8月6日(木)
8月6日(木)天気 くもりのち晴れ
散歩中普通に歩いていたら、いきなり景色が変わって、全然知らない場所に来てました。♢市内の知らない場所にあっちこっち連れてかれました。帰ってくるのが大変でした。
昨日冷え切った体も、ご飯をしっかり食べ、お風呂に入り、10時間眠ったらすっかり元気になった。
「天さん!おはようございます。」
「おはよう、体調は平気かい?」
「うん、もう元気だよ。」
「それは良かった。今日はもう出かけるのかい?」
「うん、今日も散歩。」
「…出かけて平気かい?」
以前も怪異に危ない目にあわされたとき、天さんは心配していた。飛翠が怪異に会い続ける約束を守れるかを。
「心配しないで天さん、昨日は危なかったけど、友だちを助けられたし、新しい怪異について知れたし、悪いことばかりじゃなかったから。楽しかったは違うけど、興味深かったから、あの怪異に出会えてよかったし。」
飛翠は笑顔でそう答えた。
「そうか、大丈夫ならよかった。いってらっしゃい。」
「いってきます!」
今日はなんとなく遠くまで行きたい気持ちがあった。とはいえ、小学生の歩きではなかなか遠くまで行けない。
(自転車にすればよかったかな。でも、自転車に乗ると止まりたくなくなっちゃうんだよな。)
飛翠の住んでいる天町は♢市の西側の方だったため、東の方に行ったことがなかった。買い物でもお出かけでも今まで行ったことがなかった。そのため、何があるのかも知らない。何か新しいものを見つけてみたい。
そんなことを考えながら歩いていると、急に太陽の光が目に入る。雲が動いたようだ。飛翠は眩しくて目をつぶった。目をゆっくり開けると、景色が一変していた。
「え?!ここどこ?」
先ほど歩いていた歩道とはまったく別の歩道に飛翠はいた。パッとみても見覚えのある景色はまったく見えない。
「怪異かなあ?怪異しかできないよねこんなこと。どうしよう、帰れるかな?」
飛翠は深呼吸して、気持ちを落ち着かせる。何かあったときは慌てるのが一番良くないと教わった。気持ちを落ち着かせて周りを見ると、ちょうど歩道の脇に地図の立て看板が見えた。
「よし!地図があった。」
みてみると、♢市岩井茶町という言葉があった。
「よかった!♢市の中なら帰れる!」
そう思うと気持ちが軽くなり、突然怪異に連れてこられたこともプラスに考えられるようになった。もともと、遠くまで行きたいと思っていたのだ。もしかしたらそれを叶えてくれたのかも知れない。
「岩井茶町ってどこら辺だろう。知らないなあ。この地図近辺しか載ってないな。」
地図は岩井茶町の中のみのっているようで、そこが♢市のどのあたりなのか分からなかった。地図を見るとこの辺りは住宅街のようだ。交番は見当たらなかった。かわりにたて公園という、飛翠の知らない公園が見つかった。
「せっかくだし、たて公園行ってみよう!」
しばらく地図を眺めて、道のりを確認し、たて公園に向かう。そこそこ大きい公園で、ロッククライムの遊具が目立っていた。
「ロッククライムやったことないな、やってみよう!」
自分の家の近所にはない遊具に心躍らせ、飛翠は遊び始める。迷子になっている不安はもうどこにもないようだった。
近くで見ると、ロッククライムは飛翠の身長の2倍ほどの高さがあった。初めは苦戦しながらも、どこに足や手をかけるか戦略をたてながら登ると、一番上まで到達することができた。
「この後どこ行こうかな?」
公園に行くことだけ考えていたため、次の予定は決めていなかった。地図を見た限り、公園の出口から右に進み続けると、岩井茶町からは出るようだった。
「とりあえず、進んでみるか。」
公園を出て右にまっすぐ進んでいく。馴染みのない、新鮮な景色が面白かった。
しばらく進むと、電柱の住所が芥子町に代わっていた。その名前に聞き覚えがあった。芥子小学校があったはずだ。
「他の小学校、あんま見たことないかも。見てこようかな。」
見てくるにもまずは場所がわからないといけない。しばらく地図を探しながら歩くと、先に歩道橋を見つけた。
「上から見たらわかるかな?」
歩道橋に登り、周りを探す。すると小学校らしき建物が見えた。その方向に向かって進み続けると、小学校を見つけることができた。
グラウンドではサッカーをしているのが見えた。
飛翠は芥子小学校の細かい場所は知らないが、♢市の東の方にあることは知っていた。今日の怪異は飛翠が行ったことのない♢市の東の方に連れてきてくれていたようだ。
「とりあえず、西に向かって進めば知っている場所がありそうだな。」
小学校の壁に大きな時計がついていた。現在時刻は9時45分。まだ太陽は東の方にある。
飛翠は太陽に背を向け、自分の影を見つめる。ちょうど影の方向に向かうように、道が続いていた。
「よーし、この道をまっすぐ」
進もう、と言いかけたとき、再び突然目が眩む。目を開くと、再び景色が一変していた。
「またなの?!」
だが、今度は知らない景色ではなかった。先週映画を見にきた♢市のショッピングセンターの近くだった。
ショッピングセンターは♢市の南側に位置する。芥子小学校よりは家に近かった。いつも車で来ているため、ちゃんと道は覚えていないが、大きい道路でまっすぐ進むことが多いので、大雑把にはわかる。
「うん、さっきよりは帰り方がわかる。家に」
向かおう、と言いかけた瞬間、再び目の前が白から黒に変わる。飛翠は目を開けたくない気分だった。
「道がわからない場所に連れてってくれてるわけですか?道がわかるってなったらまた場所を変えるんですか?」
飛翠は遠くに行きたかったし、知らない場所を歩いてみたかったが、いざ家に帰ろうとするとまたわからない場所に連れて行かれるのは困った。まだ9時45分過ぎだが、お昼には帰りたい。
現実を受け入れる準備ができ、飛翠は目を開く。景色はまたもや一変し、今度はまったく知らない場所だ。
「分かりました。こうなったらわからないまま突き進んで、家に帰って見せましょう。」
迷子になったときしてはいけないことがわからないままに動き回ることだと思うが、こうなってしまっては仕方がない。
人に聞く、親に連絡をとらせてもらうことも考えたが、下手に場所が分かったらまた移動してしまいそうなため、自分で帰ることにした。
家のちかくはわかってしまいそうな気がするが、そうなったら最悪目を閉じるなり、地面だけ見て進むなりして、とにかく"わからない"状態にし続けることにした。
「家まで帰ってみせるぞー!」
気合を入れて、また知らない場所に挑むのだった。




