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夏休み怪日記  作者: UMA5
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8月25日(火)


「飛翠、助けて!」


 8月25日の始まりはみさちゃんの言葉だった。


 珍しく、みさちゃんが飛翠の家に遊びに来た。が、その顔は遊びに来た子の顔ではなかった。


「どうしたの、みさちゃん? 何があったの?」


「な、夏休みの宿題が、」


(終わってないのか。)


 一瞬で、心配の気持ちが消えた。

 明日で夏休みが終わる。だというのにまだ終わっていなかったとは。みさちゃんはもう少し計画的に進めた方が良い。

 まあ、まだ2日の猶予があるだけマシな方だろう。人とによっては残り一日どころか、その夜になって焦り出すらしいので。


「夏休みの宿題終わってないの? 自分でやらなきゃ意味ないよ。教えるくらいはするけど。」


「そうじゃなくて、いや、終わってないからそれも助けてほしいんだけど、それだけじゃなくて、夏休みの宿題が逃げたの!」




 話はこうだ。

 夏休み残り2日の今日。みさちゃんはお母さんに宿題を終わらせるように言われたらしい。終わらないなら明日遊びに行く予定だった遊園地に連れて行かないと言われたそうだ。

 しぶしぶ宿題に取り組むみさちゃん。でも、やる気はない。


「宿題なんてなくなればいいのに。」


 などと言ったそうだ。すると、突然宿題のワークや読書感想文の原稿用紙、交通安全ポスターの画用紙など、宿題に必要な道具が浮き上がり、窓から飛び出して行ったらしい。


「なるほど、噂の宿題の怪異か。出会えるとは思わなかったよ。」


「お願い飛翠、怪異に慣れてるんでしょ。探すの手伝ってぇ。」


 みさちゃんが懇願している。飛翠は渋い顔だ。


「そうは言っても、宿題の怪異がどこに行ったかなんてわからないし…。」


 みさちゃんの顔色が悪くなる。宿題を無くしたなんていったらどうなるか想像しているのだろう。

 飛翠としてはみさちゃんは友達だし、宿題の怪異は気になるので、探したい気持ちはある。

 しかし、探そうにもどこに行ったかもわからないものを探すのは無茶だ。


「どっち行ったかわかんないの?」


「わかんないよぉ。部屋の中で浮き上がってパニックになってとにかく捕まえようとしてたらどんどん窓から出てってたし。」


 万事休す。どうしようもない。読書感想文の原稿用紙と、画用紙はあまりがあるからあげてもいいけど、今渡してもまた怪異になって逃げそうだなと飛翠は考えた。


(あ、そうだ。)


