後宮にて
「お姉様はお元気ですの?」
久し振りに後宮に来たフェルディーナに、メアリアはお茶を勧めながら訊いた。
「ええ。お元気ですよ」
「そう」
ふわりと笑い、メアリアが扇を広げる。
「メアリア様も、後一年我慢ですね」
「一年で済めばいいけど」
「……お世継ぎ、ですね」
メアリアは口角を上げ、少し首を傾げた。
「お姉様を敵視する馬鹿共に、お世継ぎを産ませるわけにはいかないでしょう?」
「メアリア様は……」
言いかけて、フェルディーナは『もしも』を語るのをやめる。
「まったくお姉様もケティも、本気で暗殺や革命の話を信じていたのかしら?」
「メアリア様だって、最初は本気で陛下を暗殺する気だったではないですか」
苦笑するフェルディーナに、メアリアは頬を膨らませた。
「私の話はいいのよ。フェルディーナこそ、何か企んでいたでしょう?」
フェルディーナが首を横に振る。
「いいえ」
「嘘」
「私はただ、望みもしないのに後宮入りした珍しい側室の存在を、陛下に知らせなかっただけです。あのまま上手くいけば帰れたものを……まさか規則を破ってふらつくとは思いもしませんでした」
溜息を吐いたフェルディーナ。メアリアが扇で口元を隠して笑った。
「でもこれで良かったのですわ。フェルディーナは知っていて? お姉様のご実家が位を剥奪されかかっていたこと」
フェルディーナが軽く目を見開いてメアリアを見る。
「後宮から出ても、実家が位を剥奪されれば、お姉様の望む『成金との結婚』なんてありえなかったのよ」
「そうなのですか?」
「ええ。ですから王妃になって正解ですわ。陛下はお姉様にはお優しいですし。もっとも――」
メアリアが視線を落とした。
「――グズグズと迷って、お姉様に怪我をさせたのだけは残念ですが」
フェルディーナが頷く。
「陛下には危険を知らせてあったのですが、対応が遅れてしまいました」
「驚異的な回復力で、お顔の傷がほとんど分からなくなったのは救いね。もう二度とお姉様が傷つかないように陛下には十分気をつけていただきましょう」
「そうですね」
フェルディーナが立ち上がった。
「そろそろ帰らないといけません」
「そう。もうあまり会う機会もないでしょうけど、元気で」
「メアリア様も」
フェルディーナが部屋から出て行く。
メアリアはカップを持ち上げて、お茶を一口飲んだ。