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第31話 装備更新

翌朝。


目が覚めて体を起こすと、肩に少し違和感があった。


昨日、ガルディロの突進を受けたところだ。


ラファを使ったおかげで痛みはほとんど引いているけど、腕を大きく回すとまだ少し気になる。


《不動の構え》か……。


確かに踏みとどまれたけど、あれを何度も試すのはやめておこう。


身支度を整え、朝食を食べに一階へ下りる。


すると、ちょうど宿を出ようとしているバルドと鉢合わせた。


「お、バルド。買い出しか?」


『おう。……そうだ、ガッシュ。ちょうどよかった』


「ん? どうした?」


『グレンから伝言だ。頼んでた腕当てができたから、取りに来いってよ』


「おっ、もうできたのか!」


『ああ。昨日伝えようと思ってたんだが、すっかり忘れててな』


「おいおい」


『ははっ、悪い悪い。まあ、今日取りに行ってこい』


「そうするわ。ありがとな」


『おう。じゃあ、俺は買い出しに行ってくる』


バルドは軽く手を上げ、宿を出ていった。


腕当てが完成したのか。


それなら今日は火床工房に行こう。


昨日集めたガルディロの甲殻もあるし、ほかの防具を作れないか相談してみたい。


それと、マジックバッグだ。


昨日はガルディロを6体倒したものの、収納できたのは4体だけだった。


残りの2体を背負って帰るのは、なかなか大変だった。


そろそろ容量の大きいものに買い替えたいところだ。


今日は依頼を受けずに、装備を整える日にしよう。


そう決めて、まずは朝食を済ませることにした。


朝食を終え、火床工房へ向かう。


近づくにつれて、金属を打つ音が聞こえてきた。


相変わらず忙しそうだ。


中を覗くと、グレンが作業台に向かっていた。


「よう、グレン。腕当てができたって聞いたんだけど」


『おう、ガッシュか。ちょうどいいところに来たな』


グレンは手を止め、作業台の脇から何かを取り出した。


『できてるぞ。ほら、着けてみろ』


差し出されたのは、濃い色の甲殻を使った一対の腕当てだった。


ガルディロの甲殻を加工したものらしい。


表面は硬そうだけど、内側には革が張られていて、腕に当たる部分も丁寧に仕上げられている。


言われるまま腕に装着する。


革紐を締めて固定すると、思っていたよりもしっくりきた。


腕を曲げたり伸ばしたりしてみる。


少し重みはあるけど、動かしにくいほどじゃない。


「いいな、これ」


『だろ。硬いところを残しつつ、邪魔になる部分は削ってある。剣を振るなら、肘の動きは大事だからな』


なるほど。


試しに剣を抜こうとしたところで、グレンに止められた。


『おいおい、ここで振り回すなよ』


「あ、悪い」


危ない危ない。


つい嬉しくなってしまった。


『外で試す分には構わんがな。何か当たるようなら持ってこい。調整してやる』


「ありがとな」


これはいい買い物……いや、加工賃はサービスしてもらったんだった。


改めて礼を言う。


『気にすんな。材料はお前が持ってきたんだ。それに、使ってみてどうだったか聞かせてもらえりゃ、こっちも助かる』


職人として、実際に使った感想が欲しいらしい。


それなら、次に狩りへ出たときに確かめてみよう。


「そうだ、グレン。もうひとつ相談があるんだけど」


『なんだ?』


「昨日、またガルディロを狩ってきたんだ。甲殻があるから、ほかの防具も作れないかなと思って」


『ほう。どのくらいある?』


「昨日6体狩ってきたんだ。使えそうな甲殻は残してある」


『……お前、ずいぶん狩ったな。まあ、見せてみろ』


「ちょっと試したいことがあってさ」


マジックバッグから、昨日ギルドで解体してもらった甲殻を取り出す。


討伐証明として確認してもらった後、防具に使えそうなものを残しておいたのだ。


グレンは一枚ずつ手に取り、表面を確かめ始めた。


『こいつはいいな。傷も少ない』


別の甲殻を持ち上げる。


『こっちは端が欠けてるが、加工すりゃ使える』


俺にはどれも似たように見えるけど、グレンには違いが分かるらしい。


『で、何を作りたいんだ?』


「胸当てか、すね当てかな。今の装備だと、守れるところが少ないし」


『ふむ……』


グレンは俺の装備を上から下まで眺めた。


