たとえそれが女子供や味方と思わしき相手であってもです。信用できるのは『隷属の首輪』で縛られているわたくし達奴隷と、伯爵閣下が直々に選ばれた騎士の方々ぐらいでしょうか。それ以外の者は全て刺客・盗賊の類と考えておけば、いざという時に動揺せずに済みますので」


 うわあ、なんかもう人間不信どころの話じゃないんですけど。


「他にも毒物への警戒も必要となります。魔物の場合ですと爪や牙で傷つけられた場合、あるいは毒粉や毒霧を撒くなどですが、対人戦の場合ですとわたくしの様な『毒物鑑定』が出来ない場合等では自分達で用意した食材を各自が調理し、配給品や売店の物に手を付けなかったり、ある程度の鑑別が出来る銀器を使ったり工夫が必要になります」


「そ、そんなんじゃ、お腹がすいちゃいそうです、サ、サミューさんの料理は美味しいけど、い、一度に作れるのは、決まってるし」


 ああ、そっか、ミーシアにとっては買い食いが出来なくなるっていうのは死活問題なんだろうな、俺があげたお小遣いも殆ど食べものに使ってるみたいだから。『迷宮』でなら倒した魔物の肉をおやつ代わりに変身して齧ってるから大丈夫みたいだけど、こういった移動中なんかじゃそれも出来ないしね。とはいえさ……


「ミーシア、よーく御考えなさい、貴方が買い食いをする時には大抵トーウが一緒じゃありませんの、彼女は先ほど自分で言った通り『毒物鑑定』が出来ますのよ、毒を心配する必要なんてありませんわ」


 うん、そうなんだよね。まあ俺の場合は酒や肉にも気を付けなきゃダメだけどね。


「もちろん、皆様の為にそして何よりも旦那様のため、このトーウ全身全霊を尽くす所存ですが、皆様も注意願います。毒以外にも、家の床に敵または罠を潜ませておく、こちらが不利な状況を作り上げてから仕掛けてくる場合などいくらでもやりようが有りますから」


「わたし達が不利な状況ですか、トーウさんどんな場合があるんでしょうか」


「例えば、室内や裏道などの狭い場所ではミーシア様の剣やサミュー様の鞭は振れませんし、ハル様の魔法も使いにくくなりますが、格闘や短剣などに精通した刺客にとっては戦いやすい場となりましょう。また、場所によっては奴隷が付き添えないあるいは亜人族禁制と言う場所もございます、そういった場所で旦那様と引き離されてもいかにして安全を確保するかと言った事も考えねばならないかもしれません。ですがそれ以上に考えられるのは市中などで武器の所持が制限される場合での戦闘でしょうか」


「そういった戦闘練習をするために、壊れても問題のないこの家を借りたのでしょう、リョーが戻ってくる前に始めますわよ」


「うん、アラもがんばるんだからね、でもってリャーを守ってあげるの」


「わ、わたしも、が、がんばります」


「本当なら、御主人様にはもう少しまともな部屋がいいのでしょうが、こういった目的のためには仕方ないでしょうね」


 うーん、なんか俺が今戻ると、みんなが気を使っちゃいそうだな、もう少し散歩してから戻った方が良いかな。



いつもいつもすみません、リアルの仕事の絡みで、10月上旬の投稿にまた遅れが……


H28年9月30日 誤字修正しました。

H28年10月13日 誤字修正しました。

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