8月2日(日)
いつもより遅れてしまい申し訳ございません。
8月2日(日)天気 晴れのちくもりのち夕立
今日もお祭りに遊びにきました。お昼ご飯を食べた後、天さんに誘われて怪異のやってる夏祭りに参加しました。怪魚すくいで遊んだり、カラフルな怪火を眺めたり、とても楽しかったです。
今日も晴れ。飛翠は浴衣さんに着替えて、さっそくお祭りに出かける。
今日のお祭りの開始は12時から。12時ちょうどに会場に着くように準備した。
玄関を開けると、天さんが待っていた。
「やあ、そろそろ出てくると思っていたよ。」
「こんにちは、天さん!今日もお祭り行ってくるね。」
「ああ、そのことなんだが、どうだろう、よかったら怪異の夏祭りにも来てみないかい?」
「怪異の夏祭り?他でもお祭りしてるの?」
「ああ、今日のお祭り、ゆるし神社のお祭りだろう。神社の脇にある一本杉を目を瞑って3回回ってごらん。私たちの世界に入れるよ。私はあちらで待っているから。」
「わあ、行ってみたい!わかった、神社の脇の杉の木を目を瞑って3回回ってくね。」
「ああ、待っているよ。」
そういって天さんは空を飛び、一足先に向かったようだった。
「浴衣さん、今日の予定はそれでいいですか?」
「いいけれど、あちらの食べ物は人間のあなたが食べてはいけないの。先にご飯を食べてから行った方がいいわよ。」
「そうなんですね、わかりました。今日は何食べようかな。」
そんなこんなでお祭りの会場に向かうと、たいこさんが歩いていた。この後怪異のお祭りに行くと伝えるとポンと叩いて、先に行くと身振りをしていた。
「きのうはたこ焼きとかき氷とポテトと夜にお好み焼きを食べたし、今日はじゃがバターにしようかな。」
「いっぱい食べるのね。」
「はい!あ、ベビーカステラ多めに買ってお土産に持ってこうかな。怪異さんてあまり食べ物は食べないですか?」
「私は食べないけれど、怪異によるわ。食べる子は食べるし、人間の食べ物はあまり食べる機会がないからいいんじゃないかしら。」
「なるほど、ありがとうございます。」
昨日と本日のお小遣いで、合わせて6000円もらっていた。よく考えて使いなさいとお母さんに繰り返し伝えられた。
昨日2500円使ったので、あと3500円残っていた。
じゃがバターは自分でバターなどを塗れる屋台に行く。バターと味噌をたっぷりかけたかった。
「美味しい!」
その後ベビーカステラ屋で30個入りのベビー、カステラを買う。お財布の残りは1900円。夕飯も大丈夫そうだ。
神社は参拝客が並んでいた。列に並ぼうかと思ったが、それだと遅くなりそうなため、心の中で神様に感謝を伝え、一本杉に向かう。木に手をついて目を瞑る。3回回るとのことだったが、これではわからないのではないだろうか。
「浴衣さん、向こうに着いたら声をかけてください。」
「わかったわ。」
目を閉じながら歩いて回る。参拝客たちは子どもが1人で遊んでいるようにしか見えないだろう。
「飛翠、着いたわ。」
浴衣さんに声をかけられ、目を開ける。目に映る場所は先ほどの神社と同じ。でも、列に並んでいた参拝客が、お祭りを回っていた人が、人間が全くいなかった。そこにいるのは怪異たちだけだった。
見たことある怪異や知らない怪異やさまざまにお祭りを楽しんでいるようだった。
「やあ、着いたようだね。」
飛翠の目の前に天さんが現れた。
「天さん!お待たせしました。」
「どうだい、こちらのお祭りも面白いだろう?」
「うん、とっても。」
お祭りはいつもの景色を別世界にする。でも、今見えているお祭りの景色はさらに別世界だ。
煙の塊のようなものを売っているお店、不可思議な生き物の丸焼きを売っているお店、幻想的な光り方をしている飴屋さん。
上に目を向けると、提灯の代わりに色とりどりの怪火が、昼間から光っている。
道には山車はないが、その代わりたいこさんや笛の怪異が不可思議な祭囃子を奏でている。
「こんな場所があったんだね!」
「この場所自体が怪異と言えるかな。祭りの怪異。その怪異の中をこの辺に住む怪異たちが間借りして一緒に祭りをしているのさ。気に入ってもらえてよかったよ。」
