第13話 先輩冒険者
少し戻ったところに、二体のゴブリンはそのまま残っていた。
『こいつらか』
「ああ」
三人の冒険者と一緒に近づく。
女の冒険者が死体を確認してから、俺を見る。
『じゃあ、もう一回見せてあげる』
「おお」
『そんな期待されても困るんだけど』
そう言いながら、女が手を向ける。
『――エシュ』
火が生まれた。
何もなかったところから、突然。
今度は最初から見ていた。
手の動き。
言葉。
その直後に現れる炎。
やっぱりすごい。
「……魔法だ」
『だから魔法だって』
呆れられた。
でも、二回見てもすごいものはすごい。
ゴブリンの死体に火が回っていく。
これで俺が倒した五体の処理は終わった。
「ありがとう」
『次からは自分でやりなさいよ』
「魔法覚えたらな」
『覚える気満々じゃない』
もちろん。
むしろ今のところ、覚えない理由がない。
問題は授業料だけだ。
三人も町へ戻るところらしく、そのまま一緒に歩くことになった。
来た時は一人だった道を、今度は四人で歩く。
そういえば、まだ名前も知らない。
「俺、ガッシュ」
『ん?』
「名前。まだ言ってなかっただろ」
最初に声をかけてきた男が笑う。
『そういやそうだな。俺はダリオ』
傷を治してくれた男が続く。
『ロイドだ』
最後に女。
『ミラ』
ダリオ、ロイド、ミラ。
覚えておこう。
「三人は何してたんだ?」
『俺たちか? オークの討伐帰りだ』
「オーク?」
また知っている名前が出てきた。
ゴブリンがいるなら、いてもおかしくない。
いや。
むしろ、いる気はしていた。
「やっぱりオークもいるのか」
『ゴブリン見てそれ言うか?』
ダリオが笑う。
「まあ、そうなんだけど」
『この先に村があるんだよ。そこの近くに何匹か出たって報告があってな』
「それを三人で?」
『ああ』
普通に答えられた。
どれくらい強いんだろう。
少なくとも、今の俺が一人で戦っていい相手には聞こえない。
「三人って何ランク?」
『全員Cだ』
「C……」
俺は登録したばかり。
当然、一番下からだ。
そこから何段階あるのかはギルドで説明されたけど、まだ実感はない。
ただ、オークを討伐しに村まで行く三人を見ると、Cランクが今の俺よりずっと上なのは分かる。
『お前は?』
ミラに聞かれる。
「一昨日登録した」
『ランクじゃなくて――』
途中でミラが止まった。
『一昨日?』
「ああ」
『冒険者になって三日目で、一人でゴブリン狩ってたの?』
「そうだけど」
三人が顔を見合わせる。
なんだ。
『よく一人で行かせたな』
ロイドが言う。
「ゴブリンは一体ならホーンウルフと比べても特別危険じゃないって聞いたぞ」
『一体ならな』
「それも聞いた」
実際、三体はきつかった。
石まで投げてくるとは思わなかったし、脇腹も切られた。
治してもらえなければ、今も痛かったはずだ。
ダリオが俺を見る。
『パーティーは組まねえのか?』
「組むも何も、一昨日冒険者になったばっかりだぞ。誰と組むんだよ」
『そりゃそうか』
ダリオが笑う。
『ギルドで募集してる奴もいるぞ』
「知らない奴といきなり組むのか?」
『最初は大体知らない奴だろ』
それはそうか。
『一回だけ組んでみて、合わなきゃそれまでってのもあるしな。そこから固定で組む奴もいる』
「なるほど」
ゲームなら、募集を見て知らない相手と組むなんて普通だった。
でも、こっちは命がかかっている。
知らない相手に背中を預ける。
そう考えると、かなり違う。
「三人は?」
『俺たちはもう長いな』
『腐れ縁ね』
『誰が腐ってるって?』
『あんた』
『俺だけ!?』
ミラとダリオが言い合っている。
ロイドは慣れているのか、何も言わず歩いていた。
仲は悪くなさそうだ。
『一人でやるのも悪くねえよ』
少しして、ダリオが言った。
『一人なら稼ぎは全部自分のもんだし、好きな依頼を選べる。ただ、上に行くほど一人じゃ厳しくなる』
