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道を究める二刀流  作者: 沢村俊介
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ビジターの試合から本拠地に帰るとすぐに禅寺に

 野球をやる人間にとって大切なこと、それはボールに対する集中力だと宮本は思う。もっとも、その集中力は野球を離れた時のリラックスが十分行われた時にこそ発揮されるのではないか。例えば、弓道クラブで使っている弓の弦だって、いつもキンキンに張ってばかりいては、疲弊してしまう。使わない時は緩めておかなくてはならないだろう。そういうように少し多角的に物事が考えられるようになったのは、座禅のおかげではないかと宮本は思っている。

 8月27日、28日と本拠地での試合のあと、8月30日からは、ビジター(=アウェイ)のゲームが10ゲームほど続いた。

 9月10日は、久しぶりにチームの本拠地に戻っての試合であった。

 でも、シカゴから帰ってきての試合で多少疲労感があったのか、宮本は5番DHでスタメンだったものの、4打席バッターボックスに立って、ヒットは一本のみだった。

 そのゲームは、午後十時頃に終了した。

 宮本は、寺坂の車でうちに向かっている。腕時計を見ると、時刻はもう十一時を回っている。にもかかわらず、このまま、ロス郊外の禅寺行きを願っていた。気恥ずかしさは確かにある。座禅によって、是非に二桁の勝ち星をという欲求もあるし、またおかっぱ頭の水野五月に会いたいという気持ちもある。もっとも水野五月は自宅から禅寺に通っているというから、今の時間にお寺に居るはずもないのだが……。

 でも、最近観戦チケットを分けてあげたのだから、寺坂先輩も自分のわがままをきいてくれるのではなかろうか、という甘えが宮本にはあった。しかし、帰りの車の中で、禅寺へ連れて行って欲しいということは、とうとう言い出せなかった。

 宮本は一旦うちに入る。そして車を呼んだ。多少の出費は覚悟で、来たタクシーに乗り込み、運転手さんにロス郊外の禅寺のアドレスを告げた。時間的にはかなり遅い。車の中で、宮本は電話番号を聞いていた宅野和尚のスマホに電話を入れた。しかし和尚は快く受け入れを承諾してくれ、ホッとする。

 大きな門を叩く。するとその右側にある小さな通用門が開き、和尚が身をかがめながら出て来た。

「すみません、夜遅くに」

「いや、構わないよ。それで、明日の試合は何時からなの?」

「試合開始は午後5時なんですが、遅くとも午後1時には球場入りをしたいと思っています」

「ああ、そうなんだ。じゃあ、今夜はもう休みなさい。なに、座禅の方は、明日の朝早く起きてやればいいから」

 宮本は感謝した。

 和尚が寝る部屋の、隣りの八畳の日本間に、和尚自らが宮本のために、寝床を敷いてくれた。

 シーツからいい匂いがした。洗濯したばかりなんだろうか、そんなことを思っているうちに宮本は眠りに陥って行くのだった。

 

 宮本は、バットをにぎって、バッターボックスに入る。試合前のフリーバッティングの練習だ。軽く振る。何だか球がよく飛ぶ。不思議だった。何か夢でも見ているようだった。2回目のクール(順番)の時だった。投げられた三球目を打つと、打球は右中間に飛んでいく。すると、バックネットの後ろで宮本のフリー打撃見ていた同僚たちの、『オーッ!』という、驚いたような声が聞こえた。どうやら、打ったボールが右中間の外野5階席に飛び込んだらしい。

 ここの球場は、「打者天国」と呼ばれるところらしい。本当にそうだと宮本は思う。実際、この球場は、ロッキー山脈の入り口に当たる、コロラド州の州都「デンバー」市にあり、この都市の標高ときたら、一六〇〇メートルもある。だから気圧が低く、打球が飛びやすいということを聞いてはいた。それにしても、打球の飛距離に宮本は内心驚いている。日本ならそもそも、こんな標高の高いところに球場なんか作らないだろう。それに何という事か、レフトの後方には、ロッキー山脈の山並みが見え、その壮大な景色に一瞬息を呑み、練習をしていることを忘れてしまうほどだ。 

 すると、まるで夢の中にいるように、場面が変わった。

 高い山並みではなく、目の前には、高いビルが立ち並んでいるのだ。そのビルの高さときたら、半端なものではない。まるで空を突き抜けているように見えるのだ。目を下に降ろすと、天然芝が息を呑むほどに美しかった。ここは本当にニューヨークの摩天楼がそびえ立つ、マンハッタンの中にある球場なのだろうかと疑うほどだ。それに、このスタジアムときたら、左中間からセンター、センターから右中間へと連なる大型ハイビジョンが設置されていて、その巨大さには、圧倒されるほどの迫力がある。こんな球場で野球ができるなんて、自分は何という幸せ者なのだろう。そういう意味においても、思い切って大リーグに来てよかった、と思う宮本だった……。(つづく)


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