259 伯爵様の歴史講義
お待たせしてすみません、ちょっとスランプ気味でして。
「魔物が獣人の先祖なんですか、あ、とりあえずツモです、リーチ門前、平和ですね」
それってアレかな、人とかエルフなんかが獣人をおとしめるために流した俗説とかなのかな。ファンタジー小説とかだと人種差別的な目的でそういった話が有ったりするよね。
「く、さっきから安上がりで削ってきやがって。まあいい、あくまでも伝承の話だがな、何しろ正確な記録なんてものが存在しない時代の口伝や遺跡などの調査結果などでしか伝わっていない内容だからな」
うーん、感じ的には邪馬台国みたいなものかな、多分あったんだろうけどはっきりしないみたいな感じの。
「それは、事実なんですか、それともただの伝説なんでしょうか」
「確証となるような物は無いそうだが、傍証と成るような資料は幾らかあるし、古い獣人の部族や家系だと、そういった来歴を誇らしげに語ったりもするからな」
あれ、ネガティブな話じゃないのか、今の感じだとポジティブに聞こえるんだけど。
「まあ、これは数千年前のことらしいが、当時はまだ都市国家程度の国が幾らかあるだけで、殆どが独立した小規模な集落ばかり、それこそ竪穴式住居で半分狩猟採集に近い生活だったらしい。そういった原始的な集落にとって『迷宮』ってのは神秘的な存在に見えたことだろうな。獲物としての魔物や『魔道具』と言った恩恵と、『活性化』みたいな破滅を与える存在、自然崇拝のような原始的な信仰の対象としては絶好の存在だろう」
ああ、言われてみればそうか、山とか海なんかを神格化して信仰するような物か。
「そして、そういった信仰では、信仰の対象に対して捧げ物を出すってのはよくある事だ、狩の安全や成功、災害が起きないようにってのを祈ってな。でもって捧げ物の定番といえば、その年最初にとれた獲物だとか酒、祭りなどの儀式、そして生贄ってところだろ」
「生贄ですか」
いや、確かに古代の宗教には付き物だよな、歴史とか古代文明とかの特集テレビを見てればよく出て来る話だし。
「『迷宮核』に活力を与える為といった理由で『迷宮』内での処刑という形も有ったらしいが、中にはボスやフロアボスなどの強力な魔物に対して直接捧げるといった方法も有り、そういった生贄に選ばれるのは清らかな乙女と相場が決まってる。そうして魔物の下へ送られた生贄の大半は食われてしまったらしいが、相手が人型の魔物であった場合ごく稀に魔物の子を宿して帰ってくる乙女が居たらしい。信仰の対象である『迷宮』を代表するボスモンスターの子だ、ある意味で神の子と言えるだろう。まして親となる魔物の形質を受け継いでいればその本人が信仰の対象となる事も有っただろう」
う、うん、確かにそう言われればそうなのか。あ、でも確かに家系の箔付けの為か、先祖は神だとか天狗だとか竜だとか、そういった伝承をしてるのは地球でもある話だから、実際にそう言った事が起こればありがたがるってのは変な話ではないのか。
「そうやって生まれた子が信仰の対象となれば、必然的に集落の権力者となり、他者よりも多くの妻をめとり多くの子を残すようになり、それらの子も村の者達と婚姻し子を残していく。そうして世代を重ねて行けば、小さな集落の全体に魔物の血筋が混じって行く事になる。更にはその間も生贄の儀式が行われ、魔物の血が追加されるかもしれん、伝承によると一度魔物の血が入ると、それ以降は種の近い魔物に好かれやすくなり、無事に帰ってくる生贄も増えたらしい。現在でも実際に魔物使いは人やエルフよりも獣人の方が適性が有るらしく、獣人が自分に近い種類の魔物を使っていると普通よりも効果が高いときくし、『迷宮』内でパーティーが全滅した時、獣人だけがトドメを刺されずに見逃されたなんて事案の報告もある」
うーん、混血がそのまま一つの種族として固定化したって事なのかな。
「これが獣人の起源だと言われているが、歴史家によると一定の年代の数百年間に同時多発的に世界中で起こったらしい。ちなみに『獣態』が取れる種と取れない種がいるのは、人型の魔物との間に出来た子孫へ更に追加でより獣に近い魔物の血が混じった一族の子孫が『獣態』をとれると言われている。そんな訳が有って、過去には獣人を魔物の一種だとして差別した習慣も有ったらしいし、今でもそう言った言動が残っている地域もあり、獣人族の前でこの話題を出すと刃傷沙汰になる地域もある。逆に獣人族が自ら自分達は強大な力を持った魔物の子孫であり人とは違うと自慢してくる地域もある」
あれ、同じ話題を獣人にしてもプラスに取られたりマイナスに取られたりするって事か、なんて面倒な。