「みさちゃん、一緒に探すよ。」


「え、いいの? でも、場所わかんないしどうやって?」


 飛翠はにっこり笑う。


「怪異たちに聞けばいいんだ。」




「宿題の怪異? ああ、そういえばさっきあっちの家の窓から紙が飛んでたね。多分宿題の怪異だよ。」


 天さんが答える。


「目撃者いて良かった! 天さん、宿題の怪異どっち行ったかわかる?」


「うーん、バラバラに飛んでたからね。全部はわからないけど…。」


 天さんが見たいくつかの宿題の怪異の行き先がわかった。


「ありがとう、とりあえず追いかけてみるね。天さん、宿題の怪異ってどうしたら怪異じゃなくて普通の宿題に戻るか知ってる?」


「詳しくは知らないけど、前見かけた子はちゃんと宿題やりますって言われて帰ってたかな。」


「そっかあ、そこはミサちゃんの気持ち次第だね。よし、いってきます。」


「いってらっしゃい、捕まえられるといいね。」


 玄関から少し離れた場所で待っていたみさちゃんのところに向かう。


「お待たせみさちゃん! 宿題の怪異の行き先わかったよ。」


「飛翠、家に怪異いるの? なんであんな普通に喋ってんの?! そっちがびっくりだよ。」


 みさちゃんは飛翠が怪異と関わっていることは知っていたが、普通におしゃべりするほど関わっているとは思っていなかった。


「あんな当たり前みたいに喋って平気なの? 取り憑かれたりとかしないの?」


「取り憑かれたりはしてないかな。むしろ涼しくしてもらってるし。」


「涼しく?」


 飛翠は天さんとした約束のことを話した。


「飛翠、怪異と約束なんかして大丈夫なわけ? ぜったいなんかあるでしょ。」


「まあまあ、今なんかあるのはみさちゃんの方でしょ。とりあえずまずは運動公園から行こっか。」


 天さんの証言の元、2人は運動公園に向かう。

 夏の終わりが近づき、ひまわり畑のひまわりたちはみなこうべを垂れていた。


「ひまわりさん、こんにちは!」


 ひまわりたちの中に立っていた、ひまわりの怪異のひまわりさんに声をかける。みさちゃんはおっかなびっくりで飛翠の後ろに隠れていた。


「飛翠? 太陽を追いかけにきたの?」


「今日は太陽じゃなくて宿題を、あ!」


 ひまわりさんの下に太陽が描かれた『夏休みワーク国算理社英』が落ちていた。


「あの、ひまわりさん。やっぱり太陽でした。その太陽、この子のなんです。持ってっていいですか?」


「かまわない。あるべき場所に戻るべきだ。」


 飛翠はみさちゃんを押す。


「さあ、みさちゃん。とってこないと。」


「ええ、私がとってくるの?」


「そりゃあそうでしょ。みさちゃんの宿題なんだから。ちゃんとやりますって言わないと、もしかしたらまた逃げるかもしれないよ。」


「うう、それは困る。」


 みさちゃんは、怪異にあまり近づきたくないようだ。


「ひまわりさん、優しいよ。」


「飛翠の基準じゃ、安心できないよ。」


 などと言いつつ、みさちゃんは覚悟を決めたようで、「宿題、ちゃんとやります。」と宣言し、ひまわり畑に入っていく。

 そろりそろりと近づくみさちゃんにひまわりさんは首を傾げた。

 ひまわりさんが動いたことにみさちゃんはびっくりして「お邪魔しましたー!」と、大慌てでワークを掴んで出てきた。


「ひまわりさんありがとうございました!」


「気にしないでほしい。あなたには恩があるから。」


 ひまわりさんが微笑んだ。




「うう、私、今まであんまり怪異に関わってこなかったのに。」


 みさちゃんはしょぼくれた顔で言う。見かけたら即Uターンしていたとのことだ。♢市民としては正しい行動だと思う。


「まあ、でも宿題を怪異にしたの、みさちゃんだし。うだうだいってないで次行こう。」


 2人はどんどん進む。♢小の校門に引っかかっているポスター用の画用紙は簡単で良かった。

 こぎつね公園の方に飛んだ体力アップの用紙は草むら様が捕まえてくれたが、「こいつが欲しかったら勝負だ!」といって、しばらく勝負に付き合わされた。

 公衆電話の中にするりと入っていった読書感想文の原稿用紙をとるのは緊張した。また電話がかかってきたらどうしようかと思ったが、前のことで飛翠は嫌われたのか電話はかかってこなかった。

 途中で出会ったレモンの怪異さんや浴衣さん、セミさん、パインちゃんから証言を辿っていき、お祭りの時にお世話になったゆるし神社に向かう。神社には日記が飛んでいっていた。一本杉の周りを飛び始めたため、お祭りの怪異さんの中に入ろうとしているのかと焦ったが、3周回り切る前に捕まえることができた。