「あの、屋台ではお金使えるの?」
「まあ、怪異に人のお金の価値はわからないけど、人のものをもらえるならもらいたがるんじゃないかな。そもそもキミは人だから何か交換と言わずいろんな屋台に引っ張りだこだろうけど。」
怪異は人に認識されて居続けることができる。人である飛翠と関わりたがるということだろう。
「食べ物が気になるのかい?」
「ううん、浴衣さんに食べない方が良いって教えてもらったから、お昼ご飯食べてきた。遊びたいなあって。」
「ああ、なるほど。ふふ、その怪異とずいぶん仲良くなれたんだね。遊びか、人の世界のそれとは違うものがいろいろあるよ。」
「じゃあ、さっそく出発するね!天さんも行く?」
「そうだね、今日は一緒に行こうか。」
たいこさんは演奏を届けてまわるらしい。別行動になった。
飛翠が歩いていくと、怪異たちはニンゲンだ、ニンゲンだといって集まってきた。
中には驚かしてきたり、いたずらを仕掛けてくるものもいたが、飛翠はそれも楽しんでいた。
先ほど見かけた幻想的な飴屋さんの前に行くと、飴屋さんの店主が、
「飴はいらんかね?」
と、声をかけてきた。
「すみません、見ているだけで。綺麗な飴だなあと思って。」
「飴を買いなされ。」
店主は両手に飴を持ってずずいと迫ってきた。
「えっと、すみません。買わないです。」
「飴を買いなされ。」
口の方にずいと近づいてきたため、飛翠は急いで離れる。
「天さん、この方、お話通じない人かな?」
「キミの意図を汲んでくれるかという話なら"通じない"だろうね。」
天さんはにんまりと笑っていた。
飛翠は天さんに助けを求めるのはやめた。何か新しい要求をされそうだ。
(怪異ならこの飴食べてもいいんだよね。なら、)
「飴屋さん、お土産用に飴2本くださいな。」
そういって、ベビーカステラを2つ差し出した。人のものをもらいたがるというならベビーカステラでも良い気がする。飴屋の店主は嬉しそうな様子で、
「お買い上げ、ありがとうございます。」
と言って、ベビーカステラを受け取り、飴を2つ、それぞれ袋に包み渡してきた。
「飴屋さん、ありがとうございます。」
「また、お越しなさい。」
飴屋さんから離れ、天さんと浴衣さんと歩く。
「飛翠ってば、食べないんだから買わなくてもいいのに。」
「でも、綺麗なのでせっかくだし。食べ物食べれる怪異さん知り合いにいますかね?」
「どうだろうね。キミが今まであった子というなら、ああ、あの子とか?」
天さんが翼で指し示した先には、飛翠と同じ顔で、建物のガラス扉に写っている、鏡写しの怪異がいた。
(代わろうかっていってた子だ。)
よく見るといろいろ違う。まず服が昨日着ていた半袖ハーフパンツだ。浴衣ではない。
先ほど買った飴も、ベビーカステラも持っていなかった。
そして、表情が違う。今飛翠は知っている子に会えて笑っているが、相手は不思議そうに首を傾げていた。
『代わりに来たの?』
「違います。遊びにきたんです。」
鏡写しの怪異は浴衣さんや天さんに目を向ける。
『怪異と一緒に歩いている。不思議。』
「誰かと一緒にお祭りまわるの楽しいですよ。」
「飛翠、あなた、そこの怪異と喋っているの?」
浴衣さんが聞いてきた。彼女の声は他の人には聞こえないようだ。
「はい、そうなんです。あの鏡さんとお呼びしても良いですか?」
『私を?…かまわない。』
「ありがとうございます、鏡さんこちらの飴もらっていただけますか?ベビーカステラもつけます!」
そういって、飴とベビーカステラをそれぞれひとつずつ差し出す。
『私に?…ありがとう。』
鏡さんはガラス扉から手を伸ばし、飴とベビーカステラを受け取った。
鏡さんが飴を口に含む。
『甘い。』
「味、甘いんですね。」
『飴もだけど、あなたも、もう少し気をつけた方がいいと思う。』
「え?」
鏡さんが一瞬、天さんの方に目を向けた気がした。
『困ったなら言って、力になれるかはわからないけど。』
「えと、ありがとうございます?」
それだけ言うと、鏡さんはスッと姿を消した。
(気をつける、まあ、あんまり簡単にこういう場所来ちゃダメだよってことかな?)
