7月18日(土)
第一話を昨日読んでくださった方、ありがとうございます。
第一話に出てきた怪異さんの呼ばれ方と町の名前を変更しました。(2026.7.19)
7月18日(土)天気くもりのち晴れ
今日から夏休み。さっそく怪異に会いに出かけたら、家の前に怪異が来てました。ひまわりの花のような怪異でした。普段は運動公園近くのひまわり畑にいるようです。一緒に太陽を探して欲しいと言われて、運動公園を歩いて回ったら、太陽がおちてきました。綺麗でした。
今日から夏休みだ。ワクワクした気持ちで飛翠は起きた。
18日の朝はどんより曇り。じめっとしてはいるが、窓を開ければ涼しい風がふいてきた。
朝ごはんを食べ、外に出かけることをお母さんに告げると、帽子と水筒を持っていくように言われた。
帽子と水筒を準備し、玄関から出る。
天さんが屋根の上から降りてきた。
「今日は私は必要ないかな?」
昨日わざわざ涼しくすることを約束したにも関わらず、そもそも暑くならなかったので、少しきまりが悪そうだった。
「ううん、でも、この後暑くなるかもだから、涼しくしてくれると嬉しいな。」
「わかった。」
天さんは頷くと、昨日のように翼を広げ、飛翠の周りを覆った。煙が球状に飛翠を包み込むと、じめっとした空気も減っていった。
「この煙は君にしか見えないものだ。他のものにはわからないということを知っておいてくれ。」
「ありがとう!さっそく怪異に会いにいくね。」
「うん。と言っても今日はもう来ているのだけれど。」
天さんの視線を追うと、家の目の前の歩道の植え込みに今まで咲いていなかったひまわりが咲いていた。
よく見れば、怪異である。
なんせ地面近くで二股に分かれ、足のように立っている。
茶色の部分には顔があった。
近づくと飛翠より頭ふたつ分ほど背が高い。飛翠の方を見るように顔を下に向けていた。
怪異の方から話しかけてきた。
「あなたが飛翠?」
「はい、私は飛翠です。えっとひまわりさんとお呼びしてもよろしいでしょうか。」
ひまわりさんはこくりと頷く。少し飛翠の顔を眺めてから、話し始める。
「私は太陽を追いかけなくてはならないの。あなた、太陽を一緒に追ってくれる?」
飛翠は困った。どう答えたものかわからない。
まずいくつか考える必要があった。
目の前にいるのは怪異だ。口裂け女よろしく、問いかけの答え次第で、飛翠にとってよくないことがある可能性がある。
太陽というのが、そのまま言葉の通り空に輝く太陽であれば、その場所は雲の向こうだ。今日見えるかどうかは天気次第だ。
そして、太陽というのが何か比喩的なものであれば、まずそれが何か分からなくてはならない。
ちらりと、飛翠は後ろに立っている天さんの様子を伺う。にんまりと笑顔を浮かべていた。口を出してくる様子はない。
(人間の私がこの怪異について、知らなくてはならない、ってことかな。)
とりあえず、答えるのではなく、質問をすることにした。質問に質問で返すのはよくないと思うが、よく分からないまま下手に答えるのもよくない。
「私の足で、あなたと一緒に追いかけることはできるでしょうか?」
これは、追いかける太陽とひまわりさん、どちらかがとんでもなく速かったらどうしようもないと考えての質問だった。
ひまわりさんは飛翠の足を見ると、
「問題ない。私はあなたよりゆっくり進むから。」
ひまわりさんの答えから、ひまわりさんと一緒に太陽を追いかけるのはできることはわかった。
また、ひまわりさんは質問することがタブーではないこともわかった。普通に答えてくれるようだ。
「ひまわりさん、太陽というのは空に輝く太陽ですか?」
「そら?かがやく?太陽は太陽。私が追うもの。」
ひまわりさんは不思議そうな反応をする。何かしら怪異と人間の認識の違いがありそうな反応だった。
空の太陽ではない。曇りの今日見えるか分からない太陽ではなく、何かしら追いかけようのあるものの可能性がある。
「わかりました。一緒に追いかけます。」
「ありがとう。」
ひまわりさんは少し嬉しそうにいう。
「それで、ひまわりさん。太陽を追いかけるのに、どっちに行けば良いでしょうか。」
太陽が何かを尋ねるのは難しそうだと、さっきの質問の時に感じた。とりあえず、場所を確定させて、そこで太陽っぽいものを考えようと思った。
「私が普段いるところから、緑の方へ向かっていった。」
全く分からない。だが、向かうべき場所があるとわかってよかった。やみくもに何か追いかけるのは大変だから。
「わかりました。では、普段いる場所に向かいましょう。」
飛翠はひまわりさんについて、歩き出す。天さんは着いてこなかった。
歩いている途中、時折人とすれ違うが、怪異と一緒に歩いている飛翠に話しかけてくる人はいなかった。触らぬなんとやらなのだろう。
ひまわりさんが向かった先は、運動公園のひまわり畑だった。
「太陽はあちらにいった。」
ひまわりさんが指すのは運動公園の森になっている方。緑とは木のことだったようだ。
「なるほど、それでは一緒に追いかけましょう。」
運動公園の森の中は木の影で少し薄暗かった。パッと見たところ、太陽と呼べるようなものが見つからない。
しばらく森の中を1人と1体で歩き回った。
それでも見つからない。
飛翠がもう少し詳しく聞いた方が良いか悩み出したころ、薄暗い森の中が、少し明るくなった。
雲の隙間から太陽がのぞいてきたようだ。
天さんの煙のおかげで、暑いとは感じないが。
ふと隣のひまわりさんを見ると、変わらず下を向いていた。空の太陽には見向きもしないようだ。そういえば、飛翠の方を見ていない時もずっと下向きだった気がする。
ひまわりさんの顔を見ていた時、ふとひまわりさんの後ろに生えている木の枝に気になるものがあった。紙が引っかかっていたのだ。
「ひまわりさん、少しいいですか?」
飛翠は木登りができないため、かぶっていた帽子を紙の方に向かって投げる。何回か繰り返すと紙が枝から落ちてきた。
拾ってみると、そこには小さな子が描いたのだろう、ひまわりのような絵があった。
「太陽!」
ひまわりさんが目を見開き、近寄ってくる。追いかけていた太陽はこれだったようだ。
「追いつけたようで、よかったです。」
飛翠が紙を渡そうとすると、ひまわりさんは暗い顔になる。元々下を向いていた顔が、ますます下に向いていった。
「私では、追いつけなかった。あなたがいなければ。私は太陽を追うものなのに。」
ひまわりさんはポツリポツリと話し出す。
元々自分がただのひまわりだったこと。
ある日、小さな子どもが、太陽の絵を持ってきたこと。
その子どもは、ひまわりが太陽を追いかける花だと知って、太陽の絵を持ってきて、太陽はここにあると、こっちを見てと、話しかけていたこと。
ひまわりさんは少しずつ、その子の方を、下を見るようになったこと。
ある日、風に煽られその子の絵が飛んでいってしまったこと。
その子に、太陽の絵を追いかけてほしいと願われたこと。
その願いから、怪異になったこと。
「ひまわりは太陽を追いかける花だと。そう願われたのに。」
飛翠は少し考えてから、
「大事なのは、太陽なのでしょう。なら、追いついたなら、方法はなんであれそれでいいと思います。」
そう言って再び紙を差し出す。
ひまわりさんは、それを受け取り、
「ありがとう。」
と、太陽に負けない明るい笑みを咲かせていた。




