8月9日(日)
8月9日(日)天気 くもりのち雨、雷
今日は昨日の浮き輪の怪異に捕まって、閉鎖になってる♢市民プールに連れて行かれました。怪異の力で中に入るとプールがやってたころの姿に変わりました。今日はプールに入れなかったけど、浮き輪の怪異さんが流れて行くのを見るのは楽しかったです。次は私も遊びます。
「いってきます!」
天さんに告げて玄関を出た時のことだった。
「わっ!」
なんと昨日の浮き輪がまた飛んできてまたすっぽりとはまってしまった。
「え? 浮き輪の怪異さん? また輪投げですか?」
尋ねたところで浮き輪の怪異さんが答えることはない。浮き輪は飛翠をどこかに連れて行こうとしているのか、体をぐいぐい押してくる。
「あの、どこかに行くのでしたら着いて行くので、浮き輪外させてくださいませんか?」
今日の浮き輪は1個だった。どこまで行くのかわからないが、この格好は恥ずかしかった。
しかし、浮き輪の怪異は反応がないようで、そのまま飛翠を押し続ける。
(もう諦めるしかない。なるべく速く向かって他の人に見られないようにしよう。)
そう考えた飛翠は浮き輪の押す方向へ向かって駆け足で進んだ。
そうしてたどり着いたのは閉鎖になっている♢市民プールだった。もともと屋外プールとして流れるプールやウォータースライダーもあったようだが、今は水が流れておらず、タイルの間から雑草が生い茂っていた。
浮き輪の怪異さんは市民プールを囲っているフェンスの方へ向かうように飛翠を押している。
飛翠は声をかけてもしょうがないことは理解していても、疑問を呈さずにはいられなかった。
「あの、浮き輪の怪異さん、こちらのプールは今やってないですし、今目の前にあるのはフェンスです。このまま行ってもぶつかるだけですよ。」
しかし、浮き輪の怪異さんは変わらずに飛翠を押す。浮き輪がフェンスにぶつかるところまで近づくと、目の前の空間が歪むように動き、その歪みの中に入りだした。
(何これ? どうなってるの? このまま進める感じ?)
疑問はたくさん浮かんだが、いや、浮かんだからこそ、飛翠はそれを知りたい気持ちでいっぱいになった。先ほどまでは抵抗していたが、今度は浮き輪の怪異さんと一緒に進んで入って行く。
歪んだ空間に入る瞬間、空気の壁を通り抜けるような感覚がした。それを通り抜けると、目の前には水の張られた♢市民プールがあった。
「えー! 水が流れてる!」
よく見ると、タイルの隙間に生い茂っていた雑草もない。飛翠は♢市民プールがやってた頃は赤ちゃんだったため見覚えはないが、かつて営業していたころのプールの姿なのではないかと思った。
流れるプールやウォータースライダーにも水が流れており、遊べたら楽しそうだ。
振り返るとフェンスの外は真っ暗な空間が広がり、先ほどまで歩いていた道が見えない。お祭りの怪異のように別の空間に入ったようだった。
浮き輪の怪異さんは飛翠から浮き輪を外して、流れるプールに浮かびだした。
「もしかしてプールで遊びたかったんですか?」
反応はないが、水に揺られて気持ちよさそうに流れていた。
「ここはプールの怪異なのかな?」
浮き輪の怪異さんを追いかけながら進むと、プールの脇の監視台に監視員さんがいた。黒い影がそのまま人の形になっているような姿だった。
「あの、すみません。ここはプールの怪異さんの中なのでしょうか?」
「お! 久しぶりに営業したと思ったら人が来たのか! そうだぞ。ここはプールの怪異。迷い込んだ人にかつてのプールの姿を見せてるんだ。」
「なるほど、人が来たら営業する。だから、浮き輪の怪異さんは私を連れてきたんですね。」
「きみ、浮き輪の怪異に連れられてきたのか。あいつは自分のやりたいこと押し通すだけで、相手の都合とか考えないからな。どこに行くのかもわからずにここにきたんだろう。」
「はい、浮き輪の怪異さんとはお知り合いですか?」
「まあ、ここで遊びたそうによく来てたからな。でも、ここは人がいないと営業しないから、きみを無理矢理連れてきたんだろ。付き合わされて大変だな。きみの格好じゃあ遊べないし。」
「でも、こんな場所があるんだって知れてよかったです。今度、遊びに来てもいいですか?」
「え? 来てくれるのはありがたいけど…。一応ここ怪異だぞ。普通遊びにこないもんじゃないか。」
監視員さんは驚いた様子だった。今まで迷い込んできた人間はここが怪異だとわかるとすぐに逃げていたからだ。しかし、飛翠は、恐れも脅えもなく、明るい笑顔で答えた。
「私この夏休み、忘れられない思い出を作ろうと思っていて、いろんな怪異さんに会いに行ってるんです。プールの怪異さんとも思い出作りたいです!」
飛翠の言葉に監視員さんは嬉しそうな声色で答えた。
「そうか、ならぜひきてくれ。8月の間はやってるからさ。」




