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吸血鬼王城の楽しい生贄生活  作者: 夕凪 瓊紗.com


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【8】聖女の凱旋



————どこまでも白い、真っ白の世界。

 

「ジーナ」

神聖な女性の声が空気を揺らす。


「……だれ?」

「ジーナ」

優しい手が私の掌を包む。


「あなたに、この聖痕を」

せい……こん?


「あの王女は私が選んだ聖女ではない、偽物。私が選ぶのは、あなたよ。ジーナ」

「……なに、に?」

「さ、行きなさい。目覚めなさい。聖女ジーナ」

せい……じょ?


その瞬間、白い世界がバチンと消え失せる。


「……なに、が」

ゆっくりと身体を起こせば、驚くヴィクトルさまの顔がある。


「ヴィクトルさま」

「ジーナ、平気なのか?」

「うん……なんとも、ない」

むしろピンピンしていると言うか。


「これはどういう事だ!」

響くアレンの声に振り返れば、ヴィクトルさまがガバリと身体を起こし、私ごと立たせてくれる。


「いやぁぁぁぁッ」

その時グレース王女が悲鳴をあげる。


「どういうこと!?私の聖魔法が消えたのよ!」

その言葉の通り、何かが土地を覆っていく。


「闇魔力が復活していくんだ。元々国境には闇魔力で結界が張ってあった」

彼らはそれを聖魔法で無効化して侵略したのだ。


「グレース王女」

「な、何よ」

王女が私を睨む。


「あなたは聖女じゃない」

「何ですって!?」

「闇魔力が復活したのが何よりもの証拠よ」


「そんな……はずはない!グレース、光魔法で強化を!」

「ええ、アレンさま!」

しかしグレース王女の手からは何も出ない。


「光魔法が封じられているのよ」

「そう見えるが……ジーナ、その手」

ヴィクトルさまも気が付いたようだ。


「その、もらったの。多分……女神さま」


「は?」 

アレンが唖然とする。グレース王女もだ。


「ええ、その聖痕、聖女さまのもので間違いはありません。司祭の私が証明しますよ」

にへらっと現れた司祭さまにアレンが驚愕する。


「リオンが言うのなら確かなのか」

「ヴィクトルさま、司祭さまと知り合い?」

「知り合いも何も、リオンは半分吸血鬼だ」


「つまりはスパイですよ」

「うえええぇっ!?」


「吸血鬼は人間とあまり見た目が変わらないので〜〜」

そりゃぁそうだけども!そして人間の血のお陰か司祭さまの肌は青白くない。


「それから、司祭なら村の人間じゃなくても上手く溶け込めるでしょ?さすがに国境の村は赴任に人気がなくて潜入も楽でした」

まぁ確かに……いざとなれば真っ先に攻められる村に赴任したがる司祭はあまりいないわよね。


「スパイの言うことなんてあてになるか!」

アレンが叫ぶ。


「司祭は司祭です。司祭の資格も取ったので間違いありません。それに聞いたことがあるのですよ」

「な、何をだ」

「王国は王族に聖女を迎えた際、その亡骸で聖具を作ったと。それがあれば聖魔法を使えるという代物。王女はそれを持っていたのでは?」

その言葉が真実だったのか、グレース王女の手首からボロボロになった破片が崩れ落ちる。


「しかし聖女の亡骸を利用して聖魔法を人工的に作ろうとしてもいいことなどあるはずがない。偽物は本物によって暴かれる」

まさにその言葉通りである。


「な、ならジーナ」

「何よ、アレン」

「ぼくは君を助けに来たんだ!ジーナ、聖女の君を!」

「……」

ああ言えばこう言う。


私は無言でアレンの前に立つ。


「ジーナ?」

ヴィクトルさまが心配そうに呼ぶが。


「大丈夫です、ヴィクトルさま」

そう言って、手をすっと上げれば。


バコンッ。


ひと思いにアレンの頬をぶん殴った。


「ふざけんなこの浮気野郎!」

その言葉に王国側の騎士たちも唖然とする。


「話には聞いてたけど本気だったのね。でも元はと言えばアンタが私を裏切って生贄にしたんじゃない!」

その言葉に王国側からもどよめきが生まれる。


「生贄から解放してやる……生贄の私にそう言って淡い期待を持たせた上に婚約の約束までして……その上村に帰ってきたらきたで王女と婚約して爵位と褒賞金ですってね。その上邪魔だからとばかりに生贄になれと言ったのはあなたじゃない!ふざけんな!」