『だったら、まず胸当てだな』


「やっぱり?」


『ああ。ただ、ガルディロの甲殻は硬い分、加工の仕方を間違えると動きにくくなる。お前、剣を使うんだろ?』


「そうだな」


『だったら、大きな甲殻をそのまま胸にくっつけるのは勧めねえ。何枚かに分けて、革に留める形がいい』


なるほど。


昨日覚えた《流刃》も、剣を振った後の動きを滑らかにつなげるスキルだ。


防具が邪魔になって体を動かせなくなるのは困る。


「じゃあ、それで頼めるか?」


『おう。ただ、腕当てより手間がかかるぞ』


「金もかかるってことだよな?」


『当たり前だろ』


グレンが笑った。


そりゃそうだ。


前回の腕当ては加工賃をサービスしてもらったけど、いつまでも甘えるわけにはいかない。


『材料は足りてる。残った甲殻も、すね当てに使えそうな部分はあるな』


「お、じゃあ両方作れる?」


『作れなくはねえが……まずは胸当てを仕上げてからだな。実際に着けてみて、ほかの防具との兼ね合いも見た方がいい』


「なるほど。じゃあ、胸当てを頼むよ」


『分かった。採寸するから、ちょっとこっち来い』


言われるままに立つと、グレンは紐のような道具を使って胸や肩の寸法を測り始めた。


『腕を上げてみろ』


「こうか?」


『そうだ。次は前に伸ばしてみろ』


何度か姿勢を変えながら、必要な寸法を確かめていく。


『よし。これなら作れるな』


「完成はいつ頃になりそうだ?」


『ほかの仕事もあるからな。数日は見といてくれ』


「分かった」


加工賃を確認し、胸当ての製作をお願いする。


余った甲殻は、ひとまず工房で預かってもらうことになった。


『できたら、またバルドに伝えとくぞ』


「おう、助かる」


『それと、腕当ては実際に使ってみろよ。気になるところがあったら遠慮なく持ってこい』


「了解。ありがとな、グレン」


『おう。気をつけてな』


工房を出て、腕当てを眺める。


うん。なかなかいい感じだ。


次の狩りが楽しみになってきた。


次に向かったのは道具屋だ。


目的はもちろん、マジックバッグ。


今使っている小型は、これまで随分と役に立ってくれた。


でも、昨日みたいに魔物を何体も狩ると、どうしても容量が足りなくなる。


今後はもっと大きな魔物を相手にすることもあるだろうし、そろそろ買い替えたい。


店に入ると、見覚えのある店主が声をかけてきた。


『いらっしゃい。お、前にマジックバッグを買っていった兄ちゃんか』


「おう。今日はちょっと買い替えを考えててさ」


『ほう。容量が足りなくなったか?』


「まさにそれ。中型ってあるか?」


『あるぞ。ちょっと待ってな』


店主が棚からいくつかのバッグを持ってきた。


どれも今使っているものより一回り大きい。


『こっちが普通の中型。で、こいつが良質品だ』


「同じ中型でも容量が違うんだよな?」


『そうだ。見た目の大きさが同じでも、魔道具としての出来によって収納量が変わる。良質品はその分、値段も上がるがな』


値札を確認する。


……高い。


普通の中型でも結構な金額だ。


良質品なんて、今の俺には贅沢品だな。


「うーん……」


『予算が合わねえか?』


「買えなくはないんだけど、ほかにも装備を頼んできたばっかりでさ。できれば安く済ませたい」


『なるほどな』


店主が腕を組んで考える。


「そういえば、中古って扱ってないのか?」


『中古か……。ああ、そういや一つあったな』


「あるのか?」


『ちょっと待ってろ』


店主は店の奥へ引っ込んでいった。


しばらくして戻ってくると、カウンターの上にひとつのバッグを置いた。


『こいつだ』


「……ずいぶん使い込まれてるな」


革の表面には細かな傷があり、ところどころ色も薄くなっている。


肩紐にも使用感があって、正直、見た目はあまりよくない。


『だろ? だから売れ残ってんだ』


「でも、これも中型なのか?」


『ああ。しかも良質品だぞ』


「えっ、良質品?」


思わずバッグを見直す。


見た目だけなら、さっきの新品とは比べものにならない。


『元の持ち主が長いこと使ってたらしくてな。外側はこの通りだが、収納機能は問題ねえ』


「故障とかは?」


『買い取るときに確認してある。今も試していいぞ』


「じゃあ、ちょっと見せてもらう」


