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260 戦争

久しぶりの、二日連続投稿が出来ました。

連休中は少し間隔を空けてしまいましたから。

「そんな訳も有って、ムルズ王国とライフェル神殿の軍が睨みあいをしてる状況でな。どちらもきっかけを探してる段階でうかつに動けずにいる」


 俺の『鬼活長剣』の倍位は余裕で有りそうな大剣を片手で軽々と持ちながら歩いてるけど、重たくないのかなアレ。


「きっかけですか、先ほどまでの話ならもう戦争になっててもおかしくなさそうな感じですけど」


 借金踏み倒そうと貴族が神殿を包囲して、その救出のために軍隊を動員してるんだろ。


「一応は神官長とモナ侯爵の会談で、包囲している貴族への説得はムルズ王宮が行い、神殿側は一旦それを待つという事になったからな。何か変化がない限り下手にしかけられないらしい。まあどちらの陣営にとっても戦力を調えるための時間稼ぎでしかないがな、そんな訳でどっちの陣営も自分達が準備ができ次第仕掛けれるように大義名分が欲しいって訳だ」


「大義名分ですか」


「例えば、貴族軍が神殿内になだれ込んだとか、僧兵団が国境侵犯したとかだな、相手のアラを探しながら自分達がポカをしないようにどちらも身内の暴走を抑えてる事だろう」


 なんか大変そうな話だな。


「そこまで行っちゃったのなら、そのまま停戦しちゃえばいいと思うんですけど」


「相互不信の状況だからな、僧兵団としては神殿の包囲が解かれる前に兵を引けば、これ幸いと貴族軍が神殿になだれ込んで略奪するのではないかと疑い。貴族軍としては自分達が先に包囲を解けば、神官達が巻き込まれる心配がなくなった僧兵達が一気に攻め込んでくるんじゃないかと不安でたまらない。結局お互いに相手が先に引かない限り自分達は動かないって主張でな」


 うわあ、典型的な話だな、相手が信用できないからいつでも対応できる状態を残しておきたいって事だけど、そのせいで相手が警戒を解けない。


「まあ、今回の場合は当事者全員が戦いを望んでいるから、尚更難しいんだろうけどな。何しろ包囲している貴族達としてはここで戦果を出して神殿に譲歩して貰わないと借金で破産するだけだろうし。神殿としてもここまでされて、なあなあで話を済ます訳には行かないからな。もしここで神殿が引けば、多少の軍事行動ではライフェル神殿は反撃しないと思われ、ライフェル教に思う所のある勢力や、神殿領の権益を狙っている貴族なんかが世界中で動き出すだろう。それらを一つずつ鎮圧するとなれば、人的被害はムルズ王国一国を滅ぼすよりも大きくなるだろうな。それに万が一神殿側が負けて権益がそれぞれの国や地方に取られれば目も当てられなくなる」


 あれ、そうなの、なんか宗教勢力があんまり強い権力を持ってるとろくなことがないイメージなんだけど。


「ライフェル教の方針の一つに、人同士で争う余裕が有ればそれを『迷宮』に向けろってのが有ってな。そのために大国に狙われてる小国に僧兵団を置いて保護してたり、対立する国同士の間を神殿領にして緩衝地帯にしてたりするんだ、そういった物が一気になくなったりすればどうなると思う」


 あー、それは不味いだろうな。今まで国々を抑え込んでたものが無くなるって事だもんね。現代の地球で国〇連〇とかアメリ〇軍なんかがいきなり消えちゃうような物かな。


「いきなり戦国時代になっちゃったりしますか」


「可能性は大だろうな。だからこそ神殿としても引くに引けないって訳だ、少なくとも周辺諸国に対しての見せしめになる程度の戦果を上げない限りはな」


 うわあ、これはもう戦争になるしかないのかな。


「そんな状況下だから、大義名分の出来た方はすぐに手配を始めるだろうな。なにしろ大義名分さえあれば、周辺国やほかの宗教勢力からの協力を取り付けられるだろう。ムルズ王国としてはそれが無ければ勝負にならないからな、おそらくあの国の首脳部は勝てるとは最初から思っていないだろうな」


