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第20話 金策の実践

町を出て、南東方面へ向かうため、まずは南へ続く街道を歩く。


しばらくはこの道を進み、途中から南東へ向かうつもりだ。

受付の話では、リーフ草は町の南から南東にかけて比較的よく生えているらしい。

ホーンラビットも南の街道沿いで討伐依頼が出ている。


今日は魔物だけを探せばいいわけじゃない。

街道の先だけでなく、道端の草にも目を向けながら歩く。


細長い葉と、根元の赤み。


受付で見せてもらった形を思い出していると、それらしい草はいくらでも目に入ってきた。


問題は、本当にそれがリーフ草なのかということだ。


「……これ、違うよな」


しゃがみ込み、一本の草を見る。

葉の形は似ている気がするが、根元は赤くない。


分からないものは持ち帰らない。


受付で言われたばかりだ。


俺はその草から手を離し、また歩き始めた。

金になると分かった途端、道端の草まで全部それらしく見えてくるから困る。


しばらく進んだところで、今度は足を止めた。


街道から少し外れた場所に、見覚えのある形の草がまとまって生えている。

細長い葉。

根元に近づくにつれて、うっすら赤い。


「これじゃないか?」


一本だけで判断せず、受付で見たものを頭の中で思い返す。

葉の形も、赤みの位置も同じに見える。


たぶん、リーフ草だ。


腰から昨日買った短剣を抜く。

全部抜かず、根を残す。

教えられた位置に刃を当て、茎を切った。


切り取った草を手に取ってみる。


ただの草にしか見えない。

これが金になるらしい。


「……地味だな」


魔物を倒して報酬をもらうのとは、ずいぶん違う。

けれど、こういう地味な積み重ねも金になるなら馬鹿にはできない。


近くに生えているものも、特徴を一つずつ確認してから採っていく。

採ったリーフ草はなるべく潰さないようにまとめ、小さなマジックバッグへ入れた。


まだ容量には余裕がある。


採取を続けながら街道を進んでいると、不意に草むらが揺れた。


足を止める。


今までの草とは違う。

明らかに何かがいる。


剣へ手を伸ばしたところで、草むらから小さな影が飛び出した。


灰色の毛。

長い耳。

額から前へ伸びた一本の角。


「あれがホーンラビットか」


名前の通りだった。


大きさは普通のウサギより一回り大きいくらいだろうか。

ホーンウルフやゴブリンと比べれば、見た目の怖さはない。


だからといって、油断していい相手でもない。


ホーンラビットはこちらを見たまま動かない。

逃げるのかと思った次の瞬間、地面を蹴った。


「速っ!」


小さな身体が一気に距離を詰めてくる。

額の角をこちらへ向け、そのまま突っ込んできた。


身体を横へずらす。


角が服の脇を抜けた。


そのまま通り過ぎるかと思ったが、着地したホーンラビットはすぐに向きを変える。


速い。

けれど、動き自体は単純だ。


もう一度こちらへ走り出す。


今度は避けるだけじゃない。

突っ込んでくる軌道を見て、半歩ずれる。

すれ違う瞬間に剣を振った。


手応え。


ホーンラビットが地面を転がる。


すぐに剣を構え直したが、起き上がってはこなかった。


「……よし」


思ったより速かった。

初見で真正面から受けようとしていたら、角を食らっていたかもしれない。


小さいから弱い、とは限らないらしい。


倒れたホーンラビットへ近づく。

剣で斬ったのは胴の横。

仕留めることはできたが、毛皮にはしっかり傷が入っている。


「状態が良ければ、か」


受付の言葉を思い出す。


討伐するだけならこれでいい。

でも、素材として売るなら話は別だ。

毛皮も肉も、傷が少ない方がいいに決まっている。


次からは倒し方も考えた方がよさそうだ。


討伐証明になる角を、根元から短剣で切り取り、マジックバッグへ入れる。

それから死体をマジックバッグへ入れようとして――手が止まった。


「……これ、リーフ草と一緒に入れていいのか?」


血の付いた魔物の死体と、薬の材料として売る草。


考えるまでもなく、あまりよろしくない気がする。


マジックバッグの中で物がどう収まっているのかは、いまだによく分かっていない。

容量以上の物が入ることは分かっているが、血や汚れまで都合よく無視してくれるとは限らない。


試してから後悔する必要もないだろう。


とはいえ、採取用の袋なんて持ってきていない。


少し考えたが、使えそうなものは持っていない。


「……採取用の袋、買っとけばよかったな」


道具を揃えたつもりでも、実際にやってみると足りない物が出てくる。


今あるのは、剣と短剣、水袋、ロープ、それに小さなマジックバッグ。

リーフ草はこのままバッグに入れておくとして、ホーンラビットの死体は外で運ぶしかなさそうだ。


バッグからロープを取り出す。

死体を落とさないように括りつけ、持ち運べるようにした。


見栄えはよくないが、薬草と血まみれの死体を一緒に入れるよりはいい。


「ロープ買っといてよかった……」


次に町で買い物をする時は、採取用の袋も忘れないようにしよう。


ホーンラビットを括ったロープを持ち、再び歩き始めた。


それからしばらくして、二体目を見つけた。


今度は最初から、毛皮をなるべく傷つけないことを意識する。


突進を避け、剣を振るう。


――外した。


「うおっ」


仕留め方を気にした途端、さっきより動きが鈍くなった。

ホーンラビットが方向を変え、もう一度突っ込んでくる。


今度は無理に狙わず、確実に避けてから斬る。