その言葉に王国側が完全に引いている。


「そ……そんな、うそ、うそだ!」 

アレンが弁明するものの、あまりの動揺っぷりに信じるものはいない。


「事実だよ。その上勇者だからって領主からたんまりと金をもらって勇者一家は豪勇。やりたい放題した挙句、大義名分をでっち上げて攻めてくるとか……バカなの?」

フィンリーが女性騎士の馬に乗せてもらいやって来たようだ。いや、他にも。闇魔力の復活に気が付き、撤退をしていたジャンさまたち魔王軍が戻ってきたのだ。


「フィンリーお前、ぼくの妹だろう!」

「ぼくは妾の子だし、認知もされてないから孤児だよ。それに母さんと似てるからって手を出そうとしてきた気持ち悪い男なんて、父親でも何でもない」

フィンリーの言葉にさすがの王国側の視線も冷たい。


「勇者さま」

「お、おい、加勢を」

「申し訳ありませんが我々は撤退させていただきます」

「そんな!ぼくは勇者だぞ!それにこれは王命だ!」


「大義名分が嘘だったのなら我々は陛下にそれを報告せねばなりません。それにそんな嘘の大義名分で部下たちの命を散らしたくありませんので」

「そんなぁっ」

しかしながら王国軍は撤退していく。


「私も!」

グレース王女もちゃっかり近衛騎士に回収されていく。


「そんな……ぼくは、ぼくは!」

「ようやっとひとりになったな、勇者アレン」

アレンの前に、ヴィクトルさまが魔剣をガツンと突き立てる。


「ここからは偽物聖女のチートなしのタイマンだ。よくもクソみたいな大義名分で魔王国を攻めてくれたな」

「き、貴様などこの聖剣でっ!うおおおぉっ!」

アレンが聖剣を振り被るが。


「そんなレプリカでやられるかぁっ!」

闇魔力をまとった魔剣が聖剣を粉々に砕いてしまった。いや……聖剣のレプリカを。


「ひいいいぃっ!」

「さぁて、勇者。魔王国は心底激怒しているが、俺は良心的な王だ。お前をめったくそにぶっ飛ばすことで今回の一件は剣をおさめてやろう」

「ひ……ヒィ」

アレンが後ずさる。


「ジーナ!助けろ!」

「助けるわけないでしょ!」

その言葉に女性騎士たちもそうだそうだとブーイング。アレンは完全に四面楚歌。


そして……。


「そのまま王国まで飛んでけ!クソヤロウ!」

闇魔力をまとったヴィクトルさまの拳がアレンの腹にめり込む。


「ぶほっ、ぐおおぉ————っ」

そして驚くほどにぶっ飛んだアレンは……村にでも落下しただろうか。それでももう聖剣も偽物聖女も王国軍をも失ったアレンに抵抗などてきようもない。


「はぁ……疲れた」

そして全力を出し切ったヴィクトルさまが大地に背を付け脱力する。


「ヴィクトルさま!大丈夫?その……治療を」

受けてもらったほうが……。


「ジーナ、実は吸血鬼には取っておきの治療法がある」

「え、なぁに?」

それは是非やってほしいところだが。


「人間の血を飲むことだ」

「……へっ!?」

「特に聖女の血となれば力がみなぎること間違いない」

「そ……それなら、飲んで!」

首筋をガバリと広げて見せる。


「……い、いいのか?」

「だって、ヴィクトルさまが元気になるなら!」

「その……半分断ってくれても良かったんだが」

「ダメ!元気になるなら飲んで!飲まないと……うーん……」

「ジーナ?」

「む、無理矢理飲ませる」

聖剣のレプリカの破片に手を伸ばそうとすれば、ヴィクトルさまが突然身体を起こす。


「バカ、危ないだろ」

「なら、ヴィクトルさま」

「……ジーナ」

「はい」

「恩に着る」

そう言うとヴィクトルさまが私を優しく抱き締める。首筋にふわりと温かい吐息が吹きかけられると、チクリ……と牙が差し込まれたのが分かった。


「ん……っ」

「……ヴィクトル、さま?」

「はぁ……うん、元気になった」

私の首筋を優しく止血しながら、ヴィクトルさまがふわりと笑む。


「ありがとう、ジーナ。助けてくれて」

「私の方こそ!ありがとう、ヴィクトルさま」

ヴィクトルさまを守れて本当に良かった。


いつの間にか暗雲は晴れ、大地には優しい光が射していた。


「ヴィクトルさま、こちらを」

