7月29日(水)
7月29日(水)天気 晴れ
今日は映画を見に行きました。『SAME 海を呼ぶもの』を見ました。途中で私も映画の中に入ってSAMEから逃げました。スリリングでした。
久しぶりに太陽が絶好調だった。夏休みに入って1番青い空を見た。
今日はお母さんが午前中しこどお休みらしく、一緒に映画を見ることにした。♢市のショッピングセンターの中に映画館があるのだ。
お母さんと玄関を出るときは天さんは降りてこない。屋根の上から涼しくしてくれた。
車に乗って出発し、屋根を見上げると、天さんが羽を振っていた。飛翠は手を振りかえす。
映画館に入り、チケットを買う。お母さんとの熱い議論の結果、飛翠の見たかった『SAME 海を呼ぶもの』に決まった。本当は4Dの揺れて濡れるものが良かったが、お母さんが猛反対したため2Dで見ることとなった。
「飛翠、本当にサメがいいの?海の映画ならもっと色々あるよ。」
「サメがいいの。ハラハラドキドキスリリングで楽しいから。ねえ、本当に4Dダメ?」
「4Dだと、飛翠が怪異のあれやそれやに巻き込まれそうだし、映画でハラハラするのはまだいいけど、現実でハラハラしたくないから。」
「わかった。」
ポップコーンとウーロン茶を買ってもらい、いざ劇場に入る。観客は少なく、座席にポツポツと座っていた。飛翠たちの席の列は誰もいない。
「人全然いないね。」
飛翠がコソコソ話しかけると、
「そりゃあ、見ないんじゃない?この内容だし。まあ、今映画を映画館で見ない人が多いらしいし。」
お母さんもこっそり答えてくれた。前半は特にこっそりしていた。
「面白いのに。」
パンフレットは買ってもらえなかったため、映画館の入り口で取ってきたリーフレットを広げる。
巨大なサメの影が中央にドーンッと描かれ、周りに怪しげな全身ローブの人影たちが万歳していた。あらすじはこうだ。
『海を呼ぶもの、SAME。かの者が召喚されしとき、海をもたらす。
海から遠く、海産物を入手することができない土地、イアサムタ。人々はSUSHIを食べるために日々血で血を洗う争いが起こっていた。
その中で、海を知らない無垢なる教団が海を呼ぶもの、SAMEの召喚を試みる。果たして、SAMEは召喚され、イアサムタの土地に海が生まれた。
海を知らないイアサムタの人々は知らなかった。SAMEの力の恐ろしさを──』
「これ、舞台日本じゃないよね。なのに寿司?」
お母さんの疑問に、飛翠が答えた。
「作ったの日本人だし、背景割と日本だし、まあ、細かいところは気にしないほうがいいよ。サメが暴れるのがメイン。」
そうこうしているうちに、CMが始まり、飛翠はリーフレットをカバンに入れる。そしてポップコーンを抱えた。
映画はSUSHIを奪い合うイアサムタの人々から始まる。
主人公と親友がマグロの寿司を巡り、2人の仲が決裂する場面には胸を詰まらせた。
飛翠が映画に熱中していると、突然画面が歪む。
(え?)
そんな演出が起きそうな場面でもなかったのに突然何事かと思うと、画面からサメが飛び出してきた。
(4Dだった?演出すごい!)