「大雑把に分ければ、人族やエルフ族などの多い国や都市などでは前者に取られやすく、古くからその土地で獣人が暮らしていた国や村なんかだと後者が多いな。まあ、この手の話題は向こうから自慢してこない限りは使わないっていうのが一番無難だろうがな。それと、後者の様な獣人の場合、自分達に近い魔物を殺したり食べたりすることに抵抗が有る者も多い、命の危機が無い限りは戦いを避けたりするし、そういった魔物を乱獲しているのを見られると敵対される事もある」
そう言えば、ワーフォックスを狩る時にハルとかがコンナに戦っても大丈夫かって聞いてたっけ、それにミーシアがクマを食べたって話の時にビクビクしてたのはこう言う考え方が有るせいか。これは色々と気を付けなきゃダメなんだろうな、下手をすればそれだけで獣人を敵にしかねないって事だし。アメリカのハーレムで『N-Word』を叫んだり中指をおったてたりするような物か。
まあ日本とかでも地方によって言動を使い分けなきゃならないんだから、こういった注意点さえ知っていれば何とかなるかも、ある意味で俺はそれが本職みたいなものだしね。ん、あれでも今の話だとさ。
「今でも魔物と人の混血が生まれる事が有るって事ですか、魔物に捕まった冒険者などがこう……」
エログロな18禁もののファンタジー小説とかじゃあるよね、女騎士や冒険者がゴブリンとかオークとかに捕まってそのまま苗床にされるとか。いや、この世界だと奴隷を無理やり魔物にあてがって強い混血の子供を産ませたり、逆に女冒険者とかが強い魔物を捕まえてそのまま押し倒すなんて事も有ったりするんじゃ。
「もしかすれば可能性がゼロではないかもしれない、といったレベルだろうな。魔物からすれば人やエルフ、獣人などは餌でしかないからな、腹が膨れてれば気まぐれでトドメを見逃されるかもしれないといった感じだから偶然はあり得ない。そして人為的に魔物との混血を作り出す事は神殿を始めとした幾つかの勢力によって禁止されている」
またそれか、この世界は神殿絡みの禁忌がほんとに多いな。まあ、多分その理由もこれから説明してくれるんだろうけどさ。
「大雑把に言えば、過去に実際にそれをやろうとして現在まで続く大問題の火種を作った連中がいるって事で、その二の舞を防ぐためって事だ」
「大問題の火種ですか」
「ああ、時期的には『勇者召喚』が有る程度安定して行われるようになった時代らしいが、前も説明したと思うが当時はライフェル教ではなくて一つの国が『勇者』を独占していた、もちろんその国は自国の利益を誘導するように『勇者』を使っていたから、その周辺国は対抗手段を用意する必要に迫られその一環として強力な魔物を大量に『勇者』へぶつけるという案が有ったらしい」
大量の魔物か、あれかな『勇者』の居る町の近くの『迷宮』を『活性化』させるとかかな。いやでもそれだとコントロールが難しいか、魔物がどう動くか分からないから下手をすれば自分達にも被害が出かねないし。
「魔物を目的の相手にぶつけるとなれば『魔物使い』が必要になるが、一人の『魔物使い』が使える魔物の数は限られるし、『魔物使い』自体もそれほど多くない。今は『魔物使い』が最初の調教をすませば一部の魔物は誰でも扱えるようになる技術が有るが、当時はまだなかったからな」
という事は、戦力として使える魔物の絶対数は『魔物使い』の人数に依存する事になるけど、その人数が少ないって事か。
「『魔物使い』は適性が無いと就けない以上数を増やすのは難しい、そこで考えられたのが『魔物使い』に依存しない魔物戦力を用意する事だ」
「それが出来たら苦労しないでしょうけどね」
「そうでもなかったらしいぞ、そいつらの目の前には獣人っていう前例が有ったし、当時は既に『隷属の首輪』が存在したからな」
この話題で、こうつながって来るって事は、やっぱりそういう事かな。
「魔物を『隷属の首輪』で縛る事は出来ませんが、魔物の子孫であるはずの獣人なら『隷属の首輪』で縛れる。それなら魔物と人の混血を人工的に生み出せれば、逆らえない奴隷として戦力に出来るって考えですか」
今までの話の流れで予想できた答えを言ってみたら、カミヤさんがうれしそうな顔で頷いて来たよ。まあこの人は元々学者兼教育者なんだろうから、こういう詳しく説明したりするのが好きなんだろうな。
「その通りだ、理解が早くて助かる。最初はゴブリンやオーガなどの人型の魔物、更に世代を重ねていくと虫型や竜等のボスモンスターなども『魔物使い』に捕まえさせてきて宛がったらしい。成功率を上げるための『魔法薬』も開発され、人以外にも獣人やドワーフ、エルフまで宛がってな。そうして産まれた様々な種族を総称して『魔物の種族』という意味で『魔族』と呼ぶようになった」
