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第22話 稼ぐために

見本にした一体をバルドに渡し、残った四体を作業台の近くへ並べる。


まずは、さっき見た通りにやってみる。


湯に浸して、少し待ってから毛を引く。


「お」


抜けた。


思っていたより簡単だ。


調子に乗って次々と抜いていくと、横からバルドの声が飛んできた。


『同じところばっかり浸けるな。皮まで煮る気か』


「危な」


慌てて湯から離す。


見ているだけなら簡単そうだったのに、自分でやると加減が分からない。


それでも一体目よりは慎重に、場所を変えながら湯に浸し、毛を抜いていく。


しばらくして、どうにか一体分の毛を取り終えた。


「こんな感じ?」


『まあ、最初ならそんなもんだ』


褒められているのかは微妙だけど、駄目ではないらしい。


残りも同じように処理していく。


四体目を終える頃には、最初よりだいぶ手が止まらなくなっていた。


「よし」


これで毛は全部取れた。


問題はここからだ。


作業台の上に横たわるホーンラビットを見て、さっきから気になっていたことを聞く。


「……内臓ってどうするの?」


バルドがこちらを見る。


『捌けば出るに決まってんだろ』


「それは分かる。出した後」


『食えるもんは使う。使わねえもんは捨てる』


「どれが食える?」


『お前はまだ覚えなくていい』


「なんで」


『見分けもつかねえ奴が適当に食う方が怖えからだよ』


それはそうか。


魔物の種類によって、食べられる部分も違うのかもしれない。


知らないものを適当に口に入れて腹を壊すくらいなら、最初は詳しい人に任せた方がいい。


『今日は肉を傷めねえように出すことだけ覚えろ。売り物にするなら、余計なところを切るな』


「分かった」


バルドに教えられながら、一体ずつ処理していく。


最初の一体は刃を入れる位置が悪くて止められた。


二体目は少しマシ。


三体目、四体目と続けるうちに、ようやく短剣を入れる場所と力加減が分かってきた。


狩る時とは違う。


相手はもう動かないのに、こっちの方が妙に神経を使う。


全部終わった頃には、狩りとは別の疲れが残っていた。


「……終わった」


『遅えな』


「初めてなんだから仕方ないだろ」


『その速さじゃ、外で何体も狩った時に日が暮れるぞ』


「そんなに?」


『慣れりゃ嫌でも早くなる』


そう言われても、今日のところはこれが精一杯だ。


バルドは処理を終えたホーンラビットを見ながら、作業台を軽く叩いた。


『それと、丸ごと持って帰って毎回ここでやる必要もねえ』


「そうなの?」


『近場で数が少ねえなら構わん。だが、何体も狩ったら運ぶだけで邪魔だろ』


今日、嫌というほど分かった。


五体をロープで括って歩くだけでもかなり邪魔だった。

もっと数が増えれば、持ち帰るだけで一苦労だ。


『肉を持ち帰るなら、まず血を抜け。今日みたいにそのまま町まで持ってくるより傷みにくい』


「ほうほう」


『獲物に合わせて切る場所は変わるが、血を抜いてから処理するのが基本だ』


バルドは続けて、毛を取り終えたホーンラビットを指す。


『毛も、町まで丸ごと持って帰らねえなら現地である程度落としていい。水場が使えるなら、水につけながら抜くやり方もある』


「お湯じゃなくても?」


『湯の方が楽だ。だが外で毎回湯を沸かしてられねえだろ。水でもやれるし、必要なきゃ全部綺麗に取ることもねえ』


なるほど。


厨房なら道具も水も火もある。

外では外で、手間と持ち帰る量を考えてやり方を変えるらしい。


『肉が目当てなら、血を抜いた後にその場で捌いて、使う部位だけ切り取って持って帰る手もある』


「肉だけ?」


『皮も骨も内臓も、使わねえなら全部抱えて歩く必要はねえ』


今日の俺は、角だけマジックバッグへ入れて、五体の死体を全部ロープで運んできた。


