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吸血鬼王城の楽しい生贄生活  作者: 夕凪 瓊紗.com


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【7】ジーナの選択



————その日の朝。


バタバタと言う音ともに何事かと起き上がる。


「何か騒がしいわね」

「ああ、ジーナ」

フィンリーも目を覚ましていたようだ。


すぐに着替えて鉄格子の元へ向かえば、ちょうどヴィオラさまが来てくれた。


「ジーナさま、フィンリーさま、お二人とも着替えていらっしゃいましたか。ようこざいました」

そう言って鉄格子を開ける。


「ヴィオラさま、一体何が」

「とにかくこちらへ」

事態は明らかに切迫しているように感じる。


急いでヴィオラの後に続けば、逆方向に向かうのは武装した騎士や兵士たちだ。


「これは……?」

「勇者が聖女を連れ、国境を侵略してきたのです」

「え……っ!?」

でも聖女はいないはずじゃ……。


「こちらは非戦闘員の避難所です」

ヴィオラが案内してくれた場所には護衛の女性騎士や城の侍女、侍従、城で働くものたちも集まっている。


「現在領民の避難を進めておりますが、戦況によっては私たちも領民たちと避難することになります。先代吸血鬼王ご夫妻もこちらに向かっておりますから、もしもの時は合流して領民たちを守りながら隣領へ向かうことになります」

領民たちまで一斉避難だなんて。それほどまでの大事に息を呑む。


「ジーナ」

その時涙ぐんだ声にハッとする。


「ルーくんさま」

「ジーナ、うう……ジーナ」

うるうるしながら抱きついてくる小さな身体を抱きしめる。


「兄さま、戦いに行っちゃったの」

「ヴィクトルさまが……」

勇者が攻めてきたのなら真っ先に応戦する。それが国境を守る魔王四天王の役割だ。

そんな基本すら平穏な日常で忘れてしまうなんて。


「王国側には聖女がいるんだ……兄さま、死なないよね?」

その叫びは悲痛なもので、みな暗い顔を見せる。


「そもそも聖女って……いないんじゃ」

「いいえ、ジーナさま」

ヴィオラさまが首を横に振る。


「王国側が王女を聖女と認定したのです」

「そんなの……女神さまがお決めになることでは」

「しかし相手は聖魔法を操っていると」

「そんな……っ」 

それでは王女が本物の聖女だったの!?