などと呑気に考えていたのも束の間、サメは飛翠の方に向かってきて飛翠を頭から噛みついた。痛みはないが、サメの喉で、画面が見えなくなり、飛翠はもしやと考える。
瞬間、サメは飛翠ごと画面の中に引っ込む。
飛翠は映画の中に、入っていた。
サメは画面の向こうに引っ込むと同時に、飛翠を吐き捨てた。おかげで尻餅をつく。手に持っていたポップコーンも少しこぼれた。
「いったたー。うーん、やっぱり怪異かー。」
斜め上を見上げると、そらにモニターのようなものがあり、向こう側に映画館が見えた。
お母さんが頭を抱えていた。
「この場合、サメ映画の怪異?映画館の怪異?どうやったら帰れるかな?」
呑気に考えていると、後ろから何かが押し寄せるようなドドドドドッという音が聞こえる。
見ると、海の水が波のように押し寄せていた。
その先頭には先ほどのサメがいる。
「逃げれるかな?」
とにかくデカくて大きな建物に登ろうと、目の前のマンションに入る。自動ドアになっているガラス扉は壊されており、中に入って階段を駆け上ることができた。
最上階の8階まで駆け上がり、人の声が聞こえる。見ると、教団の人と主人公が言い争っていた。
「お前たちが、お前たちがあんなもの召喚しなければっ!」
「俺たちだって、SAMEがあんな恐ろしい者だとわかっていたら召喚していなかった。それにお前たちだってはじめは海が生まれたと喜んでいたじゃないか!」
「あの、SAMEってどうしたら帰って行くんですか?」
言い争っている場に空気も読まず入っていく。映画の世界を楽しみたい気持ちはあるが、流石にサメと、押し寄せる海水相手は危険だと判断し、さっさと物語を終わらせようと思った。
「君は、いったい?」
「お気になさらず、通りすがりのものです。早くこの状況を打開しませんか?召喚したものを返す方法とかってないんですか?」
「あ、ああ。方法はある。召喚した場所にSAMEを呼び寄せて、帰還の呪文、『イバイバメサ』を3回唱えればいい。」
「わかりました、やってきます。」
「君が?無茶じゃないか。」
「大丈夫です。ハラハラドキドキスリリングを少しくらい味わいたいので!」
そう言って階段へ向かって駆け出す。教団の人が、
「君!場所は」
と言いかけるが、
「召喚するところ見ていたので大丈夫です!」
と言って、そのまま階段を駆け降りた。
地上に戻ると、波は落ち着き、海の水はくるぶしくらいのところまでに引いていた。
靴と靴下は水で重くなるため、一回脱ぐ。水の押し寄せる音が別の場所に向かっているようだ。サメもそこだろう。音の後を追い、サメを発見する。
「サーメさーん!ここまでおいでー!」
人の声にサメが反応する。振り向き、飛翠の姿を捉えたようだった。
「ここまで来れる?海にいるはずのサメさんじゃこんな浅瀬泳げないかな?」
少し挑発するように声をかけると、人の言葉はわかるようで、怒ったように追いかけてきた。
急いで召喚された場所に向かう。
「シャークッ」
サメがかなり近づいている。飛翠は手に持っていたポップコーンをサメに向かって投げた。
「シャーッ」
見事目の方にぶつかった様子。塩味のポップコーンはサメを苦しめたようだ。
サメの怒りが増すが、飛翠は構わず走っていく。心臓がバクバクいっていた。
召喚された場所に戻ると、幾何学的な召喚の魔法陣のようなものが書かれている。振り向くとサメが飛翠の方へ突進してきた。
「うおっ!」
サメの突進を避けるため、姿勢を低くしたが、勢い余って転んでしまう。気がつくと魔法陣の上だった。
サメは飛翠の上に浮かびながら、急に視界から消えた飛翠を探しているようだった。
(今!)
「イバイバメサ!イバイバメサ!イバイバメサ!」
3回の呪文を早口言葉のごとく言うと、魔法陣が光だし、飛翠とサメは光に包まれる。
光の中で飛翠は、
(新しい物語ありがとう)
という、何者かの声が聞こえた。
気がつくと、映画館の椅子に座っていた。脱いでいた靴と靴下は座席の前に乾いた状態で置いてある。画面ではエンドロールが流れていた。
「飛翠?」
隣の席を見ると、お母さんがジト目でコチラを見ていた。
「いやー、ハラハラドキドキスリリングで面白い映画だったね!」
「はああ、2Dにした意味なかったじゃない。」
「心配おかけしました。」
エンドロールが終わり、映画館から出ると、お母さんはずっと映画と怪異の文句をいっていた。