 え、じゃあなんで戦争なんて、いやそれ以外に選択肢が無かったって事なのか。


「ムルズとしての落としどころは決起した貴族軍や宰相辺りを犠牲にして神殿に譲歩させるってところだろ。もしムルズ王国側に大義名分が出来た状態で開戦となれば周辺諸国や敵対勢力が介入してくる前に神殿は勝負を決めたいだろうからな、下手をすればムルズ王国を支援するって名目で遠く離れた国が地元の神殿領を襲うなんて事もありかねない」


 それだと、さっきの神殿が舐められた時の話と一緒って事か。


「ムルズ王国の狙いは、神殿が焦ってる所で正面からの会戦を仕掛け、短期決戦で決起した貴族軍と多少の王国軍を全滅させられたところで降伏、その際の条件は戦闘に参加しなかった貴族家や王国の借金の減額ってところか、もちろん他の国には秘密でだろうがな。時間の無い神殿はこれを呑むしかなく、神殿は戦争に勝利し敵対した貴族を壊滅させたという名を、ムルズ王国としては借金が減るという実を取る事になる」


 なるほどね、そう言えばスペースオペラとか戦争物のファンタジーとかでもこんな話が有ったような気がするな。


「一方で、神殿に大義名分が出来れば、何も気にせずにムルズ王国を潰せて借金を取り立てれるって訳だ」


 うーん、大義名分って大事なんだな。でも、戦争なんだよね。


「それでだ、お前への依頼はさっき買った角類のラッテル領までの搬送、そしてその後は婚約式典の賓客としてラッテル領に来る、とある要人の護衛に回ってほしい」


 あれ、さっき『勇者』と戦うかもって言ってたからてっきり戦闘関係の依頼かと思ったけど、もしかしてその要人が『勇者』に狙われてるって事なのかな。まあ、とりあえず話を聞いてみてからかな。


「どう言った内容なんですか、それにそのある要人って誰なんですか」


「相手は、ムルズ王国の第二王女ミーラ・ティア・ムルズ殿下、護衛の期間は、彼女とその一行が神殿側の貴族領に入ってから、ラッテル領に到着して所定の日程を消化して旅立ち、国王直轄領に到着するまでだ」


 は、なんかいきなりとんでもない話が出てきたような気がするんだけど、とりあえず確認してみよう。


「今、王女様の護衛任務って言いましたか」


「そうだ」


「普通、そういった重要人物の護衛なんて言うのは一冒険者にさせる事じゃないと思うんですけど」


 物語なんかじゃよくありそうだけど、どう考えてもおかしいよね。


「まあ、普通はあり得ない話だがな、今回は事情が事情だからな。ラッテル領の戦力はただでさえ元から少ないってのに、内戦の恐れがあるせいで厳戒態勢を取っていて、更に婚約式の警護なんかで手一杯だし。派遣している俺の所の領軍をラッテル領の外で活動させる訳にもいかない、それこそ外交問題になるからな。だからと言って大々的に近衛騎士団が護衛に付いてる状態で迎え入れる訳にも、神殿が聖騎士を派遣する訳にもいかない」


「なんで近衛騎士じゃダメなんですか、というかこの件に関しては神殿は関係ないんじゃ」


「いや、関係は大ありだ、何しろ王女がラッテル領に来る表向きの目的は臣下が外国の大貴族と婚約する事への祝賀だが、本音は式典を執り行うために派遣されてくるライフェル教の要人との会談だ、王女は王宮内でも比較的穏健派、日本風に言うならハト派に属していてな、この会談で王国側の非を認めて謝罪し、決戦になる前に講和したいという狙いが有るらしい。今の神殿と王国の現状を考えれば、王女の護衛、あるいは神殿側の護衛に刺客が混じっているなんて言いがかりのもとに成りかねないからな。神殿にしろ王国にしろ最低限度の護衛しか付けてこない事に成っていて、どちらの息もかかっていない人員として俺やラッテル子爵の雇った冒険者を付けるって訳だ」


