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第21話 素材の価値

厨房へ入り、ロープでまとめていたホーンラビットを作業台の近くへ下ろす。


バルドは一体ずつ持ち上げ、傷の具合を確かめていった。


『……血が抜け切ってねえな』


「血?」


『倒してから何もしてねえだろ』


「角切ったくらいだけど」


『肉を売るつもりなら、血抜きくらいは覚えとけ。時間が経てば味も落ちる』


そこまで考えていなかった。


倒して、持って帰れば売れる。それくらいにしか思っていなかった。


「途中から、素材も売れるかなと思ってさ。なるべく毛皮を傷つけないように狩ってみたんだよ」


『素材?』


「毛皮。せっかくだし、処理の仕方教えてくれない?」


自分で剥げるようになれば、次からはそのまま売りに行ける。


今後も魔物を狩るなら、覚えておいて損はないはずだ。


バルドは俺とホーンラビットを交互に見ると、小さく息を吐いた。


『……仕方ねえな。一回しかやらねえから、よく見とけ』


「お、ありがとう」


俺は腰の短剣に手を伸ばした。


どこから刃を入れるのか。

どうすれば毛皮を傷つけずに剥がせるのか。


せっかく教えてもらえるなら、しっかり覚えておきたい。


バルドは一体のホーンラビットを作業台へ置くと、大きめの鍋を取り出した。


水を入れ、火にかける。


「…………」


毛皮を剥ぐのに湯を使うのか。


皮と肉の間を剥がれやすくするとか、何か意味があるんだろう。


分からない以上、黙って見ているしかない。


やがて湯が沸くと、バルドは火を少し弱めた。


そしてホーンラビットを掴む。


そのまま、湯の中へ入れた。


「…………」


完全に沈めるわけではない。


少し浸しては引き上げ、場所を変えてまた浸す。


全体に湯が回ったところで、バルドはホーンラビットを作業台へ戻した。


俺は短剣へ手を伸ばす。


ここからか。


そう思って見ていると、バルドが毛を摘まんだ。


そのまま引っ張る。


ごそっと抜けた。


「…………」


もう一度。


ごそっ。


さらにもう一度。


ごそっ。


バルドは無言で毛をむしり始めた。


俺も無言で見ていた。


凄く手際が良い。


湯に浸したからなのか、毛が面白いくらい簡単に抜けていく。


バルドの手が動くたび、ホーンラビットから毛が消えていった。


俺が想像していた毛皮の処理とは、だいぶ違うけど。


しばらくして、作業台の上には綺麗に毛を取り除かれたホーンラビットが横たわっていた。


バルドはそれを軽く水で洗う。


『こんなもんだ』


「……終わり?」


『終わりだ』


「皮は?」


『ついてるだろ』


「いや、そうじゃなくて」


毛のなくなったホーンラビットを見る。


確かに皮はついている。


そういう意味じゃない。


「売る方の皮」


バルドの手が止まった。


『……お前、これの皮を売るつもりだったのか?』


「そのつもりで、なるべく傷つけないように狩ってたんだけど」


『誰に』


「え?」


『この皮だけを誰に売るんだ?』


そこまでは考えていなかった。


ギルドとか、素材を扱う店とか。


魔物の毛皮なんだから、どこかで買い取ってもらえるものだと思っていた。


俺が答えられずにいると、バルドが呆れたように鼻を鳴らした。


『ホーンラビットの皮なんざ、わざわざ剥いで買う奴はほとんどいねえぞ』


「……マジで?」


『薄いし、小せえし、大した値もつかねえ。角なら使い道があるし、肉も食える。こいつはそっちが主だ』


言われてみれば、ホーンラビットは普通のウサギより多少大きい程度だ。


大きな一枚革が取れるわけでもない。


『お前だって鳥を獲って、わざわざ皮だけ売りに行こうとは思わねえだろ』


「あー……」


その例えで、ようやく分かった。


魔物だからといって、身体の全部に価値があるわけじゃない。


需要がなければ売れない。


考えてみれば当たり前の話だ。


「俺、毛皮傷つけないように頑張ってたんだ……。」


『知らねえよ』


即答された。


二体目なんて、毛皮を傷つけないようにしようとして余計に手間取った。


三体目からは首を狙って、かなり上手く倒せたと思っていたのに。


『まあ、無駄ってわけでもねえ』


「ん?」


バルドが毛を抜き終えたホーンラビットを持ち上げる。


『肉を売るにしても、腹まで滅茶苦茶に斬られてるより綺麗な方が扱いやすい。食える部分まで潰されたら、その分は捨てるしかねえからな。皮だって揚げりゃうめえぞ』


「確かに。」


『それに、毛皮にちゃんと値がつく魔物もいる。そういう奴を狩るなら、傷を減らす意味はある』


考え方そのものが間違っていたわけじゃない。


相手を間違えただけだ。


『魔物なら何でも金になると思うな。角が売れる奴もいりゃ、牙が売れる奴もいる。毛皮が高く売れる奴もいるし、肉なんざ食えたもんじゃねえ奴もいる』


魔物によって、価値のある部分が違う。


依頼を受けて、倒して、討伐証明を持ち帰れば終わり。


最初はそれだけだと思っていた。


けれど、金を稼ごうとすれば、その先まで知らなきゃいけない。


何が売れるのか。


どこへ持っていけばいいのか。


どう倒せば価値を落とさずに済むのか。


知っているかどうかで、同じ一体を倒しても稼ぎは変わる。


『で、こいつはどうする』


バルドが、毛を取り終えた一体を指した。


「どうするって?」


『こいつは俺が処理した。今日の飯に使うなら引き取ってやる』


「じゃあ、これはお願いする」


『残り四体は?』


まだ毛の生えたホーンラビットを見る。


ここまで教えてもらったなら、自分でやってみたい。


「残りは自分でやってみる」


『好きにしろ』


「ちゃんとできたら買ってくれる?」


『状態見てからな』


「厳しいな」


『金払うんだから当たり前だ』


目の前には、湯の入った鍋。


その横には、まだ毛の生えた四体のホーンラビット。


俺は袖をまくった。


狩るところまでは、少しずつ慣れてきた。


次は、持ち帰った後だ。


まずはさっき見た通り、湯に浸すところからやってみよう。


うまく処理できれば、この四体も買い取ってもらえる。


稼ぐって、思っていたより覚えることが多い。


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