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第28話 工房

翌朝。


食堂へ下りると、バルドはいつものように厨房で朝食の準備をしていた。


昨日のガルディロは、あの後バルドが捌いてくれたらしい。


肉は買い取ってもらい、残った甲殻は店の裏に置いてある。


朝食を食べ終えたところで、バルドに声をかけた。


「バルド、昨日の甲殻なんだけど」


『おう。売るか決めたのか?』


「いや。防具にできるなら、それもありかなって」


昨日言われてから考えていた。


今まで防具らしいものは揃えていない。


それでも魔物と戦っている以上、いつまでもこのままというわけにはいかないだろう。


『なら、知り合いの防具職人に見せてみるか?』


「いいの?」


『ああ。火床工房って店のグレンだ。あいつなら素材持ち込みでも見てくれる。使えるかどうかも分かるだろ』


それはありがたい。


「お願いしていい?」


『構わねえよ。場所教えてやる』


バルドから店の場所と職人の名前を聞き、裏に置いてあったガルディロの甲殻をマジックバッグへ入れる。


丸ごとの時と違って、さすがに余裕がある。


朝食代を払い、鉄拳亭を出た。


教えられた火床工房は、鉄拳亭からそれほど離れていなかった。


通りに面した小さな店で、入口の横には革で作られた防具や、金属製の鎧が並べられている。


中へ入ると、革と油の独特な匂いがした。


壁には防具が掛けられ、奥には作業台がある。


その作業台で、男が何か作業をしていた。


「すみませーん」


声をかけると、男が手を止めて顔を上げる。


『ん? 客か。何を探してる?』


「バルドに紹介されて来たんだけど」


『バルド?』


「鉄拳亭の」


『ほう?』


男は手にしていた道具を置き、こちらを見る。


『俺はグレンだ』


「ガッシュです。よろしく」


男は作業台の上を片付ける。


「昨日ガルディロを倒して、甲殻が残ってるから見てもらえって」


『出してみな』


マジックバッグから甲殻を取り出し、作業台へ置く。


男は甲殻を持ち上げ、表と裏を何度か確認した。


『傷が少ねえな』


「木にぶつけて倒したから」


『変な倒し方してんな』


「俺もそう思う」


男は少し笑ってから、甲殻の端を指でなぞった。


『状態は悪くない。これなら使える』


「おぉ!」


『ただ、これ一つで全身どうこうってのは無理だ。補強に使うなら十分だけどな』


全身防具なんて最初から考えていない。


何を守るか。


そう考えて、最初に浮かんだのは腕だった。


ホーンラビットの角を手で逸らしたこともある。


昨日はガルディロの突進を腕から肩に受けた。


思い返せば、戦っている時に腕を使ってどうにかしていることが多い。


もちろん、攻撃を受けないのが一番だ。


でも、毎回そう上手くいくとも限らない。


「腕当てとか作れる?」


『腕当てか。左右なら十分取れるな』


男は甲殻を見ながら、使えそうな部分を指で示していく。


『甲殻だけじゃ使えねえから、革と留め具はこっちで用意する。動かしにくくならねえ程度に外側を補強してやればいい』


「どれくらいかかる?」


金額を聞く。


払えない額ではない。


でも、安いとも言えなかった。


少し考えていると、男が俺を見る。


『お前、まだ新人だろ』


「Fランク」


『やっぱりな』


何がやっぱりなのかは分からない。


男はもう一度甲殻を見てから、少し考える。


『バルドの紹介だ。今後に期待して、今回は加工賃を少し負けてやる』


「いいの?」


『ただし、また面白い素材を手に入れたら俺んとこへ持ってこい。使えるもんなら買うし、お前が使いたいなら加工もしてやる』


なるほど。


ただの親切というわけでもないらしい。


「分かった。それならお願いする」


『よし。腕の太さ測るぞ』


採寸をしてもらい、完成までの日数を聞く。


すぐにできるものではないらしい。


代金の一部を先に払い、残りは受け取りの時ということになった。


店を出て、自分の腕を見る。


まだ何も変わっていない。


それでも、少しだけ装備が増えると思うと楽しみだった。


そのままギルドへ向かう。


中へ入り、いつものように依頼掲示板へ向かおうとしたところで、受付から声をかけられた。


『ガッシュさん、少々お待ちください』


「ん?」


呼ばれた受付へ向かう。


『冒険者登録証をお預かりしてもよろしいですか?』


「いいけど」


何か問題でもあっただろうか。


登録証を渡すと、受付嬢は手元の書類と見比べながら確認していく。


しばらくして顔を上げた。


『お待たせしました。これまでの依頼達成状況を確認し、ガッシュさんのEランクへの昇格が承認されました』


「え?」


思わず聞き返した。


『おめでとうございます』


返された登録証を見る。


登録した時はFだったランクが、Eに変わっている。


「もう上がるんだ」


『依頼の達成数だけで決まるものではありません。ここ数日の活動内容や達成状況、納品物に問題がないことなどを含めて判断しています』


なるほど。


確かに、この町に来てからほとんど毎日依頼を受けている。


ホーンウルフ。


ゴブリン。


リーフ草。


ホーンラビット。


途中で登録証をなくしたりもしたけど、受けた依頼そのものは問題なく終わらせてきた。


「Eランクか」


ランクを上げること自体、そこまで深く考えていたわけじゃない。


依頼を受けて、金を稼いで、レベルを上げる。


今はそれを繰り返しているだけだ。


それでも、一つ上がったと思えば悪い気はしない。


「まあ、先は長いな」


『Eランクから受けられる依頼も増えますので、今後も頑張ってください』


「分かった。ありがとう」


受付を離れ、改めて依頼掲示板の前へ向かう。


昨日まで何度も見ていた掲示板だ。


でも、Eランクになったことで選べる依頼が少し増えている。


見覚えのない魔物の名前。


行ったことのない場所。


今までなら選べなかった依頼が並んでいる。


「さて、どれにするかな」


腕当てが完成するまで、何もしないわけにはいかない。


俺は新しく増えた依頼を、一つずつ見ていった。

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