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吸血鬼王城の楽しい生贄生活  作者: 夕凪 瓊紗.com


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12/13

【12】涙の先に



――――こんなに泣いたのはいつぶりだろうか。

悔しさと悲しさでぐちゃぐちゃになった感情は家族のお陰で何とか鎮まってきた。


フィンリーが涙で腫れた目をハンカチで優しく拭いてくれる。

「目、腫れてないかしら」

「そんなに目立たないよ」

「でも……」

その時、回廊にコツコツと足音が近付いてくる。


「ジーナ」

「ヴィクトルさま……その、ごめんなさい」

こんな腫れぼったい目で向かい合うなんて。だけどこれだけは言わないといけないと思ったのだ。


「ジーナのせいじゃない。それより、少し話そう」

「う、うん。でも私こんな目で……」

「何言ってんだ。いつものかわいいジーナだよ」

「かわ……っ、何を」

「照れているところなんてさらに、だ」

「もう、ヴィクトルさまったら」

「だから、ほら」

そうやっていつも優しく手を差し伸べてくれるんだから。


「おいで」

「うん」

ヴィクトルさまの手を取れば、司祭さまとフィンリーが行っておいでと手を振ってくれる。


ヴィクトルさまに付いていけば、ふわりと爽やかな風がそよぐ。


「その、ここは……?」

「城でも一番に眺めのいいバルコニーだ」

「わぁ……すごい」

バルコニーからは城下町が一望でき、国境の砦まで見える。


「なぁ、ジーナ」

「うん?」

「ジーナが守ってくれたのはこの景色だ」

「それはその、ヴィクトルさまも……」

「ジーナが来てくれなかったら、王国に侵略されて街は壊滅だ。運よく逃げ切れた民がいたとしても今のような平穏な日常はない」

「……それは」

「俺が死んでルークが跡を継ぐ。いや……継ぐべき領地すら焼け野原になった中でルークはそれでも王でなくてはならないし、仮に父上が王に復帰したとしても復興に何年かかるか……」

ヴィクトルさまの表情は暗い。


「ルークが成人しても建て直しにはまだまだ時間がかかったろう。歴史的観点から見てもそうだ」

勇者に攻められて壊滅したこの土地はそんな歴史を辿ってきた。その上、時の魔王陛下まで倒されてしまえば壊滅した領地への支援など多くは臨めない。


「だけどジーナのお陰で領地も領民たちも、父上も母上もルークも。みんなが救われた」

「……」

あの時のこと、忘れもしない。

戦場でも帰還した城でも。みんなが喜んでくれた。祝福してくれた。


「だからその功績を讃えて魔王陛下はジーナとの婚姻を許可してくださった」

「でも……ロセアン公爵たちは」


「俺の主は魔王陛下だ。その命にこれ以上逆らうと言うのなら、俺はロセアン公爵を処刑する覚悟だ」

「処刑……」

「それが王侯貴族の責任であり、吸血鬼族の王であるものの役目だ」

「その場合アマリリス嬢はどうなるの?」

「まだ成人を迎えてはいないから、処刑されるのは彼女の両親、アマリリス嬢は貴族の地位を剥奪され一生修道女として暮らすことになる」

「だけどその、司祭さまはヴィクトルさまがアマリリス嬢の前で王の顔を見せることはないって……」

「リオンのやつ、余計なことを」

ヴィクトルさまがふうと息を吐く。


「俺は吸血鬼族の中でも……いや魔族の中でも取り分け魔力が強く吸血鬼の血も濃い。だから王と魔王四天王を兼任して国境を守る任を仰せ使った」

思えば若くして魔王四天王に、それも種族の王になるなんて。


「それには母上のこともあったんだ」

「お義母さま?」

「ああ。公爵の言いようを聞いたろ。公爵は父上に吸血鬼族同士の婚姻を強いていたが、父上は母上を選んだ。そのことは吸血鬼族の中でも反感を呼んだ。その上サキュバス族は王族も失っており独自の領地すらない」


