8月13日(木)
8月13日(木)天気 雨
今日友達とおしゃべりしていたら途中から怪異が会話に混ざっていました。姿は見えませんでしたが、仲良くおしゃべりしてました。
傘をささないくらいの小雨が降る中、飛翠は天児童館に向かう。ときちゃんと遊ぶ約束をしたのだ。
先週の水曜日、ときちゃんは風鈴の怪異のせいで、体が冷え切って体調を崩していたが、電話したところ元気になったようで一緒に遊ぶことにした。
(ときちゃん元気になってよかった。)
児童館が開館する9時ちょうどに到着した。ときちゃんはまだついていない様子。今日が雨のためか、児童館の利用者は今のところ飛翠しか来ていなかった。
児童館の入り口で少し待つとときちゃんが来た。
「飛翠ちゃん、お待たせ!」
「ときちゃん、おはよう。元気になってよかった。」
「ありがとう! 飛翠ちゃんのおかげだよ!」
2人はプレイルームに向かい、ソファに座っておしゃべりを続けた。
「あの怪異がいなくなって2日くらい寝たら元気になったんだよ。でももう風鈴の音はこりごりで、外で風鈴の音が鳴るたびに動けなくなっちゃったの。」
「あんなことあったし、無理ないよ。でも、それだと大変だよね、外に出かけるの。今日誘って大丈夫だった?」
「ううん、平気! 気が紛れてむしろ良かったから。あ、電話でも言ったけど、今日10時半までしか遊べないんだ。今日はお昼から家族でお出かけなの。」
「うん、大丈夫だよ。お出かけいいね! どこ行くの?」
「お昼ご飯をレストランで食べて、その後映画見に行くの! 今ハッピーモンスターの映画やってるでしょ、それ見に行くの!」
ハッピーモンスターはいつもニコニコハッピーなモンスターたちと、いつもシクシク泣いてるクライモンスターたちの暖かな友情を描くハートフルアニメだ。今年の夏は映画もやっており、入場者特典のシールが可愛いと評判だった。
「ハッピーモンスター見に行くんだ! いいね。ハッピーモンスター誰が好き?」
「私はどちらかというとクライモンスターが好きで、シェイムンとか、サディンとか。」
「そうなんだ! どっちも綺麗だし可愛いよね。」
「そうなの。シェイムンが恥ずかしがっていつもサディンの後ろに隠れてるところとか、私も恥ずかしがりだから共感してて。」
「ときちゃん恥ずかしがり屋なの? この間音楽のときとか堂々と歌ってたから、あんまり恥ずかしがりのイメージなかった。」
「ううん、すごく恥ずかしかったよ。でも、早く終わらせないともっとみんなに見られると思ったから、頑張ったの。」
「えー、でもそれでしっかり歌えるならカッコイイと思うよ。」
「そんなことないよ。飛翠ちゃんの方がすごい元気に歌ってたし。」
「…。まあ、歌は大きく歌えば歌うほど、楽しいからね。歌うからには思いっきり声を出したいんだよね、私は。」
「すごい、誰もいないところならともかく、人前だとそんなふうには思えないよ。」
「人がいると気にしちゃうよね。分かる、上手く歌えなかったらどうしようとか。」
「うん、歌が得意ってわけじゃないから、この間も緊張で途中歌詞が抜けちゃいそうで。」
「歌詞がこんがらがるのはわかる、1番と2番どっちの歌詞だっけってよくなるし、私は最悪混ざってもいいやって歌ってるけど。」
「ええっ、間違ったときパニックにならないの?」
「間違えたら、頭真っ白になるよね、間違っちゃったっていうのと、どうすればいいっていうので。」
「…うーん、まあ、間違えても堂々と歌っていれば案外バレないなって、前に間違えちゃったとき気がついて。歌い終わった後、普通に拍手もらったし。まあ、気がついてて何も言わずにいてくれたのかもしれないけど。」
「そっかあ、飛翠ちゃんすごいなあ。私間違えちゃうとパニックになっちゃうから、堂々としてるの難しいかも。」
「人って案外周りを見ているようで見ていないし、聞いているようで聞いていないから、気にしないっていうのも一つの手だね。」
