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暴食の魔女 ④

魔女と関わった者は、火刑に処され殺される。

魔女に関わらずとも、火刑に処され殺される。


疑わしきは罰するというのがこの世界のあり方だ。


疑われないためには、多くの金と権力を使い、魔女憑きでない事を証明しなければならない。


一度死んだ者として、森の奥地に幽閉してしまうのも手だろう。


でも、だからと言って同じ手は何度も使えない。

金や権力ではどうにもできない事象も存在する。


アルの声が出せないという事象はまさにそれだった。


金で声は買えないし、権力を振りかざした所で声が戻ってくる事もない。


そうなってくると、いかにも胡散臭い占い師や宗教といったものに頼らなくてはならなくなる。


サラが何を演じたのかは知らないけど、詐欺師のようによく回る舌で、アルをここに連れてきた事に疑いの余地はない。


過程はどうあれ、極めて正しい判断だと思う。


僕はなんだかんだサラの期待には応えようと動くし、魔女の問題は魔女に解決させるか、魔女と近しい者に解決させるのが一番手っ取り早いからだ。


「出てけ」

『イ・ヤ・じゃ』


魔女と近しいだけの僕には、こんな押し問答しかできやしないのだけど。


僕は魔女のようなスーパーパワーを持ち合わせていなかった。


例え持っていたとしてと、本物の魔女をどうこうするなんて事、どだい無理な話だが…。


今は機嫌を取り戻しているものの、不機嫌なスアラが見せた魔女の片鱗は、死を想像させるものだった。


「でも、スアラが出て行かないとアルは死ぬぞ?」

『スアラ様じゃ』


「…スアラ様が出ていかないと、アルは殺されて肥を堪能する事はできなくなる」

『人とは、まこと愚かじゃな』


「それだけ魔女が怖いんだよ」

『わたくし様達は、何もしてはおらんのじゃがな』


「…」

色を奪ったり、声を奪ったりしてるじゃん。と僕は思ったが、言えばスアラが機嫌を損ねそうだったので、僕は沈黙を返した。


答えはいつだって沈黙の中にある。

沈黙は金なのだ。


『じゃが、それならばそうなるまでの間、肥を堪能させて貰うだけの事じゃ』

「出ていく気はないと」


『遅かれ早かれ失うと分かっているとして、今失う必要はない。糞人間とて目の前にあるデザートがいずれ腐るからといって、今捨てるなどという愚かな選択は取らぬであろ?』


「デザートならそうだが、お前がしている事は、店が潰れるまで万引きを繰り返す犯罪行為に近い」


声を奪って肥を奪い、命を奪わせる。

アルの命を直接奪うのはスアラではないものの、原因のほぼすべてがスアラにあるといってよかった。


『糞人間はやはり糞人間らしく、脳味噌まで糞でできているようじゃの。わたくし様は盗んではいないし、奪ってもおらぬ。当人から許可を得て頂いたのじゃ』 


「言葉巧みに誘導して財産を貰う事を、人は詐欺と呼ぶ」

『うまい話には裏がある。という言葉を知らぬのか?糞人間。欲に溺れた者は己の欲で身を滅ぼすと相場が決まっておるのじゃ』


「アルには、身を滅ぼすような欲があったと?」

『小娘はぶくぶくに太った自身の体に、コンプレックスを抱いておったの。わたくし様はその肥を貰ってやろうか?と問うただけじゃ』


「なるほど」

アルもあげたと答えるわけだ。ぶくぶくのアルを僕は見た事がないけど、今のアルとスアラの特性を考えれば嘘や矛盾はない。


強いてあげるなら、スアラはすべての真実は語らず、アルは言葉の裏を読み取れなかった。


肥と声。言葉というのは難しいし面倒臭い。


『わたくし様は何も悪い事はしていないと、理解したか?糞人間』

「悪意はなかったと?」


『ないの。じゃが安心しろ。善意もない。わたくし様はわたくし様の欲に忠実に動いただけじゃ』

「いかにも魔女らしい」


『わたくし様は魔女であるからな』

スアラはそう言って偉そうに胸を反らせた。


自身の欲に忠実な魔女。

切り崩すとしたら、ここなのだろう。


スアラの持つ欲をアルの肥を通す事なく満たす。

そんな方法…。


僕は目をつぶり思考する。

アルが火刑に処される前に見つけないといけない。


『で、小娘を助けたいというのが、小僧の欲かえ?』

「ん?」


『なんじゃ、違うのか』

「いや、違わないと、思う」


そのために思考も巡らせている。

アルを救う事が、サラに課せられたミッションでもある。


『違うではないか。欲とは欲しい一択。思うなどという曖昧な言葉は出てこん。お前は何となく小娘を助けようとしておるだけじゃ。気色悪い』

「別に問題ないだろ」


『ある。人を助ける救うなどという思い上がった厚かましさは、強欲を持って初めて成し得る業じゃ。お前のソレでは誰も助けられぬし救えぬ。精々糞に塗れて死ぬだけじゃ。糞人間』


スアラはにやりと不適に笑う。

スアラに言い返す事は出来なかった。


スアラの言う通り、僕はアルをどうしても助けたいとは思っていない。ヒーローがヒロインを護る時に発揮する欲を、僕は持っていなかった。


だから仕方がない。

仕方がなかった。


アルが殺されたのは、3日後の事だった。




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