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第18話 金策

鉄拳亭に戻る頃には、すっかり腹が減っていた。


魔法の講習を受けて、その後は町を歩き回って買い物。


魔物と戦ったわけでもないのに、今日は妙に疲れている。


扉を開けると、いつものようにバルドがいた。


『おう。今日は何も担いでねえな』


「毎回担いでくると思うなよ」


『お前ならそのうち、もっとでけえの持ってきそうだからな』


初日にホーンウルフを宿まで持ってきたことは、まだ忘れてくれないらしい。


部屋へ戻る前に食事を頼み、空いている席に座る。


しばらくすると料理が運ばれてきた。


食べながら、今日使った金のことを考える。


魔法の講習代。


短剣。


水袋。


ロープ。


必要だと思って買ったものばかりなので、無駄遣いをしたつもりはない。


それでも金は減る。


中型のマジックバッグはまだ買えそうにないし、武器屋で見た剣も高かった。


防具だって、いつかはちゃんとしたものが欲しい。


欲しいものを挙げればきりがない。


となれば、稼ぐしかない。


そこで、昔やっていたゲームのことを思い出した。


金が必要になった時、何をしていたか。


まず思いつくのはクエストだ。


魔物を倒すものもあったが、それだけじゃない。


荷物を届けたり、誰かに話を聞いたり、代わりに何かを買ってきたり。


町の中を走り回るだけで終わるものも結構あった。


危険も少ない。


今の俺には、むしろそういうものの方がありがたい。


ちょうど近くを通ったバルドに声をかける。


「バルド、お使いクエストとかないの?」


『おつかい……くえすと?』


バルドが足を止めた。


やっぱりクエストは通じないらしい。


「物を届けたり、誰かに話を聞いてきたり、代わりに何か買ってきたり。そういう簡単な依頼」


『クエストってのは知らんが、お使いなら分かるぞ』


「そういうので金もらえたりしない?」


『……誰が払うんだ?』


「頼んだ人?」


『町の中をちょっと歩くだけでか?』


言われてみれば、その通りだ。


ゲームでは当たり前だった。


町へ行けば誰かしら困っていて、少し手伝えば金や経験値がもらえた。


隣の家に物を届ける。


近くの店で何か買ってくる。


少し離れた場所にいる誰かへ話を聞きに行く。


今考えると、自分で行けば済むようなものもかなり多かった気がする。


『そんな裕福な町、聞いたことねえよ』


「……だよなあ」


現実は厳しい。


『遠くの村まで荷物を届けろとかなら仕事になるだろうけどな』


バルドはそう言って、近くの席から空いた皿を回収する。


『店を何日も空けられねえ奴もいるし、途中で魔物が出るような場所なら誰かに頼む意味もある。町の中で済む用事なら、自分で行くか家族にでも頼むだろ』


金を払って他人に任せるだけの理由があるかどうか。


考えてみれば当たり前の話だ。


ゲームの中では、俺に仕事をさせるために誰かが困っていてくれた。


この世界では、そんな都合よく困っている人が町中に立っているわけじゃない。


それなら、他に使えそうな金策はないだろうか。


ゲームでは、金を稼ぐ方法にも色々あった。


クエストを回す。


魔物を狩る。


手に入った素材や装備を売る。


採取する。


物を作って売る。


安く買って、高く売る。


この世界でも、ホーンウルフの素材は売れた。


なら、魔物を倒して手に入る物を売るという考え方自体は間違っていない。


そこで一つ気になった。


「バルド」


『今度はなんだ』


「魔物を倒したら、武器とか防具が手に入ることってある?」


バルドが怪訝そうな顔をする。


『……そいつが持ってりゃな』


「だよな」


『当たり前だろ。何も持ってねえ魔物から、どうやって剣が出てくるんだ』


ゲームでは出てきた。


狼みたいな魔物を倒して、剣や鎧が手に入ることだってあった。


今考えると、あの剣や鎧は一体どこに入っていたんだろう。


『ゴブリンだって刃物くらい持ってるだろ?』


「持ってたけど、錆びてたよ」


『じゃあ、お前あれ買いたいか?』


あの錆びた短剣を思い出す。


「いらない」


『そういうことだ。まあ、屑鉄としてなら多少の足しにはなるかもしれねえけどな』


「屑鉄でも売れるの?」