倒すことはできた。


ただし、また胴に傷が入った。


「難しいな」


命を取られないことが一番だ。

売値を気にしすぎて怪我をしたら意味がない。


それでも、何度かやれば慣れるかもしれない。


二体目も処理し、一体目と一緒にロープへ括ってから、さらに南東へ進む。


途中でリーフ草を見つければ足を止め、特徴を確認して採取する。

似た草も何度か見つけたが、少しでも自信がなければ手を出さなかった。


その後、三体目のホーンラビットと遭遇した。


今度は突進の速さにもだいぶ目が慣れている。

最初の一撃をかわし、向きを変える瞬間を狙う。


剣ではなく、短剣を手にした。


身体へ大きな傷をつけないよう、近づいて首元を狙う。


少し危なかったが、今度はさっきまでよりずっと小さな傷で仕留めることができた。


「お、これならいいんじゃないか?」


誰に見せるでもなく、死体を確認する。


毛皮はかなり綺麗に残っている。

肉への傷も少ないはずだ。


一体目より、たぶん高く売れる。


そう思うと、ただ倒せた時とは別の嬉しさがあった。


四体目は二体同時だった。


草むらの左右から飛び出してきた時は少し焦ったが、ゴブリン三体を相手にするよりは動きが読みやすい。


一体の突進を避け、そのままもう一体との間に距離を作る。


一匹ずつ相手にすればいい。


最初の一体を倒し、残った一体も仕留める。


どちらも無傷とはいかなかったが、最初に倒したものより状態は良い。


これで五体。倒すたびに切り取った角も、討伐証明としてマジックバッグへ入れてある。


まだ探せばいるだろう。


俺自身も、もう少しなら戦える。


けれど、持ち帰る荷物を考えると話は別だった。


ロープに括ったホーンラビットが五体。

一体ずつは小さくても、まとめて運ぶとなればさすがに邪魔だ。


「……これ以上はきついな」


狩るだけなら、まだ続けられる。

けれど、倒した後に町まで持ち帰れなければ意味がない。


マジックバッグにはリーフ草と五本の角を入れているし、死体まで一緒にするつもりもない。

となれば、今日はここが持ち帰れる量の限界だ。


大きなマジックバッグがあれば話は変わるんだろうけど、値段を思い出してその考えはいったん横へ置いた。


今は、今ある物で稼ぐしかない。


帰り道でもリーフ草を探し、見つけた分を追加で採取する。

採ったリーフ草も十分な量になったところで、こちらも切り上げた。


町へ戻る頃には、ロープに括った五体のホーンラビットがかなり邪魔になっていた。


一体一体はそれほど大きくない。それでも五体まとめて運ぶとなれば話は別だ。

歩くたびに揺れるし、何度か持ち直しているうちに腕も疲れてくる。


ギルドへ戻り、受付へ向かう。


『お帰りなさい、ガッシュさん』


「ホーンラビットと、リーフ草。両方ある」


まず討伐証明を出す。


職員が数を確認し、受注記録と照らし合わせていく。


『五体ですね。問題ありません』


「あと、これも見てほしい」


マジックバッグから採ってきたリーフ草を取り出す。


職員は一本ずつ手に取り、葉と根元を確認した。


『……はい。すべてリーフ草で間違いありません』


その言葉を聞いて、少し安心した。


「よかった。似たやつ多すぎるんだよ」


『最初に欲張らなかったのは正解ですね。ただ、リーフ草は珍しいものではありませんので、買い取り額はそれほど高くありませんよ』


実際、提示された金額はホーンラビット五体分の討伐報酬と比べれば、かなり安かった。


まあ、そうだよな。


町の近くに普通に生えていて、見分け方さえ覚えれば俺でも採れる草だ。

これだけ集めて大金になるなら、みんな魔物なんて狩らずに草を摘んでいる。


それでも、魔物を探して歩くついでに拾ったものが金になるなら十分だ。


受付に、持ち帰った五本の角を並べる。


『五体分ですね。確認しました』


職員は角を回収し、ホーンラビット五体分の討伐報酬とリーフ草の買い取り代金を用意する。


角は討伐証明としてギルドに渡す決まりだが、ロープに括ったホーンラビットの死体は、そのまま俺の手元に残っている。


肉や毛皮は依頼の対象ではない。


肉はギルドでも買い取ってもらえるらしいが、今日はバルドに聞いてみるつもりだった。


一回の外出で、依頼報酬と採取品の買い取り。

さらにホーンラビットの肉まで売れれば、もう一つ収入が増える。


昨日考えていた金策が、ちゃんと形になり始めている。


「ありがとう」


報酬をしまい、ホーンラビットを連れてギルドを出る。


そのまま鉄拳亭へ戻った。


扉を開けると、いつものようにバルドがいる。


『おう。今日はずいぶん早いな』


「ちょっと聞きたいんだけどさ」


『なんだ』


「ホーンラビットの肉って買う?」


バルドの目が、俺の肩に掛かったマジックバッグへ向いた。


『……何匹持ってきた』


「五体」


『お前、今度はちゃんと売るつもりで持ってきたんだろうな?』


一瞬、ホーンウルフを丸ごと持ち込んだ時のことを思い出す。


「今回はちゃんと理由がある」


『今回は、な』


余計なところを強調された。


バルドは厨房の奥を顎で示した。


『出してみろ。状態見てからだ』


どうやら、買ってもらえる可能性はあるらしい。


依頼をこなすだけじゃない。

道中で薬草を採って、魔物の素材も売る。

売る相手だって、ギルドだけとは限らない。


同じ一日でも、やり方次第で稼ぎは増やせる。


昨日考えていた金策が、ようやく少しだけ形になった。

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