第19話 採取
翌朝。
朝食を済ませ、俺は冒険者ギルドへ向かった。
昨日決めた通り、今日は依頼を受ける前に聞いておきたいことがある。
薬草や、売れる素材についてだ。
ギルドへ入ると、朝ということもあって中はそれなりに混んでいた。
依頼掲示板の前には何人かの冒険者が集まり、受付にも列ができている。
俺も最後尾に並び、順番を待った。
やがて見慣れた男性職員の前まで進む。
『おはようございます、ガッシュさん。本日は依頼ですか?』
「その前に、ちょっと聞いていい?」
『もちろんです。何でしょう?』
「薬草とか、採って持ってくれば買い取ってもらえるものってある?」
職員は少しだけ目を細めた。
『ありますよ。採取依頼として常時受け付けているものもあります』
「やっぱりあるんだ」
昨日バルドに聞いておいて正解だった。
『ただし、種類を正しく見分けられることが前提です』
「そこなんだよなー」
俺は植物に詳しくない。
この世界に来る前だって、道端の草を見て名前を当てられるような人間ではなかった。
まして、ここは異世界だ。
似たような見た目の毒草でも混ざっていたら笑えない。
「初心者でも分かりやすいやつってない?」
『でしたら、まずはリーフ草でしょうか』
「リーフ草?」
そのまんまな名前だ。
『ちょうど先ほど、別の冒険者から買い取ったものがあります』
職員はそう言って、受付の脇に置かれていた小さな木箱を手元へ引き寄せた。
中には、まだ乾燥させていない緑色の草が何本か入っている。
『これです。町の南から南東にかけて、比較的よく生えています』
葉は細長く、根元に近い部分がわずかに赤い。
見た目だけなら、その辺に生えていそうな草にしか見えない。
「これが薬草?」
『薬の材料の一つになります。珍しいものではありませんが、需要があるのでギルドでも買い取っています』
「いくらくらい?」
『状態にもよります。傷んでいたり、根を乱雑に切っているものは値が下がります』
やっぱり、引っこ抜けば終わりというわけでもないらしい。
「採り方もあるのか」
『あります。全部抜いてしまえば次が生えませんからね。根を残して、必要な部分だけ採取してください』
職員は一本を手に取り、採る位置を指で示してくれた。
昨日買った短剣が、早速役に立ちそうだ。
「似た毒草とかは?」
『あります』
即答だった。
「あるのかよ」
『ですから、最初は欲張らないことです。分からないものは持ち帰らない。リーフ草も、根元の赤みと葉の形を必ず確認してください』
なるほど。
金になると聞いて、そこら中の草を袋に詰めるところだった。
危ない。
「じゃあ今日は、それを探しながらできる依頼がいいな」
『でしたら南東方面ですね。ゴブリン討伐も引き続き出ています』
ゴブリンか。
五体倒したことのある相手だ。
今なら三体くらい同時でも、たぶんなんとかなる。
「他には?」
『南の街道沿いでは、ホーンラビットの討伐も受け付けています』
「ホーンラビット」
名前からすると、角の生えたウサギだろうか。
ホーンウルフの次はホーンラビット。
この世界の命名規則は、案外分かりやすいのかもしれない。
「強さは?」
『単体ならホーンウルフより下です。ただ、小さく素早いので仕留め損ねることはあります』
「報酬は?」
『討伐証明を持ち帰っていただければ、倒した数に応じて報酬が出ます』
「討伐証明って、どこ?」
『ホーンラビットの場合は角です。根元から切り取って持ち帰ってください。提出された角は討伐証明としてギルドで回収します』
「角は返ってこない?」
『はい。その分も含めた討伐報酬になっています。肉や毛皮は依頼の対象ではありませんので、そちらは自由にしていただいて構いません』
肉や毛皮も状態が良ければ買い取り対象になるらしい。
『肉はギルドでも買い取りますが、肉屋へ直接持ち込むこともできますよ。店によっては、こちらより高く買うこともあります』
「肉屋でも買ってくれるんだ」
『ええ。ただし、その場合はご自分で店と交渉してください』
なるほど。
ギルドに持ち込む方が楽だが、直接売った方が高くなることもあるらしい。
そういえば、バルドはどうなんだろう。
宿で飯を出しているんだから、肉を使うことはあるはずだ。
帰ったら聞いてみてもいいかもしれない。
さらに南の街道周辺なら、さっきのリーフ草も見つかる。
悪くない。
ゴブリンなら経験がある。
でも、せっかく金の稼ぎ方を増やそうとしているんだ。
同じ相手ばかり狩るより、今のうちに別の魔物についても知っておきたい。
「じゃあ、ホーンラビットの依頼を受ける」
『分かりました。では、こちらの依頼ですね』
職員が掲示板から該当する依頼書を持ってくる。
俺は登録証を渡し、受注の手続きをしてもらった。
手続きを待つ間に、ふと思い出した。
「そういえば、東の森は?」
職員の手が一瞬止まる。
『現在も調査中です。制限も継続しています』
「まだ何も分かってない?」
『少なくとも、解除できる状況ではありません』
詳しく話すつもりはないらしい。
ダリオたちも調査に行っているはずだ。
少し気にはなる。
けれど、俺が今できることはない。
東へ行く理由もないし、危険だと言われている場所へわざわざ近づくつもりもなかった。
受注処理を終えた登録証を受け取る。
「ありがとう」
ギルドを出る。
今日やることは、ホーンラビットを狩ること。
売れる素材が取れるなら、できるだけ傷めずに持ち帰る。
そして道中でリーフ草を探す。
討伐だけしていた時より、やることが増えた。
その分、持ち帰れる金も増えるかもしれない。
腰の剣と短剣を確認し、小さなマジックバッグを肩に掛け直す。
まずは南の街道へ向かおう。