少し気になったが、今特に困っていることがないため、心のうちにとどめておくことにした。
また少し進むとカブトムシとクワガタの怪異がいた。
「お、あの時のおなごか。確か飛翠と言ったか?」
「お主も祭りに来ておったのか。」
「カブトムシさん、クワガタさん、こんにちは。遊びに来ました!あ、」
(カブトムシとクワガタの怪異なら飴食べれる?でも一個しかない。)
「お、飴も買うたんか。子どもは甘いものが好きだからなあ。」
「まあ、我らも好きだがなあ。」
「あの、この飴とベビーカステラ、お二人で分けていただいてもいいですか?」
飛翠としては食べない飴を持っているのは忍びなかった。渡せそうな方に渡したかった。そこで、飴とベビーカステラの2つを渡して分けてもらうことにした。甘いものが好きならどちらでも良いのではないかと思った。
しかし、
「なんと、その飴くれるのか?!いや、しかしベビーカステラ、なんともそそる香りだ、どちらも捨てがたい」
「こうなってはカブトの、ひと勝負して、買った方が選ぶということにせんか?」
「おうよ、クワガタの、ひと勝負いくかね。」
いうが早いか彼らは向き合い、相撲を始める態勢になった。周りの怪異も見物に回る。
いつのまにか草むら様も来ていたようで、行事を務めていた。相撲が盛り上がる中飛翠は自分の行動を少し後悔した。
(まあ、勝負を楽しんでいるならいいのかな?)
お祭りの屋台をまわる怪異もいれば、屋台を行う怪異もいる。ポップコーンさんがポップコーンを売っているのを見かけた。
さらに進むと、怪魚すくいという看板の屋台があった。
「天さん、浴衣さん、行ってみていいですか?」
「かまわないよ。」
「行きましょう。」
見てみると、ポイですくえる大きさの、しかし、現実にはいなさそうな不可思議な魚たちが泳いでいた。
水の中で燃える炎の魚や、ガラスのような質感の魚、翼が生えて、時々空中を飛んでる魚もいる。
「人の子が来るのは珍しい。やってくかい?」
店主に声をかけられた。
「飼えないと思うので持ち帰れないですけど、やっていいですか?」
「はは、かまわないよ。」
「じゃあ、やります。ベビーカステラでいいですか?」
「お、いいものくれるね。それじゃあポイを2つにしてあげよう。」
そういって店主は飛翠にポイを2つ渡す。
飛翠はしゃがみ込み、なるべく水面に近い怪魚を探す。七色に光魚が水面に近づいてきた。
「今!」
怪魚はポイに乗り、杯の中に入れることができた。
「上手だね。」
「おお、お嬢さん、お上手だ。」
天さんと店主に褒められる。その後も様々な種類の怪魚を2つのポイで合計8匹すくいあげることができた。
「楽しかったです。ありがとうございます。」
「ああ、またおいで。」
その後も飛翠は怪異たちの祭りを楽しんだ。景品が逃げていく射的や、水の中をぴょんぴょん跳ね回るヨーヨー釣り、人のお祭りのとは違う変わった形のお面屋さんや風車屋さんを眺めたりもした。
夕立が来た際はカエルの怪異が歌って踊って大賑わいだった。
そして雨が止み、夜になると、怪火たちが、輝きをまし、ゆらゆらと舞い踊り出す。
とても美しい光景だった。
「天さん、今日誘ってくださりありがとうございました!」
「忘れられない、思い出になったかな?」
「はい!」
「それはよかった。」
「あの、天さん戻るときはどうすればいい?」
「さっきの一本杉を来た時と反対向きに3回まわれば着くよ。」
「わかった、それじゃあそろそろ戻るね。今日とっても楽しかった!」
「うん、それじゃあ君はひと足先に帰るといいよ。」
「はい。」
天さんと別れて浴衣さんと一緒に戻る。元の世界も夜になっており、神社の目の前で山車が集まって、祭囃子を奏でていた。
演奏を最後まで聴き、飛翠は夕飯の焼きそばを買って家に帰る。
「浴衣さん、昨日と今日、ありがとうございました。浴衣を着てお祭りまわるの、なんだかワクワクして嬉しかったです。本当にありがとうございました!」
「私こそ、誰かに来てもらえて、本当に嬉しかったわ。あなたに会えてよかった。それじゃあいくわね。」
「あの、浴衣さんはどこにいくんですか?」
もともと捨てられた浴衣だといっていた。いく先はあるのだろうか?
「怪異はいつでも存在しているわけじゃない。夏の怪異がそれ以外の季節は姿を消しているように、私も人間が浴衣を一番意識するお祭りが終われば、姿を消すわ。」
飛翠の哀しげな表情を見て、浴衣さんは努めて明るく話す。
「大丈夫よ。忘れられて消滅するわけじゃない。
人で言うなら眠るのと一緒。来年の夏祭りにはまた目を覚ますわ。だってあなたが覚えていてくれるもの。」
「浴衣さん、来年会えますか?」
「ええ、また来年、会いましょう。」
そういって浴衣の怪異は夜空の中に溶けていったのだった。