店主に促され、試しに手持ちの荷物を出し入れしてみる。


収納するときの感覚は、今の小型と変わらない。


取り出すときも問題なし。


見た目が古いだけで、普通に使えそうだ。


「容量はどのくらい違うんだ?」


『普通の中型よりは余裕がある。まあ、良質品だからな』


「なるほど……」


これはいいな。


今の小型よりずっと容量が大きくなるなら、昨日みたいに魔物を背負って帰ることも減るだろう。


それに、見た目なんてどうでもいい。


狩りに持っていけば、どうせ汚れるんだし。


問題は値段だ。


「で、これいくら?」


店主が値段を告げる。


……おっ。


新品の良質品と比べると、かなり安い。


それでも決して安い買い物ではないけど、手が届かない金額じゃない。


「ちなみに、今使ってる小型を下取りしてもらうことってできる?」


『物によるな。見せてみろ』


肩から小型のマジックバッグを外し、店主に渡す。


店主は革の状態を確かめ、収納機能も試していく。


『ふむ。まだ十分使えるな』


「だろ? 大事に使ってたからな」


『多少の使用感はあるが、悪くねえ。これなら買い取れるぞ』


提示された金額を聞き、頭の中で計算する。


中古の中型から、今の小型の下取り額を引く。


……よし。


これなら、胸当ての加工賃を払っても余裕が残る。


「じゃあ、これにする!」


『毎度あり!』


代金を支払い、中型のマジックバッグを受け取る。


今までの小型には世話になったけど、今日からはこいつが相棒だ。


肩に掛けてみる。


紐は少しくたびれているけど、長さを調整すれば問題なさそうだ。


「ありがとな。また何かあったら来るよ」


『おう。今度はいっぱいになる前に来いよ』


「ははっ、そうするわ」


店を出て、新しいバッグを軽く叩く。


見た目はボロいけど、容量は十分。


しかも中古のおかげで安く買えた。


これは掘り出し物だったな。


宿に戻った頃には、夕方近くになっていた。


今日は魔物を一体も倒していないけど、装備の面ではかなり前進した。


ガルディロの甲殻を使った腕当てが完成した。


胸当ても注文できた。


そして、マジックバッグは小型から中型へ。


しかも良質品だ。


部屋に戻り、新しい腕当てを外してベッドに腰を下ろす。


今日はなかなかいい買い物ができたな。


これで次の狩りも、ずいぶん楽になるはずだ。


腕当てを置き、少し休んでから夕食を食べに一階へ下りた。


食事を済ませて部屋に戻ると、バルドから借りている魔物の本を取り出す。


明日は何を狩ろうかな。


ページをめくりながら、まだ戦ったことのない魔物の情報を眺める。


こいつは硬そうだな。


こっちは……なんだか厄介そうだ。


しばらく読み進めていると、ふと思い出した。


「……あ」


そういえば、昨日レベルが上がったんだった。


すっかり忘れてた。


本を脇に置き、ステータスを開く。


【ステータス】

名前:ガッシュ

Lv:7

STR:20

VIT:20

AGI:15

INT:10

未使用ポイント:5


「危ねえ。忘れたまま狩りに行くところだった」


さて、どう振ろうか。


STRやVITを20にしたときは、スキルが習得できるようになった。


だったら、AGIを20にすれば新しいスキルが出てくるんじゃないか?


ちょうど5ポイントあるし、試してみる価値はありそうだ。


でも、STRやVITをさらに伸ばすのも気になる。


次にスキルが増えるのは、25なのか、それとも30なのか。


そもそも、20以降にも新しいスキルがあるのかすら分からない。


「うーん……」


AGIを20にして新しいスキルを狙うか。


STRやVITを伸ばして、次の条件を探ってみるか。


どっちも気になるな。


……まあ、今すぐ決める必要もないか。


「明日の朝、考えよう」


ステータスを閉じ、再び本を手に取る。


もう少しだけ読もう。


そう思ってページをめくっていたけど、いつの間にか文字を追うのも億劫になってきた。


そろそろ寝るか。


本を閉じて脇に置き、明かりを消す。


明日はステータスを振り分けて、それから次の依頼を考えよう。


そう決めて、ベッドに横になった。

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