第10話 次の依頼
翌朝。
目が覚めて、しばらく天井を見ていた。
昨日のことを思い出す。
ギルドへ運び込まれた二人と、森に置いてきたというもう一人。
三人で依頼に出て、帰ってきたのは一人だけだった。
「…………」
考えても仕方がない。
ベッドから起き上がり、部屋を出て裏手の井戸へ向かう。冷たい水で顔を洗うと、少しだけ頭がすっきりした。
それから食堂へ向かった。
『おう。今日は何も担いでねえな』
バルドが開口一番に言った。
「朝から担いでたら怖いだろ」
『お前ならやりかねん』
どういう認識なんだ。
席に座ると、いつものように朝食が出てきた。
パンとスープを食べながら、今日の予定を考える。
東の森には行かない。
昨日の時点で立ち入りも禁止されたし、そもそも今の俺が行ったところで何もできない。
なら、できることをやればいい。
依頼を受けて金を稼ぐ。
レベルを上げて、装備も少しずつ揃える。
そう考えたところで、昨日買ったマジックバッグを思い出した。
「中型……」
『あ?』
「なんでもない」
昨日見た中型の値段を思い出す。
高かった。
でも、今持っている小型だとホーンウルフ一体でほとんど限界だった。
これからもっと大きな魔物を狩るようになれば、間違いなく足りなくなる。
買ったばかりなのに、もう次が欲しくなっている。
「金かかるな……」
『冒険者なんてそんなもんだ』
バルドが言った。
「そうなのか?」
『武器、防具、道具。稼げるようになりゃ、その分いいもんが欲しくなる』
なるほど。
前の世界とあまり変わらない。
装備を更新するために金を稼ぎ、その装備でもっと強い敵を倒す。
ゲームなら何度もやったことがある。
違うのは、死んだら終わりということくらいだ。
朝食を終えて鉄拳亭を出ると、そのまま冒険者ギルドへ向かった。
中へ入ると、昨日とは空気が違う。
あれだけの騒ぎがあったのに、今日はいつものギルドに戻っていた。床に倒れている人もいなければ、慌ただしく走り回る職員もいない。
ただ、掲示板の一角だけには人が集まっている。
何かあったのかと近づいてみると、一枚の紙が貼られていた。
『東の森への立入制限』
昨日の件か。
内容を読んでみる。
昨日発生した魔物による冒険者襲撃を受け、東の森を対象とする依頼は一時停止。
調査が完了するまで、ギルドの許可なく立ち入ることを禁止する。
さらに、調査に参加できる冒険者についても条件が書かれていた。
一定以上のランクであること。
複数人で行動すること。
他にもいくつか条件があるが、今の俺には関係なさそうだ。
『調査隊を出すらしいぞ』
近くにいた冒険者たちが話している。
『変異種かねえ』
『どうだろうな。見つかりゃいいけど』
『森だぞ。簡単には見つからねえだろ』
昨日のフォレストベアについては、まだ何も分かっていないらしい。
俺は掲示から離れた。
調べるのは、俺より強い人たちに任せればいい。
今の俺が考えるべきなのは、今日受ける依頼だ。
依頼掲示板には討伐や採取、護衛など、いくつもの依頼が並んでいる。
昨日までは何がいいのかもよく分からないまま眺めていたが、一度依頼を経験しただけで少し見方が変わった。
まず報酬。
次に場所と討伐対象。
それから期限。
報酬が高いものは、それなりに面倒そうなものが多い。
当たり前か。
今の俺でもできそうなものを探していると、昨日と同じホーンウルフの討伐依頼が目に入った。
「またこれでもいいけど……」
一度戦った相手なら、ある程度は動きも分かっている。
安全を考えるなら、同じ依頼を受けるのが一番いい。
ただ、ホーンウルフだけを狩り続けるわけにもいかない。
これから先、ずっと同じ魔物だけを相手にするわけじゃないんだ。
もう少し掲示板を見ていると、一枚の依頼票が目に留まった。
「ゴブリン……」
いた。
ファンタジーの定番。
やっぱりいるのか。
依頼内容を確認すると、町の南東、街道から少し離れた一帯に生息しているらしい。
討伐数の指定はない。
倒した数に応じて報酬が支払われる常設の討伐依頼で、討伐証明として額にある骨瘤を持ち帰る必要がある。
「骨瘤……」
額を見るのはいい。
問題は、それをどうやって持って帰るかだ。
たぶん、切り取るんだろう。
「…………」
少し嫌だな。
でも、ホーンウルフを丸ごと担いで帰った俺が今さら言うことでもない気がする。
無理に数を狙う必要がないのはありがたい。
危ないと思ったら、一体だけでも戻ってくればいい。
名前だけなら弱そうな気もするが、前の世界の知識をそのまま当てにするのは危ない。
依頼票を持って受付へ向かうと、いつもの男性がいた。
『おはようございます』
「おはよう」
依頼票を渡す。
『ゴブリン討伐ですね』
「ああ。その前に聞きたいんだけど、ゴブリンって強い?」
受付の男性が少し考えてから答える。
『一体であれば、ホーンウルフと比べても特別危険な魔物ではありません。ただ、武器を使います』
「武器か」
『それに、複数で行動することが多いです』
「やっぱりか」
一体なら、それほど強くない。
でも複数で行動して、武器まで使う。
ホーンウルフとは違う面倒さがありそうだ。
依頼票を見ながら考えていると、受付の男性が続けた。
『昨日、初めての依頼を達成したばかりです。無理に違う魔物を選ぶ必要はありませんよ』
確かにそうだ。
ホーンウルフなら、もう戦ったことがある。
わざわざ知らない相手を選ぶ必要はない。
でも、昨日は二体を相手にして勝てた。
レベルも上がったし、VITも上げた。
それに、いつかは知らない魔物とも戦わなければならない。
「受ける」
『分かりました』
受付の男性が手続きを始める。
『常設依頼ですので討伐数に決まりはありません。危険だと判断した場合は、無理に続けず戻ってきてください』
「ああ」
『依頼の失敗より、生きて帰る方が大切です』
昨日のことがあったからだろうか。
その言葉が少し重く聞こえた。
「分かってる」
手続きを終えて登録証を受け取る。
ギルドを出る前に、持ち物を確認した。
剣。
マジックバッグ。
登録証。
「よし」
今日向かうのは南東。
東の森とは別の方向だ。
初めて戦う魔物への怖さはある。
でも、それと同じくらい、どんな相手なのかという興味もあった。
昨日まで知らなかったことを、一つずつ知っていく。
今はそれが楽しい。
まずは冒険者として、できることを増やしていこう。




