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258 伯爵様からのお仕事

「しかしまあ、まさか『聖者』とはな。もしかすると魔法関係の職が出るかもとは思ったが、まさか純魔法職がまた出るとはな、あ、それポン」


 俺の対面に座ったカミヤさんが、真面目そうな声で言ってるけど、頬が引きつってるのがばっちり見えてますよ、必死に笑いを我慢してますよね。まあ、いいけどさ、最初から笑われるって解ってたし。


「まあ、なってしまった物はもう仕方ないので、弱いままでこれからどうするか対策を考えている最中ですけどね。そう言えば、カミヤさんの所の『職業石』への登録はどうしますか、わたし的にはたいして役に立たない職ですが」


 引いた牌を確認してから捨てるが、カミヤさんが反応する様子はない、まあ、ここら辺は大丈夫だと思ってたけどね。


「もちろん登録してくれ、何だったら約束の額より増やしてもいい位だ。俺としては想像以上にいい結果だからな。なにしろ魔法系の職っていうのは、物理戦闘系などに比べて少ないからな、その上級職の新職ともなればどれだけの価値が有るか。だがそれだけにお前の魔法職としてのステータスを狙う相手が増えるかもしれん、不用意に『鑑定』されて職やステータスがばれないように、ラクナを四六時中、肌身離さず持っていた方が良いぞ」


 俺の言葉に返事と助言をしながら、俺の捨て牌を見てたカミヤさんが、小さく舌打ちを零したよ。まあ、気持ちはわからなくもないけどさ。


「しかしまあ、さっきから微妙な所で俺の欲しい牌を外してくるな、俺の手の内が読めるようなスキルでもあるんじゃないだろうな」


「まさか、昔から接待マージャンは営業の必須ですからね、これで契約が取れるかどうかが決まるとなれば、いやおうなしに腕が上がるものですよ」


 商売相手の部長さんを勝たせるためにさりげなく欲しがっている牌を捨てて振り込んだり、調子に乗って勝っちゃいけない相手に勝っちゃいそうな部下に役満を直撃させて潰したりとかさ。


「まさかとは思うが、積みこんだりイカサマしたりはしてないだろうな」


 まあ確かに、全自動卓じゃないし、メンツをそろえる為にカミヤさんが連れて来た二人の騎士はあんまり麻雀に慣れてなさそうだから、その手の事はやりたい放題なんだけど、態々そんな事をしなくちゃならない状況じゃないしね。だからと言って……


「さあ、どうでしょうね、気付かれなければイカサマじゃないとは言いますけどね。まあ、今まで勝敗以上に空気を読んでゲームをする必要に迫られてたんで、捨て牌や相手の表情や性格から、欲しそうな牌を推測するのは得意になりましたけどね」


 イカサマをやっている、やっていないというのを明言して手の内をさらす必要はないよね。


「さすがだな、ああ、そうだお前のその営業で鍛えられた対人スキルを期待して依頼が有ったんだった」


「依頼ですか」


 この人からの依頼は俺にも旨みが出るようにしてくれてるから、こっちとしてはありがたい話なんだよね。まあ、だんだんと伯爵領の秘密に触れて行って気が付けば深みにどっぷりハマってて、この人の手の内から抜け出せなくなってそうな気もするけど。


「そうだ、それとこの依頼に付随する形で幾つか細かい依頼もしたいんだが、まずは『獣頭草原』で倒したボスなんかの素材を売ってほしい、もちろん相場よりも高めに買うし、全部よこせと言うつもりもない、何ならお前の分の加工もこっちで職人を用意してもいい」


 これは至れり尽くせりで、俺にとっても良い話なんじゃ、今のところ素材の売り手の当てはないし、加工するにしても工房や職人を探す手間が省けるって事だしね。


「それはいいですが、一体何に使うんですか」


 この人なら、俺から買わなくてもしばらく待ってれば、『獣頭草原』が自然と『活動期』に入って、自分で狩りに行けばお金がかからずに手に入れられるんだからさ、という事は待つ余裕がない、急ぎで素材が必要になったって事なんだろうけど。