『量と状態次第だ。鍛冶屋が引き取ることもある。一本二本拾って大儲け、なんて話じゃねえぞ』


なるほど。


武器として価値がなくても、材料としての価値までなくなるわけではない。


ただ、何でも持って帰ればいいという話でもなさそうだ。


俺のマジックバッグは小さい。


大して金にならない物で容量を埋めれば、もっと価値のある物を持ち帰れなくなるかもしれない。


何を持ち帰るかも考える必要がある。


ゲームなら、拾える物はとりあえず拾って、いらなければ後で売ればよかった。


この世界では、そう簡単にはいかないらしい。


となると、今の俺にできそうなことは限られてくる。


安く買って高く売るのは、この世界の相場をろくに知らない俺には危険だ。


生産も無理。


鍛冶なんてできないし、薬の作り方も知らない。


狩りはもうやっている。


依頼の報酬に加えて、売れる素材が手に入る魔物なら収入も増える。


それなら、もう一つ。


採取はどうだろう。


それでも何か、もう少し効率よく稼ぐ方法はないだろうか。


ゲームとまったく同じにはならなくても、考え方くらいは使えるかもしれない。


一日外に出て、依頼を一つ終わらせて帰ってくる。


その途中で金になるものを集められれば、同じ時間でも持ち帰れるものは増える。


今日、採取や解体に使うための短剣を買ったばかりだ。


問題は、何を採れば金になるのか知らないこと。


「バルド」


『まだあんのか』


「その辺に生えてるもので、売れるものってある?」


『その辺の草むしって金になるなら、町の周りはとっくに禿げてるぞ』


「なんで全部否定から入るんだよ」


『知らねえ奴が楽して稼ごうとしてるからだ』


ぐうの音も出ない。


バルドは皿を厨房へ置いて戻ってくると、今度は少し真面目に答えた。


『薬草だの、食える実だの、売れるもんはある』


「あるんじゃん」


『あるからって何でも採ってくんな。似たような草でも使えるのと使えねえのがあるし、食えると思って毒でも持って帰ってきたらどうすんだ』


それもそうだ。


植物なんて、この世界に来る前から詳しくない。


ましてここは異世界だ。


見た目だけで判断するのは危なすぎる。


『そういうのはギルドで聞け。冒険者が採ってくるもんなら、あそこが一番分かってるだろ』


確かに。


受付の男性なら、何が売れるのか知っているはずだ。


常に買い取っているものがあるかもしれないし、採取の依頼だってあるかもしれない。


明日は依頼を見るだけじゃなく、そういうことも聞いてみよう。


少なくとも、ゲームのようなお使いを探して町を走り回るよりは現実的だ。


食事を終える頃には、明日やることが大体決まっていた。


依頼を受ける。


できれば、道中で採取もできるもの。


魔物を倒すなら、売れる素材が取れる相手の方がいい。


もちろん、それだけで危険な魔物を選ぶつもりはない。


稼ぐために死んだら意味がない。


まずは今の俺にできる範囲で、少しでも効率よく稼ぐ方法を覚える。


席を立とうとしたところで、バルドに呼び止められた。


『そういやガッシュ』


「ん?」


『今日の分はどうする?』


「今日の分?」


何の話だ。


バルドが呆れた顔をする。


『宿だよ。昨日払ったのは昨日の分だぞ』


そこで思い出した。


昨日、最初に払った三泊分が切れて、一泊分を追加で払った。


今日は五日目。


当然、今夜の分は入っていない。


魔法の講習代を払った。


短剣を買った。


水袋とロープも買った。


その上、宿代。


必要なものにしか使っていないのに、手持ちがどんどん減っていく。


『泊まるんだろ?』


「……一泊で」


前は三日分まとめて払った。昨日は一日分、


そして、今日も一日分だけ……。


バルドは何も言わず、一泊分の代金を受け取った。


さっきまで考えていた金策が、急に切実なものになった気がする。


中型のマジックバッグが欲しい。


もっといい装備も欲しい。


魔法だって、これから先を習うならまた金がかかるかもしれない。


でも、その前に。


飯を食って、宿に泊まって、この町で生活していくためにも金は必要だ。


冒険者になって五日目。


明日は稼ごう。


欲しいものを買うためだけじゃない。


この世界で生きていくために。

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