ジャンさまが馬を引いてくれば、ヴィクトルさまが手を差し伸べてくる。


「ありがとう」

馬の上に乗せてもらえば、今度はヴィクトルさまが後ろに乗ってくる。


「体勢は?辛くはないか」

「う……うん」

だけどその……これって想像以上に密着するのね……?戦場に向かっている時は必死で気が付かなかったけど。


「その、ヴィクトルさまは?」

雑念を振り切るように問いかける。

「元気だ。人間の血にはそれだけの価値があるし、聖女ならなおさらだ。闇魔力光魔力の持ち主に関わらず治癒の力を発揮するんだ」

「それならその……吸血鬼で負傷者がいたら私の血を」

「いや待て待て待て!血と言うのはむやみやたらに振り撒くものじゃない!」

「いやでも……」

吸血鬼以外の種族に吸血してもらう訳にはいかないのが悩みの種なのだが。


「吸血鬼が血をもらうのは親しい間柄や大切な相手だけだから」

私とヴィクトルさまは生贄と王さまなのだが。まぁ親しくはなった……わよね?


「だから俺以外なら聖魔法をそのまま使えばいい」

「だけど使い方なんて」

「治癒魔法使いが指南する」

その言葉通り、撤退の合間に後方に下がっていた負傷者の治療を行いながら撤退する。

闇魔力の使い手の多い魔族には光の治癒魔法は毒になる。


「使うのならば水魔力や風魔力由来の治癒魔法、栄養補給なら土魔法ですね」

立ち会ってくれる治癒魔法使いが解説してくれる。

このように魔法と言うのは別の魔力でも代用が効くのだが、光魔法だと取り分け効果が増強する……と言うことなのだそうだ。


「まずは魔力の流れを意識して」

「ええと……魔力の流れ?」

と言われても魔力ってどれだろう?


「ジーナさまは他の魔力をお持ちですか?であれば同じ魔力同士で共鳴させれば魔力が何たるか感覚を掴めるはずです」

「けれど私に魔力なんて……」

聖魔法を与えられたとはいえ、辺境の庶民の娘に魔力があるわけじゃない。


「ほら、ジーナ」

ヴィクトルさまが私の手を握ってくれる。


「今俺の中にはジーナの血が流れている。だから魔力の流れを促すのにも都合がいいはずだ」

すると身体の中に何かが流れてくるのが分かる。


「これって」

「俺の闇魔力だよ」

闇……と聞くと恐ろしいイメージを持っていたが今は違う。

大地を闇魔力が覆い守ったように、ヴィクトルさまがこの魔力で領地を守ってくださるように。

そして大地を守っているのもこの魔力だと分かる。


「うん、何となく分かったかも」

「ああ、なら試してみてくれ」

「ええ!」

手を翳し、先ほど掴んだ流れを意識する。

その掌から溢れるのは柔らかい優しい光だ。


「傷が……」

「治っていく」

「もう痛くないぞ!」

「聖女さまだ」

「聖女さま!」

「ありがとう、聖女さま」

その場に溢れる歓声と讃美の言葉。


「これが聖女の力」 

「ああ、本来あるべき聖女の力だ」

「うん」

この力は、一方的に侵略するために使うものじゃない。富や名声、嘘の大義名分を掲げて使っていいめのじゃない。


王室には確かに聖女の力が残っていたが、正しいことに使わなかったから失われてしまったのである。


「さ、ジーナ。彼らも順次撤退する。俺たちも治療が必要なものがいたら治療しながら帰ろう」

「分かったわ」

再びヴィクトルさまの馬に乗せてもらい、途中治療を手伝いながら遂に領地へと帰還する。戦が収束したばかりの街はガランとしており、もしもの時に備えていた魔王軍の姿が多く見られる。


「そのうち元通りになる。領民たちは避難してほとんど被害はないようだ」

「うん、本当に良かった」

城に入れば、ルーくんさまやヴィオラさまたちが駆けてくる。


「兄さま!ジーナ!」

馬を降りた私たちにルーくんさまが飛びついてくる。


「帰ってきた!みんな、帰ってきた!」

「ああ……」

ヴィクトルさまはそう言うと、私と頷きあう。


『ただいま』


私たちは無事に帰還を喜びあったのである。



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