7月24日(金)
7月24日(金)天気 くもりのち夕立
今日ガラスの窓の横を歩いていたら、ガラスに写った私に、「代わろうか?」と声をかけられました。危ない目にあってる私を心配してくれたみたいです。私は楽しんでるから大丈夫だと伝えたら、不思議そうな顔をしてました。
最近ずっと暑かったが、ようやく雲ができたようだ。天さんの力がなくても、外を歩けるくらいになった。午後はじめっとしていたため、今日も天さんの力を借りる。
天さんがこちらを伺うような目でみてきた。
「天さん、何かあった?」
「いや、私はなにも。…君が、いや、君は昨日までの3日間、嫌な目にあわされたろう?約束をしたことを嫌になっていないのかい?」
飛翠はぱちりと瞬きした。天さんがそういったことを聞くとは思わなかった。怪異と会ってほしいといったのは天さんだし、怪異に会うってことは危ない目に遭う可能性があるってことだ。飛翠としてはそれを承知で約束したつもりだし、天さんもそのつもりなのだと思っていた。
「全然問題ないよ。初めは涼しくしてもらって外に出れたらラッキーくらいのつもりだったけど、今は怪異に会えるのも楽しみだし。」
天さんの目をまっすぐ見ながら伝える。嘘偽りのない気持ちであることは伝わっただろう。
天さんは初めて会った時のようなにんまりとした笑顔を見せた。
「そうか、それならよかった。いや、もう嫌だと言われたらどうしようかと思っていたが、君はなかなかに強いようだね。うん、本当に良かったよ。」
「ちなみに、もう嫌だと伝えたらどうなってたの?」
「君は私と約束をしていた。怪異にとって約束は重いものだ。それを破るのなら君にとって最も重いものを奪っていたかもね。」
飛翠を心配していたわけではなく、約束を破らないか確認していたようだ。
「大丈夫。私約束は守るから。じゃあ今日も行ってくるね。」
「ああ、いってらっしゃい。」
今日はレストランやスーパーマーケットの立ち並ぶ大きな道路の方に向かう。飛翠の頭の中で、さっきの会話がぐるぐるまわっていた。
(そこまで嫌な目にあってないし、私は怪異に会うの楽しいし。私は約束やぶらないんだけど。なんでそんなこと聞かれたんだろう?)
『代わろうか?』
突然頭に響くように声が聞こえた。他人の声が耳から聞こえるのとは違う、自分の声が頭の中で聞こえるような、そんな声だった。
何かと思いあたりを見回す。歩道の脇のレストランの窓を見ると、飛翠が映っていた。そこに違和感があった。飛翠が窓の前に立つ。映った姿もまっすぐ立つ。飛翠がニッと笑ってみると、窓に映った姿は表情を変えず、ただ、飛翠を見つめていた。窓に映っている姿は怪異だったようだ。
「怪異さんですか?かわるって何をですか?」
『あなたと私、代わろうか?鏡のうちと外くるりと反転。同じ姿だから大丈夫。』
「私が鏡の中にいって、あなたが外に出て、私の代わりになるってことですか?」
『そう。代わろうか?』
飛翠は不思議だった。目の前の怪異は問答無用で入れ替わるわけではない。入れ替わりの提案をしている。提案されるということは、怪異からは、自分が代わってほしいと思っているように見えるという事だ。そうでないならば、断りそうな人に提案しないだろう。
「私、代わって欲しそうですか?」
だから、素直に聞いてみた。
『違う?あなたは転ばせられそうになったり、大きな音で耳が痛そうだったり、ジュースをかぶってびしょびしょになってた。そもそも、怪異と約束してしまって、毎日怪異にあわなくてはならない。この先もきっと危険がある。…あなたがここを通るとき、あなたは悩む顔をしていた。そのことで悩んでいるのではないのか?』
(そう見えるんだ。)
転ばせられそうになっても避けれたし、大きな音もなんとかなったし、びしょびしょになっても楽しい経験ができたと思う。
さっきまで悩んでいたのも、怪異に会うことではない。
でも、思っているのは飛翠の中でだけ。それを伝えてなければ、わからないのだ。
(天さんも同じかな。)
よくよく考えてみたら、天さんとはまだ会って一週間しかたっていない。それに、天さんとそこまで話をしてない。飛翠が怪異と会って何をしてどう感じたのかを知らない。だから嫌になってないか心配になったのだろう。
(これから帰ったら色々話してみようかな。まずは今日から。)
そしてはじめに、目の前の怪異から伝えていこう。
「私、代わらなくていいです。私、毎日いろんな怪異に会って、いろんな経験して、とても楽しいんです!今年の夏休みが、忘れられない特別な夏休みになるって嬉しいんです。だから、大丈夫です。心配してくれてありがとうございます。」
窓に映る怪異は飛翠の顔で不思議そうな表情をしていた。それでも、入れ替わりを必要としていないことはわかったようだ。
『不思議。この街の人は怪異に会ったり、取り憑かれたりしたら代わってほしいと願っていたのに。あなたは願わない。』
「楽しんでますので。」
『わかった。』
そう言って、怪異がいなくなったようで、窓には飛翠自身の姿が映っていた。
(家に戻って天さんと話そうかな。あ!雨だ。)
ぽつりぽつりと雨が降りだす。家に戻るつもりで歩き始めると、だんだん雨が強くなってきた。
『代わろうか?』
再び頭に声が響く。地面の水たまりに、怪異が再び映っていた。
「大丈夫です!雨に濡れるのも楽しみますから!」
雨に負けない笑顔で飛翠は答える。
いつもより足を早く動かして家に向かう。雨音も雨水が体を打つのも楽しいが、それでも、早く帰る理由があった。
天さんに伝えたいことがあった。
「おかえり。びしょ濡れだね。」
家に帰ると玄関の前で天さんが出迎えてくれた。勢いのまま話し始めた。
「ただいま。天さん、今日も怪異さんに会ってきました。不思議なお話の仕方で楽しかったです!」
飛翠が楽しかった話を伝えたかった。