「それならヴィクトルさまは……」

闇魔力を封じられる。周りの騎士や兵士たち魔王軍全体が弱体化してしまう。


「それが……勇者と魔王軍との戦いなのです」

「だからって……ヴィクトルさまには戦う意思もない。魔王国側は王国を攻めるスタンスじゃなかったはず」

「しかし王国側は大義を掲げております」

「大義?」


「ええ。吸血鬼王に生贄に捧げられた生贄の幼なじみを救い出す戦いなのだと」


「は……?」

何を言っているんだ、それは。

「それはアレン……勇者が主張しているの?」

「ええ、そのようです。そして王国もそれを支持し王国軍を出陣させました」


「あんの……」

「ジーナ?」

フィンリーが躊躇いがちに手を伸ばしてくるが、その手を止める。

身のうちにふつふつと込み上げるのは……。


「あんのクソ浮気野郎!」

その言葉にみなの視線が集中する。


「アレンは……勇者は私を生贄から救うとか言っておきながら村に帰ってきたらきたで王女と結婚するとか言い出して私を裏切ったの!」

『ええぇっ!?』

その場のみなが驚愕する。


「そのくせして生贄を救い出すって何よ!言っとくけど王国側での暮らしに比べたらこちらの待遇も暮らしも月とすっぽんよ!」

もちろんすっぽんは村の方。


「絶対に許せない!それに私を出汁に何も悪くないヴィクトルさまを攻めるって言うなら私が行くわ!」

「ジーナさま!?」

ヴィオラさまが驚愕する。


「勇者側に大義名分が存在しないと分かればこんな馬鹿な侵略戦争なんて意味を成さないはず!」

「それは確かに……可能性はありますわね」

「なら、行かせて欲しいの!」

「うーん……しかし」


「なら、後衛隊に合流しましょう」

女性騎士が告げる。


「後衛隊も救援物資を持って向かいますから」

「いいの?」

「ええ。女を裏切って浮気するクソ男はぶっ飛ばすべきです」

「お……おおっ」

クズ男に対する女の戦いは種族を問わないのである。私たちは種族の壁を越えて志はひとつになったのだ。


「ならぼくも行くよ。これでも女だし」

「ありがとう、フィンリー。あのクズ、絶対にぶん殴る!」

「その意気」

フィンリーが笑顔で頷く。


もはやこの場で暗い顔をするものはいない。


「ルーくんさま」

「……ジーナ?」

「待っていてください。必ずやヴィクトルさまをお救いしてまいります」

「……!」

「だから……だから信じて待っていてください」

「うん!ジーナ!兄さまを助けて!」

「はい!」

今一度ルーくんさまと抱擁を交わし、決意を新たにする。


私とフィンリーは女性騎士たちの馬に乗せてもらい、後衛隊と共に出発する。


避難する領民たちとは反対に魔法の衝撃が走る戦場へ向けて……。


※※※


————戦場は想像以上の轟音と悲鳴が木霊する。

暗雲に光魔法とそれ以外が混ざり合い不気味な色を映す。

「魔王国側は……」

「押されてます。我々は闇魔法が使えない。他の魔法や武器で応戦しても弱点は光魔法であることに変わりない」

馬を駆ける女性騎士が教えてくれる。


「おい!撤退だ!」

その時後衛隊に向かってきたのは前線から戻ってきたジャンさまだ。

その他にも怪我で運ばれていく魔族たち。

こんな……こんな酷い。


「俺たちは怪我人を逃がすまでの間稼いで……領民たちと共に隣領に」 

「そんな……っ」

私の声にジャンさまが驚く。


「何故彼女たちを連れてきた!」

「女の戦いだからだ!」

「は!?」

女性騎士の剣幕にジャンさまがビクつくが。


「そ……それでもダメだ。ヴィクトルさまが時間を稼いでいるうちに退避する」

「それならヴィクトルさまはどうなるの!?」

「……辛いことだが、俺たちにはそれしかない。せめて弟君のルークさまだけでも」

それはつまり、ヴィクトルさまがみんなを逃がすために犠牲になるということだ。


「そんな……そんなこと」

「逆らえば軍法違反だ」

「くそ……っ」

女性騎士が悔しげに俯く。そんな……もう、手はないの?ヴィクトルさまを喪う選択肢しか残されていないの?


「なら魔王軍以外なら構いませんよね」

その場に響いた声に私とフィンリーが唖然とする。


『司祭さま!?』

馬に乗って颯爽と現れた姿に驚愕する。


「いや、その……何でここに!?」

「だってこの戦況でしょう?国境警備なんて崩壊してますし」

だからって何故こちら側にいるのか。


「ほら、ジーナ。乗ってください」

「司祭さま……」


「行くのでしょう?」

この育ての親はどこまで知っているのだろうか。


「ええ!」

するりと馬から降りると、司祭さまの馬に乗せてもらう。


「フィンリーまでは連れていけないけれど」

「いいよ、司祭さま。あのバカアレンをぶん殴るのはジーナの権利だから」

「ええ、そうですね。ならそこまで、しっかりと送り届けましょう」

そう言うと司祭さまが馬を蹴る。


「あの、司祭さま!」

「はいはーい?」

「司祭さまって何者なの?」

いくら国境なんてぐちゃぐちゃになってるとはいえただの人間がここまで馬一頭で来られるものなのだろうか?


「王に(まみ)えれば分かりますよ」

その王ってのは……考えようによっては衝撃な真実では!?


「ほら、見えてきた」 

「あそこ!」

司祭さまが馬を停めると、即座に馬から飛び降りる。


真っ先に駆け抜ける。


風も、爆音も、悲鳴も届かない。


だけど……ヴィクトルさまの元へ。


「極大の光魔法だ!退避しろ!」

ヴィクトルさまが叫ぶ。


「これで最後だ!吸血鬼王!」

そこには勇者アレンの姿。


「アレンさま、私の光魔法を」

聖女……グレース王女の光魔法が勇者の力を増強させる。その腕には嫌な光を放つ魔具のようなものがある。あれは……何?


「喰らえええぇっ!」

「障壁!」

アレンの放つ光閃に応じるのは闇ではない水のバリア……?さすがにあれじゃ防ぎきれない。


「ヴィクトルさま!」

それでも。

私なら。

闇魔力のない私ならあの光魔法を受けてもヴィクトルさまよりはましなはず。ヴィクトルさまを、助けるんだ……!


水の障壁が割れる。

光魔法が世界を埋め尽くす。だけどそこに立っているヴィクトルさまの姿だけは捉える。


「ヴィクトルさま!」

「ジーナ!?」

驚くヴィクトルさまをそのまま抱き締め押し倒す。


助けるって……約束したから!


……真っ白に染まる世界が私たちを呑み込んだ。



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