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第6話 初めての依頼

目を開ける。


目の前に、男の顔があった。


禿げた頭。


太い首。


厳つい顔。


近い。


「うわあああああ!?」


飛び起きる。


『朝っぱらからうるせえ!』


「バルド!? なんでいるんだよ!」


『朝飯の時間になっても下りてこねえから起こしに来たんだよ』


「いや、鍵! 鍵かけたよな!?」


『鍵以前にドア開けっぱなしだったぞ……』


「…………」


そう言われて扉を見る。


開いていた。


全開ではない。


でも普通に人が入れるくらいには開いている。


閉めた記憶は――。


ない。


『まあ、よっぽど疲れてたんだな』


「……たぶん」


『そこも「たぶん」なのかよ』


バルドが呆れたようにため息をつく。


『とにかく起きろ。朝飯なくなるぞ』


「それは困る」


『そこだけ反応早えな』


バルドが部屋を出ていく。


俺もベッドから起き上がった。


身体を伸ばす。


「……お?」


昨日あれだけ動いた割には、身体が軽い。


筋肉痛くらいは覚悟していたんだけど。


これもステータスのおかげだろうか。


分からない。


分からないことばかりだ。


とりあえず顔を洗いたい。


……どこで洗うんだ?


部屋を見回す。


当然、洗面台なんてない。


「バルドー!」


廊下へ顔を出す。


下から声が返ってきた。


『今度はなんだ!』


「顔はどこで洗うんだ!?」


少し間があった。


『裏に井戸がある!』


「分かったー!」


宿の裏へ回り、教えられた井戸で顔を洗う。


冷たい。


でも一気に目が覚めた。


昨日と同じ服を着直し、剣を腰に下げる。


荷物は――。


一瞬迷う。


全部持っていく必要はないか。


保存食なんかは部屋に置いておけばいい。


ただ、金を置いていくのは少し不安だ。


結局、硬貨の入った袋だけ持って一階へ下りた。


『やっと来たか』


「そんなに遅くないだろ」


『顔洗う場所聞いてくる奴が何言ってんだ』


「知らないものは仕方ない」


『堂々と言うな』


テーブルにつく。


朝飯はパンとスープ、それに卵らしきものだった。


何の卵かは聞かないことにした。


昨日の肉もそうだけど、知らなくても美味ければ問題ない。


たぶん。


『今日はギルドか?』


「ああ」


パンをちぎりながら答える。


「初めて依頼を受けてみる」


『最初から無茶なやつ選ぶんじゃねえぞ』


「分かってる」


『本当か?』


「そこまで信用ない?」


『昨日一日で十分なくなった』


まだ知り合って半日くらいなんだけど。


失うのが早すぎる。


朝飯を食べ終え、鉄拳亭を出る。


「行ってくる」


『おう』


扉を閉める直前、後ろから声が飛んできた。


『ガッシュ!』


「ん?」


『今度はちゃんと扉閉めろよ!』


「閉めてるだろ!」


確認する。


閉めている。


『ならいい!』


「子供じゃないんだから……」


昨日、開けっぱなしで寝たけど。


中央通りへ出る。


朝の町は、昨日とは少し雰囲気が違っていた。


店を開ける人。


荷車を引く人。


道端に商品を並べ始める商人。


冒険者らしい武装した人間もちらほら歩いている。


この世界にも普通に朝が来る。


当たり前なんだけど。


昨日は何もかもが初めてで、そんなことを考える余裕すらなかった。


今日は少しだけ違う。


泊まる場所がある。


飯も食った。


名前もある。


身分証もある。


そして、仕事もある。


「……よし」


冒険者ギルドへ向かう。


扉を開けると、昨日より中は賑わっていた。


何人もの冒険者が掲示板の前に集まっている。


受付にも列ができていた。


朝はこんな感じなのか。


俺も掲示板へ向かう。


依頼書が何枚も貼られている。


薬草の採取。


荷物運び。


町の外での護衛。


魔物の討伐。


昨日も見たホーンウルフの討伐依頼も残っている。


「さて……」


どれにするか。


昨日1体倒した。


だからホーンウルフなら戦える。


――とは限らない。


昨日は1体だった。


それでも結構危なかった。


複数出てきたらどうなるか分からない。


かといって。


薬草採取。


依頼書を見る。


「……どれが薬草なんだ?」


知らない。


当然だ。


この世界に来て二日目。


薬草なんて見分けられるわけがない。


荷物運び。


これはできそうだ。


でも――。


俺はホーンウルフの依頼書へ目を戻した。


冒険者になった。


魔物を倒せば経験値も入る。


素材も売れる。


それなら。


まずは、昨日やり残したことを覚えるのも悪くない。


依頼書を剥がす。


――ホーンウルフ討伐。


依頼書を持って受付へ向かった。


昨日とは違う受付だった。


『依頼の受注ですか?』


「ああ。これを」


依頼書を渡す。


受付の男性は内容を確認した。


『ホーンウルフの討伐ですね。冒険者登録証をお願いします』


首から下げていた登録証を外して渡す。


受付の男性はそれを、カウンターに置かれた小さな箱の上へ乗せた。


箱の中央には、透明な石が埋め込まれている。


淡い光が一度だけ灯った。


『ガッシュさん。Fランク。問題ありません』


「今ので何してるんだ?」


『登録証に依頼の受注記録を残しています』


「そんなことできるのか」


『依頼を達成した際も、この記録を確認して処理します』


なるほど。


ただの身分証じゃなかったらしい。


『こちら、お返しします』


登録証を受け取る。


『これで受注完了です』


「……おお」


これだけなのに、妙に実感が湧いた。


冒険者になったのは昨日。


でも、登録証をもらっただけだった。


今、初めて仕事を受けた。


『討伐数は3体。期限は3日です』


「3体か」


昨日は1体倒すだけでも苦労した。


いきなり3体同時に相手をするのは無理だと思う。


「3体まとめて倒さないと駄目なのか?」


『いいえ。期限内であれば、1体ずつでも構いません』


それなら何とかなりそうだ。


『討伐したら、角を持ち帰ってください。それが討伐証明になります』


「角?」


『はい。確認後、そのままギルドで買い取ることもできます』


「討伐の報酬とは別に?」


『別です。牙や毛皮なども、状態が良ければ買い取ります』


「じゃあ、持って帰れるなら持って帰った方が得か」


『そうなります』


なるほど。


昨日より一つ賢くなった。


昨日のやつ。


角どころか、全部置いてきた。


……もったいなかったな。


「ちなみに」


『はい』


「ホーンウルフって、どの辺にいる?」


受付の男性が俺を見る。


『……場所も分からず、この依頼を選んだんですか?』


「昨日、町に来る途中で戦って勝てたから」


『なるほど』


少しだけ納得した顔をされた。


『東門から出て、街道を少し進んだ先の草原で目撃されています。ただ、群れで行動することもありますので注意してください』


「群れ……」


昨日、1体でよかった。


本当に。


『討伐依頼を受けたからといって、無理をする必要はありません。危険だと思ったら戻ってきてください』


「分かった」


登録証を首に戻す。


まずは3体。


期限は3日。


無理はしない。


危なくなったら逃げる。


死なないことが最優先だ。


「よし」


ギルドを出る。


昨日は町に入るために通った道を、今日は逆へ向かう。


目指すのは東門。


その先にいる、ホーンウルフ。


昨日は生き残るために戦った。


今日は違う。


今度は俺から魔物を探しに行く。


報酬をもらうために。


経験を積むために。


そして、この世界で生きていくために。


冒険者としての最初の仕事が始まった。

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