 ああ、そういう事ですか、あれでもなんで態々そんなめんどくさいマネするんだろ。


「神官長は『転移』が使えるんですよね、それに普通に考えれば王都にはライフェル教の神殿が有って有力な神官が待機しているんじゃないですか、なんで態々そんな回りくどい形で会談するんですか」


「王都の神殿は厳戒態勢だからな、包囲とまでは行っていないが僧兵と近衛騎士が睨みあってる状況で王族が入っていくわけにはいかないだろうし、神官長にしても何時王国軍が乗り込んでくるかわからない場所へ長時間滞在したりはしない、ついでにあの神殿の責任者は、小麦の値段が高騰した時に公費を流用して投資してたのがばれて罷免されたばかりで、交渉できるような人材が居ないらしい」


「会談の理由は解りましたけど、なんで俺が護衛なんですか、最低限の護衛は王女に付いて来るんですよね」


「最低限じゃ役者不足だからに決まっているだろう。俺の手持ちの中で信用できる冒険者であり不測の事態に対する対応能力が高い人間となればお前は最適だろ、しかもお前の奴隷達の戦闘能力を考えれば、戦力としても十分だしな」


 そりゃうちの子達は強いですけど、今の言い方だと王女が襲われるのはもう確定事項みたいに聞こえるんですけど。


「念のための護衛じゃないんですか、何か襲撃がある事前提みたいな感じなんですけど」


「お互いに戦争をしたがっているこの状況下で、何で王女の訪問が決定できたと思う、王族のスケジュールっていうのは大抵の場合、王宮の官吏が管理している物だ、まあ国ごとに違いはあるから一概には言えんがムルズ王国は宮内局の管轄のはずだ、幾ら王女が和平を望んでいたとしても、国の方針に逆らって講和するような会談に向かう事が許可されると思うか」


 いや、普通は許可しないよな、俺なら何としても妨害しようとするか、まさかそれで護衛が必要って事か。


「まだ気づいていなさそうだな。ならヒントだ第一次世界大戦の原因は何だ、中学の世界史なんかでも出て来る話だが」


「サラエボ事件ですよね。サラエボを訪れていたオーストリアの皇太子夫妻が暗殺され、まさか……」


 さっきまでカミヤさんが話していた、大義名分の話、それでもって今のこのヒントって事は。


「そうだ、ムルズ王国側の狙いは、ラッテル領内での王女暗殺だ、ラッテル家は俺が元勇者という事もあるし、蝗被害から立ち直る際に俺の口利きで神殿からも支援を受けていて、王宮からは神殿よりの貴族だとみなされている、その領内で王女が暗殺されたとなれば、周辺諸国が乗り出すための大義名分としては十分だろうな」


 うわあ、政治恐い、政治恐い。


「それでだ、お前を雇う理由だがただの護衛としての能力だけでなく、お前の対人交渉能力も期待しての事でな、これに関しては神殿も了承している話だ」


 え、何、俺に何をさせようってんですか。


「ライフェル神殿としては、王女に死なれる訳にはいかないが、かといって会談が上手く行っても困る。ここで戦わずに引けば、さっきも言ったとおり他の勢力から舐められて、別な所で戦争に成りかねないからな。会談は決裂して王女殿下には失意のままお引き取り願うというのがこちらの理想だ。その上でお前には王女を護衛している間に、彼女の言動のアラを探して突き交渉においてこちらが有利に話を進めて、講和を破談に出来るような状況を作ってもらいたい。この期間中のお前の立場はただの冒険者ではなく俺の臣下として行動してもらいたい、何だったら神殿から貰ってる『上級僧侶』の立場も使っていいって話になってる」


 マジで言ってるのかこのオッサン。


「何、別に一発でこっちの大義名分に成るような派手な事をする必要はない、相手のチョンボや不用意な捨て牌に直撃させるような感じで、小さな問題を積み重ねてハコテンに追い込んでくれればいいんだ、そう言うのは得意だろ。もちろんさっきの数え役満みたいな感じで、神殿が動くための大義名分が出来ればベストだが」