最初から必要な肉だけにしていれば、帰り道はずっと楽だったはずだ。


「じゃあ、次からそうすればいいのか」


『まだ勝手にやるな』


「え?」


『獲物によって食える場所も、売れる場所も違う。内臓だって使える奴はいるし、逆に触らねえ方がいいもんもある。何が何だか分からねえうちから適当に切り分けるな』


「……そこは覚えてからか」


『そういうことだ』


全部を持ち帰る必要はない。


けれど、何を残して何を捨てるか判断するには、その魔物について知っていなきゃいけない。


ただ倒せるだけじゃ足りないらしい。


今日覚えたホーンラビットなら、次からはもう少し上手くやれる。


血を抜いて、必要なら現地で処理して、持ち帰るものを減らす。


そうすれば、狩れる数が増えても今日みたいに五体をぶら下げて歩かずに済む。

バルドは処理を終えた四体を順番に確認していく。


一体目を見て、少し顔をしかめた。


『こいつは安くなるな』


「やっぱり?」


『切り方が雑だ。肉まで余計に傷ついてる』


二体目。


『これはまあ普通だ』


三体目。


『こっちは悪くねえ』


四体目。


『これは良い感じだな』


同じホーンラビットでも、自分の処理ひとつで値段が変わる。


今日一日で何度目か分からないけど、また金の増減に直結する知識が増えた。


「で、買ってくれる?」


『四体ともな。ただし最初の一体は少し下げるぞ』


「それは仕方ないか」


バルドが金額を告げる。


ギルドで角を渡して受け取った討伐報酬。


道中で採ったリーフ草の買い取り。


それに、今のホーンラビット四体分の肉代。


全部合わせれば、昨日までより明らかに稼げている。


依頼だけを終わらせて帰っていた時とは違う。


途中で採れるものを探して、倒した魔物も使えるところまで金にする。


知っていれば、同じ一日でも増やせる。


「結構いったな」


思わず口元が緩む。


『何ニヤついてんだ』


「いや、今日はちゃんと稼げたなって」


『そうか。じゃあ宿代払え』


「…………」


忘れてた。


いや、忘れてはいない。


忘れてはいなかったけど、今言わなくてもいいだろ。


バルドは当然のように手を出している。


「今日も一泊で」


『毎度あり』


さっき増えた金が、すぐに減った。


食事込みで寝る場所まで確保しているんだから、必要な金だ。


それでも、手元の金を見れば昨日よりは残っている。


バルドがカウンターの下を探り、一冊の古びた本を取り出した。


『ほらよ。これでも読んで勉強しとけ』


差し出された本を受け取る。


表紙には魔物の名前らしき文字と、その横に簡単な絵が描かれていた。


「え、こんな便利な本もらって良いの?」


『やるとは言ってねえ。貸してやるんだ。売ったり無くしたりすんじゃねえぞ?』


「分かってるって」


ページをめくると、ホーンラビットも載っていた。


血抜きの仕方から肉の取り方まで、さっき教わったことが簡単な絵と一緒に書かれている。


他のページにも、この辺りで見かける魔物の名前や、売れる素材、食べられる部位、処理する時の注意が並んでいた。


『ちゃんと処理して持ってくるなら、こっちも安く肉が仕入れられる。お前も売り先を探す手間が減る。悪い話じゃねえだろ?』


「なるほど。お互い得ってことか」


『そういうことだ』


借り物なら、無くさないように気をつけないといけない。


でも、これがあれば毎回誰かに聞かなくても、狩った魔物のどこに価値があるのか自分で確認できる。


依頼の報酬だけを見るんじゃない。


道中で拾えるもの。


魔物のどこに価値があるのか。


持ち帰った後、どう処理すれば値段を落とさずに済むのか。


そして、稼いだ後にも宿代や食費はかかる。


冒険者になって六日目。


ようやく少しだけ、稼ぐってことが分かってきた気がする。

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