「大した事じゃない、うちの伯爵家とラッテル子爵家が姻戚関係になるために話を進めてるってのは前に言っただろ」


「はい、たしかカミヤさんの娘さんがラッテル家長男の嫁に、トーウの従姉がカミヤさんの御長男の正室になるんでしたっけ」


 ラッテル家は、高い戦闘能力を持った勇者に守って貰えて、カミヤさんはラッテル家の毒系スキルを子孫に継がせられるから、お互いウィンウィンになるっていう話だったよね。


「そうだ、それに伴って結納代わりの品物を送るんだが、その素材にしたい」


「結納の品物に、魔物素材を使うんですか」


 それって、武器とか装備品を送るって事なのかな、なんか物騒じゃね。普通結納の品ってゲンを担ぐような縁起の良い物とか生活で使うような物にするんじゃないの、いやこれは日本の話だし。騎士とか武人の家系とかなら戦闘で使える物の方が喜ばれるのかな。


「貴族の間では高レベルの魔物の素材を使った日用品や装飾品が好まれているんだ、例えば今俺らが使っている麻雀牌だが『迷宮ボス』だったドラゴンの角を削って作ったものだし、そっちにあるトランプはリヴァイアサンの鱗を使ってる、それ以外にもこの部屋や俺の執務室にある家具等は殆どがボスモンスタークラスの魔物の素材を使っている」


 え、てことはこの椅子の革張りなんかもそうなのかな。と言うか勿体なくね、これを装備品にすればどれだけの戦力になるんだよ。それを、態々装備品以外に使うなんて。


「随分とぜいたくな話ですね」


「まあ、貴族の見栄みたいなものだからな、うちにはこれだけの魔物を倒せる戦力、あるいは素材を買えるだけの財力やツテが有るんだぞ、しかもそれらの素材を全部武器につぎ込まずに、こういった無駄なものに使っても大丈夫なだけの量を集めれるほどに強力なんだってな。戦力の誇示が目的だから、こういった物を人に送る時には誰がこの素材を用意したか解るように送り主の家紋を入れて送るんだが、『迷宮ボス』等の素材を使った装飾品にライワ伯爵家の紋が入っていれば、ラッテル家を俺が守ってるって周りに教えるには丁度いいだろう。ついでに言えばこういった物でもいざとなれば装備品の強化に使えるから、実用性もあるしな」


 なるほどね、目に見えるハッタリとしてはちょうどいいって事か。


「そういう事でしたら、喜んでお渡ししますが、何が必要ですか、今回はそれなりに強い魔物の素材が取れましたけど」


 トーウの実家の為なら、たとえタダで出しても良い位だからね。


「そうだな、メインとしてナースホルンの犀角、添え物としてグレート・ミノタウロスの角とガネーシャの象牙と言ったところだな」


 ん、あれ。


「フロアボスのナースホルンがメインなんですか」


 普通なら、『迷宮ボス』のグレート・ミノタウロスとかガネーシャがメインに来るんじゃないのかな。どの角も同じくらい立派なんだし。


「いくら高レベルの魔物だとは言え、流石に人型の魔物の素材をメインには出来ないからな、平民の冒険者や実利を優先する必要が有る戦闘系の地方貴族や騎士なんかが装備品にするならともかく、体面にも気を使わなければならない貴族の家に装飾品として置く物だとな」


 またそれか、食べ物でもそうだけど、この世界って人型の魔物に対するタブー感が凄いよね。ファンタジー物の小説とかじゃオークは豚肉、ミノタウロスは牛肉なんて設定がよくあるのにさ。


「この世界の宗教的な理由もあるし、歴史的、民族的な問題もあるからな、まあ大きな理由は二つだがな、話が脱線する事になるが訊きたいか」


「そうですね、教えてもらえると助かります」


 宗教的って事はライフェル教が禁止してるって事なのかな、でも歴史とか民族問題って。こう言った事って知らずに禁止事項をやっちゃってトラブルになるなんて事が有るからな。日本でも地域の風習でそんな事が有るし、会社の海外事業部なんかに異動すると、国ごとの風習についての講習もされるって話だったから。それが異世界なんて事になっちゃ尚更だろうからね。


