花のない薔薇
わざわざ繋がりを見付けたり辿らなかったとしても、魔女を呼び出す方法は存在する。
方法は至って単純。
烙印者の命を危険に晒すだけだ。
例えばカラリアであれば、烙印者を通す事で100億の色を得ているが、烙印者である僕が死ねば当然、得ていた色は失われる。
カラリアにとってこれは死活問題であり、避けたい事柄だった。
以上の事からカラリアは、命の危険が生じた場合にのみ、色を得るためではなく色を守るために現る。
「その方法は却下します」
提案した結果、メルルから返って来たのは否定だった。この否定は、魔女の特性を考えたなら正しいと僕は思う。
人の考えが十人十色であるように、魔女は魔女で千差万別の考えを持っている。命を危険に晒した結果、そのまま命が危険になる可能性は十分あった。
A型だから几帳面であるはずだ。なんて浅い考えで人を理解できないのと同じように、魔女だからこう動くと考えるのは、魔女の理解から最もかけ離れたものだった。
魔女なんて人と同じで、よく分からないのである。
よく分からない人に、よく分からない魔女が取り付く。
完成するのは得体のしれない存在X。
これは怖いなと思う。
「…」
「黙って一点を見つめて、どうかされましたか?」
【ジェミー?】
「…」
魔女は正式には魔女病と呼ばれ、不治の病として認識されている。
病に侵された者は人ならざる死に方をする。
例えば、全身の骨が折れ曲がって死んだり、全身の肉が引き裂かれて死んだり、内臓が腐り果てて死ぬといった具合だ。
だからこそ、馬車に撥ねられた者や皮膚病に侵された者、風邪をこじらせた者や食当たりをした者が、魔女病と誤認され火刑に処されてしまう事例もままあった。
魔女病とは、人から人に伝染する病としても知られているからだ。
かくいう僕も、魔女として火刑に処された経験を持っていた。 火刑になってなぜ生きているのか?それもまた魔女の功罪である。
『君は、あのまま死んだ方が良かったのかい?』
訂正。
『私は、お兄ちゃんに死んで欲しくないよ』
突然現れたカラリアの言葉を僕は訂正する。
突然のカラリア登場にビックリしたものの、僕の脳内補正能力は中々優秀だった。
『お兄ちゃんが呼んでくれたら、私は何処からでも駆け付けるからね』
「ありがとう」
けしてそんな事は言っていないカラリアの言葉に、僕は感謝を返した。
森の奥地で、話し相手のいない生活を長くしてきた事もあって、イマジナリー・フレンドの作り方が僕は異様な位うまくなっていた。
その中にあってカラリアは、僕が行う免許皆伝一人おままごとに、強制的にキャストで出演していた。
姿形を持たないカラリアは、僕にとって想像の餌食だった。 色を奪われた仕返しとしても、中々悪くない方法に思える。
「死ね」
訂正。
「大好きだよ。お兄ちゃん」
強い言葉も即座に脳内変換する。
けして「お兄ちゃん」とは言わないカラリアも、僕の中では「お兄ちゃん」としか言えなくなる。
これは、中々にざまあ見ろだ。
僕は色以外にも色々と持ってくカラリアをそこそこ恨んでいた。
「…!!」
カラリアに精神的勝利を収めた所で、ゴツリと脳天に大きな衝撃が走った。 本の角で叩かれるよりも重くて鋭い痛み。
あまりの衝撃に目の前の映像が切り替わると、綺麗なおみ足と白の下着が少しだけチラ見えした所だった。僕の脳天に直撃したのは、メルルの踵だった。
状況から、踵落としを喰らわされたらしい。
「ジェミニス様が突然動かなくなったので、衝撃を与えてみました」
「僕は、壊れた電化製品じゃないぞ」
叩かれて直る程、単純な作りもしていない。
多分。
【ジェミー たたいたら うごいた】
「ジェミニス様は単純ですからね」
「単純でも、壊れそうなんですが…」
頭がドクドクと脈打ってるし、目がチカチカしているもの。 なので皆さんも、電化製品を殴打するのはやめましょう。
【ジェミー こわれたの?】
「安心して下さいお嬢様。そこまでのダメージがあれば、私が魔女に襲われているはずです。それがないという事は、ジェミニス様は大げさに痛がっているだけで、全然平気という事です。サッカー選手が受けたファールのようなものです」
「正しい推論な気もするが、勝手に決めるな」
命の危険が迫れば、お兄ちゃん大好っ子のカラリアは現れるだろう。でも、現れないから全然平気かと言われると、そんな事はない。
死んじゃうよって、大声で叫びたくなる位には痛いのだ。そう言うヤツに限って死なないから、結局はメルルの言う通り、命に別状はないのだろうけど。
「それにしても、急に電池が切れたように停止したのでビックリしました。余程スケベな事を考えていたのですね。汚らわしい」
「考えていたのは、魔女についてだ」
けしてスケベな事ではではない。
そもそもスケベな事を考えようにも、文字としてしか浮かんでこないのだから無駄だった。
カラリアをお兄ちゃん大好きっ子に仕立てたような、圧倒的想像力を行使したなら、文字を超える事も可能ではあるけど、超えたら超えたでカラリアが色を奪いに来るのだから、意味のない事だった。
100億も色をあげたのだから、こっちの色は本当に返して欲しい。
てか、返せよ。
色のない青春とか、花のない薔薇と同じで痛いだけじゃないか…。