「他は場所わからないんだよね。あと、何がないの?」


「あとないのは自由工作で作ろうとしてたミニプラネタリウム用の黒の画用紙だけだね。」


「みさちゃん、自由工作も終わってないの? 今日で宿題終わる?」


「終わらせるよ。ワークとかだって全部終わってないわけじゃないし。半分くらいは終わってるし。」


「ワーク半分かあ。道のり長そうだね。」


「う、まあ、確かにギリギリすぎるかもしれないけど、でも、なんとか終わらせようと思ったやさきにこれだし。」


「みさちゃん、これに懲りたらコツコツやろうね。あ、影の怪異さん。」


 飛翠が地面を見て話しかけた。みさちゃんもつられて地面を見ると、飛翠が膝に手をついて屈んでいるというのに、飛翠の影は両手を顔の横で降っていた。怪異なのだろう。


「影の怪異さん、黒い画用紙知りませんか?この子の宿題の材料なんですけど、怪異になっていなくなっちゃって。」


 飛翠の言葉に悩むような仕草をしていたが、思い当たるものがあったのか、あっ、と顔をあげていた。

 こっちこっちと指差し手招きしている。


「みさちゃん見つかりそうだよ。良かったね。」


「怪異と言葉なしに通じ合ってるなんて、飛翠本当に大丈夫? なんか違う世界に片足突っ込んでない?」


 みさちゃんはジト目だった。飛翠からすれば宿題を怪異にしてるみさちゃんの方がヤバいと思うがそれは口に出さなかった。

 影の怪異さんの道案内を受けて、2人は天児童館に辿り着く。影の怪異さんが地面から壁に移動し、上、上と指差す。

 2人が見上げると、丸い形の天井の上に黒い画用紙たちが集まっていた。ちょうどプラネタリウム室の天井だった。


「なるほど、さては自分たちはプラネタリウムになるはずなのにいつになったらプラネタリウムになれるんだ! いつまでもなれないならもう本物のプラネタリウムの中に入ってやる! ってやつだね。」


「うっ、確かにいつまでも放置してたのは私だけど。」


 みさちゃんは申し訳なさそうに見上げる。一度深呼吸をして声を張り上げた。


「画用紙たち! いつまでも宿題やらなくてごめんなさい! 今日すぐに取り掛かってちゃんとプラネタリウム作ります。戻ってきてください。」


 みさちゃんの言葉が届いたようだ。画用紙たちはどうするか話し合うように頭を突き合わせていたが、戻ることに決めたらしい。ふわりと舞い降りてみさちゃんの元に戻ってきた。


「うわーん、ありがとう飛翠! これで宿題終わらせられるよ。」


「私だけの力じゃないんで。怪異さんたちにお礼言わないと。」


「え、いや、まあ、そうだよね。うん。宿題終わって気持ちが落ち着いたら、うん。ちゃんというよ。」


 あまり怪異に近づきたくないのだろう。みさちゃんは嫌そうな様子だった。


「それにしても飛翠とんでもないね。怪異と約束して、夏休み中、毎日怪異に会うなんて。あんなにたくさんの怪異と知り合っちゃうなんて。」


(まあ、もっと知り合った怪異はいるけど。)


 それは口に出さない。


「まあ、でももう夏休み終わるし、学校始まるからね。怪異に会うのは…」


 おしまい、と続けようと思った。

 だって、そのつもりだった。


 飛翠は夏休み、暑くて外に出れなくて、それが嫌で天さんと怪異に会う代わりに涼しくしてもらった。

 だから、それは夏休みの間の話だと思っていた。


 でも、


(あれ? ちゃんと、夏休みの間って言ってたっけ。)


 約束の時、天さんが言っていたのは一日一回は外に出ること、そして、怪異に会うこと。


 夏休みの間とは言ってない。


 宿題が見つかり、元気になったみさちゃんとは反対に、飛翠は冷や汗が出てきた。

 だってもし、この約束がこの先続くとしたら、いや、まずは確認しないと。


 みさちゃんに、別れを告げ、飛翠は急ぎ足で家に帰る。玄関には天さんがいた。


「おや、おかえり。宿題の怪異、見つかったのかい?」


「はい、天さん、見つかりました。ありがとうございます。それで、あの、天さん。」


 飛翠の辿々しい言葉に天さんは首を傾げる。


「うん、どうしたんだい?」


「あの、約束のことで、確認したくて、その、明日で私たち夏休み終わるんです。」


「そうだね、だから宿題終わらせなきゃってさっきの子が言ってたんだろう?」


 天さんは、夏休みの終わる日を知っていたようだ。


「そうなんです。それで、夏休みが終わったら、」


「大丈夫。」


 天さんはいつか見たにんまりとした笑顔を向ける。


「夏休みが終わっても、約束の通り、君のことは涼しくしてあげよう。まだまだ、暑いからね。きっと困るだろう。だから、君は心配せずに、これまで通り、外に出かけて、怪異にあってくれればいいよ。」




8月25日(火)天気 晴れ


 今日は、逃げた──の怪異を追いかけて、捕まえて、いろんな怪異に助けてもらいました。





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