「そんな……元々サキュバス族の治めていた国は?」

「今は魔王陛下が任じた貴族が治めている。サキュバス族もいればそうじゃないものもいる。王を失うとその土地を優先的に治める権利すらどんどん失われていく」


「王さまがいれば、王さまを中心に貴族たちも土地を所有して仕えるけど……」

「そう、いなければ力を付けた他種族に呑まれても何も言えないし、王族を復活させることもできない」

だからヴィオラや城のサキュバス族たちも暮らせる土地を巡って彷徨っていたのだろうか。


「それでも父上が母上と結婚したことでサキュバス族の移住者や働き手も入って来るようになった。多くの吸血鬼族はサキュバス族の妃がいることで歓迎したが……昔ながらの貴族の中には反発したものもいる」

「その代表格があのロセアン公爵?」

「そういう事だ。そして当然ながら母上のことも責め、母上を側妃に、吸血姫を正妃にと推す声が多かった。俺とルークが生まれてからもだ」

お義母さまはずっとそんな風当たりと戦ってきたのだ。


「だが父上も分かっていたんだろうな。例え公爵たちの言う通りにしたところで、俺が継がないとなると正妃との子との軋轢になると」

ヴィクトルさまの方が強い……となってしまうからと考えるのが自然だわ。

「それほどまでに俺の血が濃かったから、父上は俺に王位を譲って、母上の療養のために隠居したんだ」

「じゃぁお義母さまは……」

「療養しながらも、ジーナのために妃教育をしてくれたんだ。ジーナが優しい子だったから母上も安心して接していたんだろう」

「私は人間だけど……」

「関係ないさ。むしろ吸血姫など妃に迎えたら母上の体調も悪くなるかもしれない。妃は他種族から選ぶつもりだった」

「ならアマリリス嬢は……」


「幼い頃に公爵が花嫁候補にと推してきた。アマリリスの家は公爵の一門だから」

「そういう繋がりがあったんだ。でもその、アマリリス嬢とヴィクトルさまは……」

「ああ。昔は俺も力の制御が今よりも出来なかったから……アマリリスを怯えさせた」

「……っ」


「だから俺は王の顔がしづらい」

「公爵はそれも狙ったのね」

「そうなる。だが俺はジーナを妾妃にするつもりもない。アマリリスを妃に迎えるつもりもない。あの子は王の血の前に怯えることしかできない。母上も吸血姫の妃では心休まらないだろう」

「だ、だけど私は?」


「ん?」

「私もその、ヴィクトルさまの王の顔を恐いと思ったらとうすれば」

「ジーナは恐がってない以前に戦場にまで飛び込んでくるから大丈夫だ」

「……え?と言うか吸血鬼王の顔ってどう言う……」

全く心当たりがない。思い浮かぶのはいつも強く優しいヴィクトルさまだ。


「はははっ」

「ちょ、笑わないでよ」

「いや、そう言う反応が来るとは思わなかった」

「でも本当に心当たりがなくて」

「それでいいんだ」

ヴィクトルさまの抱擁が私を包み込む。

いつだって優しくて強い、カッコいいヴィクトルさまだ。


「公爵たちは追い返す。両親のためにもジーナのためにも」

ヴィクトルさまはそっと抱擁を緩めると決意の籠もった顔を向けて来る。

「だけどアマリリス嬢は」

「いいんだ。どう言うつもりで来たのかは分からないが。俺を分かってないのなら、昔のトラウマを思い出させてでも……っ」

「だ、ダメよ!」

「その……アマリリス嬢があなたをどうしても諦めきれないなら私が話し合うわ!だから怒られるのはこんなことを企んだ公爵ひとりで充分よ」 

「ジーナはそれでいいのか?」

「いいわ。少なくとも公爵のように女の子を泣かす趣味はないもの」

ぷいっと顔を背ければクツクツと苦笑の声が聴こえてくる。


「ほんとにな……公爵め。ジーナを泣かせた分思いっ切りヤッてやるからな」

「ほどほどにね」

「分かってるよ」

にこやかに笑うヴィクトルさま。

私も……アマリリス嬢と話をつけなきゃね。


「私、今度は泣かないから」

「ああ、今の表情の方がジーナらしくて好きだよ」

「す……っ」

いきなりそんな言葉が飛んでくるとは思わなかった。でも……。


「私も」

「うん?」

ヴィクトルさまったら、分かっていてわざと待ってない?でも、待っていてくれるのなら。


「私も……いつもカッコよくて優しいヴィクトルさまが好きよ」

「ああ、嬉しいよ」

まるで祝福するかのようにバルコニーに花びらが舞う。花舞う風に後押しされながら、そっと優しい口付けを交わしたのだった。


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