「一つ目の理由は食人行為(カニバリズム)の防止だ」


 いきなりとんでもないネタをブッ込んできたな。


「いや、防止って、普通はしないでしょそんな事」


 あれ、でもサミューもトーウを説得する時に似たような事を言ってたな、じゃあこの世界だと食人行為はありうる話だって事なのか。


「これが地球なら、特殊性癖なんかだけの問題なんだろうがこの世界だと事情が違うからな」


 そう言ってカミヤさんは、捨てようとした牌を俺に見せるように差し出してくる。


「お前も知っている事だが、魔物を倒すと経験値が貰え、素材を武器にすると性能が上がったり特殊な効果が付いたりする」


 うん、それはまあ常識だろうね。


「ついでに言えば、魔物の肉を食べても経験値になる、強い魔物になればなるほどより多くの経験値となる」


 そうだよな、だからボスとかの肉は高く売れるし、ミーシアを始めとしてパーティーの皆の食事にもボスの肉なんかを使うようにサミューにはお願いしてるんだから。あれ、なんで、ここでこんな話が出て来るんだろ……


「そして、人やエルフを殺しても経験値が入る、何しろ高レベルの犯罪者が捕まった時なんかには処刑する権利が売り買いされる位だからな。ここまで言えば分かるか」


 えっと、あんまり考えたくないけれど、この話の流れで考えると、魔物と人の間に明らかな差異はないって事なのか、となると。


「人の体も素材になる、いや食べれば経験値にもなるってことですか」


「そういう事だ、太古の昔には敵国の高レベル冒険者を捕える為だけに戦争を起こしたなんて話もあるらしい。そんな時代に俺達みたいのが居たら、四六時中狙われてただろうな。まあ、そんな風習が有っては高レベルの戦闘職が長生きできないからな、冒険者を大事にするライフェル教が権力を握ってすぐに禁止令を出したそうだ。そして、食人へとエスカレートする経過を潰すために、人型の魔物に対しても食用や素材としての利用が忌避されるような習慣を広めたって訳だ」


 なるほどね、食べれば強くなれるっていう誘惑が有れば、やりたくなる人間はそれなりに居るのかもしれないもんな。


「とは言え幾つか例外が有るがな、ライフェル教にしてもそれが『迷宮攻略』にプラスとなるなら認めない訳には行かないからな。例外として許されているのは親が病死や老衰にて死んだ場合、あるいはそういった死を前にして後継者がトドメを刺し経験値として力を継承させた場合、死者の正式な遺言が有れば、先代の遺体を後継者が相続して装備品に利用する事が許される。まあ普通はやらないがな、幾ら許されていても禁忌ギリギリの行為だからな、とは言え戦場に出る頻度の高い家などでは時折みられるらしい」


 そう言えば前に言ってたっけ、避け得ない死に瀕した時には信頼できる相手とか子供にトドメを依頼して経験値を渡す事が有るって、その延長線って事か。


「もう一つは、謝罪あるいは何らかの約束の担保として差し出された切断部位を利用する場合だが、これに関しては差しだした相手の契約不履行や裏切りなどで、相手にその部位を返す必要がなくなった場合で、なおかつ切断部位を差し出す際に両者が場合によっては切断部位を素材として利用することに合意していた時だ。もちろん初めから素材として利用する目的での部位の差出しや、部位を差し出す事を相手に強制などした場合は罪となるがな」


 そっか、素材にしちゃったら相手に返す事が出来なくなっちゃうもんな、取り返せれば高位の魔法薬で繋げる事も可能なんだからこそ、担保としての価値が有るんだもんね。


 ん、てことは今俺が持ってるラッテル家の連中の指や耳とかもか、いや止めようこう言った事は考えちゃシャレにならないことになりそうだから。第一ラッテル家はトーウの実家なんだから、何時までも俺が持ってるってのもアレだからタイミングを見て適当な理由をつけて返したいしね。


「とは言え、これはあくまでも表では禁止されているってだけの事だ、犯罪者集団なんかの場合ではお構いなしだからな、墓荒らしや遺体泥棒なんて話は時折あるし、それを目的としたと思われる殺人なんかもあるらしい。お前も気を付けろよ、魔法系ステータスが高い癖に、弱いなんて事が知られたら、そういった連中には格好の餌に見えるだろうからな」


 うわあ、怖すぎる話なんですけど。


「まあ、これは人型の魔物の利用が敬遠される一つ目の理由だ。そしてもう一つの理由は、コボルトなどの獣頭人身の魔物が獣人の祖先だという伝承が有るからだ」


H28年5月15日 誤字修正しました

H28年6月26日 誤字修正しました。

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