「…。間違えたっていうのを考えすぎないのもいいのかもね。間違えたけどこのまま歌っちゃおうって思えると、最後まで歌いきれるし。」
「できるかなあ、そんなふうに考えるの。」
「まあ、考え方を変えるのは難しいし、一番は間違えずに済むくらい、不安にならないくらい練習しておくことかもね。」
「ときちゃん真面目だもんね。」
それからずっと、3人はおしゃべりを楽しんだ。学校の話や夏休み中に行った場所、本やゲーム、ハッピーモンスターの話で盛り上がっていた。
そのうち時計が10時30分をさす。
「そろそろ帰らないと。飛翠ちゃん、またね!」
「うん、ときちゃんまたね。」
「さようなら。」
飛翠は変な表情にならないように必死だった。ときちゃんが児童館の玄関を出るまで、努めて顔色を変えなかった。
ときちゃんの姿が見えなくなり、ようやく心のうちにためていた言葉を吐き出す。
「…。急に会話に入ってくるなんて、びっくりしました。困ります、怪異さん!」
「そうだったの?仲良くおしゃべりしてたのに。」
姿は見えない。でも、声ははっきり聞こえている。間違いなく、怪異がそこにいる。
「えっと、どちらの怪異さんですか? プラネタリウムの怪異さんじゃないですよね。」
「そうだね。私が何者と聞かれると、なんで答えればいいか難しいけど、会話に割り込む怪異ってやつかね。」
飛翠は学校で聞いた噂話を思い出した。おしゃべりの途中、いつのまにか、怪異が混ざり込んで一緒におしゃべりしていることがあると。
「あんな堂々とおしゃべりに入り込むのすごいと思います。私はときちゃんにバレないかずっとヒヤヒヤしてましたし。」
「うん?バレちゃいけないの? まあ、あなた私に気がついているのに何も言おうとしないし、私も隠してたけど。」
「ときちゃん、この間怪異のせいで苦しんでいたので、別の怪異とはいえ、怪異がすぐぞばにいるなんて知ったら怖がっちゃいますから。」
「ああ、そうだったんだね。まあ、バレてもバレなくてもどっちでもよかったから。バレて私の噂がまた広まってもいいし、バレないままおしゃべり続けてもよかったし。」
怪異は人に認識されて己を保つ。噂が広まれば、自分をより多くの人間に認識させられるし、おしゃべりを続けても、その場では認識されたままなので自分を保てる。だからどちらでもよかったのだろう。
「…おしゃべりの相手なら私がします。私はあなたと話したいし、あなたと話したこと、大切な思い出にします。だから、ときちゃんとか、他の子を怖がらせるのはやめてほしいです。」
飛翠の言葉に怪異は驚いたようだった。少し考えるような間をおき、調子を戻すように話し始めた。
「…まあ、今後あなたとおしゃべりするかはともかく、あの子を怖がらせることはやめるね。怖がらせても、前の怪異ばかり思い出しそうだし。あなたたちとのおしゃべり、楽しかったから。」
怪異の声に少し優しさが滲んだ気がした。
外の雨が少しずつ強くなってきていた。飛翠も家に帰ることにした。
「私も今から帰るんですけど、怪異さんおしゃべりしながら一緒に行きます?」
「あら、姿のない私とおしゃべりしていて、あなたは平気なの? 周りに怖がられるかもよ、怪異と話してるって。」
「それは別に…、これまでもいろんな怪異と喋ってましたし、隠してないですし。浮き輪よりは全然…」
「浮き輪?」
「いえ、こっちの話です。どうせ雨で周りの音は聞こえにくいですし、それに『人って案外周りを見ているようで見ていないし、聞いているようで聞いていないから、気にしないっていうのも一つの手だね。』って怪異さんも言ってたじゃないですか。なら私は気にしないことにします。」
「…そう、じゃあもうしばらく、あなたとおしゃべりでもしようかね。」
雨の帰り道。2人はおしゃべりの花を咲かせていた。




