8月4日(火)
8月4日(火)天気 くもりのち晴れ
今日はさそり公園に行きました。そこのすべり台が怪異だったみたいです。怪異も言ってましたが、すべり台の逆登りはしないほうがいいです。
今日も朝は涼しかった。✿◯県は例年夏は暑いが、今年はまだそこまで暑くない。このままだったらいいのにと思いながら飛翠は出かける準備をする。
今日はいつもと違う少し離れた公園に行こうと思った。歩いて20分くらいのところにあるさそり公園というところだ。さそりはいない。
他の公園に比べてすべり台の種類が多く、大型遊具についているすべり台も合わせて5個もある。
普通のすべり台はもちろん、ローラーがついた長いすべり台にくるくる回ってすべり落ちるすべり台、大型遊具についているトンネルになっているすべり台と、小さい子向けの小さなすべり台。
久しぶりにすべりたくなったのだ。
歩くと20分かかる場所だが、飛翠は歩いていく。
自転車は乗らない。自転車が嫌いだからではない。自転車の風を切って進む感覚が飛翠は大好きだ。だからこそ、周りに気をつけて、信号などで停まりながら乗らなくてはならない街中ではあまり自転車に乗りたくなかった。サイクリングロードのような、ただ夢中に自転車を漕げる場所で自転車に乗るようにしていた。
公園に着くと、今日は公園で遊んでいる子が他にもいた。涼しいからだろう。飛翠の知り合いはいなかったため、そのまま1人ですべり台で遊ぶことにした。飛翠も他の子も順番に並び、しっかり座ってすべっていた。
小さい子向けのすべり台以外を繰り返し繰り返しすべり、他の子がお昼ご飯を食べるために帰っていくころ、今日はお弁当を持ってきてなかったため、飛翠も帰ろうとすると、
「なあ、あんた中川飛翠だろ。」
突然知らない声がした。周りを見ても人も怪異も見当たらなかった。
「そっちじゃねえ。すべり台だよ、すべり台。」
声は目の前の普通のすべり台からしているようだ。
「はじめまして、はい、私は中川飛翠です。すべり台の怪異さんですか?」
「おう、ここのすべり台どこにでも俺はいる。」
試しにローラーすべり台の方へ行ってみると、同じ声が聞こえた。
「さそり公園のすべり台さんとお話しするの初めてですね。遠いけど何回かきたことあったんですけど。」
「まあ、お前や今日来た子どもたちみたいなやつの前には出ないからな。それもあって困っててなあ、人に知られてなきゃオレらは消えちまうから。」
「あの、私にできることでしたら手伝わせてください!」
飛翠はまだあったばかりの怪異でも消えてほしくなかった。どんな怪異なのか知りたいし、もっと話したい。
てんびん公園のシーソーの怪異のように、決まった条件のとき現れる怪異なのかもしれない。その条件を満たしてほしいということならやってみせよう。
「お前いいやつだな。あー、まあ、でもお前みたいなやつにこんなこと頼みたくないんだが。」
条件が難しいのだろうか?飛翠はなお言葉をかける。
「難しいことでもやってみます。まず教えていただけませんか?」
「まあ、オレから話しかけておいてやっぱなしってのも変な話だしな。…お前にはすべり台を逆から登ってもらう必要がある。」
「え?」
すべり台の逆から登る、つまりすべるはずの部分を足で登ってほしいということだ。やんちゃな子がよくやっているが、飛翠はやったことはなかった。
「逆から登るのって人にぶつかるかもしれないし、すべりたい奴がすべれねえし、よくねえだろ。それをするやつを、まあ、もうやらねえって思わせるのがオレという怪異なんだよ。昔はやんちゃな奴が多くてさんざん痛い目合わせたら、やんちゃな奴が来なくなってな。最近はちゃんとすべるやつばかりだから、オレは人前に出ることがなくなったってわけ。」
すべり台の怪異は少し言葉を選んでいるようだった。「もうやらねえって思わせる」は割と人を襲うなり取り憑くなり脅かしているのだろう。
♢市によくある「人に危害を加える怪異だが、被害にあった人間にも落ち度はある」のパターンだろうか。
「まあ、危険なことする奴がいなくなったのはいいことだけど、それでもいざ自分が消えそうって思うとなんか寂しくてな。」
「わかりました、協力します。」
飛翠は普通のすべり台の前に戻り、すべり台の下り口のところに足をかける。
「いいのか?その、それする奴に酷い目に合わせてたわけで、あんたにも同じ目にあってもらうことになるんだが。」
「私、この公園ですべり台すべるの楽しかったので、すべり台さんのことをお手伝いできるなら喜んで!あ、すべり台さんって呼んでよかったですか?」
「ああ、呼び方はそれでいいよ。悪いな。じゃあよろしく頼む。」
「はい!」
飛翠はダダダッとすべる側のステンレスの部分を駆け上る。途中まで行くと、進む方向と逆方向にステンレスが動き出す。
「わっ!」
急に足場が動いたために飛翠は足を踏み外し、うつ伏せにすべり落ちた。
「悪い、平気か?」
すべり台さんが声をかけてくる。
「ルームランナーみたいになるんですね。」
「ルー?すまんそれはわかんないんだが、まあ、こんな感じで逆から登るやつを落としてたんだよ。付き合わせちまって悪かったな。お前に知ってもらったしもうしばらくは大丈夫だろ。もういいぞ。」
「いえ、もう少しやらせてください。」
「は?何いってんだ、危ねえぞ。つか、危ねえからやらないようにオレがいたわけだし。」
「はい、でも、ここのすべり台全部すべり台さんなんですよね。なら、ちゃんと全部やって、もっとすべり台さんのこと知りたいです。」
さっきは驚いてすべって転んだため、よくわからなかった、というのもある。すべり台の逆登りを率先してやりたいわけではないが、すべり台さんのことをもっと知りたいと思った。
「んじゃあ、それぞれあと一回、オレとしてもそんなしてほしいわけじゃあないからな。」
「わかりました!あと1回ずつ、よろしくお願いします。」




