43僕は別、私は弔
翌日のこと。僕はバラの流星群を発動させたことでまだ別荘にいた。アリスちゃんが最後に火神炎悟にファイヤーダンスを披露しながらあっちへ逝きたいという願望でやったはいいけど、僕はそこにいなくてよかったのか不思議なぐらい。
後で火神炎悟になんか言われそうだなと影神が作ってくれた朝食を頬張っていたらダダダッと走ってくる音が聞こえる。この足音はん?と悩んでいたら扉が開く。
「助けて!」
どっかで見たことあるような顔と考えていたら逃げても無駄だと廊下の方から聞こえる。ひぃと少女は僕が座っている後ろに隠れてしまい、影神に捕まえてもらうこと数秒後。
影神に捕らわれたのはなんと水星ヘルスミエで僕を一度捕まえた雷だ。
「おい、俺を降ろせ!昏有の別荘に逃げ込んだつむじに用があるだけだ!」
「つむじちゃん?」
「はい、つむじちゃんです」
ぴょこんと顔を出してしまったつむじちゃんという少女で、甘ちゃんの性格に少し似ているような気がする。
「つむじ、俺のおやつ食ったのはばれている。今すぐ返せ」
「えーだって棒キャンディー用意していない、雷が悪いんだもん。ねえねえ昏斗、ここに棒キャンディーある?昏有がね、棒キャンディーがあるって教えてくれたの!」
目を輝かせながら僕に聞いてくるつむじちゃんで、影神に用意してもらい解放された雷という中年のおじさんとつむじちゃんはソファーでくつろぎ始める。
なんなんだこれはと食べかけの朝食を食べていたら、影神が和菓子と棒キャンディーにお茶を淹れてきたのだ。好みわかってたのと唖然と二人が美味しそうに食べる姿を見ていたら、スマートウォッチが鳴り莉耶からだった。
「おはよう、莉耶」
『おはよう、昏斗。体は大丈夫?』
「もちろん。今回はあの力を使っていないから元気だよ。それより紅様の処分はどうなった?」
『署に出頭したよ。だからプラネットコード、アリーレス支社は支部長代理であった人が支部長になるらしい。それより茜さんそっちに来てない?』
「来てないけど」
伝えるとありがとうと切られてしまう。
朝食を食べ終え帰ってくれないかなと思ってしまった。
「あの、お二人さん。用がないならさっさと帰ってもらえますか?」
「昏斗、一つだけ炎悟に嘘ついているだろ?」
「嘘なんてつきませんよ。仕事があるんで、戸締りはしっかりしてください」
「そうやって昏有さんから逃げてたの?」
行こうとしたらつむじちゃんに言われてしまい、僕は確かに一つだけ火神炎悟に嘘をついている。やはり感づかれていたか。
「嘘はいけねえよな?炎悟はこう見えてピュアなところはあるが、すぐ切れるタイプだ。正直に話しておいた方がいい」
「炎ちゃんが怒る姿、本当に怖いから気をつけてね。お腹いっぱいになったし次の調査に行こう、雷」
二人が去って行かれそれくらい前世の記憶でわかってるよと壁を叩く
「坊っちゃん、いかが致しましょう」
「あの二人に見抜かれるとは思わなかった。あの二人って確か、雷神雷と風神つむじだよね」
「はい。私が調べた限りその二人かと」
雷の神と風の神は侮れないと聞いたことがある。だから十分に気をつけていたつもりでもまさか見抜かれていたとは不覚だ。確かにあの場ではアリスちゃんは消えたけれど、僕の想いによって免れることもある。
ただここにいるとばれたら火神炎悟はどう思うのか。それに何百年も生きたことで老人の姿となって明日生きられるかわからない状態だ。今は昏花と茜さんが見てくれているけれど起きる様子もない。
「誰か尋ねに来たら絶対に中には入れないで」
「かしこまりました、坊っちゃん。後でお茶淹れて持っていきます」
ありがとうと感謝を述べながら僕はアリスちゃん、いやヌクリが寝ている部屋に入ってみる。まだ起きてはいないようだ。
