第30話 実戦検証
翌朝。
いつもより少し早く目が覚めた。
昨日覚えたスキルのことが気になって、なかなか寝つけなかったんだよな。
《流刃》《震脚》《不動の構え》。
名前だけ見ても、実際にどんなものなのかは分からない。今日はこいつらを試してみたい。
朝食を済ませ、装備を確かめながら今日の予定を考える。
狙うのはガルディロだ。以前倒したときに手に入れた甲殻は、火床工房のグレンに預けて腕当てを作ってもらっている。まだ完成品は受け取っていないけど、あの硬さならほかの防具にも使えるかもしれない。
どうせなら追加の甲殻も確保しておきたい。使い道は、腕当てを受け取るときにグレンに相談すればいいだろう。
以前戦ったときは肩に一撃をもらって、かなり痛い思いをした。甲殻も硬くて、なかなか厄介な相手だった。
でも、今はあのときよりステータスが上がっている。新しいスキルを試す相手としてもちょうどよさそうだ。
今日の目的は、甲殻集めとレベル上げ、それからスキルの検証。ギルドの依頼じゃなく、自分の装備のための狩りだ。
準備を済ませ、町の外へ出た。
ガルディロを見つけるまで、それほど時間はかからなかった。
草の間から見える硬そうな背中。地面を這うように動く姿にも見覚えがある。
まずは普通に戦ってみよう。
剣を抜いて近づくと、ガルディロがこちらに気づいた。
体を低くして、まっすぐ突っ込んでくる。
ガルディロの突進は、早めに避けると進路を変えて追ってくる。以前戦ったときに学んだことだ。
ギリギリまで引きつけて……今だ!
横へ飛び退くと、ガルディロは曲がりきれず、そのまま転がっていった。
以前より、相手の動きがよく見える気がする。
振り返ると、ガルディロは少し離れた場所で止まり、こちらへ向き直ろうとしていた。
今なら攻撃できるか? いや、距離がある。追いかけても、近づく前にまた転がってきそうだ。
まずは相手の動きを見よう。
ガルディロが向きを変える。
今度は《流刃》を試してみよう。
……で、どうやって使うんだ?
魔法みたいに名前を唱えればいいのか?
「流刃!」
剣を振る。
特に何も起きない。
いや、何も起きてないように感じるだけかもしれないけど。
もう一度振ってみる。
今度は剣を振り抜いた後、すぐに次の攻撃へ移ろうと意識した。
すると、妙な感覚があった。
剣の勢いを無理に止めず、そのまま次の動きにつなげられる。
おっ?
もう一度。
振り下ろした剣を引き戻すのではなく、流れるように横へ振る。
さっきより動きが滑らかだ。
なるほど。こういうことか。
一撃が強くなるわけじゃないけど、連続して攻撃するときに便利そうだ。
ただ、調子に乗って振り回していたら、ガルディロの突進を避けるのが遅れた。
危なっ!
慌てて横へ飛び退く。
スキルがあっても、相手を見ていなきゃ意味がないな。
ガルディロが向きを変え、再びこちらへ転がってくる。
そうだ。《震脚》を試してみよう。地面を踏み込んで、相手の体勢を崩すスキルだったよな。
ガルディロが迫ってくる。タイミングを合わせて足を上げた。
「震脚!」
勢いよく地面を踏みつける。
……あれ?
何も起きない。
まずい!
ガルディロはまだこちらへ進路を合わせてくる。ギリギリまで引きつけて横へ飛び退くと、すぐ脇を転がっていった。
危なかった……。
名前を言うだけじゃ駄目なのか。
そういえば、魔法を覚えたときも、ただ名前を口にするだけじゃ発動しなかった。大事なのはイメージだったはずだ。
もう一度、ガルディロがこちらへ向きを変える。
今度は、足元から衝撃が広がるところを想像する。地面を伝わった力が、転がってくるガルディロの体勢を崩す。そんなイメージだ。
ガルディロが迫る。
まだだ。もう少し……。
十分に引きつけたところで、強く地面を踏み込んだ。
ドンッ!
足の裏から何かが地面へ流れ込むような感覚がした。
直後、ガルディロの体がぐらりと傾く。
おおっ、成功した!