は、え、いまなんて言った。
「今有る魔族の大半はこの時に産まれた者達の子孫だ、彼らは期待通りの能力を示し実際に集団戦で『勇者』を仕留めたことも有ったらしい。だがライフェル教が独立する百年ほど前に『魔族の大反乱』が起き、大半の魔族奴隷が脱走して国を興し現在に至ると」
「あれ、魔族たちは『隷属の首輪』で縛られた奴隷だったんですよね。それが反乱を起こしたんですか」
それって、あり得なくないか、あの首輪の『懲罰』は反逆を防ぐための物だろう。それが有ったのに大反乱って。
「原因は色々あったらしい、金のない貴族が『隷属の首輪』をケチって全員に付けずに脱走を許したとか、親が『懲罰』で絞殺されるのを覚悟で産まれたばかりの我が子を人に託して逃がしたりなどだが。一番デカかったのはとある侯爵家の当主が、大量の奴隷を買い込んだうえで解放した事だろうな。お前が知っているかはわからないが、上級貴族は『隷属の首輪』を外す術式を与えられている。もちろん所有者の同意なしでやれば重罪だが、その貴族はヤリまくったらしい、解放された魔族が他の貴族の所から魔族奴隷を救出してその侯爵の所に連れ込めばどんどん解放したらしい」
うーん人道的な奴隷解放って事なのかな。
「もちろん他の国や貴族家がそれを黙認する訳もなく、討伐軍が派遣されたが解放されて士気の上がった魔族を中心とした防衛隊の前に壊滅。それどころか討伐軍の主力だった魔族奴隷は『懲罰』で絞殺されるのを覚悟でサボタージュをしたり、魔族側に降伏して捕虜となりそのまま解放されたりなんて事で逆に魔族側を強化する事になったらしい。結果として大半の魔族奴隷が解放され、そのまま幾つかの国を興した。ちなみに魔族解放を行った侯爵は、恋人だったサキュバスを妻に迎えて、最大の魔族国、レイシアン王国の初代国王になった」
ああ、なんか、おとぎ話とかならめでたしめでたしって所なのかな。
「この国は今でも魔族の取りまとめ役として初代から受け継いだ奴隷解放の術式を使い、違法に魔族が奴隷とされた際の救出や解放を行っているし、『剣魔』なんて言う複数の魔族国にまたがる武力集団の取りまとめもしている」
剣魔ってあれだよな、不当に魔族を害した相手に報復するための精鋭集団、確か勇者が殺された事もあるって話だっけ。
「まあ、そんな理由で建国した以上、魔族以外の国との関係は当時から最悪でな。人族やエルフにとっては脱走した奴隷は本来自分達の財産だし、『隷属の首輪』をしていない魔族は『迷宮』の外で魔物が放し飼いに成っているようなものとされ。一方の魔族国にとって人族の国なんてのは自分達を不当に弾圧した連中で、脱走防止って事で魔族奴隷が大量に殺されたりなんて事も有ったせいで、つい二百年前まで戦争状態が続いていたらしい、まあ今でも休戦や停戦してるってだけで、何か火種が有ればすぐ戦争になるんだろうがな。そんな前例が有るからな、神殿は魔物と人の混血を生み出す事を禁止してるって訳だ、まあこれも隠れてやってる連中は居るんだろうがな」
そりゃ確かに、戦争にだってなるだろうな。戦争を繰り返せば、親を殺された子供とか、夫を亡くした妻なんかが両陣営でどんどん出て来る訳だから、よく言う『憎しみの連鎖』の状態になっちゃうんだろうし。停戦になっただけでも奇跡なのかも。
「さてと、大分話がそれたが、これが魔物との混血や、人型の魔物を食用にする事が禁忌とされる理由だ、話を依頼の内容に戻すぞ」
「色々と詳しい説明ありがとうございました、その前にツモですリーチ、門前、小三元、中、發、混一色、三暗刻、ドラ二つと」
「数え役満だと、さっきまで安上がりしてたくせに、ここにきて、く」
「これで、皆さんトビましたね」
「まさか、全員の点数を確実にトバせるところまで安上がりで削ってたのか……」
いやあ、いい勝負をさせてもらったな、千点金貨一枚だもんね。丁度いい小遣い稼ぎになったかな、日本にいた頃にこのレートだったら破産するけどさ。
「まあ、お前のこういったところも期待して依頼をするつもりなんだから、しかたないか。話の続きは練武場でするか。表に出ろ」
あのー、カミヤさんこのタイミングでそんな誘われ方をすると、ケンカみたいなんですけど。
「安心しろ、別に腹いせって訳じゃない、今回の依頼は場合によっては元勇者と揉める可能性もあるからな、対勇者戦の経験を積んでおいた方が良いだろ」
え、今さらっと、シャレにならない事言いませんでしたか。
あと二話ほどカミヤさんとのお話が続く予定です。
そう言えば何故か昨日、一昨日でブクマが大分増えたんですがなんででしょうか?
H28年5月23日誤字修正しました。




