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魔女の到来 ②  

世界が真っ黒に染め上げられた。


目を閉じた時と同じように。白から黒へと続くコントラストすらなくなり、何も見えなくなる。


色だけでなく、触覚や嗅覚も世界からは消えていた。

捻じり上げられているはずの腕からは何も感じない。


色の魔女カラリア・カラーはこうやって、僕から色を取り上げる。100億色近い色を奪っただけでは飽き足らず、色を取り上げていく。この時ばかりは魔女を悪と断言せざるえなかった。


『あらゆる色を、君から貰うと言ったじゃないか』


黒い世界の中、魔女の声だけが聞こえてくる。

僕からあらゆる色を奪ったにも関わらず、カラリアは常に黒色だった。


小さいのか大きいのか?

男なのか女なのか?

それさえも分からない。


不協和音のように響く声から予想する事も困難であり、聞いた所で魔女が答えてくれる事もなかった。


魔女について僕は何も分からない。分からないからこそ僕は、魔女カラリアを二歳年下の可愛い少女として想像した。


黒いとんがり帽子に黒いローブを纏い、黒いマントを装備した魔女っ子である。


常に裸足で下着は上下とも白。実は極度の恥ずかしがり屋であり、今も帽子で顔の殆どを隠している。髪型はショートからミディアムの間くらいでどうだろうか。


僕は真っ黒な世界の中で、カラリアという魔女っ子を完璧に想像し、顕現させた。


サラやアル、メルルといった美少女を立て続けに見てきたせいか、今回のカラリアはかなり出来が良かった。


『相変わらず、想像力豊だな君は』

「心を読むな」


『読んでいない。懇切丁寧に全部口に出していたぞ』

「まじぃ?」


『大マジだ。というか、出て来る度に容姿や年齢が変わっているのはなぜなんだい?』

「空いている枠の匙加減だ」


お姉さん枠はサラで埋まっている。ロリッ子枠はアルだし、メルルの年齢は不詳だが、同い年とかいう衝撃的な展開も無きにしも非ず。つまりカラリアには、少し年下の女の子枠しか今は空いていないのである。


恥ずかしがり屋設定にしたのも、その枠がガラリと空いているからに他ならない。ここでカラリアを色欲全開の魔女にすると、メルルとややキャラ被りもする。


これは、処女のサキュバスよろしく、エロに耐性のない色欲の魔女も悪くないのではないか?というシャープな判断によるものだった。


『おいおい。冗談だろ君』

「安心しろ。僕の中ではそういう設定ってだけだ。そもそも見えない方が悪い」


見えないなら、勝手に想像しちゃえばいいじゃない。の、精神である。姿形を見せない所も実に恥ずかしがり屋のカラリアらしいのだけど。


僕の中でカラリアの設定は、完全に出来上がっていた。 後はこの口調も、キャラにあったものに変化させるとしよう。


『勘弁してくれよ。魔女は概念のようなもので、見える方が特殊なんだ』


訂正。


『ご、ごめんね。でも、魔女なんだから、仕方ないよ。思い出は、人には見えないものだもん』


『おい。想像力豊か過ぎやしないか?声は聞こえているだろう?』


訂正。


『こ、声は聞こえてるよね。あまり変にしないでよ。お兄ちゃん』


「思い出が人によって違うのと同じように、魔女の見え方も人によって違う。これが僕の魔女の見方だ」


例えばカブトムシを見てカッコイイと思うの者もいれば、キモチワルイと思う者もいる。例えば泳ぎが得意の者もいれば苦手な者もいる。そういった者同士が山や川に遊びに行けば、残る思い出は異なったものになるだろう。魔女もそういうモノだと僕は考えていた。


恐ろしい者と扱うのも、可愛い者と扱うのも、見た者の自由なのである。


『死ね』


訂正。


『酷いよお兄ちゃん』


「何も酷くない」

『もう。お兄ちゃんなんて、し、知らないんだからね』


カラリアの声が遠退き、世界に色が戻って来る。戻って来るといってもあるのは、白と黒のコントラストだけであり、青や赤といった色はない。そして、部屋にあった色欲も無くなっていた。アルはワンピース姿になっていたし、メルルも僕から離れていた。


残っているのはちょっとした思い出。いや、記録だけだった。


【ジェミー 平気?】

「なんと形容して良いのか分かりませんが、とても奇妙な状態になっていたように思います」


「僕から色を奪った魔女が、出ただけだよ」


厳密に言うなら、色を奪いに魔女が来た。色欲の魔女カラリアは、顔を真っ赤にしながらもそういった色を奪っていく。出て来るタイミングがやたらと早いのは、それ以上に進んだ行為は、恥ずかし過ぎて見る事が出来ないからだった。


そしてこれは、カラリアという魔女によって色が奪われただけでなく、生涯童貞の呪いも掛けられた事を意味していた。


僕の果ては大賢者か大魔導士か。

ゴールに向けて研鑽しようとする気すら起きないのはなぜだろうか…。


「たしかに異様な雰囲気でした…」

【ジェミー ゴーッてなってた】


「何がどうなったか僕には分からないけど、ちょっと恥ずかしがり屋なだけで、危害を加えるような魔女ではないよ。多分」


「…私が折った腕も治っているようですし、ジェミニス様の言っている事は、嘘ばかりではなさそうです」


「信じてくれるのは嬉しいけど、人の骨をビスケットみたく手軽に折るな」


怪我はすぐに治るとはいえ、痛い事は痛いんだぞ。


あらゆる色を損なったからか、僕はあらゆるモノが損ないにくい状態にあった。血液が損なわないように傷はすぐに塞がれるし、自由を損なわないように骨はすぐにくっつく。痛いは痛いのだが、僕は怪我や病気にかなり無頓着になっていた。


ちなみに、人体の損ないはすぐに修復されるのだが、人間関係の損ないが修繕不可能な事は、察しの通りである。


魔女の呪いは万能薬ではない。他者にとっては殺したくなるような劇薬だった。


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