「こんなしわくちゃなおじいちゃんだっただなんてびっくりだよ」
「まあいいじゃない。何百年も生きた証。少し席を外させてもらうわ。起きたら連絡ちょうだいね」
茜さんは部屋を後にし僕は茜さんが座っていたところに座ってしわくちゃのヌクリの手を握った。まだ温もりがあるから安心でも油断はできない。
「火神さんに言わなくて本当にいいの?」
「どちらにせよ、命は残りわずかなもの。さっき雷の神と風の神に言われた。正直に話しておいた方がいいって。別れを告げるのが嫌だとアリスちゃんの要望であのような別れ方をさせてあげたけど、やっぱり誰かに看取られていった方がいいよね」
火神炎悟がどんな顔するのか想像するだけで、会わせるべきではないけれどまだ生きている。
そしたら僕の隣にきた蝕夜で、蝕夜も心を痛めているようだ。
「アリス、よく頑張ってくれたね。僕を楽しませてくれて感謝する。そっちにすぐ逝けないが全てが終えたら追おう。約束だ」
「蝕……夜」
めちゃくちゃじいちゃんの声じゃんと起きたヌクリで昏花は茜さんにすぐ来てもらうよう席を外した。
「俺…様は、幸せ者だった…よ。昏…斗、炎悟の…こと…頼んで……いい?」
「もちろん。真神家が何があってもネオリオ人とエクリプス人の間に生まれた炎悟さんは必ず支える。何か飲みたいものとか食べたいものある?影神が作ってくれるから」
「じゃあ……カレー。みんなで…食べたい…」
「わかった。すぐ作ってもらうよう伝えてくるね」
蝕夜に見てもらい途中で昏花と会いそしたら扉の方がやけにうるさい。誰だろうと玄関の方へ行ってみると火神炎悟と水神雫が来ていたのだ。
もしかしてあの二人に言われてきたのかと汗が出るも影神に耳元で教え行ってもらう。
「火神さん、雫ちゃん」
「昏斗、ほんまにありがとな。父はん、今頃あっちで母はんと再会できとると信じて前に進もうって決めたんや」
「やっとファザコンから解放されても、少し悲しくなります。あれが日常的だったので。それじゃあ私たち、仕事があるので帰ります」
二人が帰ろうとして居ても立ってもいられず、僕はやっぱり嘘は吐きたくないと言ってしまう。
「アリスちゃんはまだ生きてる!だけどしわくちゃな老人で、その姿で会いたくないと言われたから僕は、僕は……」
僕も本当はアリスちゃんが死んでほしくはないし、可能性があるならあの姿で長生きしてほしいという願望が強い。
つうっと顔が濡れ手の甲で拭いても、拭いても垂れてくる。そしたら暖かい温もりを感じ火神炎悟が、僕を励ましてくれた。
「ほんまに昏斗は優しいな。ほむの気持ちも父はんの気持ちも知ってはったから会わせないようにしてはったんやろ。それにな、今日ある物が届いたんやで。父はんの全財産で兄弟たちが喜びそうなおもちゃや洋服を送ってくれてな。それにほむにはアルバムがある。父はんと母はんが写ってるアルバムや。悲しとうない、大切な宝物やで。それがあるから十分や……でも、でもっあんな別れ方は反則やと思うんやけどな」
僕から離れて鼻を啜る火神炎悟にハンカチを差し出す水神雫。
「もしできるなら、私もお父さんにご挨拶してお別れを言いたい」
「会わせてあげよう。家族なんだもん」
「そうだね」
僕らはヌクリの部屋に行ってみると、蝕夜はいなく茜さんだけがいて火神炎悟と水神雫は一度驚いていた。ヌクリが手を伸ばしたことで火神炎悟が握ってあげる。
「父はん、やっと本当の姿拝めたや」
「炎…悟…。ごめん」
「えぇや。贈り物、ありがとな。子供ら嬉しそうに遊んでるで」
「それは…よかった。茜…雫に…あれ…を…渡して」
茜さんは小さな箱を水神雫に渡し、それを開ける水神雫。