勢いを失ったガルディロが横倒しになり、地面を転がった。
すかさず近づき、甲殻の隙間へ剣を突き入れる。
ガルディロが暴れたが、今度は逃がさなかった。
しばらくして、動かなくなる。
「よし!」
思わず声が出た。
《震脚》、かなり使えるな。名前を叫ぶんじゃなく、動きと効果をイメージするのが大事らしい。
ただ、今回はうまくいったけど、相手がもっと速かったら危なかった。距離とタイミングには気をつけよう。
それに、《流刃》と《震脚》を組み合わせれば、もっと楽に戦えるかもしれない。
試したいことが増えてきたな。
その後もガルディロを探して戦った。最初の1体を含め、今日の目標は6体だ。
最初はスキルを使うことばかり考えていたけど、何体か相手にするうちに少しずつ落ち着いてきた。
それにしても、STRを上げた効果は思っていた以上に大きい。
以前は甲殻の隙間に剣を突き立てても、全体重をかけて押し込まなければ倒せなかった。それが今では、腕の力だけでも刃を深く突き入れられる。
もちろん、甲殻そのものが柔らかくなったわけじゃない。狙う場所を間違えれば、相変わらず剣は弾かれる。でも、隙間を捉えた後がずいぶん楽になった。
《流刃》は、剣を振った後の動きを意識すると使いやすい。
《震脚》は、相手が踏み込んでくる瞬間に合わせると効果が大きいようだ。
もちろん、毎回うまくいくわけじゃない。
《震脚》を使おうとして踏み込みが遅れ、慌てて避けたこともあった。
《流刃》で攻撃をつなげようとして、甲殻の硬い部分ばかり叩いてしまったこともある。
でも、最初の1体と比べれば、ずいぶん戦いやすくなってきた。
甲殻を傷つけすぎないよう、倒し方にも気を配る。
防具に使うつもりの甲殻を、勢い余って壊してしまったら意味がない。
討伐したガルディロは、マジックバッグへ収納していく。
解体はギルドに任せた方が確実だろう。
5体目を倒したところで、目の前に文字が浮かんだ。
【レベルが7になりました】
おっ、来た!
ようやくレベル7だ。
すぐにステータスを開きたくなったけど、ここはまだ町の外だ。
周囲を確認してから、ひとまず画面を閉じる。
ステータスポイントは帰ってから考えよう。
それより、まだ試していないスキルが1つある。
《不動の構え》だ。
これで5体。甲殻は十分に集まったはずだ。
そろそろ帰ろうと思ったところで、少し離れた場所にガルディロを見つけた。
……最後に、あれを試してみるか。
《不動の構え》。
説明では、衝撃を受けたときに姿勢が崩れにくくなるらしい。
でも、こればかりは実際に攻撃を受けないと分かりにくい。
以前、ガルディロに肩をぶつけられたときのことを思い出す。
あれは痛かった。
できれば二度と食らいたくない。
ただ、今はVITも17から20に上がっている。
たった3だけど、少しは違うかもしれない。
もちろん、真正面から突進を受け止めるつもりはない。
危なそうなら避けよう。
剣を構えて近づくと、ガルディロがこちらへ向きを変えた。
体を低くする。
来る。
足を開いて踏ん張り、《不動の構え》を意識した。
次の瞬間、ガルディロの体が肩にぶつかった。
「いっっってぇ!!」
思わず声が出た。
痛い! めちゃくちゃ痛い!
でも、足は動いていない。
以前は突進の勢いで体を持っていかれたのに、今回はその場に踏みとどまっている。
……あれ?
これ、踏ん張れた分、衝撃をまともに受けてないか?
姿勢が崩れないのはありがたいけど、痛みまで減らしてくれるわけじゃないらしい。
むしろ前より痛い気がする。
いや、これ絶対に痛い!
ガルディロが離れようとする。
考えるのは後だ。
剣を振って牽制し、相手が向き直るところへ《震脚》を合わせる。
ぐらついた隙に踏み込み、甲殻の隙間を狙った。
そのまま倒しきる。
ふう……。
終わった。
肩をさすってみる。
うん。まだ痛い。このまま帰るのも嫌だし、回復魔法を使っておこう。
「ラファ」
肩に意識を向けると、じんわりと温かくなる。しばらくすると、痛みが少し和らいできた。これなら帰るまでにはもう少し楽になるかな。
それにしても、《不動の構え》は使いどころを考えないとな。踏ん張れるのはありがたいけど、あの衝撃をまともに受けるのは勘弁してほしい。
最後のガルディロを倒して、今日の討伐数は合計6体になった。
マジックバッグには4体収納できたけど、さすがにこれ以上は入らない。残りの2体は丸まった状態でロープを巻き、まとめて背負うことにした。
……重い。
それでも、以前よりはずいぶん楽に持ち上げられた。STRを上げた効果は、こんなところでも実感できるらしい。これなら何とか町まで運べそうだ。
これで今日の狩りは終わりだ。
町へ戻り、背負ってきた2体も含め、6体のガルディロをギルドの解体場で引き渡した。
解体を頼み、防具に使えそうな甲殻は買い取りに回さず、手元に残してもらう。残りの素材は買い取ってもらった。
受け取った甲殻を確かめる。これだけあれば、次の防具についてグレンに相談する材料にはなりそうだ。
腕当てができあがったら、また火床工房へ行ってみよう。
今日はなかなか充実していたな。
甲殻は集まったし、レベルも7になった。
《流刃》と《震脚》は、まだ練習が必要だけど使い道が見えてきた。
《不動の構え》も効果は分かった。
肩はまだ少し痛むけど、ラファのおかげでだいぶ楽になった。
……明日は無理に攻撃を受けるのはやめよう。
そんなことを考えながら、宿へ向かって歩き出した。