 いや、得意だけどさ、それってつまりは。


「わたしに戦争を始めるための口実を作れって事ですか」


 だって、戦争だよ、今まで聞いてる分には半分他人事みたいに感じてたけど、この依頼を受けるって事は、俺はその当事者になるって事だし、俺の行動次第で戦争の引き金が引かれかねないって事だろ、そんな事になれば、俺のせいで何千人何万人って人が死ぬかもしれないって事だろ。


「何を甘い事を言っている、もう状況は動いているんだ、別にお前がやらなくても何らかの理由で戦争にはなる。それならより良い形で始めて、終わらせるべきじゃないか。『トロッコ問題』と一緒だ、ムルズ王国の貴族達が動いた段階で戦争になる事はもう避けられない、無理に避けようとすればさっきも言ったように更に被害が大きい事になるからな。だからこそ最小限の犠牲で終わらせようとするのが為政者の役目だ。現状を放置して数万人を死なせる事になるのか、積極的に事態を動かして数千人を死なせるかだ」


 トロッコ問題ってアレか、暴走するトロッコがそのまま行けば五人を轢き殺すけど、線路を切り替えれば一人轢くだけで済む時にどうするかって話だよな。いや、線路を切り替えるんじゃなくて隣に居る人を突き飛ばしてトロッコの進路を止めるっていうのも有ったか。いや現実逃避してる場合じゃないよな。カミヤさんの話をしっかり聞かないと。


「別にこれに対して正義うんぬんを言うつもりはない、これがおとぎ話なら誰も死なずにすべてが丸く収まる選択肢が有るかもしれないし、マンガなら誰か一人の黒幕を殺すだけですべてが解決して終わるのかもしれないが、現実にはそうはいかないんだ」


 確かにそんな都合のいい、うまい話はないだろうけど。


「それに、もしも、ムルズ王国に余力を残した状態で戦争が終われば、間違いなくムルズ王家はラッテル家に手出ししてくるだろう。俺がいる以上は直接的な武力行使と言うのは難しいかもしれないが、政情が不安定な時ほどあの家のスキルは重宝されるからな」


 それは、そうか、そうなるとトーウの為にも俺はカミヤさんに協力した方が良いのか。


「さらに言えば、今回の戦争の原因にはもうお前もかかわっているんだぞ、ムルズの貴族達が借金をする原因になったのは俺の経済攻勢が原因だ、そして俺がそういった行動を取った理由はお前がラッテル領を助けてほしいと依頼したからだ、極論すればお前が俺あての手紙をラッテル家の連中に預けたことがこの戦争の原因かもしれないんだぞ」


 そんな、だけど確かにそう言われれば。


「まあ、こんな論法は詐欺師が他人に責任転嫁するための物だから、まともに受け取られちゃ困るがな」


 え。


「ふん、俺にしろ神官長にしろ、ムルズ王国の連中にしろそれぞれの思惑で好きに動いて、それらが組み合わさった結果が今の現状だ、誰か一人の行動や思惑でこんな事態に成ったなんて考えるのはおこがましいし、誰か一人の行動でこの状況が大きく変わると考えるのもそうだ」


 そう、なのか。


「だがな、複数の思惑で起こった状況なら、複数の人間が同じ思惑で行動すれば多少はマシな方向に持って行く事が出来る。お前はお前の与えられた役割をこなせばいい、後は俺や神官長、その他の連中が引き継いで必要な事をやる。少なくとも人的被害は最小限にするし略奪や虐殺みたいなマネはさせない、もちろんラッテル領にも手出しはさせん」


「そう、ですか」


「どうする、お前が協力できないというのなら別な方策を考えるが、王女が暗殺されれば神殿はムルズ王国を完全に叩くことは出来ず残った兵力がラッテル領に圧力をかける事になるだろうし、もしも会談が上手く行って講和が成ってしまえば結果として世界中の政治・軍事のバランスが崩れ戦乱になりかねない。俺と神官長はお前にこの役をさせれば成功率が高いと思っているが」


 そうだな、もうこの状況下で俺一人の出来る事は限られてる、なら目をそらさないでベストを尽くすべきか。そうだよな、迷った時は自分達の利益や安全を優先するって決めたんだから、トーウの為にもラッテル領の利益になる選択肢を取ろう。


「解りました、やらせてください」


H28年5月23日 誤字修正しました

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