「ありがたくいただきます、お父さん。最初会った時は、本当に生意気な方でしたが、いざこうやってお目にかかると寂しくなります」
「こんな…炎悟を…好きに……なってくれて…ありがとう」
「なんやそれ」
頬を赤くしながら怒る火神炎悟で僕らは笑い合った。
影神は食べやすいようにとカレーをおじや風にして僕らは囲みながら食し、そして翌日。ヌクリは帰らぬ人となり葬式が終えお墓はもちろん、アリスの墓に埋めてあげた。
火神炎悟は最後に撮った写真を飾り、僕らはヌクリが好きだったものを飾ってあげる。
「茜さんはこれからどうするのですか?」
「そうね。あたくしは主人がいなくなることはないと思ってたから決めてはないわね。だけどヌクリ様が愛したここに残るつもりよ」
「そうですか。ヌクリもきっと喜びますよ。今頃、アリスと出会ってますかね」
そうだといいわと僕と茜さんは空を見上げていると、そろそろ行くよと桜庭課長のお言葉で僕らは火星アリーレスから旅立ち、僕の故郷である木星セウスジアへと向かうことになった。
本当はもう少し火星アリーレスへと向かいたかったが、エンジースがどのタイミングで莉耶を奪いに来るかわからない。だからすぐに桃花会長や昏無姉さんと合流しなければならないのだ。
昏花はしばらく茜さんが心配だからとついては来なかったけれど、木星セウスジアは僕と昏花の故郷でもある。木星セウスジアではどんなことが起きるのだろうかと考えていたら隣に座っていた莉耶に質問された。
「どうして言ってくれなかったの?」
『ごめん。これもヌクリの願いだったんだ。親しかった人だけに看取れたいってね。一応桜庭課長には報告済みだったから聞いてるかと思ったよ』
「え?そうなの?私、何も聞いてい。桜庭課長ー」
莉耶は仲間外れにされるの大の嫌いだもんねと桜庭課長が座っているところへと行ってしまい、僕は星を観察する。
少し落ち着いたら、火星アリーレスに訪れて、お墓参りしてあげようと星の観察をしていたらスマートウォッチが鳴りメールが届いたようだ。
誰だろうと確認してみると、星音からでこういう文面だった。
なかなか連絡しなくてごめんね。私、女優を辞めてセリニ・ネアに入ることにした。私のファンたちを守りたいのと昏斗の手助けをしたいと思って。
この前、私プラネットコード社に訪れた時襲われたの。心さんが曰く、莉耶ちゃんは私のファンだから私を捕まえて莉耶ちゃんを誘き出そうと企んでいたって。だからエンジース以外の捕食人間の皆さんはセリニ・ネアに助けられセリニ・ネアに転職したの。
会長さんに伝えたかったんだけど、連絡先知らないから添付してあるリストを見てくださいって伝えてね。だからしばらく連絡ができないけど、必ず昏斗たちを助けに向かうから。
なるほど。だからここ最近、連絡しても音信不通だったのはそういうことだったのか。返信が来なくてもわかった、みんなに伝えておくねと送り木星セウスジアが見えて来て降りる準備をしていった。
僕の故郷はすでになくなってしまったが地上がどんな感じなのか少し興味が湧く。一度本家に行ってみようと昏花と行ったことがあったけれど、父さんに怒られてしまったから。
そこに姉さんたちがいるらしいけれど、大丈夫だろうか。
⁑
私はまだ火星アリーレスにいて、主人を亡くした茜さんのそばに寄りヌクリが残した遺品整理をしていた。それにしても手作りのぬいぐるみが多いな。
だけどせっかくヌクリが作ったぬいぐるみを捨てられないのか、段ボールにぬいぐるみをしまう茜さん。
まだ心の整理というものができていないのかもしれないといるいらない段ボールに私はホイホイいれていたらある物を見つける。
