8月3日(月)
8月3日(月)天気 雨
今日お祭りの終わった後の大通りを歩いていたら、レモンのいいにおいがしました。たどっていくと怪異のお祭りで見かけたレモンの怪異さんがいました。とってもいいにおいでした。
今朝は雨が本降りになったり、霧雨になったり、止んだと思ったらまた降り出すのを繰り返していた。
(今日はどうしようかな。)
本降りのときも傘さえあれば大丈夫なくらいの雨だった。飛翠は出かけることにした。
今は午後2時。いつもの装備は帽子とタオル、だが、今日はそこに傘と長靴を付け足す。
「こんにちは、天さん。」
「やあ、飛翠、今は雨少し落ち着いているよ。」
外は霧雨。飛翠は傘をささずに外に出た。
「傘、ささないのかい?」
「ザーザーぶりになったらさすよ。霧雨なら気持ちいいから。」
「そうか、風邪は引かないようにね。」
「はい!いってきます。」
「いってらっしゃい。」
飛翠の行き先は決まっていた。昨日までお祭りの会場だった、♢小学校ちかくの大通りだ。
ついてみると、お祭りの名残は全くなく、いつもの道に戻っていた。昨日はあんなに輝いてみえた道が、どことも変わらない、普通の道に戻っていた。
(あっという間だったなあ。)
思い出をたどるように大通りを進んでいく。昨日のお祭りの香りはもうない。雨とアスファルトの匂いに満ちていた。
(楽しかったなあ。)
人の世界のお祭りも、怪異の世界のお祭りもとても楽しかった。飛翠のまぶたの裏に色鮮やかに焼き付いていた。
10分ほど歩いたところで、雨の匂いに混じり、柑橘系の爽やかな香りした。よく嗅いでみるとレモンのようなにおいだった。
雨が降っているため人通りはなく、制汗剤などの香りではないだろう。他に香りの発生源がわからず、飛翠はキョロキョロ見てまわる。
だんだんと香りが強くなってきて、周りを見ると、お祭りの時にテントが並んでいた駐車場で、レモンの怪異が空に向かって噴水のようにレモン汁を飛ばしていた。
(昨日怪異の世界のお祭りでいきなり目に向けて汁飛ばしてきた方かな?それとも屋台でレモネード売ってた方かな?)
昨日のお祭りでレモンの怪異は2体見かけていた。レモンの怪異は、レモンを半分に切って、切り口が口のように動く怪異だった。口が動くたびにレモン汁が飛んでいた。
(雨の中何してるんだろう。話しかけてみようかな。)
「あの、そこで何されているんですか?」
「あれ、キミ昨日お祭りに来ていた人間かい?」
(レモネード売ってた方だ。)
レモネードの屋台には寄ってないが、呼び込みの声かけが優しかった記憶がある。それに、昨日レモン汁を飛ばしてきた方は少し口が悪かった。
「はい、中川飛翠と言います。レモンさんとお呼びしてもよろしいですか?」
「うん、いいよ。ボクは今ちょっとした実験みたいなことをしていて…。」
少し恥ずかしそうに言葉が萎んでいく。
「実験ですか?すごい。どんな実験ですか?」
「あ、いや、実験というと少し格好つけているというか、そんなすごいことではなくて、むしろ子どもっぽい思いつきを試しているだけで、」
照れと恥ずかしさが混じり、レモンさんの口がぎゅっとしぼんでいく。それに比例して、レモン汁がさらに高く飛んでいき、雨のように降ってきた。
(いい香り、それに、)
「レモンの雨みたい。」
「ほんとう!?」
レモンさんは口をぱっと開き、飛翠を見る。先ほどまで飛ばしていたレモン汁がとまった。
「え?はい。空に飛ばしたレモン果汁が雨と混ざって降ってきて、レモンの香りの雨って感じがします。」
「そう!それがやりたかったんだ。レモンの雨。空から降ってくる雨が全部レモンだったらいいなって思って。」
ずいぶん壮大な夢を持っていたようだ。
「そんなたくさん果汁を出すのはさすがに無理だったけど、少しでもその気分を味わえたらなって思ってやってたんだ。でも、キミにそう思ってもらえたなら成功ってことでいいかな?」
「はい!」
レモンさんはふんわり笑う。そのおかげかレモン果汁が液となって飛んで来ず、ふんわりとレモンの香りが漂った。
そのとき、
「おーい、兄貴!何やってんだよ。あ、お前、昨日の。」
(昨日レモン汁目に飛ばしてきた方!)
もう一方のレモンの怪異がやってきた。弟だったようだ。
「いつまで雨に濡れてんだよ。さっさと行こうぜ。」
「迎えにきてもらってごめんね。飛翠さん、それじゃあさようなら。」
「今度は顔しわくちゃになるまでレモンかけてやるからな!」
そういってレモンの兄弟は去っていった。
(怪異の兄弟でも似てないとかあるんだなあ。)
そんな発見をして、飛翠は帰ることにした。