「やっぱり?」
『そりゃな。俺たちだって役割を分けてる』
ダリオがミラを指す。
『ミラは後衛。魔法で援護する』
次にロイド。
『ロイドは斥候。敵を探したり、周りを警戒したりするのはこいつだ』
「じゃあ、ダリオは?」
『前衛。敵を引きつけて、二人に近づけさせない』
「なるほど」
さっきまでとは少し違って見える。
三人で一緒に戦っているだけじゃない。
それぞれに役割がある。
『一人だと、これを全部自分でやらなきゃならねえ』
「……それはきついな」
今日のことを思い出す。
三体のゴブリンに囲まれただけで、周りを見る余裕なんてほとんどなかった。
敵を探す。
戦う。
怪我をしたら自分で対処する。
全部一人でやるなら、確かに限界はありそうだ。
魔法を覚えれば、少しはできることが増えるだろうか。
そんな話をしながら歩いていると、町の壁が見えてきた。
門を通り、そのまま四人でギルドへ向かう。
「三人もギルド行くんだな」
『そりゃ依頼の報告があるからな』
そうだった。
オークを倒して終わりじゃない。
報告して、報酬を受け取るまでが依頼だ。
ギルドに入る。
昨日みたいな騒ぎはない。
依頼帰りらしい冒険者や、掲示板を見ている奴。
受付で話している奴。
いつもの光景。
……いつものと言っても、俺がこの町に来てまだ三日目だけど。
ダリオたちと一緒に受付へ向かう。
いた。
一昨日から何度も世話になっている男性職員。
俺たちを見ると、いつもの落ち着いた顔で応対する。
『お帰りなさい。依頼の報告ですか?』
『ああ。村のオーク討伐。全部片付けてきた』
ダリオが答える。
俺も袋を持ち上げる。
「俺はゴブリン」
『分かりました。順番に確認します』
受付の男性が俺を見る。
『今日は登録証もお持ちですか?』
「あるよ!」
なんで最初にそこを確認するんだ。
ダリオが俺を見る。
『登録証?』
「……」
『お前、まさか』
「昨日ちょっとなくしただけだ」
『一昨日登録したんだよな?』
「ああ」
『一日しか持ってねえじゃねえか!』
ダリオが笑い出した。
ミラまで口元を押さえている。
ロイドは笑ってはいない。
でも目を逸らした。
たぶん笑ってる。
「ちゃんと再発行したからいいだろ」
受付の男性が淡々と口を挟む。
『再発行には手数料がかかりますので、よくはありません』
「もう払ったよ!」
『事実ですので』
この人、絶対わざとだ。
『面白い奴拾ったな』
「拾われてない」
笑うダリオを無視して、袋からゴブリンの骨瘤を取り出す。
一つ。
二つ。
三つ。
四つ。
五つ。
受付の男性が確認していく。
『五体ですね』
「ああ」
『初めてのゴブリン討伐としては十分でしょう。怪我はありませんでしたか?』
「したけど、治してもらった」
ロイドを見る。
受付の男性もそちらを見る。
『それなら何よりです』
骨瘤が回収され、討伐数に応じた報酬が用意される。
硬貨を受け取る。
昨日とは違う魔物。
違う依頼。
ちゃんと達成できた。
少しずつだけど、冒険者として前に進んでいる。
ダリオたちもオーク討伐の報告を続けている。
その横で、さっきから気になっていたことを思い出す。
そうだ。
こっちが本題だ。
「あのさ」
『はい』
「魔法を習いたいんだけど」
受付の男性が俺を見る。
『基礎魔法でしょうか?』
「たぶん。エシュとか、簡単な治療とか」
初めて自分の口で言ってみる。
エシュ。
さっきミラが使っていた魔法。
『でしたら、ギルドで講習を受けられます』
やっぱりある。
「授業料がかかるって聞いた」
『はい』
受付の男性が金額を告げる。
「…………」
受け取ったばかりの報酬を見る。
それから受付の男性を見る。
もう一度、手の中の硬貨を見る。
「……高くない?」
『講師にも生活がありますので』
後ろでダリオが笑った。




