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011 私は、朕と手を取りあって進む。

 午後の三刻も半ばを過ぎた頃。原父ゲンプの道場脇に据え付けられた炬燵おこたで目をさましたちんは、炬燵のたくに肘を付きながら、ぼうっとしていた。転生者であることを知ってからのこの2日ほど、テンションを上げすぎてしまった。剣道少女であること、剣の腕を取り戻したことかうれしくて、つい飛ばし過ぎてしまったのだ、姫王閣下として大した運動もせずに過ごしてきたちんの身体がついていけるわけがなかった。

 そうね、総婦長そうふちょうとやっていたサーベラのお稽古も、おままごとみたいなものだったものね。私は微笑んだ。

 

 でも、そんなちんがいるから、今、私もここにいられる。そう、私には、これまで姫王閣下として暮らしてきたちんの意識と折り合いをつけていく必要があるのだ。転生者の私の無意識で、ちんの意識を押さえ込むことで、瞬間的な力と敏速性は発揮できはするが、それは長続きしない。その結果、こんな風に急におねむになってしまうようでは、戦闘の場では役たたずだ。ちんと私とが、意識を併せ手を取り合ってサーベラを振るう、そんな剣を目指すべき、だ。


 剣を取ることにさほどの意味を与えられてこなかった姫王閣下たるちんに、剣の道を志ざせるためにはどうしたら良いのだろうか...。そう考えた私は、昼前にシズカに足払いを決めると共に思い出してしまった屈辱の記憶を改めて思い起こす。

 あの後の私は、しばらく剣道ができなかった。顧問に頼まれ、部長代理となった副部長は、そんな私にいろいろと気を使ってくれた。顔の腫れがひくまで学校を休むことにした私に、何度もお見舞いに来てくれ、骨にひびがはいって腫れた頬をさすってくれた。学校に戻って、顧問に回復を告げるついでに休部を伝えた私を職員室の前で待ってくれていて、2年の階に戻る途中で、押し付けにならない程度の口調で「また、いつか一緒に剣道しようね。」と言ってくれた。

 その後、2ヶ月ほどのブランクを経て復帰した剣道部では、誰も私の面を狙わないようになっていることを感じ、私は部のけ者になってしまったように感じた。私は部活が終わると逃げるように門の前に止まっている家の車に乗りこんた。朝の稽古もしばらくやめてしまっていた私の剣の腕は落ちていた。私はそのことが一番イヤだった。そんな私に、副部長兼部長代理は、部活の後、道場を出る時に、冬合宿になったら本気勝負挑むからね、と言って、面を打つ構えをしてくれた。

 そう、その年の冬の剣道合宿。普通の平日泊まるだけで一泊50万円以上はするとかいうロイヤルスイートルームをクリスマスまでの5泊を借り切って、女子中学生17名が泊まり込むなんて、いくら私がお嬢だっだからといっても、普通はありえないこと。あれは、部長代理が部員のみんなと顧問を説得し、私の父と執事にクリスマスパーティー合宿の企画書を出して、最後には痴漢犯罪の再発防止を話し合っていたPTAまで巻きこんで、準備してくれたこと。ホテルの部屋を押さえたのはたしかにわたしの家だったけど、あの時の私は、そう今までの姫王閣下と同じく、準備を全部周りに整えてもらって、クリスマス合宿に最初は気乗りせずに参加したのだった。

 合宿初日、部員たちは本気で私に打ち込んできた。秋まで指導してきた下級生に一本を取られた。先鋒を務めてもらっていた同級生に大将だった私が胴を決められた。そして部長代理からは一本も取れなかった。でも、みんなに打ちのめされて、清々《せいせい》できた。打って変わって、夜には、みんな私の周りに集まっで毎晩楽しくパーティーをした。5日間の合宿が終わる時には、私はみんなに勝ち越すことができていた。先鋒の同級生が、合宿を終えた後に私に言った。最後の晩は、私のために必死で頑張ってくれた部長代理と二人で過ごしなよ、と。そう、その最後の晩を二人で落ちついてくつろいで過ごすことかできたおかげで、「年明けからは、部長に戻ってね。」という、その晩の副部長の頼みに、「うん。」と言えたのだった。静かな良い晩だった。部員の子たちがロイヤルスイートルームのある階の廊下のあちこちにいると言っていた、父手配のボディーガードの数はその晩が最高だったらしいが。


 そう、私も思いっきり剣を捨てちゃったことがあるんだし、あんたはこれからよ、と私の中のちんに語りかけた。なんとなく、ちんにその後のことを聞かれているよう気がした私は、つぶやいてやった。


 「私が大将に復帰して東京都大会で優勝して、全国まで行ったに決まってるじゃない。」

 

 炬燵こたつのテントをでた私は、改めて親衛メイドを集合させた。主従をわきまえ、ひざまずく6名に告げた。

 「ここからは、型稽古にするわ。」

 

 私が手合わせをしていない残る親衛メイドは、メイド長のユリコ、イープ、そして、カンマ。姫王閣下の時に見ていた記憶を振り返るに今の私では、この3名には勝てる気がしない。そこでまずは、彼女たちの技を見続けることで、今の私の第一の弱点である動体視力であるを鍛えようと考えたのだ。もちろん、剣道有段者である私の技を剣道未経験者ばかりに見える親衛メイドたちに伝授していく意味も込めて。

 

 今日の型は、「突き」。親衛メイドたちの前で、まずは私が模範としてサーベラを何回か突いてみせる。

 そして、6名に順々に突きをさせて、私が講釈することとした。

 (ちんもちゃんと見ておきなさいよ。)

 心の中で私はそうつぶやいた。

 

 親衛メイドはじめの5人の突きは、皆が皆、早かった。力が入りすぎていたり、ブレがある連撃をするものもあったが、稽古を続ければ、力も抜け精度も上がっていくことだろう。これからの私はそうした超速でのサーベラの突きをいなし、かわせるようにならなければならない。

 

 最後は、親衛メイドの中で、私がラスボス認定しているカンマ。


 「あなたの最高の突きをみせて。」

 そう私が促した後のカンマの突きは、私の想像を超えていた。

 

 私の動体視力で捉えられたのは、カンマが突き終え一瞬だけ止まったサーベラのみ。瞬時のサーベラは、またたきするまもなく、少なくとも6度突かれたところまでを私はなんとか確認できた。

 

 「やるわね。カンマは元々何かやってたの?」と私が聞くと、

 「私のもととなった人間はフェンシングをしていました。」とカンマは答えた。


 「成績とか覚えてる?」と続けると

 「大学の時のフルーレでは、ワールドカップまで。」と答える。

 

 なるほど、元々が違うというわけか、と私はうなずいた。

 

 最後に私は言った。

 「ひとつ聞くね。この地プシチャクの騎士たちをどう思う?」

 「塵屑ごみくずです。」 カンマは即答した。

 「気が合うわね。」


 私は、いずれはこのカンマから一本を取ってやると思い、再びうなずいた。

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