これはと古臭いアルバムらしく中をみるとヌクリの成長はそのままだけど、昏斗が数枚写っていた。前世の昏斗だと見ていたら最後のページにヌクリの文字が入っている。
昏斗と会えた喜びは本当に嬉しかった。また会えるとは思わなかったし、記憶を辿って俺様のところに来てくれるだなんて。俺様は結構歳取った老人だっていうのに。それでも俺様は子供の姿だったから、甘えてしまったな。
しっかりしなければって思っていても、息子が成人になった頃、毎日のように会いに来てくれたのは正直驚いた。俺様はエクリプス人で悪魔だというのに、炎悟は変装までして俺様に会いに来てくれた。
本当に嬉しくて、それが当たり前のようになっていたな。だが眠る度にいつもアリスが現れていた。昏斗にも会えたことで俺様は決心したよ。アリスをそろそろ解放してあげようと。
例えあの世の先の道が違くなってしまおうとも、アリスはあの世に送るべきだ。だからここに記す。
俺様がいなくなった世界で、火星アリーレスがどんな風になってしまうのか想像しにくい。だけどきっと想像を遥かに超える火星アリーレスとなっていることを願おう。さらばだ、炎悟、昏斗、昏花、茜、皆の衆。元気で。 ヌクリ・ホムラ
ヌクリの馬鹿と私はそのアルバムを抱きしめ、涙が出てしまう。そしたら茜さんがお姉ちゃんのように私を包む。
「あたくしもそのアルバム見たわ。読んだ時、ヌクリ様がこんなにもアリス様を愛していたことが伝わってた。もちろん、毎日のように、来てた炎悟も最後まで愛していたこと。そしてあたくしまでも愛してくださっていたことがわかった時にはもう遅かった。もっとおそばにいるべきだったって後悔してる」
「茜さん?」
「ごめんなさい、少しこうさせて」
茜さんは忍び泣きのように静かに泣いて私もつられて泣いてしまう。人もそうだけど悪魔もいなくなってしまうと寂しいと感じてしまった。
今度はお父さんがいる木星セウスジアで私と昏斗の故郷となる。もしお父さんが死んでいるとなれば私と昏斗はどうなってしまうのだろうと想像ができない。
でも今はヌクリを弔う気持ちが大きいから、今はいいよねと茜さんにしがみ私も涙を流していった。
⁑
蝕夜から連絡を受け見た目が子供だが中身は老人だったアリスが亡くなったという知らせを聞き、やはり一度死んだ者は助からないことが判明した。後の二人もバラの流星群が発動すれば死ぬということか。あぁ忘れていた。プルトナスもそうだったな。
私は真神家でもあるためバラの剣で一度自害したことにより元に戻ってはいるが、蝕夜との連絡は途絶えてはいない。なぜならエンジースという天の使いが動き出したからだ。
セリニ・ネアも動き出したかと思えばエンジースの方が頻繁に動き出していることがわかり、蝕夜の命令で神パーティー会場に訪れていた。
昏花がここで逃げ回った場所とも言えるだろう。まあ私が影神を呼び逃げやすいよう仕組ませていたことで蝕夜が先に選んでくれてよかった。
他の者に取られてしまったら後もこうもないし、昏花と蝕夜はいいパートナーとなる。それは昔からそうだったから必ず巡り会う運命だった。
「よう、昏真」
「何ようだ?雷」
「さっき息子に会いに行ったよ。俺たちが来たことで少し機嫌悪そうにしてたけどな」
「そうか。あまり息子の機嫌を悪くさせないでもらいたい。それで何しにここへ来た?」
「お前の長男からの伝言だ。ネオリオ人に戻っているなら、戻って来いと。それにお前の奥さん、寿命が後残りわずかだそうだ。伝えたからな。早めに地球オルモフィーケに戻れよ」
そう残し雷は吸い殻にタバコを捨て木星セウスジアにあるネオリオ社へと帰られる。
私がこっちにいる間に妻の容体が悪化していたということだったのか。早めに終わらせ帰らなくてはなと神パーティーの準備をしていった。




